軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6. 仮面舞踏会:後編

「なんて言うか、典型的と言うか……」

ルーカスの起こした行動を見て、褐色の男性は呆れたように笑う。

合図によって出てきたのは、五人の男たちだ。盛装をして仮面を付けているので、顔がわからない。

――こんな大人数、いったいどうやって侵入したのかしら?

いくらなんでも、こんな大人数をすんなり通してしまうほど公爵家の警備は甘くない。受付でも、少数ならまだしもこれだけの予想外の人数がくればティアラローズか誰かへ報告が来るようにもなっている。

……でも、それを考えるのは今じゃない。

――ひとまず、この状況をどうにかしないと。

ルーカスは腕を組んで立ち、鼻で笑う。そのままフィリーネへ手を差し出し、にこりと笑った。

「さあ、フィリーネ。私だって手荒な真似をするのは本意ではないんだ。一緒に帰ろう」

「……っ!」

暗に、実力行使をしてもいいと――ルーカスの顔に書かれている。

大切な友人を傷つけられたくなければ、一緒に来いと言っているのだ。そんなルーカスの様子に、フィリーネは唇を噛みしめる。

「まさか、ルーカスがそこまで愚かだとは思っても見ませんでした」

「フィリーネが一緒に行く必要はないわ」

「ティ……ですが」

ティアラローズはフィリーネをなだめる様に声をかけて、何も気にしなくていいと告げる。むしろ、自分の可愛い侍女にこんな仕打ちをした男を許しておけるわけがない。

表情や態度には出していないけれど、ティアラローズはひどく怒っているのだ。

それは褐色の男性も同じだったようで、仮面の下の瞳が男たちを睨みつけている。

「……どうやら、あなたたちはフィリーネを渡したくないようだ。なら、仕方がないですね。少し痛い目を見てもらいましょうか!」

「――っ!!」

ルーカスの声を合図にして、五人の男たちがこちらに向かってやってきた。すぐに褐色の男性がそれを食い止めようと、男たちの前に行き――そのまま思い切り蹴り上げた。

「うわあっ!!」

「女の子のエスコートの仕方も知らないやつに、俺がやられるわけないだろっ!」

「……くっ、貴族のくせに強いなんて……騎士か何かかっ」

「さぁて、ね」

まずは一人、男が伸びて地面に倒れる。

それを見たルーカスは舌打ちし、一歩後ずさるが……褐色の男性の勢いが止まることはない。あっという間に残りの男四人も倒してしまった。

あまりの手際のよさと強さに、ティアラローズとフィリーネは驚きの声をあげる。

「すごい、強かったのね……ありがとう、助かったわ」

「どなたか存じませんが、ありがとうございます」

二人で礼を言い、あとは主犯であるルーカスを警備に突き出そうか。そうティアラローズが考えていると、褐色の男性がはっとして声を荒らげる。

「危ない、後ろ――!」

「え?」

もう大丈夫だろうと油断していたからか、まだルーカスの手下が潜んでいるとは考えていなかった。ちょうどティアラローズとフィリーネの後ろに当たる部分から……二人の男が飛び出してきた。

褐色の男性が助けようとするも、距離が離れていて間に合わない。

「危ないっ!」

「っ、フィリーネ!!」

咄嗟に、フィリーネがティアラローズを庇うように前へ出る。

男たちが持っているナイフが目に入り、ぎゅっと目を閉じ――しかし、なんの衝撃もこないことに気付く。

「ああ、間に合ってよかった……」

「え、エリオット……?」

「はい。ご無事ですか? フィリーネ」

男のナイフは、エリオットの剣によって弾き飛ばされていた。

頬に汗をかいていて、急いでここまで来てくれたのだということがわかる。

剣を腰の鞘にしまい、座り込んでしまったフィリーネに手を差し伸べて安心させるように微笑んだ。「もう大丈夫ですよ」と告げて、フィリーネを立ち上がらせた。

――よかった。

二人の様子を見て、ティアラローズは安堵する。そして、後ろから「遅れてごめん」と優しい声が耳に届いた。

ティアラローズの大好きな人の、低く甘い声だ。

「アクア様!」

「ティアラが無事でよかった。まさか、こんなことになっているなんて……」

「……ええ」

アクアスティードは倒れた男たちと、褐色の男性によって捕らえられたルーカスを見る。そしてすぐに、褐色の男性の下へ行く。

「あなたが二人を守ってくれたんですね。ありがとうございます」

「女性を守るのは、男の役目ですから」

「その男は、すぐ警備の者に連れていかせましょう」

ひとまず、騒ぎが大きくなる前に収拾出来てよかった。

まだ、仮面舞踏会の参加者たちはこの騒動に気付いてはいない。フィリーネを連れて場所を移動しようと考え声をかけようとしたティアラローズだが、エリオットがついているので思いとどまる。

――……あれ? もしかして、少しいい雰囲気?

