軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9. サラヴィアの企み

「うぅ~ん」

「難しいですねぇ……」

ティアラローズはうなり声をあげるようにして、昼間から頭を悩ませていた。それに相槌を打つのは、マリンフォレストに滞在しているアカリだ。

ここ最近はいろいろあったため、ティアラローズはやらなければいけないことがたくさんある。

まず第一に、サンドローズの皇帝であるサラヴィアの件。

ティアラローズに贈り物をしてきたため、そのお返しをアクアスティードがすることになっている。とはいえ、送り先は彼の妻たち。なので、ティアラローズがお礼の品を選ぶことになった。

そして第二に、フィリーネのことだ。

エリオットとはこのまま上手く行きそうなので問題はないのだが、一度実家へ戻らなければいけないということだ。

もちろんそれは問題ないのだが、せっかくだからティアラローズも里帰りを兼ねて一緒に行こうと思っている。もちろん、アクアスティードも。

「サンドローズへの贈り物ですから、マリンフォレストの特産である珊瑚や真珠が王道でしょうか」

「そうね。でも、それだとありきたりなような気がしてしまって……」

「確かに、面白みはありませんわね」

提案してくれたのは、オリヴィアだ。

その案はティアラローズも考えたけれど、王族からの贈り物なのだからもう少し工夫したものを……と、思ってしまったのだ。

それを聞き、アカリも「難しいですねぇ~」と言ってソファへ沈み込む。

今、ティアラローズ、アカリ、オリヴィアの三人がいるのは、ティアラローズの私室だ。三人でお茶をしつつフィリーネたちの話で盛り上がっている。

そしてサンドローズの妃たちに何をプレゼントするのがいいか、知恵を出し合っていた。

「サラヴィア陛下も、妃であるティアラ様にプレゼントなんてしなきゃいいのに! ちゃちゃっと決めちゃいましょう」

「そうね」

ぷんぷんするアカリに苦笑しつつも、ティアラローズは頷く。

とはいえ、そう簡単に決まらない。

けれど、マリンフォレストに関連するものを贈りたい。

――そうなると、内容は絞られてくるわね。

珊瑚や真珠など、海でとれるもの。

花や鉱石など、山や森でとれるもの。

けれど、気候や移動距離の問題があるので花や食べ物などはあまりよくないだろう。

――あと、ほしがっていたのはティアラローズの花よね。

でも、それをあげるのは難しいと判断している。

……そうだ。

「珊瑚と真珠を使って、ティアラローズの花のかたちのアクセサリーを贈るのはどうかしら?」

「いいですね! 私は賛成です!」

「わたくしもいいと思います。ティアラローズの花のかたちをしたアクセサリーは、まだどこも作っていませんから」

これならば、ティアラローズの花をほしいと言っていたサンドローズ側の意見を取り入れることも出来ていいだろう。

あとは、いつも頼んでいる仕立て屋にデザインからお願いすればいい。この問題が解決したので、かなり胸のつかえがとれたような気がする。

「あとは、悪役令嬢の侍女の恋愛ですね! ゲームをしてたときはただのモブだと思ったのに、まさかこんなに存在感を持つとは思いませんでした!!」

「フィリーネ・サンフィストに関しては、情報もほとんど開示されてませんでしたからね」

アカリはここからが本番だ! とでも言いたげに、フィリーネをモブだと思っていたと告げる。確かに、ゲームでもそこまで印象的なキャラクターではなかった。

オリヴィアもそれを裏付けるように、攻略本のキャラ紹介も半ページだったと言う。

ぐっとこぶしを握り締めて、「楽しみ~!」とアカリが叫ぶ。

するとそこへ、ノックの音がしてアクアスティードがやってきた。

「ああ、来ていたのか」

「アクア様!」

「お邪魔しています、アクアスティード陛下」

アカリがぱっと笑顔を作り、オリヴィアは優雅に礼をする。アクアスティードは二人に「楽にして」と告げて、ティアラローズの隣に座る。

