軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間 騎士団長は後悔する

騎士団長はため息をそっと漏らす。

彼の前には、愛する妻とその姉が今にも倒れてしまいそうな顔色をしながら二つの書簡を見ているのだ。

その書簡は、彼女たちの弟……つまりこの国の王太子、マリウスからのものであった。

嫁いだ姉たちにも知っておいてもらいたいと、そういう書き出しだったと騎士団長も知っている。

妻であるミネアがその書簡を目にして悲鳴のような声を上げたのは、つい先日のことだ。

一体何事かと騎士団長が飛んでいくと、妻からその書簡を読んでくれと言われて彼も目を通したのである。

それは衝撃的と言わざるを得なかった。

騎士団長もまた、絶句したのだからミネアのショックは計り知れない。

内容は、末姫の これまで(・・・・) の話だ。

騎士団長も責任を感じていた。

だがどうしていいのか、皆目見当がつかないままに時間だけが経過した。

そんな中で今度は第一王女であったトーラがミネアを訪ねて来た。

やはり例の手紙の件であった。

「どうしてこうなってしまったの」

「そんな……あの子が、そんな目に遭っていただなんて!」

そう、内容は末姫の悪評、その理由だったのだ。

これまで騎士団長は、末姫とは殆ど接点がなかった。

そも彼が第二王女であるミネアと婚姻に至ったのは、彼が幼い頃に当時の騎士団長の従僕として働いていたから、彼女と出会えたのだ。

その後お互いに密やかな恋心を抱きつつ、王子のマリウスが誕生したことで無事に結ばれたが……その頃には、彼は騎士団長となり王の剣として、盾として、王女を娶る男として忙しくしていた。

王子のマリウスに対しては将来の王として剣術を教えてやってほしいと国王に言われ話す機会もあったが、末姫のヘレナに関しては特に接点が無い。

聞こえてくるのは噂ばかりで、それだけを信じて判断したこともないが……かといって、真実を確かめてどうこうしようということもなかった。

噂が起きる時には、何かしらの理由がある。

それは大抵小さなもので、王女という立場の少女に何かしらの不満をぶつけてのことだろうと騎士団長は考えたのだ。

事実それは間違っていない。

普通であれば、彼が考えていたようにいずれは落ち着くものであったろうし、家族がそれを支えていくであろうし、ヘレナの成長と共に止んでいくはずであった。

そこに悪意の種が、複数芽吹かなければ。

(どうして気づかなかった)

騎士団長もまた、マリウスの手紙を読んで愕然としたものだ。

ユルヨ・ヴァッソン。

とても美しい所作を持つ、男性だった。

当時宮廷では学士として迎えられた彼に多くの女性が夢中になり、騎士団長もまた己の妻であるミネアが傾倒してしまうのではと恐れたものである。

ところがその男こそが悪意を上手く扇動し、悪事を働いておきながらそれらを盾に雲隠れしたというではないか!

(どうして、気づけなかった!)

確かに噂は噂にしか過ぎなかった。

騎士団長の考えは、誤りではなかったのだ。

だが、その根も葉もない噂の大元は力の無いただの少女だったのだ。

少女とも呼べない年齢からそのような悪意に晒されて、どうして抗えようか。

悪の道に染まることもなく、ただ流されるままに嫁がされていった末姫の姿を、騎士団長は思い出せなかった。

末姫は王家の姫である。

本来騎士団長が守るべき対象の一人であった。

そして彼にとって、恐れ多くも主君筋の姫君でありながら義妹でもあったのだ。

もっと、様子を見ておくべきだったと今更ながらに後悔する。

(俺は彼女を傷つけなかった)

だが守ることもしなかったのだ。

真偽を確かめていれば、今頃妻に話を通して彼女たち姉妹との仲を取り持っていたかもしれない。

そうすればかの末姫は孤独から救い出され、噂を払拭していたかもしれないのだ。

何もしなかったことは、危害を加えずとも同じ意味を持つのだと騎士団長は知った。

おそらく、トーラとミネアもそうなのだろうと沈鬱な表情で何か言葉を交わす彼女たちを見て、騎士団長はそう思う。

今更だ。

だが、今からでもできることはあるのだろう。

(ユルヨ・ヴァッソン)

マリウスはその男を捜すことにしたと書いていた。

おそらく国内にはもういないだろうとも。

だがその足取りが追えれば、少なからず贖罪となるだろうか。

騎士団長は考える。

勝手な行動は公僕として許されない。

ならば、許可をもらって動くことにしよう。

「ミネア、トーラ殿。俺はこれから王城に行くが、お二人はどうする」

「……マリウスに会いに行くの?」

「会っていただけるかはわからない。ディノス王国から陛下方がお戻りになっている。……おそらく、今頃この話を陛下たちも耳にしているはずだ。だから」

今更だ。

だが何もせずにはいられない。

少しでも何かをしていないと、罪の重さに、良心の呵責に耐えられそうになかったのだ。

騎士団長という肩書きを持ちながら、何もできなかった男はそう訴える。

その言葉に、女たちも頷いて立ち上がった。

許してほしいと願うのは簡単だが、きっと許されない。

これから起こす行動も、許されたいがためだろうと言われればそれも否定できない。

それでも彼らは、何かをせずにいられなかったのだった。