軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十話

劇的に何かが変わったかと問われると、そんなことはない日々。

私は自分から何かをするという行動力に欠けているし、これまで十年以上望まれていなかったことをこの一ヶ月と少し程度で変えることは難しいのだと実感し落胆している。

それでも旦那様は私のことを見捨てず、毎日私を愛でてくださっている。

今のところ、子が宿った気配はない。

(私だけが愛するなんて、もう言わなくていいんだわ)

自分の寂しさを埋めるかのように子を欲したけれど、今ならきっと旦那様も、アンナも、イザヤも……この館の人々が祝福し、大切に想ってくれるかもしれない。

いいえ、きっとそう。

(ああ、でもどうしよう)

私が双子だったのだから、宿るのも双子だったら?

そうしたら私と兄のように、扱いは変わってしまうのだろうか。

少し心配になってしまった。

「どうした?」

「あ、いえ……」

私の些細な変化に旦那様は気づいてくださる。

愛情があると、そういうことにも気づきやすいのだとアンナが教えてくれた。

そして私が黙っているのを旦那様はよしとしない。

上手くしゃべり出せない私のために、たくさん聞いてくださる。

(……自分から、もっと話せるようにならないと)

申し訳ないと思う反面、とてもありがたくて、嬉しい。

私自身はまだ変われないけれど、変わろうと努力しているのをみんなが焦らず待ってくれているのだ。

以前は諦めれば済む話が、諦めないでもいいことになった。

それは少しだけ、逃げ場がなくなった気もするけれど……そう考えることがまた逃げ場なのだとわかっているから、なんとかしたい。

そんなことを考えながら、双子が生まれたらどうしようという気持ちをなんとか言葉にすることができた。

すると旦那様は目を丸くして、ああ、と零すように声を出してから私をギュッと抱きしめてくれたではないか。

「そういえばそちらの国では双子が不吉って言われるんだったか」

「……はい」

「こっちの国じゃああまり聞いたことがないな。辺境区だと生まれる子供も多いからかもしれないけど……そうだなあ、俺は兄弟がほしい方だったから三人はほしいな」

「えっ」

「アンナやイザヤの家なんて大人数でいつも羨ましかったんだ。こう見えて赤ん坊をあやしたこともあるぞ」

「えっ、ええっ……?」

旦那様も子はほしいだろうと思っていた。

この辺境伯家を、この地をとても大切に想っておられるからだから。

だからこそ立派な跡取りを……と思ったけれど、三人?

男児を産んでほしいではなくて?

混乱する私の額にくちづけを落として、旦那様は笑った。

「男女はどちらでもいいさ。できなければできないで、伯父や伯母に頼んで従兄弟たちかその子供たちに養子縁組してもらえばいいしな。この土地を大切にしてくれるなら、誰だっていいんだ」

辺境伯という地位には固執していない。

そう言い切った旦那様の目は、どこまでも柔らかい。

「俺としちゃ中身もヘレナに似てもらいたいもんだ。中身が俺に似たら大惨事になりそうだよなあ」

「まあ、旦那様ったら」

気が早い。

そう言おうとする私の後ろで給仕していたアンナがものすごい勢いでこちらを向いた。

「その場合、屋敷の者総出で高価なものは隠させていただきます」

「おい、アンナ……」

「旦那様にそっくりならば家宝の壺でシチューを作ろうとするなど突拍子もないことをなさるでしょうから」

「あれはお前も加担していただろうが!」

「すみません、記憶にございません」

家宝の壺でシチューとは一体。

私はただ目を丸くするしかできない。

「楽しそうなところ失礼。王家からの書状が来たぞ」

「イザヤ」

差し出されたのは真っ白な封筒に金の装飾が施された煌びやかなもの

それを一瞥していやそうな顔をした旦那様が、乱暴に封を開けて中身を見る。

「三ヶ月後のパーティーにはヘレナを伴って〝必ず〟参加しろだとさ」

「お前が普段から社交をのらりくらりと行かずに済ませてたせいだろうな」

「あの王子、俺が御前試合でコテンパンにのしてやったことを未だに恨みに思ってるらしい」

そういえば以前も王家とあまり上手くいっていないようなことを旦那様は仰っていたかしら。

だとしたら、今回のパーティーはきっと私のことをきちんと『人質として』それなりに遇し、囲い込めているかを確認したいのでしょう。

旦那様個人への感情も大いにあるようなので、きっと私に焦点を当てて嫌味を言ってくるでしょうし……材料には事欠かないもの。

(でも、もう逃げないって決めたんだから)

私は旦那様の妻として、できる限り前を向いて微笑んでみせよう。

噂の悪辣姫そのまま……というのは難しそうだけれど、決して夫の恥とならない淑女となれるよう振る舞いにだけは注意しなくては。

私はぎゅっとスカートの裾を握って、覚悟を決めるのだった。