軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10. 王たちの陣地取り:中編

「ったく、相変わらずティアラは予測出来ないことをするな」

「キースに言われたら終わりだね」

「待て、フェレスには言われたくないぞ」

ティアラローズとクレイルが部屋から出て行ってから、キースはやれやれとため息をつく。それをフェレスがからかうが、見ている方からしては三人とも似たようなものかもしれない。

静かに一連の流れを見ていたアカリは、これから起こることにどきどきしていた。

「アクア様、これから陣地を取ってマリンフォレストに祝福をするんですよね?」

「ああ。……というか、なんでアカリ嬢がここに?」

「それはもちろん、マリンフォレストの一大事とあらば駆けつけるのは当たり前です! ちょうどティアラ様とも合流できましたし、ここに来れてラッキーでした」

ふふんとドヤ顔で告げるアカリを見て、誰もが面倒な……と思ったのは内緒だ。

「でも、マリンフォレスト全域を回るってことですよね? 大変そうですね」

「回るさ。私だって、この国を大切に思っているんだ」

「……アクア様」

領土の端から端まで移動したら、とてもではないが数日以上の時間はかかる。妖精王たちは元々転移を使うことが出来るけれど、アクアスティードにはそれが出来ないのだ。

その部分では、圧倒的な不利だと考えている。

アカリは口元に指をあて、「うーん」と悩むように考える。

妖精王を含め、アカリは続編のキャラクターもみんな大好きだ。もちろんメインで攻略していたのはアクアスティードだけれど、全員に勝ってほしいとも思っている。

悩むアカリを見て、今度はいったい何をするつもりだと不安になるが、それはアクアスティードの杞憂だった。

「やっぱり、私は今回アクア様推しですね! なんていっても、親友の旦那様ですから!!」

「あ、ああ……?」

「大丈夫、私に任せてください。こう見えて、ヒロインですからね」

自分の胸をどんと叩いたアカリは、アクアスティードの前に跪いて両手を組んで祈る。――ヒロインだけが扱うことの出来る、聖なる祈りの力だ。

「! アカリ嬢、本当に何をするつもりだ!!」

「黙ってください。私が本気で祈るのは、初めてだからレアですよ」

にっと笑い、アカリは祈りの言葉を口にする。

「私の中にあるラピスの魔力よ、その力を変換し、一時かの者へ与えたまえ」

「――っ!!」

アカリの祈りは魔力になり、アクアスティードの力へと変換されていく。

淡い光はアクアスティードを包み込み、しばらくの間だけ使うことの出来る新しい力へとその姿を変えた。

「よし、上手くいった。アクア様には、私の持つ転移の力をお貸ししました。これなら、妖精王たちにも後れを取ったりしないと思いますよ」

「転移の力を移すなんて、そんなことが可能なのか……」

「成功するかは賭けでしたけどね」

アカリはにっと笑い、ピースを作る。

「さあ、頑張って王になってください。アクア様! 私、ティアラ様とアクア様が作る新しいマリンフォレストを楽しみにしていますから」

そう微笑んで、アカリは三人を見送った。

◇ ◇ ◇

ティアラローズを追いかけたクレイル。

自分の陣地を獲得するために動き出したキース。

アクアスティードも、星空の王となるため一人で動き出した。

「まずは、祝福の形を見つけて、そこに自分の力を流し込んで行く……か」

何もかもが初めての経験で、戸惑いは大きい。それに、キースたちはこの陣地取りが初めてではない。過去にも経験しているので、アクアスティードは圧倒的に不利だ。

まず初めにアクアスティードがやってきたのは、王城が見渡せる場所にある丘だ。季節ごとに様々な花が色をつけ、観光スポットとしても人気になっている。

さあっと吹く夜の風が頬を撫でていくのは、アクアスティードを祝福している空の妖精たちが応援をしてくれているからだろうか。

「マリンフォレストの陣地、か」

大国と言われているだけあり、マリンフォレストの領土は巨大だ。その広さは、約700万km2にも及ぶ。地球に例えるならば、オーストラリアよりわずかに小さい……というところだろうか。

その領土に、縦と横の線を入れて正方形のマスに分ける。その線の数は、各十本だ。

分けられた領土とはいえ、広大なことに変わりはない。

「効率よくやっていかないと、厳しいな」

アクアスティードが星空の王になるための勝利条件は、今のフェレスが持つ領域よりも多くの自陣を獲得することだ。それにより、自分は王としてフェレスよりも格上だということを示すのだ。

さて、動こうか。

アクアスティードがそう思った瞬間、マリンフォレストの大気が揺れた。そして溢れ出て感じたのは、森の力の片りんだ。

――キース様が、陣地を得たのか!

