作品タイトル不明
第46話 聖女レイナ18歳編 レイナの魔法
レイナは18歳の誕生日の真夜中の静けさ中、深い眠りに落ちていた。
その夢の中、柔らかな光が部屋を満たし、懐かしい温もりがそっと彼女を包んだ。
光の中から、優しい微笑みをたたえた女性の姿が浮かび上がった。
透き通るような白い衣をまとったその姿は、レイナが3歳の頃、額にそっと触れたあの女神、エレーヌそのものだった。
月日は流れても、その慈愛に満ちた眼差しは少しも変わっていない。
「お久しぶりですね、レイナ」
女神の声は、春風のように心地よかった。
「あなたの成長を、ずっと見守ってきましたよ」
レイナは夢の中でうなずいた。
女神の前では、今でもあの無邪気な3歳の子どものような気持ちになった。
「王国の空気が変わりましたね」
エレーヌが続けた。
「重かった雲が晴れ、人々の目に希望の光が戻っています。それは、あなたが毎日、誰かのために、ただ純粋に笑い、手を差し伸べ続けたからです」
レイナは少し照れくさそうに俯いた。
「でも……私、特別な儀式も、難しい呪文も、何一つ覚えられませんでした。ただ……ただ、おばあちゃんが庭の花を咲かせて喜ぶ顔を見たり、迷子の子猫を無事にお母さんのところに返せたりした時、みんなが笑顔になってくれるのが、本当に嬉しくて」
「それでいいのです」
女神の声に、深い喜びがにじんでいた。
「レイナ、あなたは知っていますね? 真の魔法とは何かを」
「はい」
レイナは顔を上げ、はっきりと言った。
「誰かの顔を、心から笑顔にできること。それが、一番不思議で、一番美しい魔法だと思います」
女神エレーヌの目尻に、光の粒のようなものが煌いた。それは、深い感動の証だった。
「そうです。その通りです。強大な力で山を動かすことも、天空に城を浮かべることも、ある意味では『魔法』かもしれません。しかし、傷ついた心を癒し、凍えた手を温め、絶望の闇にほんの一筋の光を灯すこと……それは、どんな偉大な術式よりも尊く、難しいことなのです。そしてあなたは、生まれ持ったその優しさと、揺るぎない信念で、それを成し遂げつつあります」
女神は一歩近づき、レイナの額に、あの日と同じようにそっと額を触れた。
温かく、甘い祝福が、レイナの全身を流れた。
「この贈り物を、どうかこれからも大切にしてください。あなたの笑顔が、あなたの優しさが、やがては王国の隅々まで、そしてもっと遠くまで、確かな光として届きますように。それが、私からの、18歳の誕生日の祝福です」
「ありがとう、エレーヌ様」
レイナの胸は、言い表せない感謝でいっぱいになった。
「これからも、私は私の魔法で、みんなを笑顔にしていきます。約束します」
女神の姿が光の中に溶けていく。
最後に、彼女の優しい声だけが、レイナの心に残った。
「ありがとう、レイナ。あなたの笑顔が、世界を救う光になりますように」
目が覚めた時、夜明けの淡い光が部屋に差し込んでいた。
レイナは布団の中で少し伸びをし、頬を押し上げる笑みを抑えきれなかった。
枕元には、知らないうちに一輪の真っ白なユリの花が置かれていた。
朝露に濡れて、きらきらと輝いている。
彼女はその花をそっと手に取り、窓辺へ歩いた。
下の広場では、早朝の市場の準備が始まろうとしている。
パン屋のおじさんが大きなあくびをしながらシャッターを上げ、果物屋の娘が新鮮なリンゴを並べている。
レイナは深く息を吸い込んだ。
今日も、彼女の「魔法」を使う日が始まる。
それは、喧嘩している子供たちの間に立ち、ふっと冗談を言ってみんなを笑わせることかもしれない。
特別な杖も、荘厳な詠唱もいらない。
必要なのは、ただ一つの、誰かを幸せにしたいという純粋な心だけだ。
彼女はユリの花を胸に当て、窓の外の朝の光に向かって、小さく呟いた。
「さあ、行こう。今日も、たくさんの笑顔を探しに」
ドアの外ではレイナの成人を祝う式典の準備に追われている音がしていた。
彼女はドアに向かって歩き出した。
今日という日が、また新たな笑顔の物語で満たされますように。レイナの魔法は、これからもずっと、この王国のどこかで輝き続けるだろう。