軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

怖れを知る者、知らぬ者

貴公子レアンドロとワレンは 手下(チンピラ) たちの案内で、廃屋の物置から地下へと降りる鉄梯子を使い、真っ暗な通路に降り立った。

「 灯りを(ライト) …!」

レアンドロの魔法ランプに、灯りが燈る。

「よぉ…!早速なんだが、ちと発言して良いか…?」

「はい、どうしましたか…?」

「ガキ共の痕跡が無い。追跡魔法は使えねぇ!」

「案内の連中が、侵入場所を間違えたのでしょうか?」

「いいやぁー。ガキ共は、確かに此処を使った。鉄梯子を降りきるまでは、痕跡があった。あの物置には、子供の足跡も残されていた」

狩人のワレンが、イヤそうな顔で言った。

鉄梯子の周囲には土埃が層をなし、頭上から投げ捨てられたのか、紙片や布切れのようなモノまで散らばっていた。

人が住まぬ地下道に、わざとらしい目印。

ワレンは気に喰わなかった。

「ここにも、足跡なら沢山あるでしょ!」

レアンドロが石畳に残された、真新しい複数の足跡を指さした。

「まあな…。だけど、それはぁー。おれらが捜している子供のモノじゃ、ないだろ?」

「そうなんですか?小さな足跡ですけど…」

「あいつらは、ちゃんと靴を履いてたぞ。そこの足跡は、裸足なんだよ。それに…。ざっと見ただけで、五人以上いる」

ワレンの記憶が確かなら、それらは滅亡したと言われる 小鬼(ゴブリン) 族の足跡であったが、敢えて口には出さなかった。

いまどき 小鬼(ゴブリン) 族などを持ちだすのは、時代錯誤な悪霊くらいしか居ない。

(おれだって遺跡探索の仕事をしてなけりゃ、 小鬼(ゴブリン) 族の足跡なんて知らなかった。こんな代物は、休眠中のダンジョンでしか見かけた事がない…。ってコトはだ。この地下迷宮が、生きているダンジョンって話になる…!)

エライ事である。

しかも罠のニオイが、プンプンと漂っていた。

多分おそらく、子供たちが攫われたと騒ぎ立て、この足跡を追えば…。

とんでもないことが起こるに違いなかった。

「裸足の子供が、五人も…?」

レアンドロは、腕組みをして考え込んだ。

「仲間が増えちゃった…?」

「そんなこと、おれが知るかよ!」

「取り敢えず、そこに残されている足跡を追ってみませんか…」

「賛成しかねる。もとより地下迷宮は生贄が葬られた忌み地で、呪われた墓所だけれど…。そういうのとは関係なく、イヤな予感がする」

「はぁ…」

ワレンの硬い表情を見て、レアンドロが溜息を吐いた。

「先に進めば、命の保証は出来ねぇって言ってるんだよ!」

「孤児たちを見捨てるんですか…?」

「オマエは素人か…!引き返さなければ、可哀想な孤児どころじゃ済まねぇ。おれたちが死ぬぞ。二重遭難すると分かっていて引き返さない捜索隊は、ただの馬鹿だろっ!」

ワレンは、捜索、探索の専門家だった。

冒険者ギルドにいた頃は、各地で発見された遺跡の調査もしている。

未踏破の領域に隠された危険に鼻が利くワレンだからこそ、危険を避けて生き残った。

(ダンジョンは、殺意を持つ危険なイキモノだ。喰われてから気づいても遅いんだよ!)

