軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

招かれざる幼児

魔法王の魔法教本を聖典として祀り、古のエルフ国家を真似て建国されたミッティア魔法王国は、長きに渡りエルフの女王を玉座に据えて魔法技術の探究に血道を上げてきた、揺るぎない魔法先進国家であった。

かつて暗黒時代に滅びたとされる古代の魔法技術も、優れた魔法博士たちの手で再現され、更なる強化を施された。

『悪魔王子(デーモン・プリンス) は時代遅れである!』

そう決めつけたフレンセン隊長の言葉に、嘘偽りはない。

精霊たちは、人の概念を取り込んで己の能力とする。

暗黒時代、戦乱の世に生みだされた 悪魔王子(デーモン・プリンス) は、殺戮に特化した邪霊である。

人々から恐れられてきた 悪魔王子(デーモン・プリンス) であるが、自らをリニューアルできるほど優れた精霊ではなかった。

魔法王や 屍呪之王(しじゅのおう) と比較すれば、かなり格下になる。

「おぬしの剣は、届かぬようだな。名前負けだ。 悪魔王子(デーモン・プリンス) などと、仰々しい!」

「ふざけるのも大概にしてもらおう。こちらは主の言いつけにより、不殺を条件としている。手加減しているのが、分からぬのか…?」

悪魔王子(デーモン・プリンス) は深紅に光る剣を鞘に納めて、フレンセン隊長を忌々しげに罵った。

思ったように攻撃が通らぬ焦りを隠し、口だけは達者な 悪魔王子(デーモン・プリンス) だった。

「だが…。おまえたちの障壁は、見事だ。我の上段斬りを弾かれたのは、初めてのこと…」

「くくくっ…。そのような有様だから、時代遅れと言われるのさ。かつて暗黒時代に、ボウフラの如く生みだされた邪霊どもの能力など、とうの昔に解析済みだ。ミッティア魔法王国の魔法技術は、おぬしの常識をとっくに凌駕している」

「ぐぬぬっ!」

悪魔王子(デーモン・プリンス) のこめかみに、青筋が走った。

「どうしても、死にたいようだな。然らば、我の呪いをとっくりと味わうがよい」

「来いよ。全力で、絶望に立ち向かって見せろ!」

「ガァーッ!」

フレンセン隊長は笑った。

悪魔王子(デーモン・プリンス) は特殊部隊に負けていなかった。

むしろ力では押していたのだ。

フレンセン隊長の部下たちは、全力で障壁を張っていた。

悪魔王子(デーモン・プリンス) が飽きずに攻撃を続ければ、打ち勝っていたコトだろう。

人間は狡猾なイキモノだ。

デーモン呼ばわりされる 悪魔王子(デーモン・プリンス) より、遥かに狡猾なのだ。

フレンセン隊長は 悪魔王子(デーモン・プリンス) の自尊心を踏みにじり、魔法攻撃に切り替えさせた。

特殊部隊は剣による攻撃を嫌い、必殺の範囲攻撃を誘った。

そして、そちらの対策は完璧であった。

腐食性のガスに姿を変え、特殊部隊を滅ぼさんとする 悪魔王子(デーモン・プリンス) のまえに、ミュッケの操作する魔導甲冑が立ち塞がった。

「ポットを起動させます!」

鈍い駆動音と共に空気が波打ち、ガス化した 悪魔王子(デーモン・プリンス) から 魔素(オーブ) を吸引していく。

変異中の精霊は、己を構成する妖精と分離しやすかった。

「ウギャァー!」

一瞬にして、存在の半分以上をもぎ取られた。

「チクショォー。ワレのカラダを…。なんだ、コレハ…?」

「ふっ…。滅びたく無くば、とっとと退くがよい。ミッティア魔法王国を恐れ、深い闇の底でガタガタと震えて暮らせ…!そうしてザコ共を相手に、長生き自慢を続けるのだな…。あーっはっはっは…」

悪魔王子(デーモン・プリンス) は挑発され、まんまと騙され、弱体化された。

このまま踏みとどまってみたところで、滅せられるだけだと分かっていた。

それでも、逃げることは出来なかった。

(ここで退いては、妖精女王陛下に申し訳が立たぬ…)