向かいには、アカリとオリヴィアが並んで座っているかたちだ。

ティアラローズはサンドローズへの贈り物が決まったことを告げて、のちほどデザインの打ち合わせをアクアスティードと一緒に行う約束をする。

それを微笑ましそうに見ながら、アカリはアクアスティードへストレートに疑問を投げた。

「それでアクア様、エリオットはどれくらいで貴族になれるんですか?」

「こればかりは、わからないよ。エリオットがただ頑張ればいいというわけでもないからね」

「そうなんですか?」

残念そうに言うアカリに、アクアスティードは苦笑しながら首を振る。

「平和で何もないときほど、功績をあげるのは難しいからね」

「あ、なるほど……。確かに、国に貢献しないと難しいですよね」

アカリは頷いて、タイミングが悪いのかと呟く。そしてすぐに手を叩いて、「それなら――」と言おうとしたところをティアラローズが遮る。

「アカリ様、やましいことは駄目ですよ」

「ちぇ。ちょっと事件を起こして、エリオットに解決してもらえばいいかなって思ったのに」

「駄目に決まってます……」

やらせかよ。と、思わず突っ込んでしまいそうになる。

そんなことをしてもフィリーネとエリオットは喜ばないし、何よりあくどい。

ティアラローズが注意しているのを見て、アクアスティードはそっとため息をつく。そして話は、フィリーネの実家へ行くためラピスラズリへ行くという内容へ変わる。

せっかくなので、アカリは同じタイミングで帰るという。

「フィリーネの実家へは、わたくしも挨拶に伺いたいと思っています。滞在は、アクア様もわたくしの実家へいらしてください」

「お願いするよ」

「え、私もティアラ様の家にお泊りしたい!」

「無理です」

はいはいとアカリが手を上げて主張するけれど、ティアラローズは首を振って却下する。

「ええええぇぇ、どうしてですか……」

「わたくしに何をしたかお忘れですか? お父様がアカリ様の滞在を許すはずがありません」

「!」

「アカリ様……忘れてた、みたいな顔をしないでください」

金輪際、父親がアカリを許すことはないだろう。

とはいえ、ティアラローズと仲良くしていることは知っているので表面上はにこやかだけれど。

「なら、ティアラ様の家はあきらめます。でも、お父さんがまだ怒ってるなら近いうちに謝りにいきたいです」

「ありがとう、アカリ様」

それで父親の怒りが溶けるかはわからないけれど、きっと誠意は伝わるだろう。そう考えると、少しだけ気持ちがほっこりする。

オリヴィアもアカリを見守るようにしていて、上手くいけばいいと誰もが思う。

「あとは、フィリーネの家の問題だけですね。フィリーネからは言いにくいでしょうが、資金面が不安なので……エリオットも援助の手助けをしてくれると嬉しいんですが」

フィリーネの給金は、かなりの額を実家に送っているとティアラローズは聞いている。

それを伝えると、アクアスティードは「ああ」と声をあげた。

「その点に関しては、なんの問題もないだろう。エリオットは、金銭なら下手な貴族より潤っているからね」

「えっ!!」

手当なども多く、エリオットの給金はかなり多い。

そして仕事が忙しく、お金を使う暇もほとんどないのだ。そのため、実はああ見えてかなり懐事情は温かい。

フィリーネは貴族位を捨ててもいいという話だった。つまり、貴族位を得なくとも、平民のままのエリオットでもいいということだ。

「もしかして、このまま結婚することも出来るんじゃない?」

「確かに貴族にこだわらないのであれば、それもありかもしれませんね」

ティアラローズが告げると、オリヴィアも有だと判断する。

オリヴィアのように公爵家の令嬢になると無理だが、先の見えない男爵家のフィリーネならば問題はない。というか、そうそういい嫁ぎ先があるとも限らない。

けれど、それにストップをかけるのはアクアスティードだ。

「エリオットは貴族になると告げてしまったから……おそらく、撤回するようなことはしないだろう」