なんて、思ってしまうほどには。

ティアラローズの様子を見ていたアクアスティードと褐色の男性も、つられてフィリーネとエリオットに視線を移す。

二人の周囲は穏やかな雰囲気で、先ほどまでの喧騒が嘘のようだ。

「助けていただいて、ありがとうございます。何より、ティアラローズ様にお怪我がなくてよかった……」

「ええ。ですが、私はフィリーネにも怪我がなくてよかったと思います」

「エリオットが助けてくれましたから。……わたくしのせいで、ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」

そう言って、フィリーネはルーカスをちらっと見る。

けれど、口元に布を当てられているため何かを喋ることはできない。そしてすぐ、やってきた警備の人間に連れていかれてしまった。

「あの方は……フィリーネのお知り合いだったんですね」

「……はい。勝手にわたくしの両親に婚約の許しを得て、わたくしを連れ帰るためにここまでやってきたそうです」

「! そんな勝手な……」

淡々と告げたフィリーネに、事情を知らなかったエリオットが驚く。そして己の手をきつく握りしめて、何も出来なかった自分を悔やむ。

そんなエリオットを見て、フィリーネはくすりと笑う。

「優しいんですね、エリオット。……仕方がなかったんです、きっと。お恥ずかしい話ですが、わたくしの家はあまり裕福ではありませんから」

「それで、先ほどの貴族が……」

「ええ。お金の援助を我が家に申し出たみたいですね」

フィリーネには兄弟も多く、下の妹たちのためにも金銭がほしかったのだろう。考えればわかることなのだけれど、実際勝手なことをされるのはとても辛い。

寂しそうに笑うフィリーネを見て、エリオットはごくりと唾を飲む。

「……フィリーネ」

「はい?」

フィリーネは、何か思い詰めるようなエリオットを見てどうしたのかと首を傾げる。もしかしたら、少し家庭の事情を話したことで困惑させてしまっただろうか。

もしそうであれば申し訳ないなと、フィリーネは思う。

「エリオット、わたくしなら大丈夫ですから気にしないでくださいませ」

「気にします」

即答されてしまった。

「え、っと……」

ぱちくりと目を見開いて、フィリーネはエリオットを見る。すると、彼もまた、フィリーネのことをまっすぐ見つめていた。

その瞳が真剣で、思わず顔が熱くなる。

エリオットは、小さな声で言葉を紡ぐ。

「……私は身分がないので、フィリーネに何か伝える資格なんてありません」

「え……?」

エリオットは平民なので家名はない。アクアスティードの側近という仕事柄、貴族社会のことに関しては下手をすれば貴族よりも詳しいが、そこに直接かかわるようなことはない。

今までも、もちろんこれからも、そうだと思っていた。

主人に恵まれたエリオットは、己が貴族でないことを不自由だと思ったことはない。それどころか、面倒な夜会がなくていいとさえ思った。

「ですが、今は……自分が貴族であればと思います。そうすれば、すぐにでもフィリーネを助けることが出来たのに」

「! でも、エリオットはわたくしを助けてくれました。絵本に出てくる、王子様みたいに」

きちんと助けてもらっているし、気にすることはないとフィリーネは告げる。けれど、エリオットは納得出来ていないようで、首を横に振る。

「フィリーネ」

「は、はい」

「……もし望みが叶うのであれば、私が功績を得て貴族の地位を手に入れるまで待っていてくれますか……?」

「――!」

予想していなかったエリオットの言葉に、フィリーネは大きく目を見開く。

貴族位を持たない人が、貴族へ告白をすることなんて……ほとんどない。あったとしても、それが叶うことなんてほとんどないのに。

しかし、エリオットの場合は少し特殊だ。なぜなら、彼には貴族としての地位を手に入れることが出来る可能性があるからだ。

アクアスティードの側近であるエリオットは、信頼のおける人物だ。何か大きな手柄を得ることが出来れば、貴族の地位になれる可能性は高い。

どくどくと、フィリーネの心臓が加速していく。フィリーネがなんて返事をすればいいかなんて、考えても答えが出てこない。まさか自分が、政略結婚ではなく本当に告白を受ける日がくるなんて考えたこともなかったからだ。

地面を見て、戸惑い、フィリーネは小さく深呼吸をしてからエリオットを見る。先ほどと同じように、真剣な瞳でフィリーネを見ているままだ。

エリオットは、フィリーネの同僚だ。

普段は優しくて、穏やかで……けれど魔法や剣が得意で頼りになる。若干間の悪いところもあるけれど、そんなところもギャップがあって可愛いと王城のメイドたちから人気なのも知っている。

「……ありがとうございます。エリオットのお気持ちは、とても嬉しいです」

「フィリーネ……」

「わたくし、待っています。エリオットがもう一度、わたくしに手を差し伸べてくださるのを」

「……はい、必ずっ!」

安心したように微笑むフィリーネとエリオットを見て、ティアラローズはほっと息をついた。まさか、こんなとんとん拍子に丸く収まるとは……。

「よかった」

「エリオットは、これからが頑張りどころか」

「そうですね」

アクアスティードがティアラローズの隣で、自分の側近を応援するように微笑む。どうにか力になってあげたいけれど、こればかりはエリオットに頑張ってもらわなければ仕方がない。

これにて一件落着!

さあ帰ろう――と、ティアラローズが思ったところで肩に腕を回された。

「きゃっ!」

「ところで子猫ちゃん……この男、誰?」

褐色の男性が近くにやってきていて、面白くなさそうにティアラローズへ問いかけた。――が、それを黙って許すアクアスティードではない。

「私の妻に触れないでもらおうか?」

「ええ? 結婚してたんだ、ふぅん……」

アクアスティードが褐色の男性を睨みつけて、ティアラローズの肩に回された手を払いのける。睨み合う二人に焦りながら、ティアラローズは「既婚者ですから!」と褐色の男性に告げた。