悪魔王子(デーモン・プリンス) はズタボロになりながらも、再び剣を抜いて構えた。

「死にたいか…。まあ、それも良かろう。おぬしの 核(コア) となった魔術式は、ミッティア魔法王国の魔法研究院に飾ってやろう。いちばん安い額に納めてな…」

フレンセン隊長は魔素収集装置のクールダウンが終了した頃合いを見計らい、再起動を命じようと口を開きかけた。

「そこまでら…」

又しても、背後から声がした。

今度は子供の声だ。

ボロボロになったゴブリンたちが左右に道を開けると、金の瞳を輝かせた幼児が姿を現した。

ネコを胸元に抱えてぶら下げた幼児だ。

よく見れば木のサンダルを履き、服を着ていない。

髪は銀色で、耳がエルフのように尖っていた。

「なにモノだ、おまえは…?」

「それは、わらしのセリフ。ここは、わらしのウチ…。おまぁーら、シンニュウシャ!」

「おまえのウチだと…。さては、ダンジョンに巣食う邪霊か?」

「ショユーケン、知っとゆか…?ここは、シジュー( 屍呪之王(しじゅのおう) )の巣デシタ…。わらし、シジューにショーリ。したっけ、ココ頂きました…。分かったら、とっとと 去(い) ねぇ!」

