軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第13話 聖女レイナ6歳編 家族との休日

レイナが6歳なある日、王国では珍しく穏やかな日が続いていた。

嘆きの谷の浄化から3年、国中の瘴気はほぼ消え、人々の顔に笑顔が戻っていた。

王宮では相変わらず、レイナの「はなぱっちんおまじない」を求める廷臣たちの列ができていたが、今日ばかりは彼女の関心は別のところにあった。

「ママ、パパ、まだ? まだー?」

玉座の間で、レイナは金色の巻き毛を振り乱しながら、母親のエラのスカートの裾を引っ張っていた。

エラは今では王宮の侍女たちの手伝いをしており、清掃や衣類の手入れを担当していた。

彼女は優しい笑顔で娘の頭を撫でた。

「もう少し待ってね、レイナ。王様にお許しをいただかないと」

その時、王、アルドリック三世が広間に入ってきた。彼の後ろには、城の温室で働くトーマスが、少し緊張した面持ちで立っていた。

トーマスの手には、小さな柳かごが下げられていた。

「おじいちゃん王様!」

レイナは王の元へ駆け寄り、彼の長いマントに飛びついた。

「今日、お外でごはん食べていい? パパとママと一緒に!」

王は温かい目でレイナを見下ろし、トーマスとエラに目を向けた。

「そなたたちの願いは聞き届けよう。今日一日、家族で過ごすがよい。ただし」

王は指を一本立てた。

「護衛はつける。遠くからではあるがな」

トーマスとエラは深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。陛下」

レイナは「やったー!」と跳び上がり、王の頬に大きなチュウをした。

王は照れくさそうに咳払いをしたが、目尻の皺はさらに深くなった。

こうして、王国の6歳の聖女と、温室で働く父、侍女手伝いの母は、城から少し離れた小川のほとりの草原へと向かった。

後方100メートルには、変装した騎士2人が、一見のんびりとながらも目を光らせていた。

ピクニック場所は、レイナが3歳の頃、家族でよく来ていた懐かしい場所だった。

小川のせせらぎが心地よく、野の花が風に揺れていた。

トーマスが温室で育てた真っ赤なイチゴと、エラが朝早く起きて作ったハチミツ入りのパンがかごの中に詰められていた。

「ママ、これ、すごくおいしい!」

レイナはほっぺたをパンでいっぱいに膨らませながら言った。

エラは嬉しそうに娘の口元をナプキンで拭った。

「ゆっくり食べなさい」

レイナはパンを食べ終えると、突然立ち上がった。

「ねぇ、パパ! あの花、きれい! あっちに行っていい?」

彼女が指さした先には、川の対岸に、輝くような青い小花が群生していた。

トーマスとエラは一瞬顔を見合わせた。

川は浅かったが、流れが少し速いところがあった。

「よし、パパが一緒に行こう」

トーマスが立ち上がった。

「私も」

エラも続いた。

3人で手をつなぎ、慎重に川の石を渡った。

レイナはいたずらっぽく、わざと石を蹴って水しぶきを上げ、両親を笑わせた。

対岸に着くと、レイナはすぐに花のそばにしゃがみ込んだ。彼女は青い花をそっと撫でた。

「かわいいね。でも……ちょっと元気ないみたい」

レイナが触れた花は、確かに少ししおれていた。

周りの土も乾いているように見えた。

エラが心配そうに言った。

「ここは日当たりが良すぎるのかもしれないね」

その時、レイナは小さな手を花の上にかざした。

彼女は真剣な顔をして、小声で呟いた。

「おはなさん、がんばって。おみず、あげるね」

何の前触れもなく、レイナの手のひらから、きらきらとした小さな水滴が現れた。

それはまるで空中から湧き出たかのように、しおれた花の上にそっと落ちた。

一瞬で、花は生き返った。

しおれた花びらがぴんと張り、色はより鮮やかな青に輝いた。

そして驚くべきことに、その一輪から始まった変化は周囲に広がっていった。

乾いた土は湿り気を帯び、周りの草花も一斉に生き生きとし始めた。

トーマスとエラは息をのんだ。

遠くから見守っていた護衛の騎士たちも、思わず前のめりになった。

レイナは満足そうにうなずき、立ち上がった。

「よし! これで大丈夫!」

彼女は何もなかったかのように、次の花に興味を移した。

エラはトーマスを見つめ、微笑んだ。

「凄いわね」

トーマスはうなずき、妻の肩を抱いた。

午後、一家は小川のそばでしばらく休んだ。

レイナは父親のひざの上でうたた寝をし、エラはそっと娘の髪を梳かした。

護衛の騎士たちも、少し距離を置いて木陰で休憩を取っていた。

目を覚ましたレイナは、突然何かを思いついたように言った。

「ねえ、パパ、ママ。レイナ、大きくなったら何になると思う?」

トーマスは微笑んだ。

「何になりたいの?」

レイナは真剣な顔で考えた。

「んー……お花をいっぱい育てる人! それと……みんなを笑顔にする人! あ、それから、王様のお皿でごはん食べる実験もする!」

エラは吹き出しそうになったのをこらえた。

「それは……王様の許可をもらわないとね」

日が西に傾き始めた時、一家はピクニック場所を後にした。

帰り道、レイナは両親の手を握りながら、一日の出来事を楽しそうに話し続けた。

城門が見えてきた時、レイナは突然立ち止まった。

「どうしたの?」

トーマスが尋ねた。

レイナは後ろを振り返り、遠くの草原を見つめた。

そして、にっこり笑った。

「今日、とっても楽しかった。また行こうね、パパ、ママ」

エラは涙をこらえきれず、そっと頬を拭った。

「ええ、必ずまた行こう」

王城に戻ると、門の前でアルドリック王が待っていた。彼は温かい目で3人を見つめ、一言だけ言った。

「良き一日であったか?」

レイナは王の元へ駆け寄り、今日2度目のチュウを頬に与えた。

「うん! とっても楽しかった! おじいちゃん王様も、今度一緒に行こう!」

王は驚いたような、でも嬉しそうな表情を浮かべた。「ふむ……それはまた、考えてみるとしよう」

その夜、レイナは自分専用の小さな部屋で、ぬいぐるみのウサギを抱きしめながら眠りについた。

窓の外には満天の星が輝いていた。

下の広間では、アルドリック王が窓辺に立ち、星空を眺めていた。

マルコムが近づいてきた。

「陛下、今日のピクニックは無事終わりました。護衛の報告によれば、聖女様は……小さな奇跡を起こしたようです」

王は深く頷いた。

「彼女の力は成長している。しかし、それ以上に、彼女の心も成長している。今日、彼女は家族と過ごすことを何よりも喜んでいた」

こうして、6歳になった聖女レイナの、家族と過ごした何気ない一日が終わった。