軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11. 封印されし王の間の怪物

ティアラローズが森の妖精王の指輪を求めて出発したのと同じころ、アクアスティードもフェレスに会うため封印されし王の間へと向かった。

アクアスティードとリリアージュのほかに、エリオット、オリヴィア、レヴィが同行する。腕輪を持つリリアージュは、アクアスティードが抱きかかえる形だ。

「以前も行ったので、道順は問題ありませんね」

「ああ」

エリオットが自信満々に先頭を歩き、その後をアクアスティードたちがついて行く。不測の事態が起きたときにそなえて、最後尾はレヴィだ。

嫌な緊張感からか、道中の口数は少ない。リリアージュは、祈るように腕輪をきつく抱きしめている。その体が少し震えているのは、おそらくアクアスティードしかわからないだろう。

――この先は、いったいどうなっているのか。

初代国王であるフェレスは、同じようにあの場所にいるのだろうか。何か異質なものに変化しているのではないか……そんな不安が、アクアスティードにはあった。

「……なんというか、前に来たときよりも空気が重いですね。オリヴィア、寒くはありませんか?」

「いいえ、大丈夫ですわ。むしろ興奮で熱いくらいだもの」

「それはよかったです」

目的地である封印されし王の間へ着く直前、ずっと黙っていたレヴィが口を開く。その内容はオリヴィアを気遣うものではあったが、以前訪れたときと違うという聞き逃せない一言が含まれていた。

それはアクアスティードも感じていて、強者であるレヴィが同じように思ったのだから間違いないのだろうなとひとりごちる。

すぐに封印されし王の間へ続く扉までたどり着いた。

妖精たちの彫刻が施された豪華な扉と、その両脇には花を象ったランプが辺りを照らしている。入り口こそなんら変わりはないが、ピリピリした空気が肌に刺さる。

『アクアスティード、早く開けてください。中にはフェレスが……!』

「落ち着いてください、リリアージュ様」

急かすリリアージュを一度オリヴィアに預け、アクアスティードはエリオットを下がらせて自ら扉に手をかけゆっくりと開いた。

『フェレス!』

すぐにリリアージュがフェレスの下へ行こうとするが、抱いているオリヴィアと控えていたレヴィがそれを止める。リリアージュは抱きしめられた腕から抜け出したいが、オリヴィアの力は予想していたよりも強く、それを許しはしない。

扉の先には、フェレスが立っていた。

白色の長いマントに、装飾品がいくつも付いた白の服装。どこか神々しさを持つ人物ではあるが、今は憔悴してしまったようにうつむいている。

そして感じる、あまりよくない空気。フェレスがゆっくりと口を開きながら、入り口に視線を向けた。

「――リリア、どうして勝手に私から離れたの」

『フェレス、わたしはあなたを助けるために……っ!?』

助けるために、腕輪を手に入れてきた。そう続けようとしたリリアージュだったが、ハッと息を呑む。そして、『まさかここまで』と震えた声で告げる。

しっかりと意識を保っているのかと思っていたが、どうやらフェレスの意識はとても不安定なものになっていることに気付く。

顔を上げたフェレスの瞳が――金色から、漆黒へと色を変えていた。

――これは、巨大な力を制御出来ない反動か?

この状態のフェレスに、腕輪をはめることが出来るのかと考える。間違いなく、正常ではないし、素直に自分からはめてはくれなさそうだった。

アクアスティードが扉をくぐり一歩踏み出すと、フェレスが剣を抜き、その切っ先をアクアスティードへと向けた。

「私からリリアを奪うというのであれば、たとえ我が子でも許しはしないよ」

「……っ!!」

『違います、フェレス! わたしの話を聞いてください!!』

リリアージュが声を荒らげるが、それはフェレスに届かない。色をなくした瞳はアクアスティードに向けられたままだ。

「ど、どうしましょう。これではフェレス殿下に腕輪を付けるのは難しいんじゃ……」

「そうですわね。フェレス殿下は、剣がお強いのかしら?」

エリオットがどうすれば腕輪を付けられるか思案するも、いい考えは浮かばない。オリヴィアもそれに同意しながら、フェレスの実力はどうだろうかとレヴィへ問いかける。

「剣は、かなりの実力と見ていいでしょう。アクアスティード殿下も実力者ではありますが、こちらはフェレス殿下を傷つけたいわけではないので分が悪いのではないでしょうか」

