軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

54 少しずつ進んでいく王宮内別動隊

「なんだか、とっても静かね」

わたし達は、黒い髪の男の人(透明感MAX)に導かれながら、王宮内の廊下をゆっくりと進む。

元々わたし達は王宮第二別館の子ども部屋に居たのだけれども、先ほど三階の渡り廊下を渡ったので、今居る場所は王宮本館である。

ここに来るまでの間、何人か使用人を見かけたけれども、皆、床に倒れ伏していた。

脈もあるし、本当にただ寝ているだけのようなので、申し訳ないと思いつつも、わたし達は彼らを捨て置いて、先に進むことにしたのだ。

子ども達も、段々と状況に慣れてきたのか、「リーディアとマリアさまは、僕が守るからな!」「ママとイーゼルは、リーが守るの!」と言って、スナイパーのように周りに目を光らせてくれている。

わたしのスカートに張り付いて、プルプル震えながらである。

頼もしい二人に苦笑しながら、わたしは透明感のある男の人へを目を走らせる。

「あの、段々消えかかっていますが、大丈夫ですか?」

この黒髪の男の人は、元々透明がかっているのだけれども、わたし達を案内しているうちに、どんどん色が薄らいでいっているのだ。歩くたびに点滅するかのように色が消え、このままいなくなってしまいそうである。

すると、男の人はこちらを振り向き、次いでリーディアを見た。

銀色スナイパーが視線を受けてぱちくりと目を瞬いたところ、彼女の胸ポケットから、銀色のふわふわが飛び出してくるではないか。

「ぴ!」

「えっ。リーディア、またミミを王宮に連れてきちゃったの?」

「ちがうの。ママ、あのね。ミミがね、リーの胸ポケットに、勝手に入ってたの。いま、リーもびっくりしたの」

「ぴよっぴ」

右ポケットと左ポケットに何も入ってないことを確認して家を出発したはずの愛娘は、いつでも勝手についてくる困ったペットに、眉をハの字にしている。

銀色のふわふわは、自慢げにその場をくるくると飛び回ると、黒髪の男の人にキラキラとした何かを振りかけた。

すると、男の人の色が、ほとんどわたし達と同じ――は言い過ぎかもしれないが、ほぼ透け感がない状態にまで強くなる。

「ミミ、ありがとうなの」

「ぴ!」

戻ってきた銀色綿毛に、主人がお礼を言うと、綿毛は嬉しそうに彼女の頭の上へと舞い戻ってきた。

主人の頭にもったりと乗ったその大きさに、わたしもイーゼル殿下も首をかしげる。

「リーディア。ミミって、そんなに大きかったかしら」

「うん」

「いや、おかしいぞ。そいつ、リーディアの顔の半分くらいの大きさがあるけど、さっきまでどうやって胸ポケットに入っていたんだ」

「うん……?」

「それに、元々緑色だったのに、今はなんだか銀色になっているように見えるわね」

「リーとおそろい?」

「それ、重たくないのか?」

「全然重くないよ?」

「……?」

「……?」

不思議に思いつつも、説明してくれる人もいないので、しかたがなくわたし達は、解決しない疑問を抱えたまま、さきほどまでと同様に、男の人についていく。

(もしかして、王宮の人達、わたし達三人以外は全員眠っているんじゃないかしら……)

