軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第29話 聖女レイナ10歳編 退屈の霧と遊び心の魔法

レイナが10歳を迎えた頃、王国に新たな問題が発生した。

闇の瘴気は彼女の力でほぼ駆逐されていたが、今度は「退屈の霧」が出現し始めたのだ。

この霧に包まれると、人々は急にやる気を失い、趣味も仕事も「面倒くさい」と感じるようになる。

農民は畑を耕すのを忘れ、兵士は訓練をサボり、宮廷料理人は繰り返し同じスープを作り続けた。

「これは手強い」と老魔術師長マルコムは頭を抱えた。

「瘴気のように命を奪うわけではないが、王国の活力を徐々に蝕んでいく」

王座の間に集まった重臣たちは深刻な顔をしていた。

財務大臣は計算盤を前にため息をつき、騎士団長は鎧の上からあくびを噛み殺そうとしていた。

霧の影響はすでに宮廷にも及んでいた。

その時、ドアが勢いよく開き、レイナが飛び込んできた。

彼女は新しいスカート(緑と金色のしま模様)をひるがえし、少し息を切らせていた。

「おじいちゃん王様!庭の噴水で虹を見つけたよ!7色全部そろってた!」

王は困りながらも微笑んだ。

レイナの金色の巻き毛は腰まで伸び、茶色の瞳は幼い輝きを保ちつつ、どこか深みを増していた。

しかし、彼女の本質は変わらなかった。

王宮の廊下を駆け回り、庭で妖精と会話し、未だに重要な会議の最中に「おやつが食べたい」と宣言するのは、相変わらずのことだった。

「レイナ、今ちょうど『退屈の霧』のことを話しているところだ」

「ああ、あのくすくす雲のこと?」

レイナは玉座の横にある自分の専用椅子(もはや少し小さくなっていた)に座り、ぶらぶらと足を揺らした。

片手にはいつものぬいぐるみのウサギを抱えている。

「あれね、昨日西の森で遊んでたら出てきたよ」

全員が彼女を見つめた。

マルコムの眉間に深い皺が寄った。

「そ、そしてどうした?」と財務大臣が聞いた。

彼の声には、この厄介な問題に対する無力感がにじんでいた。

「うーん」レイナは考えながら、ウサギの耳をねじった。

「最初は確かに『あー、もう遊ぶの面倒だな』って思ったけど、でもね、霧がゆらゆら動くのを見てたら、すごく面白い形に見えてきたの」

「形?」とマルコムが眉をひそめた。

彼の長い白髭が震えた。

「霧に形が?」

「うん!くまさんの形とか、お花の形とか。それでレイナ、霧と遊ぶことにしたの」

レイナは椅子から飛び降り、広間の中央に立った。

重臣たちが交換する心配そうな視線をまったく気にしない様子で。

「こうやって、手をこう動かすとね」

彼女が優雅に手を動かすと、指先から淡い金色の光の糸が現れ、空中で複雑な模様を描いた。

それはこれまで誰も見たことのない魔法だった。儀式的でも学術的でもなく、純粋に遊び心から生まれた動きだった。

「霧がついてくるの!踊りみたいでしょ?」

その瞬間、窓の外から灰色の霧の一団が入り込んできた。

重臣たちが慌てて身構える中、霧はレイナの金色の光の糸に絡みつき、彼女の動きに合わせてゆらめき始めた。

くま、花、そして小さな竜の形へと次々に姿を変えていく。

「見て!霧さん、レイナの真似してる!」

マルコムは目を見開いた。

「そ、それは……霧をコントロールしている?」

「コントロールって難しいことじゃないよ」

レイナはくるりと回り、スカートをふわりと広げた。「霧さんはただ、退屈してただけなんだよ。誰も遊んでくれなくて」

財務大臣が咳払いをした。

「つまり、霧は……寂しかったと?」

「うん!だからレイナが遊んであげたら、とっても楽しそうだったの」

レイナの動きが止まると、霧はゆっくりと窓の外へと流れ出ていった。

その灰色は少し明るくなり、もはや重苦しい感じはなくなっていた。

広間はしばしの沈黙に包まれた。

重臣たちは呆然と窓の外を見つめ、次にレイナの無邪気な笑顔を見た。

マルコムがゆっくりと顔を上げ、白髭をなでながら言った。

「……我々は霧を『脅威』として分析し、排除する方法を考えていた。だが、この子は霧を『友達』として、遊び相手として見ていた」

王が深く頷き、目尻に笑みの皺を寄せた。

「そうだな。退屈の霧は、退屈していただけなのかもしれない」

マルコムはレイナを見つめ、これまでになく柔らかい表情で言った。「レイナ様、あなたは今日、我々に最も重要なことを教えてくれました。時に、最も複雑な問題の解決策は、最も単純な遊び心の中にあるということです」

レイナは首をかしげ、真剣な顔で答えた。

「難しいことわかんないけど……でも、みんなが笑ってるほうが絶対楽しいよね!」

その言葉に、重臣たちの顔から緊張がすっと消え、自然な笑顔が浮かんだ。

窓の外では、明るくなった霧が風に乗って軽やかに舞い、まるで王国全体がほっと息をついたように感じられた。

そしてレイナは、そろそろおやつの時間だと言い出そうとしていた。

王国の新たな危機は、遊び心と笑顔によって、またしても意外な方法で解決へと向かうのだった。