軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15. やくそく

「では、交換留学制度が整うと妖精もラピスラズリに来れるかもしれないのですか!?」

「その可能性があるだけで、実際は行ってみなければわかりません」

今日は、隣国ラピスラズリとの会食だ。

戴冠式から一夜しか開けていないというのに、アクアスティードのスケジュールはぎゅうぎゅうに詰まっている。

マリンフォレストからは、ティアラローズとアクアスティードの二人。

アカリ、ハルトナイツ、シリウスの三人が出席している。仲の良い面子なので、会食ではあるが、普段とあまり変わらない穏やかな雰囲気だ。

話題は、交換留学制度について。

アクアスティードもラピスラズリに留学していた経験があり、自国だけに留まらず他国でも様々なことを学び活躍してほしいという意向だ。

そしてその話に一番食いついて来たのは、ラピスラズリの王位継承権第一位であり、ハルトナイツの弟のシリウスだ。

「アクアスティード殿下の戴冠式にきて、初めて妖精たちを目にしました。とても可愛らしくて、またこの国のことが大好きだという気持ちが伝わってきました」

「ありがとうございます」

シリウスの弾む声に、アクアスティードが微笑みながら言葉を続ける。

「とはいっても、すぐには難しいです。私の即位に合わせて、多くの妖精たちが街へ来るようになりました。中には、国民と仲のよくなる妖精もいるでしょう」

そういった妖精たちが、もしかしたら留学する国民について行くかもしれないという可能性の話だ。

もちろん、それは大人にも適応はされるが、どちらかといえば子供の方が妖精たちに好かれる傾向が強い。そのため、妖精が他国に行く機会は交換留学について行く可能性が一番高いという結論を出したのだ。

ティアラローズも、両親に妖精たちを見せてあげたいと思う。

いつか本当に叶えばいいと思っているが、ティアラローズが一緒に行こうと妖精たちを誘うのが実は一番手っ取り早かったりする。

「ティアラ姉様は、たくさんの妖精に好かれていますよね。私も交換留学でマリンフォレストに来て、たくさんの妖精と仲良くなりたいです」

「まあ、シリウス王子は留学でこちらに来るのですか?」

「もちろんです! 昨日、兄様には了承をいただきましたから」

にっこり笑ったシリウスは、どこか疲れているハルトナイツを見る。

「許可した。……まあ、マリンフォレストとの友好を深めるのにもいいからな」

「そうでしたか。では、シリウス王子が来たら歓迎パーティーをしましょう。妖精たちも誘って」

「本当ですか? 約束ですよ、ティアラ姉様」

楽しそうに話すティアラローズとシリウスを見て、「いいですね!」とアカリが乗っかってくる。

「アカリ様、シリウス王子が留学したときの話ですよ?」

「それはもちろんわかっているけど、だって楽しそうじゃないですか。私も留学しようかなぁ……」

「何を言ってるんですか、もう」

アカリの言うことは本気か冗談かわかり難いところがあるが、基本的にすべて本気だ。ここできっちり止めておかないと、本当に留学にやってくるだろう。

「いけません、ちゃんとラピスラズリにいてくださいませ。わたくしも遊びに行きますから」

「本当ですか? でしたら、楽しみに待ってます。オリヴィア様も誘いましょうね」

少しふくれっ面をしたアカリだったけれど、ティアラローズの言葉を聞き表情を輝かせる。

この後も、ティアラローズとアカリはオリヴィアを交えて三人でお茶会をする予定なのだ。本当に仲の良い三人だなと、アクアスティードはティアラローズを見た。

マリンフォレストとラピスラズリの会食は、主に留学の話を行い終わった。

◇ ◇ ◇

今日のお茶会は、ティアラローズの庭園で行われる『森のお茶会』だ。

ティアラローズ、アカリ、オリヴィアの三人で行うためとても気楽に行える。フィリーネとレヴィが給仕を行うので、ティアラローズたちの好みも熟知しておりとても居心地がいい。

フィリーネの淹れる紅茶はとても美味しくて、最近はオリヴィアがフィリーネに紅茶を頼みレヴィが対抗意識に燃えていたりする。

「オリヴィア、本日は私が紅茶を淹れさせていただきますよ。フィリーネ様は、お菓子の準備をお願いします」

「……かしこまりました」

なぜか場を仕切り始めるレヴィに、しぶしぶながらフィリーネが頷きお菓子を準備する。

レヴィはオリヴィアのために紅茶を淹れるようで、ティーポットを用意して茶葉をセットした。

「オリヴィアに美味しく飲んでいただくために、研究に研究を重ねましたよ。水は妖精王が住む山の湧水を使い、軽く沸騰したお湯でティーカップを温める。そしてティーポットにもお湯を注ぎ、茶葉の香りを感じながら蒸らす……」

