軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3 プロローグ:虫歯娘との追いかけっこ(3/4)

「パパ。パパの魔法で、リーの虫歯は治せないの?」

意外に的を射た発想に、わたしはパッとリカルドの方を見る。

リカルドとリーディアは、この世でおそらくたった二人の、聖女の血族なのだ。

元々、リキュール一族は、大昔に聖女を娶った家系ということで、高位治癒魔法の使い手を多く輩出し、その力は戦場で重宝されてきた。

そして、リキュール一族の一人であるリカルドは、まさに高位治癒魔法の使い手。

虫歯程度ならば、すぐさま治すこともできるのではないだろうか。

期待を込めてわたしがリーディアと共にリカルドを見ると、リカルドが気まずそうな顔で説明してくれた。

「治癒魔法というのは、あくまでも本人の回復力を魔法の力で伸ばすものなんだ。時間をかければ治癒できるような怪我を瞬時に治す魔法なんだよ」

「リーの力も伸ばしてほしいの!」

「リーディア……虫歯はな、不治の病なんだ」

はうっ!!?と驚くリーディアに、わたしも目を瞬く。

そういえば、虫歯は勝手に治ったりしない。

治療というのも、基本的には虫歯部分を取り除いて詰め物をするという内容のものだ。

「まあ、多少は歯も元通りになるが、虫歯部分は削ってもらわないとどうにもできないな」

絶望を体現した彫刻のような表情のリーディアに、リカルドもわたしも失笑する。

ちなみに、欠損部分を補ったり、虫歯などの病気そのものを無かったことにする魔法も存在するらしい。

かつての聖女が使っていた、回復聖魔法がそれである。

しかし、この魔法は術者の生命力をもろに削るので、使い手がいたとしても虫歯程度では使ってくれないだろうとのこと。

わたしがリカルドに、回復聖魔法を使えるのか尋ねてみたところ、にっこり微笑んだまま教えてくれなかった。

まあその、知らない方がいいことなのかもしれない。

過ぎた力は、身を滅ぼすものだし。

「パパ! リーはいいことを思いついたの!」

「うん?」

「魔法使いさんにね、お願いすればいいのよ!」

魔法使いさん。

リーディアの言うそれは、わたしの父、マーカス=マティーニ男爵を指している。

実は、わたしがこの家に契約妻として嫁いできたのは、父であるマティーニ男爵の取り計らいによるものだった。

リーディアは、秘密がバレると一年経たずにいなくなる契約母であったわたしのことをいまだに天使だと思っていて、そんな天使を使わしてくれた父のことを、魔法使いだと思っているのだ。

あと数年も経てば、この誤解も解けるとは思うのだけれども……解けるよね?

「ああ、なるほど。お義父さんなら、何か知ってるかもな」

「そうよね!? やっぱり、魔法使いさんにお願いするべきだと思うの!」

「ただ、お義父さんは今ここにはいないからなぁ」

「!!」

はうぅっ!!?と狼狽えるリーディアに、リカルドは優しい微笑みを浮かべる。

わたしは最近、なんとなく分かってきた。

夫リカルドの、この邪気のない微笑みは、実は悪魔のなせる技なのである。

「そこでだ。パパが、リーディアに虫歯を治してくれる他の魔法使いさんを紹介しよう」

「!? パパ、すごいの! 魔法使いさんは、他にもいるの!?」

「そうだ。今日、この伯爵邸に来てくれる予定なんだよ」

「!!? 素敵なタイミングなの! なら、大丈夫なの! リーのお口は……お口、は……」

リカルドがリーディアを抱き上げたまま子ども部屋に入ると、そこには白衣を着た壮年の男性が待っていた。

ダークブロンドの髪に、焦茶色の瞳の彼はもちろん、昨日会ったばかりの人物である。

「おはようございます、リーディア様。 歯(・) 医(・) 者(・) の(・) レイフです。お待ちしていました」

「さあ、リーディア。 魔(・) 法(・) 使(・) い(・) さ(・) ん(・) だ。リーディアの歯を、魔法みたいに治してくれるよ」

はうぅうっ!?と震えるリーディアは、がっちりとリカルドに拘束されていて、今度こそ逃げることはできない。

こうして、リーディアは施術の準備をされた子ども部屋へと連行されたのである。