軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十二話

王城は、パトレイア王国のものよりもずっと大きかった。

国力は同じくらいだったはずだし、開国した年もそこまで違いがなかったと記憶しているはずなのに……。

(でも発展を続けているのはこちらで、母国は衰退していく一方……)

その原因がなんなのか、私にはわからないしわからなくても別に問題ないのだろう。

私は国政に携わる人間ではないし、それを求められていないのだから。

「大丈夫か、ヘレナ」

「はい、旦那様」

人の目が、少し怖いと思う。

こんな大勢の前に出たのは一体いつぶりだろう。

パトレイア王国にいた頃、公式行事に出ることは確かに有ったけれど私に注目が寄せられることはなかった。

いつも兄に向けられた視線ばかりだったから。

私は後ろに下がってなるべく前に出ないように、第一王子の 引き立て役(・・・・・) として弁えておけと言われていたから。

実際、何の役にも立たない第四王女なんてそんな扱いでも仕方ないと思う。

この国――ディノス国の両陛下にご挨拶をさせていただいた後、私たちは他の貴族たちに紛れてパトレイア王国との講和についての挨拶を遠目に見ていた。

その流れで旦那様と私も呼ばれるかと少しだけ身構えたものの、そういったことはないらしくそっと胸をなで下ろす。

これ以上注目されることは、やはり心穏やかではいられない。

とはいえ、パーティーといえば交流も必要になる。

遠巻きに私たちを見ている人もいれば、話しかけたそうにしている人、最初から物珍しそうな様子を隠しもしない人、その姿は千差万別だ。

「――モレル辺境伯、陛下がお呼びです」

「承知した」

そんな中、国王陛下の侍従がそっと近づいてきて旦那様に短くそう告げた。

同じように短く返答をした旦那様は、私に向かって小さく頷く。

私はエスコートしてくださる旦那様の手を、握り返した。

これは想定内の話。

両国の和平を願い、両国王がパーティーで姿を見せた後はきっと……パトレイア王国側と、私を会わせるつもりなのだろう。

そこに含まれる意図はいろいろあって どれが(・・・) 主たるものかはわからないけれど、少なくとも人質は大切にされていることを示すためにもディノス国としては会わせておく必要があるのだろう。

「王国の太陽たる陛下、並びに月である王妃殿下。モレル辺境伯アレンデール、お呼びと伺い参上いたしました」

「よく来た、モレル辺境伯よ。奥方も元気そうで何よりだ」

「ありがとうございます」

旦那様に言わせれば、この婚姻は王家がモレル辺境伯家に押し付けたものだった。

ディノス国の王子は三人、一番上の王太子殿下は特にこちらに視線を向けるでもなく王太子妃殿下と共に静観の姿勢だ。

第二王子殿下は婚約者の女性と、すでにダンスに出ておられるよう。

第三王子殿下はこちらに視線を向けているけれど、なんだか不機嫌そうだった。

「二人を呼んだのは他でもない。奥方の立場もあるし、また他国から嫁いだとあっては中々言葉を交わす機会も少なかろう。パトレイア国王夫妻も是非に話をしたいと言っておってな」

「寛大なお心、痛み入ります」

「よいよい。パトレイア国王夫妻は賓客ゆえ、ダンスホールに下りることは難しいのでな、こうして足を運んでもらったというわけだ」

私はディノス王に向かってただこの国の礼儀に則ったお辞儀をする。

温かな言葉、思いやりの態度――だけれどそれはディノス国の臣下に向けた慈愛のものであることを、忘れてはいけない。

私はもう、パトレイア王国の王女ではなくディノス国の臣下の妻であると態度で示さなければならないのだ。

この関係は、決して対等ではないと、人質である私が理解していることを示さなくてはならない。

「モレル辺境伯よ、そなたの奥方は大変賢いようじゃ」

「は、自分のような無骨な男には得がたき妻にございます。良縁をいただき、国王陛下には感謝しかございません」

ディノス妃の言葉に、旦那様が如才ない返事をしたけれど……どうやら私の行動は、王妃様のお眼鏡に適ったようだった。

そして私は両親に目を向ける。

「パトレイア王国国王陛下、並びに王妃殿下にご挨拶申し上げます」

「あなた……そんな、他人行儀な……」

王妃様(・・・) が動揺しているように見えたけれど、どうしてだろうか。

パトレイア王は幾分か、顔色が悪いように見える。

もしかすればこのパーティーがお二人の負担になっているのかもしれない。

それとも私を人質として嫁がせたことに対し、良心が咎めるのだろうか?

なら、私が幸せだと示せば、少しは軽くなるだろうか。

「私はパトレイア王国の王女として、一人の臣として役目を担い、そして嫁ぎました。嫁ぎ先であるモレル辺境伯家では大変よくしていただいておりますし、幸せな生活を送っております」

「……そうか」

「でも、あなた。そんな 地味な服(・・・・) を着て! もっと華やかなものをあなたは好んでいたのではなくて? それとも強要されて――」

「ユージェニー、よさんか!」

慌ててパトレイア王が止めるものの、そうよね、私のイメージはこの人たちにとって赤や派手なレース、そして宝石だものね。

キラキラしたスパンコールで重いドレス、本体よりも目立つレース、それを着ていた私はさぞかし滑稽だったのだろうと思う。

でも私が本来好むのは、今着ているようなドレスだ。

シンプルで、ビジューの重みはあるけれど……それだって過度のものではない心地良い重み。

「こちらのディノス国ではパートナーの色を取り入れたドレスが主流です。私のドレスももちろん、旦那様のお色で仕立てさせていただきました」

パトレイア王国でも、妻や婚約者の色を取り入れるというのはあるけれど……旦那様と私の関係を、人質とそれを監視する人間という関係にしか捉えていないのだろうとそうはっきり感じ取った。

今の私は、ドレスに埋もれて自身を見てもらえもしなかった哀れな子供ではなく、きちんとしたものを身に纏い それなり(・・・・) に見られる姿になった貴婦人であるはずなのだ。

それを認めてもらえないことは――ひどく、胸が、痛んだ。