「確かに……」

お金だけでいいならすぐ結婚しよう! なんて、エリオットができるわけがない。真面目で誠実な彼は、自分がいったことを撤回したりはしないだろう。

二人がくっつくのではと考えた一同だったけれど、まだまだ先は長そうだ……。

***

「ふう、これで仕事は一段落ですね」

エリオットはぐっと伸びをして、もう誰もいないアクアスティードの執務室を片づける。あとは部屋に鍵をかけて退出すれば、今日の仕事は終了だ。

執務室を後にして、夜風の吹く中庭を歩いて自室へと向かう。

アクアスティードの側近であるエリオットは、王城の敷地内に一室を与えられている。何かあればすぐに駆け付けることが出来るし、食事も王城の食堂を使えるのでかなり便利だ。

「ん?」

ふいに何かの気配を感じて、エリオットは足を止める。

まさか王城に侵入者? そう思い周囲を見回すと――建物の陰から姿を現したのは、サラヴィアだった。

「やあ、いい夜だね」

「サラヴィア陛下……! なぜ、このような場所に……」

特に王城に招待しているわけではないので、エリオットは戸惑う。けれど、他国の皇帝に無礼があってはいけないので、腰を低くし対応をする。

「何かございましたか? アクアスティード様への取次でしたら――」

「いや、今日は君に用があって来たんだ」

「私に……ですか?」

予想していなかった言葉に、エリオットはどういうことかと脳内で思考を巡らせる。ここで何か不用意な発言なりをして、アクアスティードに迷惑をかけるわけにはいかない。

いったい何を言われるのか、冷や冷やする。

「ねえ、エリオット。俺が貴族位をあげるよ」

「え――――」

軽く投げかけられた言葉に、エリオットは思わず幻聴かと自分の耳を疑う。

「ほら、そうすれば彼女を迎えに行けるだろう? 俺、そうやって頑張る二人を応援するのが好きなんだよね」

「サラヴィア陛下……」

今のエリオットにとって、その言葉はまるで魔法の蜜だろうか。

どろどろとまといつくように、サラヴィアの言葉がエリオットを蝕んでいく。早く迎えに行きたいというエリオットの心に、サラヴィアが揺さぶりをかける。

けれど、そんな言葉はエリオットに届きはしない。

「……サラヴィア陛下のお気持ちだけ、いただいておきます。私はアクアスティード様の側近であることに、誇りをもっていますから」

「そうか、残念」

「お帰りになるのでしたら、馬車の手配をいたしますが……」

「いんや、それは不要だ。俺も側近を待たせているからな。馬車も、そいつが手配済みだ」

サラヴィアの言葉を聞き、エリオットはなるほどと頷く。

そして、馬車が用意されている場所までサラヴィアを送りその帰りを見送った。馬車の姿が見えなくなってから、エリオットはキリキリ痛む胃を押さえる。

「はぁ~上手くいかなかったなぁ」

「そう簡単にいくものではありません。国王の側近を取り込むなんて、生半可なことではありませんよ……」

馬車の中でうなだれるサラヴィアに、彼の側近であるイゼットがあきれるようにため息をつく。

「そもそも、私は最初から無理だと言ったではありませんか」

「やる前からあきらめるのは俺、嫌いだなー」

「まったく……」

無理だと思ったとしても、とりあえずやってみるのがサラヴィア流だ。もし無理だったとしても、次は作戦を変えてまた挑戦すればいい。

あきらめない限り、可能性を持ってもいいではないか。

「エリオットを貴族にしたら、そのお礼に子猫ちゃん……ティアラローズとの仲を取り持ってもらおうと思ったのにさ」

「それこそ無理です。というか、彼女がアクアスティード陛下から離れるとは思いませんが?」

「イゼットは頭が固いな。恋に落ちたら、俺のところへ来てくれるさ」

「ああ、そろそろ宿に着きますね」

「おい無視するなよ」

主人の話に疲れたのか、イゼットは軽くあしらうように返事をしてから「本日はもうお休みください」と静かに告げるのだった。