フレンセン隊長は、全く分からなかったので訊ね直した。

「おまえは、ナニモノだ?」

「おまぇー、ケンカ売っとゆんか?」

大人と幼児が、ガチで睨み合った。

その隙に乗じて忍び寄ったジータスが、背後からメルの脳天に剣を振り下ろした。

『ガキン!』と、もの凄い音がした。

「あーっ、妖精女王陛下ギャ…」

「こいつら、とんでもない卑怯者ダギャ!」

「メルゥー、死んだらいかんギャ!」

「あっ、愛くるしい女王陛下の頭に…。力任せで剣を振り下ろすとは…。おのれら許せん!」

「おまぁーら。ギャーギャー、やかましいわ!」

頭部から血を垂らしながら、メルは部下たちを詰った。

仰天したのは、特殊部隊の面々である。

とくにジータスは、必殺の一撃を喰らわせたにも 拘(かかわ) らず、平然としている幼児に怖気づいた。

「イタイケなヨージのドタマに、何てことすゆねん…。めっさ、痛いわぁー」

地の妖精がタイミングを見誤って僅かに傷を負った頭頂部は、すかさず水の妖精が治癒魔法で塞いだ。

顔に垂れた血と痛そうな振りは、ヤクザ者の因縁と変わらなかった。

「オッチャンよぉー。これは…。オトシマエつけてもらわんと、あかんわ…」

「なんだと…?」

「そのデカイやつ、置いてけやぁー。そしたら、カンベンしたゆ!」

「このガキが…。ふざけるなよ。尻が真っ赤に腫れあがるほど、ひっぱたいてくれる!」

メルがニンマリと笑った。

「ほぉーか。ボッコボコにされたいんね。わらし、ジョーホしたヨ。もう…。どぉーなっても、知らんヨ!」

メルの身体から無数のオーブが溢れだした。

真っ暗だった地下道が、真昼のように明るく照らし出される。

妖精打撃群航空部隊は特攻をかけるために、加速の魔術式を展開させた。

空中に魔法陣の放つ光が広がっていく。

数多の花が咲くように。

満開だ。

「シャケーツ!」

メルが瀉血を唱えると周囲に紅い霧が広がり、魔法陣もまた紅い花に変わった。

「まずい。不味いぞ。とんでもない魔素量だ…。ミュッケ、ポットを起動しろ!」

信じがたい展開を前にして呆けていた特殊部隊の隊員たちに、ヘイム副長が注意を促した。

「外見に惑わされるな。アレは化物だ。さっきのボスとは 危険度(レベル) が違うぞ。全力で潰せ!」

「魔法部隊は魔法障壁を張れ。最強の障壁だ。デカイ攻撃が来るぞ。ズベレフ、ブーストを起動しろ!」

「了解です!」

ズベレフの魔導甲冑が、魔力増幅装置を起動させた。

「ヘイム副長、物理障壁は…?」

「ガキに物理障壁なんか、要らんわ。とにかく、魔素量が半端ない。魔法だ。魔法障壁に集中しろ!」

ヘイム副長は魔法部隊のクロツに、魔法術式の切り替えを命じた。

「良いのかなぁー?」

メルはいっそう嬉しそうに笑った。

願ったり叶ったりである。

何しろ幼児拳は、物理攻撃だから…。

〈妖精打撃群航空部隊第一陣、これより特攻をかける…〉

〈ラジャー〉

〈ブチ喰らわせてやるゼ!〉

〈ひゃっはー。妖精女王陛下バンザイ♪〉

電磁カタパルトで射出される戦闘機のように、妖精たちは加速用の魔術式を起動させて敵陣へと突っ込んだ。

「うぉーっ。なんだこれは…」

「魔法障壁がズタズタに切り裂かれる!」

「落ち着け、ポットが魔素を吸引している。大丈夫だ」

「ポットの熱量が危険域に突入…。やばいです。冷却装置が、もう限界だ」

操作パネルを睨むミュッケが泣きごとを漏らしたが、それでも特攻を行なった妖精打撃群航空部隊は全てポットに喰い尽くされた。

「………おわったぞ。凌ぎ切った。俺たちの勝利だ。どうだ、思い知ったか…。この、クソガキめ!」

「えーっ。何を言ってゆの…?オカワリ、あるデショ…」

「はぁ…?」

再びメルの身体から、無数のオーブが溢れだした。

「シャケーツ」

メルが瀉血した。

「おかわりだと…?」

「何杯、食べれユかな…。大口叩いて、二杯はないヨネ」

「ばっ、バカな…。今の攻撃をそう何度も繰り返せる筈なかろう!」

フレンセン隊長の声が震えた。

「クールダウン、未だです。ポットの再起動が間に合いません」

「安全装置を外して、強制的に起動させろ!」

「ムチャだ。オーバーヒートします」

「やらなきゃ、それ以前に蜂の巣だぞ!」

特殊部隊員の見ているまえで、メルの周囲に数えきれぬほどの紅い花が咲いていく。

「攻撃、来るぞっ!」

「魔法障壁を展開しろ」

「魔法術式の同期が、間に合いません」

「個別で構わん。急いで張れ。無いよりマシだ」

「ポット、強制起動します」

特殊部隊はメルを攻撃したくても、魔素収集装置の効果範囲に入ることが出来ない。

自分たちの装備まで、破壊されてしまうから…。

まさに自縄自縛の状態であった。

その上メルの周囲は、 悪魔王子(デーモン・プリンス) とゴブリンたちが壁になり、奇襲を許さない構えだ。

「クソっ垂れがぁー!」

フレンセン隊長の罵りを嘲笑うかのように、妖精打撃群航空部隊第二陣が特攻を開始した。

「ダメだぁー。無理だって…。すでにレッドゾーンです」

魔素収集装置の温度管理パネルを叩き、ミュッケが悲鳴を上げた。

ミュッケの魔導甲冑が、退避警告のアラームを鳴らし始めた。

魔導甲冑の腰部に取りつけられた魔素収集装置から、白煙が噴出していた。

金属部品が焼き付きを起し、 潤滑油(マシン・オイル) の焦げる異臭を辺りに漂わせる。

それでも妖精打撃群航空部隊第二陣は、容赦なく魔素収集装置を目掛けて特攻していく。

〈ヒャッハー。ぶっ潰せ♪〉

〈仲間たちの恨みを晴らすぜ〉

〈突入だ、突入…!〉

〈妖精、舐めんなよ!〉

メルが心配していた通り、妖精たちには手加減する気など全くなかった。

おそらくは、特殊部隊の降参も受け入れないだろう。

(僕は話し合いで済ませるよう、持ちかけました。拒絶した隊長さんが、悪いと思うよ)

そう言うコトである。

特殊部隊のオジサンたちが悲惨な目に遭っても、メルのせいではなかった。

自業自得だ。

〈メル…。大変なコトになったね…。大騒ぎだよ〉

〈わたしの活躍は、これからだよ〉

〈あーっ。あの幼児拳とかいうやつ…。あれを試すのね?〉

〈そのために、やって来ました〉

〈そんな事のために、メルのパンツ代わりにされたボクは、とっても悲しいよ〉

ミケ王子が嘆いた。

妖精打撃群航空部隊第三陣が、メルの周囲に湧きだした。

「シャケーツ!」

無数の紅い花が、石造りの通路を背景に咲き誇る。

特殊部隊にとっては、絶望の花だ。

「くっそー。突っ込むぞ。つぎの攻撃が来るまえに、あのガキを叩き潰せ!」

フレンセン隊長が部下たちに叫んだ。

途中で声が裏返り、最後は悲鳴のように聞こえた。

ミュッケの魔導甲冑が腰部から火を噴いて、爆発した。

「ヒィ!」

突撃しようとしていた接近戦部隊に、動揺が走った。

「ウイ、ヤァーたぁー!」

メルはゆっくりと、怪しい構えを取った。

全裸で腰を落とした大股開きは、捨て身の覚悟を想像させた。

丸見えデアル。