軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4 伯爵様への相談 ※過去編

「リーディアがそんなことを?」

「はい」

執務室の中で、リキュール伯爵は私の言葉に目を丸くする。

彼の執務室にいるのは、わたしとリキュール伯爵だけではない。

執事にメイド長、それからリーディアの乳母アリスの3人も同席していた。

これは、わたしが伯爵様に配慮してのことである。

なにしろ、彼がマティーニ男爵家に避難してきた時の様子は、本当に可哀想だったのだ。

数々のハニートラップを経験したことにより、女性と室内で二人きりになるだけでものを吐いてしまう状態で、正直見ていられなかった。

今は大分回復したとはいえ、本心から、彼に無理をさせたくないと思う。

ちなみに、何故かわたしと室内で二人になるのは、ある程度平気らしい。だからこそ、わたしが契約結婚の相手に選ばれた訳で、初夜でわたしと短時間とはいえ、二人きりの寝室にいて問題なかったのである。

けれども、用心に越したことはない。

わたしはできる限り、彼とは二人きりにならないようにしていた。

「リーディア様が奥様に接触してくるのも時間の問題かと」

「監視の侍女を増やしていますが、今度は夜中に抜け出そうとされてしまって」

「……アリス、君の意見を聞きたい」

乳母アリスは、肩を落とした。

「リーディアお嬢様は、おそらく諦めることはないと思います。『お母様』という存在をそれはもう狂おしいほど求めていらっしゃいますので……」

「そもそも、なぜリーディアはマリアの存在に気がついたのだ?」

「子どもは家の中のことをよく見ているものです。……その」

「言いにくいことでも構わない。よければ聞きたい」

「……マリア様が来てくださり、伯爵様のご体調も良くなられ、屋敷の様子が明るくなりました。リーディアお嬢様は、そういう伯爵様や屋敷内の変化に気がつき、興味を持って探索を開始した結果、おそらく、自分の母親となるべき女性の部屋にマリア様が出入りしていることに気がついてしまわれたのではないかと思います」

「……」

乳母アリスの言葉に、伯爵様は何故か口元を隠し、ふわりと頰を染めた。

そして、わたしの方に視線を走らせ、目が合うと、パッとその視線を逸らす。

首を傾げているわたしをよそに、執事もメイド長も乳母アリスも、したり顔で笑みを浮かべていた。

「伯爵様のご体調は、本当に良くなられましたものね。わたしも隠れ蓑のやりがいがあります!」

「……ああ、そうだな。そうだ、君のおかげだ。ありがとう」

「ですが、伯爵様は今日のご体調は大丈夫ですか? 少し顔が赤いように思います」

「だ、大丈夫だ!」

焦っている様子の伯爵様に、執事は目を伏せ、老齢のメイド長はクスクス笑い、乳母アリスは嬉しそうにしている。

一体何がおかしいのだろうか。

「リーディアのことだが、週末に言ってきかそうと思う」

わたしも、執事とメイド長と乳母アリスの三人も、目を丸くした。

結婚式(秘密裏)の時でさえ、必死に隠してきたと言うのに、ここで真実をリーディアに伝えてしまうのか。

まあ、隠そうと思っても、隠しきれないとは思うのだが……。

「伯爵様。リーディア様には、どこまでお伝えされるのですか?」

「君と契約結婚したこと。期限は1年間であることをだ」

なんと、リキュール伯爵は、契約結婚であることを全てリーディアに伝えるつもりらしい。

「……リーディア様は、秘密を守れるでしょうか」

わたしは困惑しつつも、リキュール伯爵に尋ねた。

リーディアに契約結婚であることを秘密にしていたのは、期間限定の母親という存在が、彼女にいい影響を与えないと判断したことによるところが大きい。

しかし、それだけではなく、子どもである彼女に、契約結婚という秘密を守り切れると思えなかったという理由もあるのだ。

街に出た時など、ふとしたときに「1年だけのママができたの!」と言い出しかねない。

「それについては、まあ、なんとかなるだろう」

リキュール伯爵は、落ち着いた様子で頷いた。

わたしも、他の三人も怪訝な顔でリキュール伯爵を見つめている。

「問題は、君を気に入ってしまったリーディアの気持ちだが……もう見つかってしまったからには、どうしようもないからな」

「申し訳ありません」

「君のせいじゃない。私の落ち度だ。6歳に成長したリーディアの行動力を読みきれていなかった」

「坊っちゃまの中では、リーディアお嬢様はまだまだお小さくていらっしゃるようですからね」

「贈るおもちゃが子どもっぽいと、リーディアお嬢様が拗ねていらっしゃいましたよ。『私はもうレディなのに!』とおっしゃっていて」

「……そうか。気をつけよう」

クスクス笑っている執事とメイド長に、リキュール伯爵は微笑む。

そして、リーディア対策は、リキュール伯爵に任されることとなった。

「マリア。君も同席してくれ」

「わたしもですか!?」

「うん」

なにやら週末に、わたしはようやく、可愛い義娘と対面することになるようです。