腕っこきの狩人や探索者は、自己過信から命を落とすことが非常に多い。

仲間の死から学んだ者だけに、真の 叡智(えいち) が授けられる。

用心深さと臆病さは、探索者の美質だった。

石橋を叩いても渡らないのが、ワレンと言う男であった。

「どの程度の危険を見込んでいるのですか?」

「ここはキロス砂漠の古代遺跡よりヤバイ。異界の気配がする。ダンジョンが生きている証拠だ。おれたちは化物が寝ている鼻先で、先に進むかどうかを話し合っている愚か者なんだよ。進む先ってのは、得体の知れない化物の口んなかだ!」

「ぞっとしませんね…」

レアンドロは、美麗な面を引きつらせた。

何某かの計略もなく化物の口に潜り込むのは、馬鹿がやる事だった。

孤児を助けたいからと言って、勝ち目も見えない死地に足を踏み入れるべきではなかった。

「おれだって、チビどもは心配だ。それでも撤退すべき時はあるんだよ!」

「ワレンの言う通りですね…。ただ、わたしには危険のほどが目に見えないので、釈然としないのです」

「おれを信じろ!」

「ワレンの、何をですか…?」

「おれが生きていることをだ!」

ワレンは感情を抑えた口調で言った。

狩人のスキルを誇らなければいけない場面で、どうしても卑屈な態度になるのは仕方がなかった。

ワレンが積み上げてきた経験は、見捨てた仲間の数に比例するのだから…。

(一番手は、勇敢な冒険野郎に譲る…!)

自分は成功者を確認してから、より安全な方法をじっくりと考える。

それでも危険を排除しきれないのが、活動中のダンジョンと言うモノであった。

「積極的なダンジョンになると、直接コチラを殺しに来る。落とし穴やら、空気に毒が満ちた通路やら、床から槍が突きだしてきたり、天井から矢が降ってきたり、部屋ごと崩落したときもあったな…。それだけじゃないぞ…。生きているダンジョンの殆どが、目を離した隙に地形を変えやがる。おれは森の奥で、歩く樹を目撃したこともある」

「えーっ、それは本当ですか…?そんなことをされたら、道しるべを残しても意味がありませんね…」

「あっ…!」

背後を見上げたワレンが、いつになく情けない声を漏らした。

「やられた…」

ワレンとレアンドロが降りてきた鉄梯子は、跡形もなく消え去っていた。

地上へと続いていた立坑が、何処にも見当たらない。

退路は断たれた。

(チキショー。休眠中でさえなかった。この地下迷宮は、目覚めていやがった…)

ワレンは己の失策を呪った。

人喰いモンスターが見ているまえで、滔々と自分の経験を語る救いようのないバカ。

それがワレンの自己認識だった。

帝都ウルリッヒの地下通路は、ワレンが知る限り最高に 危険(スリリング) なダンジョンへと変貌していた。

◇◇◇◇

エーベルヴァイン城の精霊宮を統括するルーキエ祭祀長は、聖別された礼拝堂に土足で踏み込んできた異教徒どもを不快そうに眺めた。

大仰な魔法装備を運び込んだミッティア魔法王国の特殊部隊は、祭壇のおくに祀られた封印の巫女像を移動させて、地下迷宮への入口をこじ開けようとしていた。

「ヘイム副長…。封印の解除が終わりました」

「よしっ。ミュッケとズベレフ、パワーユニットを使って蓋をどかせ!」

「了解しました」

「ちょっと、そこの場所を開けてくれ…!」

小型の魔導甲冑を身に纏った二人組が、大きな石の蓋に手をかけて持ち上げた。

腰部に装備されたパワーユニットが唸りを上げ、魔導甲冑に動力を伝える。

設置されていた巻き上げ機を使用することもなく、石の蓋が動いた。

地下迷宮への入口が開く。

「コノ罰当たりどもが…。精霊たちの怒りを思い知るがいい!」

「ルーキエ祭祀長殿…。 屍呪之王(しじゅのおう) と申す存在も、突き詰めれば魔法術式と魔素の塊に還元されます。ウスベルク帝国が抱える問題は、我らミッティア魔法王国の調査隊に委ねるがよろしい。精霊、精霊と…。ありもしないモノを崇めるのは、愚かと申すもの…。そろそろ魔法学の基礎教本でも、学ぶがよろしい」