「こちらも早く妖精の祝福を見つけなければ……」

祝福は、自然に存在してるものと同じ形をしている。

それは花であり、木の実であり、珊瑚であり、舞い落ちる木の葉でもある。探し出すためには、妖精を愛し、愛されている必要がある。

そしてその方法の一つとして、妖精に直接そのありかを教えてもらうというものがあるのだ。

アクアスティードは周囲を見回し、はしゃぎ飛び回っている三人の空の妖精を見つけた。そしてすぐに、妖精たちの祝福はどこにあるのかと尋ねる。

「ここの祝福がどこにあるか、教えてほしい」

『アクアだ~!』

『祝福だって、どうしよう。あれかな? あれだよね! 教えちゃう?』

妖精たちはちゃんと祝福の場所を把握していたようで、アクアスティードに教えていいものかと相談を始める。

「何か対価が必要なら、用意しよう。だから、教えてほしい」

アクアスティードが妖精たちに協力を申し出ると、キラーンと目が輝いた。

『対価! なら、今から木々のお手入れをするから手伝って~!』

「手入れ?」

すぐに空の妖精がたくさん集まってきて、アクアスティードをひっぱって丘の下にある小さな森まで連れていかれる。いったい何をするのだろうとアクアスティードが妖精たちを観察していると、ひときわ大きな風が吹きあがった。

「……っ!?」

『ひゃ~~!』

すごいすごいとはしゃぐ妖精たちの周りには、木の葉がふわりと舞った。手入れとは、どうやら抜け落ちてしまった木の葉を風を吹かせて取ってあげることだったらしい。

落とした葉は地面にそのままにすることが多いけれど、動物が寝床を求めたら作るのを手伝ってあげるのだという。

「空の妖精は、こんなこともしていたのか……」

『知らなかったでしょう。妖精たちは、こうやっていつもマリンフォレストのことを見てるんだよ』

確かにいたずらに強風を吹かすこともあるけれど、ほとんどは何か目的があるんだよと妖精たちが笑う。そのことを知らなかったアクアスティードは、妖精の新しい一面を知れたようで嬉しく思う。

『僕たちのことを知ってくれて、ありがとう』

はにかむように妖精が笑うと、強風で空高く舞い上がった一枚の葉がひらひらと落ちてくる。それはゆっくり円を描くようにして、アクアスティードの差し出した手のひらの上に載った。

