軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13. 新たなる祝いの祭り

フェレスとリリアージュが安定を取り戻し、封印されし王の間からティアラローズたちは王城へと戻る。外を見るとすでに日が落ちており、暗い。

「……アクア様、星空が戻っています」

ティアラローズは窓まで走り、星空を見上げた。

今まで見たどの星空よりも美しいですと、アクアスティードたちに向けて微笑む。すぐにアクアスティードとオリヴィアがやってきて、同じように空を見る。

「よかった。だが、ティアラローズにはもう一仕事してもらわなければいけない」

体調を気遣うように言うアクアスティードに、ティアラローズは問題ないと頷いて見せる。

「はい。すぐに準備いたします」

「すまないが、頼む」

「わたくしもお手伝いします、ティアラローズ様」

「ありがとうございます、オリヴィア様」

ティアラローズが正装へ着替えるため部屋に戻ろうとすると、オリヴィアが手伝いを申し出てくれた。素直にありがたかったので、ティアラローズはオリヴィアと部屋へ急いだ。執事であるレヴィもついて行こうとしたが、着替えだからとオリヴィアに留守番を命じられた。

「私も準備をおこなってきます。アクアスティード様も、早く着替えをしてくださいね」

「ああ、わかっている。そっちの準備も頼む」

これから、ティアラローズを主体とした豊穣の祈りを行う。昼間の演説と同様であまりにも急すぎるが、遅らせていい理由なんて一つもない。

国民に通達こそ行うが、あまり人は集まらないかもしれない。

さて、着替えるか――そうアクアスティードが思い動こうとして、しかしきょろきょろ周囲を見回しているフェレスが目に入った。

力が安定したからと、リリアージュと一緒に封印されし王の間から出てきたのだ。自分が国王だったときから、約一五〇〇年経っているのだから興味深いだろうなと苦笑する。

幽霊だから人に見えないとはいえ、さすがに放っておくわけにはいかない。フェレスに一緒に行こうと声をかけようとして、ふと違和感を覚えた。

「……ん?」

オリヴィアに留守番と言われたレヴィが、じぃっとフェレスを見ていた。見えないはずなのに、だ。

どういうことだと、アクアスティードは首を傾げる。

「レヴィ、何を見ているんだ?」

「フェレス殿下を。想像していたよりも、初代国王というものは自由奔放なのですね」

「見えるのか?」

「はい、ばっちりにございます」

自分か、妖精王に触れていなければ見えないんじゃなかったのかと、アクアスティードは頭を抱える。が、初代国王の肖像画はないので誰かに勘繰られるようなことはない。

強いて問題があるとすれば、顔がアクアスティードにそっくりという点くらいだろうか。

「ああ、私のことが見えるのか。力が安定したし、リリアもいるし、私ってば絶好調だね」

「…………」

あははと笑うフェレスは、本来はこんな明るい性格だったりする。もふもふのリリアージュを抱きしめながら、「変わったねぇ~」なんて言っている。

『わたしたちが暮らしていたときから、ずいぶん長い時間が経っていますからね。なんといっても、食べ物、とくにお菓子がとーっても美味しいんですよ! フェレスにも食べてもらいたいです』

「食が? いいね、楽しみだ」

はしゃぐ二人を見て、幽霊は食事を出来るのだろうかとアクアスティードはぼんやり考えるのだった。

◇ ◇ ◇

待機していたフィリーネに手伝ってもらいながら、ティアラローズはオリヴィアと一緒に入浴を済ませ正装へと身を包んだ。

いつものように可愛らしいドレスではなく、荘厳さのあるローウエストシルエットのドレスだ。

上質な純白の生地に、金色の細い糸で丁寧に刺繍がほどこされている。シンプルなレースが、ティアラローズの存在を引き立たせた。

そして、場所は日中にアクアスティードが演説をしたのと同じ場所。もっと国民を待たせてしまうかもしれないと思ったが、最速で終わらせることが出来て安堵した。

「ティアラ」

「アクア様!」

迎え出てくれたのは、同じように正装したアクアスティードだ。すぐにティアラローズの手を取り、エスコートする。

ここには、アクアスティードのほかには国王がいる。フェレスとリリアージュは、アクアスティードの部屋にいるため、ここにはいない。

「二人とも、よくやってくれた。まさか、自分の息子がここまで立派になってくれるとはな。私がそれを成し得なかったことが悔しいが、それ以上に嬉しさで空も飛べてしまいそうだ」