だんだんと真実に気が付き始めたわたしは、内心焦り出す。

王宮内に意識のある人がいないのだとしたら、わたしは子ども達をつれて、一度外に出るべきなのではないだろうか。

この黒髪の男の人は、わたし達をどこにつれていきたいのだろう。

そう思ったところで、男の人がとある豪奢な扉を指さした。

他の部屋よりも大きなその扉の先にあるのは、もしかして、国際会議の会場なのではないだろうか。

扉は開いていたので、わたし達はおそるおそる、その扉の隙間から室内を覗いてみる。

そこはやはり国際会議の議場で、会議の円卓の周りに倒れ伏している人々の中に、エドガー国王陛下やウィリアム王太子殿下が居た。

「ウィリアムお義父さま!」

イーゼル殿下はわたしのスカートから手を放して、義父であるウィリアム王太子殿下の元に駆け寄った。

すると、イーゼル殿下の右ポケットから黒い光があふれ、ウィリアム殿下がぴくりと動いた。

「う……」

「お義父さま、ご無事ですか!?」

「ウィリアム殿下!」

「ウィリアムさま」

「私は……いや、スザンヌはどこだ!? スルトが――」

ガバッと起き上がったウィリアム殿下は、わたし達の顔を見た後、周りの惨状を見て絶句する。

「ウィリアム殿下、何があったのですか? わたし達以外、王宮の中の人達はみんな、眠ってしまっているみたいで」

「……スザンヌの父スルトが、黒い石を使って何かをしたんだ。スザンヌが危ない。彼女はどこに!?」

ウィリアムの叫びに呼応するように、黒い髪の男が扉の外を指さす。

「スザンヌの場所を知っているのか!?」

頷く黒髪の男の人に、ウィリアム殿下はわたし達にこの場に残るように告げた後、剣を手に取り、その場から走り出した。

しかし、すぐに膝をついたので、イーゼル殿下があわてて駆け寄る。

「お義父さま!」

「これは……もしかして、私がこうして起きていられるのは、この子達の近くに居るときだけなのか」

ウィリアム王太子殿下の視線を受け止めた黒い男の人は、再度頷いた。

『《この子達は、竜珠の使い方を知らない。できるのは、大好きな人を無意識に助けることだけだ》』

「!?」

「お兄さんがしゃべった!」

「でも、全然わかんないの」

『《スザンヌを助けに行くなら、この子達を連れていくといい》』

「《そう言われましても、子ども達に危険は及ばないんですか》」

わたしがそう返すと、全員がギョッとした顔でこちらを見た。

わからないでもないけれども、黒髪の男の人までびっくりしているのは、どうかと思う。

話し相手が聞き取れない前提でお話していたというのか。

そりゃあ、古代タラバンテ語だから、わたしも完全に聞き取れているとは言わないけれども……。

黒髪の男の人は、わたしの返しに驚いた後、おかしくてたまらないといった風情で笑い出した。

『《本当に、あなたはすごいな。何も持たないのに、私達が望むすべてを持っている》』

「《……? そんなことよりも》」

『《子ども達は大丈夫。シルクの加護があることだろう》』

わたしが、その意をウィリアム殿下に伝えると、殿下は苦々し気な顔をしながら、大きく息を吐いた。

「イーゼル。スザンヌを救いたい。……私を、助けてくれるか」

ウィリアム殿下の言葉に、イーゼル殿下は小さな背をまっすぐに伸ばして、大きく頷いた。

「お義母さまが危ないなら、僕達が助けにいくべきです。……家族、だから」

震えながらも、真っすぐに見返してくる義息子に、ウィリアム殿下は目を見開いた後、思わずと言った様子で笑った。

「そうだな。家族が危機にあるのだから、私達が助けに行くべきだな」

「はい!」

「お前はこんなにも大きくなっていたんだな。……ありがとう、イーゼル」

ウィリアム殿下に抱きしめられて、イーゼル殿下は少し泣きそうな顔で、にっこりと笑った。

その光景を見たわたしは、思わずリーディアの手を握りしめる。

すると、小さなお手手は迷いなく、きゅっとわたしの手を握り返してくれた。

そうだ。

血が繋がらなくたって、本当の家族になれるのだ。

そうして作った新しい家族はいつだって、わたし達の背中を押してくれる。

『でも、あなたが手にしているものが、とても眩しくて。私……』

『妃殿下』

『時間は多くありません。けれど、こんな私でも、頑張れることが、あるなら』

(スザンヌ様。これは、あなたの頑張りで手にした、大切な家族です。きっと、二人はあなたを助けてくれる。いいえ、わたし達がきっと、助けてみせます)

「先頭は私だ。三人は、できるだけ後ろに居るように。私に何かあったら、とにかく逃げなさい」

こうしてわたし達四人は、黒髪の男の人の案内に従って、会議場を出たのである。