「…………」

フィリーネはお菓子を用意してから、冷めた目でレヴィを見たあと退室した。ああはなりたくないという、彼女の心の声が聞こえてきそうだ。

レヴィも無事に紅茶を淹れ終わり、一礼してから退出していった。

「相変わらず、オリヴィア様の執事は面白いですね!」

「すぐに対抗意識を燃やすんですよ、レヴィは。負けず嫌いなんです」

アカリは紅茶を飲み、「美味しい!」とにこにこしている。

「でも、本当にこの紅茶は美味しいわ」

一口飲み、ティアラローズも美味しさに頬がゆるむ。

「日本だったら、レヴィはモテモテですね。イケメンだし、一途? だし、仕事は出来るし背は高いし」

文句なしですねーとアカリが言う。

それは確かにとティアラローズとオリヴィアも同意する。この世界には身分があるため、いくらレヴィの執事スキルが高くても叶わない望みや恋は多いはずだ。

身分差の恋は、この世界ではほとんど認められることはないのだ。男性側の身分が高い場合は愛妾のような形で平民が見初められることもあるけれど、逆は非常に難しい。

「身分……国を治めるために、必要なことだとは思います。けれど、いつか誰でも自由に出来る国が出来上がっても素敵ですね」

「そうですわね」

ティアラローズの言葉にオリヴィアが相槌を打ち、アカリも頷いている。

「っと、なんだか重い話題になってしまいましたね。わたくし、オリヴィア様に攻略本のことを聞きたかったんです」

「ああ、別荘に行ったとき読んでくれたんですね」

「え、攻略本!? なんですか、それ!」

一番食いついて来たのは、アカリだ。

ティアラローズはオリヴィアの別荘に行った際、オリヴィアが書いた手書きの攻略本を発見したことを伝える。すると、すぐに「ほしい~!」とアカリが叫ぶ。

「製本しないといけませんよ、それは! そして家宝にしましょう!」

「そんなこと出来ませんわ。あれには王城の見取り図や隠し通路もすべて記載してあるんですから」

「え……オリヴィア様の記憶力化け物ですね」

攻略対象のプロフィールが書いてある楽しい本だと思ったのだろう。アカリは内容の濃さを聞き、こいつはやばいとオリヴィアの記憶力に警戒を見せる。

とはいえ、別段危険なことはない。ただのその場のノリだ。

楽しくゲームの話をしていたからだろう。

油断していたこともあり、とある人物の気配に誰も気付かなかった。

「楽しそうな話をしてるね」

そう、背後から声が聞こえた。

優しい笑みでこちらにやって来るのは、アクアスティードだ。

女性三人、今の話は聞かれていたか否かを視線だけで語り合う。

――今の話、アクア様聞いてたかな?

――タイミング的にはおそらく……。

――アクア様の気配全然わからなかった!