「これは……」

『僕たちからの祝福だよ~』

『がんばってねぇ~』

「ありがとう、感謝する」

妖精たちはアクアスティードに手を振り、空を飛んでどこかへ行ってしまった。

けれど、どうにかしてこの地にある妖精の祝福を手に入れることが出来てほっとする。祝福の葉に、自分の魔力を流せばここはアクアスティードの陣地となるのだ。

――妖精に協力してもらえるのは、心強いな。

「何より、この地を妖精たちとともに祝福出来ることが嬉しい」

アクアスティードはゆっくり木の葉に自分の魔力を流していく。見た目は普通だったけれど、魔力を流すうちに葉は色を変え透明度の高い水色へと変化した。

幼いころから空の妖精とクレイルに祝福されて育ったアクアスティードの魔力は、とても澄んでいて色にすると透明度が高い空の色だ。

魔力を吸収した葉は、きらきら輝いて空中にゆらゆら漂う。

妖精王の陣地取りの勝敗が決まるまで、このままの状態が維持される。終わると、大地に溶け込みマリンフォレストの糧となるのだ。

「よし、次。ちょうど隣が森の領地だから、さらに反対から挟むのがいいか……」

そうすると、キースが得た陣地はアクアスティードの陣地に挟まれてアクアスティードの陣地にかわる。

さっそく作戦に移るため、転移を使って場所を移動した。

◇ ◇ ◇

アクアスティードが移動したのは、北の方角だ。

王城よりはるか先にあるここは普段来ることがあまりなく、人間の手もあまり加わっていない場所だ。鉱山があるため、森の妖精たちが多く住んでいる。

高い木はあまりなく、あるのは草花がメインだ。

鉱山には植物がほとんど生えていないため、岩がむき出しにのままさらされている。ぐるりと鉱山に囲まれているため、ここへ来るのは徒歩ではないと難しいだろ。

「ここはたくさんの資源があるんだな」

出来ることならば、ここには手をつけることなく国を発展させていきたいと思う。

『うわ、こんなところに人がいる!』

「お前たちは……森の妖精か。普段あまり姿を見せないとは思っていたが、こういう奥地に住んでいることが多かったのか」

『うん。森のお手入れをしたいから、人間がいないところに住んでることが多いかも!』

きゃらきゃら笑いながら、森の妖精たちはアクアスティードを迎え入れてくれた。

「妖精たちの祝福を探してここに来たんだ。ここでは、いつも何をしているんだ?」

『ここはね~、いつも宝石を探してるんだよ。こっちこっち』

『集めた宝石で、王様たちが指輪を作ったりしてくれるんだ~!』

――指輪の材料?

そういえば、アクアスティードが創りティアラローズに贈った星空の王の指輪は、確かに材料になるようなものを揃えていなかったなと思う。

まさか、妖精が別の場所で集めていた宝石がその材料になっているとは思いもしなかった。

アクアスティードが森の妖精と一緒に鉱山に入ると、そこは一面宝石の採掘場になっていた。森の妖精たちが宝石を採取して、植物の葉で艶が出るまで磨いている。

人間であるアクアスティードには少々せまい通路だけれど、小さな妖精たちには何ら問題はないだろう。

「これは……すごいな」

鉱山の中だというのに、宝石の輝きでまったく暗くない。むしろ、明るく眩しいくらいだと思う。

宝石を採取した妖精が、それをアクアスティードに渡す。

「これは、ラピスラズリか。深い青がとても綺麗だ」

『それを持って、付いてきて~』

森の妖精は鉱山の中を進んでいくので、アクアスティードもそれに続く。のだが……通路はどんどん狭まっていき、しゃがみながら歩かなければいけないほど天井が低くなってきた。

これ以上狭まったら進めなくなるぞと焦りが出てくる。

「森の妖精、いったいどこまで行くんだ?」

『もう到着だよ~!』

じゃーん! と、森の妖精が手を広げて飛び出した先は、ちょっとした空洞になっていて水が湧いていた。ちゃぷんという水音と共に顔をだしたのは、海の妖精だ。

『!』

『新しい宝石を持ってきたんだよ~』

『わかった、もらう』

泉の中にいたのは、数人の海の妖精だ。

気持ちよさそうに水で遊んでいたり、一生懸命宝石を水の水圧で削り整えたりしている。まさか、ここで二種類の妖精が協力体制をとっているとは思わなかった。

――ずっと住んでいる国だが、やはりまだまだ知らないことが多いな。

「この宝石を渡せばいいのか?」

『そう、ちょうだい』

アクアスティードが持っていたラピスラズリを差し出すと、海の妖精は嬉しそうにそれを受け取った。そしてそれを、ぽーんと軽やかに投げると、宙に浮かんでいる間に水で包み込んでのその表面を削り磨き上げていく。

森の妖精が宝石を採取し、磨き、その仕上げを海の妖精がしていたのだ。

綺麗にカットされたラピスラズリは、そのままぽちゃんと泉の中に落ちた。

「! この泉は……」

『綺麗でしょ』

水かさはあまり深くないため、底がどうなっているのかがすぐに見えた。澄んだ水の下にあるのは、数えきれないほどたくさんの宝石だ。

水面がルビー、サファイア、エメラルドと、様々な宝石の輝きを受け七色に光っている。とても神秘的な光景に、アクアスティードは息を呑むしか出来ない。

そしてこの宝石が沈んだ泉は、王たちが何かを創る際の材料になるのだという。

「私が創った指輪も、ここから材料をいただいていたんだな。ありがとう、森の妖精、海の妖精。素晴らしいものを創って、ティアラに贈ることが出来た」

『それなら、よかった』

『ティアラが喜んでくれると、嬉しい~』

森の妖精が嬉しそうに笑い、海の妖精は泉の底から一つの宝石を取り出した。

『嬉しかったから、あげる』

「これは、祝福か……。ありがとう、いい国を作って見せる」

『うん』

アクアスティードは二つ目の陣地を獲得し、間にあったキースの陣地も自分のものになる。これで、アクアスティードが得た陣地は三つとなった。