「父上……」

「さあ、国民が待っている。二人とも、早く顔を見せてあげなさい」

ソティリスがそう言い、二人の背中を押す。

「ありがとう」

感謝の言葉を口にしたソティリスは、とても満足そうに微笑む。そして、国民たちから歓声をあびる二人の我が子を愛おしく見つめるのだった。

バルコニーに出ると、わああああぁぁという国民たちの声が溢れた。もう夜も遅い時間だというのに、広場には昼間以上の人が集まってくれていた。

ティアラローズとアクアスティードを信じ、何かあればすぐに駆け付けられるようにしようと誰もが考えていたのだ。

数日、もしかしたら数ヶ月、もっと待たされるのではないだろうか。そんな国民たちの不安はこの一瞬で吹き飛ばされた。まさかこんなにも早く、再び二人の姿を見ることが出来るなんて。

ティアラローズとアクアスティードが手を振ると、その声はさらに大きくなって空気を震わせる。

「この遅い時間に、集まっていただき感謝する」

空の妖精王の指輪を使い、アクアスティードが言葉を発した。

すると、誰もがその声を聞き逃すまいと口を閉じて、耳を澄ます。そしてこれから何が報告されるのだろうかと、胸を高鳴らせる。

もちろん、国民たちは夜空に星が戻っていることを知っているから、そのことだろうと思っている。

けれど、現実はそれ以上の奇跡。

「私が何かを告げるよりも、実際の光景を見た方が早いだろう。……ティアラローズ」

「はい。アクアスティード殿下」

純白の正装を纏ったティアラローズはまるで女神のよう。国民たちは息を呑み、いったいこれから何が行われるのだろうかとそわそわする。

星空が戻った報告を行うのであれば、王太子であるアクアスティードが告げるものだ。けれど、前へと出たのは妃であるティアラローズ。

この国で唯一、森の妖精とそれを統べる王に祝福されている女性。

何もないわけがないと、集まった人々は過度な期待を寄せた。しかし、ティアラローズはその想像をゆうにこえることをこれからいとも簡単に行ってしまうのだ。

ティアラローズは何か言葉を発するということはせずに、祈るように手を組んでそっと目を閉じた。

すると、淡い光がティアラローズを包み込んでいく。その発生源は、ティアラローズがはめている森の妖精王の指輪だ。

「これは……いったい何が起こっているんだ?」

「ティアラローズ様は、女神だったのか!?」

小さな声が、国民たちの中心からあがっていく。

光は次第に大きくなり、それは一本の柱へと昇華するかのようで、とても幻想的だった。どこまでも伸びていく光の先頭が見えなくなり、しばらくしてからその奇跡は起こる。

ティアラローズから発せられた光が、まるで生命の誕生とでもいうかのように、遥か高い空からこの地上へと降り注いできたのだ。

最初に声をあげたのは、誰だろうか。

「光の触れた場所から、芽が生えたぞ!!」

「綺麗な光、すごい……っ!」

「奇跡だ。森の妖精王に祝福されていると、こんなことも出来るのか」

同時に、枯れた植物はその力を取り戻して新しいつぼみをつけた。世界が再生する力に、誰もがティアラローズに釘付けになる。

それは、一緒にいるアクアスティードもだ。

「森の妖精王の指輪には、これほどの力があるのか」

空の妖精王よりも、海の妖精王よりも、よほどすごいではないかとアクアスティードが声をもらす。草木が芽吹く広場を見ながら、より、国に、ティアラローズに、愛おしさが込み上げてくる。