憤るルーキエ祭祀長に向かって、プロホノフ大使が嘲るように言い放った。

更に、フンッと鼻を鳴らした。

「あっ、ありもしないだと…?この…。異教徒めが!」

「落ち着いて下さい、ルーキエ祭祀長。精霊宮の外で、涼しい風にでも当たりましょう…」

「ことわる!ここは私が守るべき、聖なる礼拝堂なのだ…。その手を放せ、フーベルト宰相!」

ヴァイクス魔法庁長官は、フーベルト宰相に連れ去られるルーキエ祭祀長を見送った。

その瞳には、憐れみの色が滲んでいた。

ヴァイクス魔法庁長官とルーキエ祭祀長は行く道こそ違っていたが、互いに尊敬の念を持って接してきた。

このウスベルク帝国にあって、精霊や妖精の存在を否定する者などほとんど居ない。

魔法庁が研究する高度な魔法も、妖精を前提とした学問だった。

ミッティア魔法王国で洗練された魔法術式は、ヴァイクス魔法庁長官の好みに合わない。

妖精への感謝を蔑ろにした命令文めいた魔法術式など、学びたくもなかった。

ましてやルーキエ祭祀長の立場からすれば、許しがたいことであろう。

(この地に宿りし、精霊さまよ…。どうか…。ここに居並ぶ高慢ちきなクズ共に、ガツンと思い知らせてやってください!)

なのでヴァイクス魔法庁長官が、ミッティア魔法王国から派遣された特殊部隊を呪ったとしても、致し方のない事であった。

(そう言えば、あやつが居たな…。ここは血塗られた王子に、祈るしかあるまい!)

ウィルヘルム皇帝陛下から聞かされた 悪魔王子(デーモン・プリンス) の話が、ヴァイクス魔法庁長官の脳裏に浮かんだ。

厄介なモノに棲みつかれたと思ったのだが、こうした場面では心強い味方である。

ヴァイクス魔法庁長官は、無言で 悪魔王子(デーモン・プリンス) に祈りを捧げた。

その間にも、ミッティア魔法王国の特殊部隊員たちは、次々とロープを使って深い立坑の底へ降下していった。

「魔導甲冑…。辺りを照らせ!」

「了解!」

フレンセン隊長の指示で、地下通路が明るく照らし出された。

降下地点で特殊部隊が陣形を整えた。

「ヘイム副長。計測器はどうだろうか…?」

「はいっ。かなり瘴気の濃度が高いと想像していたのですが、全くです」

「魔素は…?」

「ピクリとも反応しません…。ですが魔力計に強い反応があります!」

「そうか…。瘴気ナシ。浮遊魔素ナシ。魔力反応アリだ。魔導具に類似した仕掛けがあるやも知れん。くれぐれも、注意を怠るな!」

フレンセン隊長は、部下たちに注意を促した。

「各自、魔法障壁を展開しろ。隊列の前と 殿(しんがり) は、魔導甲冑に任せる!」

「左の通路が、 屍呪之王(しじゅのおう) を封じた石室へと通じている筈です…」

「これより我々は、封印の石室を目指す。ただし、ウスベルク帝国から与えられた情報が、役に立つとは思うな…!」

「よぉーし、みんな…。帝国のボンクラ連中と違って、計測器は嘘を吐かない。間違ったりもしない…。その計測器によれば、ココは活性化したダンジョンだ。魔力感知ゴーグルを装備しろ。足元に注意するんだ。横壁にも油断するな。頭上にも、定期的に視線を向けろ。絶対に、トラップを見逃すんじゃねぇぞ!」

ヘイム副長が、隊員たちに気合いを入れた。

「承知しました…!」

「魔導甲冑、ミュッケ。魔動火砲を装備。これより前衛に立ちます」

「魔導甲冑、ズベレフ。雷光槌を装備。殿を任された」

「魔法部隊も、準備できました。魔法障壁、物理障壁ともに、全方位で展開…。攻撃用魔法プレート、確認済み!」

「接近戦部隊も、身体強化に問題なしです。魔導スーツ、魔法武器ともに、異常はありません」

「それでは諸君…。前進する!」

特殊部隊によるスカウト活動が開始された。