三人の出した結論は、おそらく手遅れというものだった。

そしてそれは、アクアスティードの行動にも表れていて、ティアラローズの横にきてゆっくりと口を開く。

「ねぇ、ティアラ。そろそろ、私にしている隠し事を教えてくれてもいいんじゃない?」

「え、それは……」

「ティアラは何を知ってるの?」

アカリとオリヴィアは瞬時に悟った。

あ、これバレてるやつだ……と。

二人で顔を見合わせて、頷きあう。そしてあたふたしているティアラローズに告げる。

「ティアラ様、もう隠し通すのは無理そうだから、白状しちゃった方がいいんじゃないですか?」

「同感ですわ」

「えっえっ!? 二人とも、本気で言っているんですか!?」

まさか喋ってしまえばいいと言われるとは思っていなかったため、ひどく驚く。

アクアスティードは二人の言葉を聞き、それならばとティアラローズをお茶会から攫うことにした。

「せっかく三人でお茶会をしていたのに、すまないな。ティアラをしばらく借りるよ」

「どうぞどうぞ~」

アカリとオリヴィアは即答で了承の返事をする。

というよりも、しばらくどころではきっと時間が足りないので「朝までごゆっくり」という勘違いしそうな言葉で送り出した。

アクアスティードの背中を見送りながら、「バレバレでしたねぇ」と言いながら、二人で美味しいケーキを食べながらお茶会を続けるのだった――。

◇ ◇ ◇

アクアスティードはティアラローズが前世の記憶を持つことは知らないが、何か隠していることはずっと怪しく思っていた。

けれど、いつか隠していることを話してくれると思っていた。けれど、いつになってもそのときは訪れずもやもやしたものがアクアスティードのなかに積もっていったのだ。

最初はアカリだけかと思っていたが、どうやらオリヴィアに――レヴィも何か知っている様子。

さすがに心の広いアクアスティードも、我慢の限界だった。

――どうして私だけが、ティアラのことを知らないんだ。

「あ、アクア様!」

「部屋に着くまで黙って」

「……っ!」

ティアラローズを連れて、アクアスティードは自室へ戻った。

扉の前で見張りをしている騎士には誰もいれるなと厳命し、鍵を閉める。

普段はティアラローズの部屋にいることがほとんどで、アクアスティードの部屋に二人でいることは珍しい。

モノトーンのシンプルな室内は、機能面を重要視していることがわかる。それはアクアスティードのきっちりとした性格を表しているかのようだ。

掴んでいたティアラローズの腕を離して、アクアスティードは息をつく。

「無理やり連れてくるような真似をしてすまなかった」

「いえ、大丈夫です。わたくしが、ずっとアクア様に秘密にしていたのがいけなかったんですから……全部、お話します」

「ティアラ……」

二人でソファに座ると、ティアラローズはゆっくり自分のことを話し始めた。

それはアクアスティードが考えていた想像を遥かに超えるもので、そんなことがあり得るのか? と、様々な考えが自分の中でぐるぐると渦巻く。

けれど、真剣で、黙っていたことを申し訳ないと思っているティアラローズの様子は嘘をついているものではない。

――まさか、こんな大きな秘密を持っているとは思わなかった。

そして同時に、だからいつもあんな無茶ばかりしていたのかとも思う。

すべてを話し終えたティアラローズは、アクアスティードに頭を下げた。

「ずっと黙っていて、ごめんなさい。わたくしのことを、最低な女だと思うかもしれません……」

「…………」

「それでもわたくしは、アクア様と一緒にいたかった。アクア様となら、幸せになれるかもしれないと思ってしまったんです」

はっきりとしていたティアラローズの声は、次第に涙の色がにじんでいく。

アクアスティードに告げて、嫌われてしまったら? 捨てられてしまったら? ヒロインを選んでしまったら? そんな思いがティアラローズの中にずっとあったのだろう。

それくらいは、アクアスティードにも予想することが出来た。

「ティアラ、顔を上げて」

「……はい」

「可愛い顔が、涙でぐちゃぐちゃだ」

「だ、だって……っ!」

アクアスティードはくすりと笑って、ティアラローズの頬に伝う涙を唇で辿る。そのままぺろりと舐めて、「甘いね」と告げる。

「甘くなんて、ないです。……というか、怒ってないんですか?」

「怒る? どうして?」

「わたくし、ずっとアクア様に隠してましたよ……?」

「でも、それ以上に……今の話からは私のことが好きだと伝わってきたけど」

「――っ!!」

アクアスティードに嫌われたくなかった。

アクアスティードのために自分が出来ることをしたかった。

アクアスティードをアイシラにとられてしまったらどうしよう。

アクアスティードが自分を選んでくれたのがとても嬉しかった。

確かに転生した人間だということを話したけれど、それ以上にティアラローズの話はアクアスティードのことが大好きだという気持ちで溢れていた。

どうしてそんな可愛いことばかり言う最愛の人を怒れるのだろうか。

――もっともっと、好きになるに決まってるのに。

不安になるなんて、なんて可愛いのだろう。

「ティアラがそうして記憶を持っていたのは、マリンフォレストのためだったのかもしれないね」

「え……?」

「私も、フェレス殿下も、リリアージュ様も。この国は、ティアラに救われたんだ」

だからティアラローズが悪役令嬢としてアクアスティードと出会ったのは、運命だったのだと告げる。

「それに、私とずっと一緒に生きると誓ってくれたのに。これが運命でなければ、なんだと言うんだ」

――ああ、でも。

「ティアラが言うこの場合の運命は、私とアイシラ嬢を指すのか……。もしそれが運命だというならば、私はそれを放棄しよう」

「アクア様」

「私はこんなにもティアラが好きでたまらないんだから」

だからもう、何かがあっても怖がらずに話しなさいと伝える。

ティアラローズは必死に頷いて、「やくそくです」と言いぎゅっと抱き着いてきた。ティアラローズの髪が頬に触れて、それが少しこそばゆい。

悪役令嬢というものは、こんなにも可愛いのか。

「ティアラ、顔上げて。キスしたい」

「……っ!!」

正直な気持ちを伝えると、ティアラローズはアクアスティードの腕の中でびくっと震える。いつもは雰囲気でしていたため、いざ言われてしまうと恥ずかしいのだろう。

キスはしたい、でも恥ずかしい、どうしよう。そう考えてティアラローズがもぞもぞ動いているのがとても可愛い。

「ティーアーラー?」

「だ、だって! いつもそんなこと言わないじゃないですか……っ」

「そう? でも、ティアラが顔上げたらキスするから」

「っ!!」

――さて、ティアラはあとどれくらいで顔を上げてくれるかな?

隣国からさらってきた愛しい悪役令嬢が素直になるまで、あと――1分。