軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

47 心に宿る決意

その日のおやつは、マリア=マティーニ主催のお野菜祭りとなった。

彼女の兄であるミゲル=マティーニ伯爵も野菜が好きらしく、伯爵邸の冷蔵庫には、たくさんの新鮮なお野菜が用意されていたというのもある。

それに、電気圧力鍋や電気振動調理器など、ミゲル=マティーニ作の時短に特化した電子調理器を自慢したがっていたので、ちょうどよかったのだ。

新鮮な野菜で作った野菜スティックに蒸し野菜、ニンジンケーキ、様々な味付けの炒めものに煮つけ、かぼちゃプリンに、お肉や鮭の下地にした、うま味染み染みのお野菜たち。ついでに、温室で少しだけ育てているというスイカと苺まで出てきた。

優しい味のあたたかい東国の豆茶をお供に、楽しいお祭りの開催である。

「えっ、お野菜、おいしい!」

「もぐもぐもぐもぐ」

「このピーマン、僕でも食べられるぞ!?」

「ピーマンは一度湯がくと、甘みが引き立ってとってもおいしくなるんですよ。大人になると、苦味を楽しみたくなるときもあるんですけどね?」

「!!」

「ぱくぱくぱくぱく」

「このソースがおいしいんだ。お野菜じゃないんだ。ソースが……」

「シルクちゃん。アンチョビソースだけで食べても、塩辛いでしょう? この大根スティックにつけて食べるからこそ、みずみずしくて爽やかで、とってもおいしいでしょう……?」

「ううっ、ミゲルー! マリアがいじめるー!!」

「ええっ!?」

「おやおや、悪い子がいますねえ。マリア、明日のおやつは抜きだよ」

「ミゲル兄さん!!?」

目を剥くマリアに、子ども達もリキュール伯爵も、思わず笑いだしている。

スザンヌも、声を上げて笑ってしまった。

ちょっと涙目になったマリアは、すねた顔でスザンヌに「スザンヌ様、お野菜おいしいですか?」と尋ねてきたので、「はい、とってもおいしいです」と伝えると、嬉しそうにほほ笑んでくれる。

こんなにも楽しくて、花火みたいな素敵な食事は、初めてだった。

食べている間も、マリアは「トマトは、乱切りのほうがおいしいんですよ。きゅうりは縦に切るのがおすすめですね」と野菜を楽しむ秘訣を教えてくれて、なんだか次に野菜を食べるときに試してみたくなるような、わくわくした気持ちになってくる。

それに、スイカと苺がお野菜だったというのは、衝撃的な事実だった。子ども達も知らなかったらしく、「スイカや苺は、お野菜の中でも割と人気よね〜」となんの気無しに呟いたマリアの言葉に、ピシリと固まっている。

結局、お野菜祭りの終盤は、全員の口から「お野菜、おいしい!」の言葉が出ていた。

満足そうに胸を張るマリアは、それはもう、とても可愛かった。

スザンヌが男だったら、既婚の彼女に惚れ込んで求婚していたに違いない。リキュール伯爵と決闘になるところだ。本当に危なかった。スザンヌのお友達は大変罪作りな存在である。

馬車の中で、シルクはぽつりと、竜珠の止め方はもう一つあるとこぼしていた。

「他の人に竜珠を継承する前に 持(・) ち(・) 主(・) が死ぬと、竜珠が動揺して一時的に止まるんだ」

止まってしまった竜珠は、竜珠自体が認める次の持ち主が現れるまで、眠りにつくのだという。

だから、リキュール伯爵が白い竜珠をここまで一つの一族で引き継ぐことができたのは、とてもすごいことなのだと、シルクは嬉しそうにほほ笑んでいた。

~✿~✿~✿~

王宮にスザンヌが戻ると、夫ウィリアムは、昨日と同じく執務室で休憩をとりながら、昨日とは違って不満そうな顔でソファに座っていた。

「どうしたの?」

「私も、君達といっしょに……マティーニ伯爵の家に行きたかったんだ」

「まあ」

夫の意外な子どもっぽさに、スザンヌは思わず笑ってしまう。

そして、彼の左横に座り、その左腕をそっと抱きしめた。

「……スザンヌ?」

「私がいると、黒髪融和策を進めるために、好都合?」

息を呑むウィリアムに、スザンヌは真実を探すように、彼の青色の瞳を見つめる。

「……そうだ。君がいることで、国内の情勢は大きく変わった。エドワード叔父上は、たいそう喜んでいた……」

「なぜ、教えてくれなかったの?」

「……」

「ウィリアム」

「君が、私と離婚しづらいと思った」

うなだれるウィリアムに、スザンヌは目を瞬く。

「……君がいてくれることは、本当に、国のためになっているんだ。けれども、君は正義感が強いから、それに縛られてしまうと思った」

「ウィル」

「君は自由だ。あのとき私が見たあなたは、どこまでも自由で、私達が目指すものより、ずっとまぶしいものに手を伸ばしていると、そう……」

スザンヌは、その先を言わせまいと、夫に抱きついた。

ウィリアムは驚いた顔をした後、少し泣きそうな顔で、スザンヌを抱き返してくれる。

スザンヌは、このとき初めて、誰かのために生きたいと強く願った。

いつも、自分のためだった。

つらくないように。

苦しくないように。

求めるものに、手を伸ばして。

けれどもそれを、分かち合いたい。

この国の王太子妃として、この国で生きる人々のために、できることを尽くしていきたい。

一体、何ができるだろうか。

みんなにもらったたくさんの想いを、どう返していけばいいだろう。