「ありがとう、ティアラ」

「アクア様。……いいえ、わたくしは当然のことをしただけです。何よりも、わたくしに居場所をくれたアクア様とこの国に恩返しをしたかったのかもしれません」

「恩? 私がティアラを愛して求婚したのだから、そんなものはないよ」

アクアスティードの指先が、そっとティアラローズの手に触れる。そして、その甲に口づけをおくる。

「あ、アクア様……みんなが見ています」

だから恥ずかしいですと、ティアラローズが訴えるが――その言葉は受け入れられない。

「私にも、ティアラの祝福をちょうだい」

「――っ!」

そう言って、アクアスティードはティアラローズへと口づける。

ティアラローズの祝福なんてないのだから、なんて都合のいい台詞を言うのだろうか。しかし、アクアスティードの唇はとても優しくて、温かい。

気付けば、ティアラローズは口づけを受け入れていた。

「うわぁ、お熱いねぇ~」

『フェレス、からかうようなことを言ってはいけませんよ』

「そうだね、私にはリリアがいるからね」

『……もう』

ティアラローズとアクアスティードのいるバルコニーが見える、大きな一本の樹。その太い枝に、フェレスとリリアージュ、キース、クレイルが腰を落ち着けて二人を見守っていた。

自分の子孫が立派に務めを果たしているのを見て、フェレスは嬉しそうに笑う。

「ひとまずは、これでひと段落か」

「だな。リリアも落ち着いてはいるし、しばらくは持つんだろ?」

『ティアラが、かなりの量の力を引き受けてくれましたから。かなり持つと思います』

クレイルの言葉にキースが同意して、リリアージュも頷く。明確な数字はわからないけれど、数百年単位で持つと考えていいだろう。

それにしてもと、クレイルがフェレスとリリアージュに視線を向ける。

「地下から出てきてどうするつもり。私は二人の面倒を見る気なんてないよ?」

「そういやそうだな。封印されし王の間から出るのには驚いたけど、封印されてたリリアが自由になっちまったしな」

王城にはフェレスの居場所はないし、自分は面倒事に関わるつもりはないとクレイルが告げる。フェレスは「ケチだなぁ」と言いながら苦笑する。

「別に、二人に世話になるつもりはないさ。私はリリアと二人で、マリンフォレスト内を旅しようと思っているんだ。私たちが造ったこの国が、どうなっているのか……見たいんだ」

「そっか。なら、止めはしない。けど、異変を感じたらすぐ俺たちに連絡しろよ」

「もちろん」

あまり国を見ることなく死んだフェレスは、マリンフォレストが気になって仕方がないのだ。

金銭面は、どうとでもなる。フェレスしか把握していない財宝の隠し部屋があるし、いざとなれば働くことを経験するのも楽しいだろう。

楽しそうな様子のフェレスに、キースとクレイルはため息をつきつつも頬を緩める。

「お? 指輪の効果も終わって、何か始めるみたいだぞ」

「ああ、あのことかな」

「なんでクレイルだけ知ってるんだよ」

「私の武器は情報だからね、これくらいは軽いさ」

何をするかわからないキースは、不貞腐れながら視線をティアラローズたちに向ける。フェレスとリリアージュも内容は知らないようで、そわそわしながら様子を窺っている。

そして、アクアスティードの声が周囲に響く。

「今日この日は、マリンフォレストが再生した祝いの日に定めることにした。毎年、国をあげての祭りを行おうと思う」

アクアスティードが告げると、どっと国民たちが盛り上がりを見せる。

「ティアラローズと一緒に、お菓子の大会を開催する。もちろん、今年もだ。参加資格は設けず、個人もしくは三人までのチームでエントリーすることが出来るものになっているので奮って参加してほしい」

続けて、詳細は街の各地に掲示を行い、開催は一ヶ月後だということが告げられた。

『お菓子は、とっても美味しいですよね。わたし、ティアラローズに食べさせてもらってから大好きなんです。楽しみです』

リリアージュが手を叩いてはしゃぐと、フェレスがにやりと笑う。そのままキースとクレイルの背後に回って、首に腕を回してがっしりと掴んだ。

「よーし、私たちもそのお菓子大会に参加しよう!」

「はあああぁぁ!?」

「なんでそんなことを……」

三人チームだねと、それはそれはフェレスが爽やかに笑ったのだった。