軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18 契約結婚したら、契約家族が本当の家族になりました(終)

あれから、リカルドとわたしは、本当に夫婦になった。

「いやはや、驚きましたが、よかったよかった。ハハハ、うちの娘で本当に良かったんですかな」

「お父さん!」

契約結婚を勧めたわたしの父・マティーニ男爵は、絶対に驚いていない顔で、わたし達にお祝いを述べた。

「私はマリアさんでないとダメなんです」

「おやおや、これはこれは。我が娘ながら末恐ろしいものだ」

リカルドの告白に、父は興味深そうな顔をしてわたしを見てくる。

わたしはもはや、真っ赤になって俯くことしかできない。

「リーもね、ママはママじゃないとだめなの!」

「そうかそうかー」

「魔法使いさん、リーとママを会わせてくれて、どうもありがとう!」

「どういたしまして、可愛いお姫様」

なにやらわたしが知らない間に、リーディアの中で、父は『魔法使い』なる存在となってしまったらしい。

恰幅の良い腹を揺らしながら、父は尊敬してくる初孫にデレデレしていた。そして、デザートトマト試作品4号をリーディアに与え、「魔法使いさんのトマトは、魔法のトマトなの! あまーい!」と喜ばせていた。わ、わたしがメインで育てていたデザートトマト試作品4号なのに! ずるい!

わたしが父への嫉妬でギリギリ歯噛みしていると、父はリカルドにお歳暮を渡すノリで、わたしの頭にポンと手を乗せた。

「適当に生きてる娘ですが、色々仕込んでおいたから便利に使ってくださいね」

「お父さん!!」

「社交はともかく、帳簿管理と領地経営、畑作と食品売買、宝石類の鑑定辺りは一通りできますから、伯爵夫人もまあなんとかなるでしょう」

「え?」

「……え? あれ、リカルドわたし、言ってませんでしたっけ?」

「聞いてない……」

驚くリカルドに、わたしの方も驚いていた。

道理で本当の夫婦になった後も、わたしの仕事が子守りと手伝いだけのはずだ。リカルドは、わたしが色々できることを知らなかったらしい。

そんなこんなで、わたしは本当の伯爵夫人として、勉強を開始することとなった。

「旦那様。奥様は逸材です。私達がやっているのは教育や指導ではありません、ただの業務引き継ぎです」

「旦那様、どこでこんな素晴らしい奥様を見つけられたのですか」

「マティーニ男爵領だよ」

「そうでしたね……」

「何故男爵領に……」

伯爵家の文官達の言葉に、リカルドは本当に驚いていた。

そして、自慢げにわたしに報告してきた。

「マリア……私の妻は、本当にすごいんだ……!」

「わ、わたしにそれを伝えてどうするおつもりですか!?」

本当に嬉しそうにニコニコしている夫は、愛娘のリーディアにそっくりだ。

カーラがどうして、こんなに可愛い二人を置いて出ていくことができたのか、わたしは不思議でしょうがない。

しかし、カーラさんのあの容姿や性格を考えると、純粋可愛い二人とカーラさんは、もしかしてものすごく相性が悪かったのかもしれないなとも思う。野菜だって、単体で食べると美味しくて栄養価が高いのに、食べ合わせが良くないものもあるのだ。きゅうりとトマトとか、大根とにんじんとか。調理法次第で解決するのだけれどね。

「そういえば、カーラさんはどうなったの?」

「3年の懲役刑になった。実母という点と、未遂であったことを鑑みての判断だ。罰金を支払う財があれば、懲役は不要だったんだが」

カーラさんはリキュール伯爵家を出奔した後、何度か男を替え、今の相手に落ち着いたらしい。

今のお相手は、後ろ暗いところのある商人らしいのだが、カーラさんの散財を支えることはできず、このまま散財が続くようなら別れると言われていたのだとか。

そこでカーラさんは金策に走り、ふと、自分の娘を売り飛ばせば金になると思いついたらしい。

「売り飛ばす!?」

「その……リキュール伯爵家の子どもは、本当に高値で売れるらしいんだ。もちろん、人身売買は王家がかなりキツく取り締まってはいるんだが……」

道理でリーディアのいる子ども部屋に、人が増えないはずだ。

今後、リーディアの守りは最高レベルで固めなければと、わたしは手を固く握りしめた。

ちなみに、リカルドがノイローゼになる原因となった王家だけれども、怒り心頭のエドワード王弟殿下が色々と手を入れてくれているらしい。

実は、高位治癒魔法を使うことができるリキュール伯爵家一同は、戦のたびに駆り出されていて、他の貴族よりも出動回数が倍以上に多かったのだ。リキュール伯爵家当主であるリカルドが戦に呼ばれることはないと思うけれども、放っておくと、今後、子ども達が同じように戦に駆り出されてしまう。

王弟殿下は、リキュール伯爵家の出動回数を他の貴族と同レベルに下げ、今までの功績と謝罪の意をこめて、少なくともこれから50年は、戦争への出動はなしということで取り計らってくれているのだ。

実はこの件、大事な孫の命がかかっているということで、父・マティーニ男爵が裏で色々と根回しをし、暗躍したようだ。けれども、何をしたのか知ってしまうと闇が深そうなので、わたしもリカルドも耳を塞ぎ、目を閉じて知らないふりをしている。

そんなこんなで、順調に伯爵夫人業をやっていたわたしだけれども、実は、今は少しお休みをいただいている。

「ママ。まだかな。まだ会えないの?」

「もう少し時間がかかるかなー」

「もう少しって、どのぐらい? あと何日?」

「あと一ヶ月くらいかなぁ」

「もっと短くならない?」

「うーん、どうだろうねぇ」

来月、リーディアは、お姉さんになるのだ。

リーディアはそれが楽しみで仕方がないようで、毎日のようにわたしのお腹に耳を当てては、「お姉さんですよー」「早く生まれてきてね」と声をかけている。

そして、楽しみにしているのはリーディアだけではない。

「あとどれくらいだろうか」

「あと一ヶ月くらいですよ」

「そうか。そうだな。うん、もっと早くならないか」

「うーん、どうでしょうねぇ」

リカルドも、リーディアと競うように、わたしのお腹に耳を当てては、「と、父さんだ……」「もっと早く生まれてもいいんだぞ……」と声を掛けていた。

そして、「旦那様、早産はいけません」「早すぎると大変なのですよ!」と侍女達に散々叱られていた。その傍で、叱られているリカルドを見たリーディアが、口に両手を当てて震えている。可愛いけれども可哀想だったので、わたしから二人に「早く会いたいね」と言うと、二人とも「そうなの!」「そうなんだ!」と安心したように顔を縦に振っていた。本当に可愛い。

「カーラの時は、こういうことができなかったから、少し浮かれている」

「少し……?」

「ちなみに、リーディアのときも浮かれていた。生まれてきたら、こんなに可愛いし」

「えへへ。リーはパパの子だもの。可愛いの!」

「そうだな。リーディアは最高に可愛い」

リカルドがリーディアを抱き上げると、リーディアは嬉しそうにはしゃいでいた。

リカルドはここから二ヶ月、育児休暇をとっている。

リカルドは高位治癒魔法の使い手なので、わたしが出産に当たり命の危機に陥らないよう、片時も離れない心づもりなのだとか。

あまりの過保護っぷりに、いたずら心が湧いて、「初夜で『私が君を愛することはない』と言っていた人と同じ人物とは思えない」と言ってみたところ、リカルドは青くなったり赤くなったりして慌てていた。ちょっと可哀想になったので、頰にキスをして慰めてあげたら、元気になっていたので、まあ多分、大丈夫だと思う。

「マリア、リーディア、愛してるよ」

「わたしもよ。二人のこと、いつだって最高に愛してるわ」

「リーも! リーもね、パパとママのこと、えっとね、愛してるの!」

背伸びをしたリーディアに、わたしとリカルドは、朗らかに笑う。

始まりは、1年限りの契約結婚。

当初の予定とは全然違う結果になってしまったけれど、契約家族が本当の家族になってくれたおかげで、わたしは予定よりずっとずっと幸せな生活を手に入れることができたのです。

〜終わり〜