隙のないフェレスの構えを見て、レヴィがそう告げる。加えて、フェレスは妖精王たちから力を得て星空の王という地位にいる。剣以上に、魔法が厄介だと考えていいだろう。

相手を倒すこと捕らえることでは、立ち回りがまったく変わってくる。容赦なく攻撃をしてもいいならば、勝てるかもしれません……とレヴィは続けた。

「いくらなんでも、レヴィがフェレス殿下を――あぁっ!」

攻撃するなんていけない、 そう続けようとしたオリヴィアは思わず声をあげる。アクアスティードに剣を向けていたフェレスが、動いたのだ。

アクアスティードもフェレスの攻撃を剣で受け止めはしたが、防戦一方だ。

「フェレス殿下、リリアージュ様はそこにいらっしゃいます!」

『フェレス!』

だから剣を収めてくださいと、アクアスティードが叫ぶ。しかしその声は届いていないようで、フェレスの攻撃する手が緩められることはない。

流れるような剣捌きは、今はもう使い手が存在しない古い時代の剣術だった。

――強い。

防戦一方だと、長く保たないかもしれない。レイピアのような細身の剣は、素早さを重視した攻撃を繰り出してくる。それだけであれば、アクアスティードも受けきれる。しかしこの剣には、素早さを上昇させる魔法が使われている。

振るわれた剣は同時に空気をも切りつけ、それがかまいたちとなってアクアスティードに防ぎようのない傷をつける。

頬に、腕に、体に、浅いけれど、確かな傷が増えていく。

『フェレス、やめて……っ! アクアスティード、そのままではあなたがやられてしまいます!』

「わかっています、いますが……っ」

もう見ていられないというように、リリアージュが叫ぶ。フェレスの攻撃を防いでいるだけでは、アクアスティードが殺されてしまうのではないかと不安に震えている。

けれど、アクアスティードは一向にフェレスを攻撃しようとはしない。

なぜならば――フェレスに、裏切らないという盟約を誓っているからだ。それは、ティアラローズのために星空の指輪を創ったときの条件。

それもあり、アクアスティードは攻撃をせずにどうにかフェレスを正気に戻したいと考えている。何度も呼びかけてはみるが、自分の声がフェレスに届いているかどうかもわからない。

「フェレス殿下、どうか正気に戻ってください!」

『……フェレス、アクアスティード。オリヴィア様、わたしはフェレスの下に行きます』

「きゃぁっ」

何かを決心したように、リリアージュは勢いよくオリヴィアの腕から抜け出した。突然のことに対応できず、オリヴィアは「リリアージュ様」と叫んで手を伸ばすが、リリアージュに触れることは出来なかった。

持っていた腕輪は口でくわえ、身軽な体で地面に着地してリリアージュはアクアスティードたちの方へと猛ダッシュをする。そのまま勢いよく地面を蹴り上げ、高く跳んでアクアスティードの頭の上へと着地した。

「……っ!? リリアージュ様!?」

ガキンという剣と剣のぶつかる音にもひるむことなく、リリアージュは正気を失っている様子のフェレスを見つめる。

『フェレス、わたしをこんなに近くで見ても正気には戻ってくれないんですね。寂しいです。でも、わたしが助けてあげます』

「どうやって、正気にするのですか……っ」

『わたしに考えがあります。腕輪を、お願いしますね』

アクアスティードの頭の上に腕輪を置き、 リリアージュはフェレスが剣を引いたタイミングに合わせてフェレスに跳びつく。

慌てて自分の頭に置かれた腕輪を手にし、いったいどうするつもりなのかとリリアージュを見る。

「……なっ!?」

『フェレス!』

リリアージュのもふもふっとした体が、フェレスの顔面に張り付いた。

「!?」

その突然の行動に、全員が言葉をなくす。まさかこんな強硬手段を使うとは、思ってもみなかったのだ。しかしその甲斐あってか、フェレスの動きが一瞬止まる。

アクアスティードは大きく後ろに飛び、フェレスと一定の距離をとる。

すると、次第にリリアージュの体がもふもふもふっと大きくなっていった。

「ど、どうなっているんですかアクアスティード様!」

「私にもわからないが、フェレス殿下に腕輪を付けるならば今だろう」

フェレスは顔面からリリアージュをはがそうとしているが、リリアージュの体が大きくなるにつれてその動きが弱くなる。

「その方はあなたが愛した奥方だろう……! どうか正気を取り戻してくれ!!」

アクアスティードは隙をついて、フェレスの手首に腕輪を付ける。祈るような気持ちで、どうか、どうかリリアージュのことを認識してくれと願う。

腕輪が付けられたのを見たリリアージュはフェレスから離れ、地面に着地した。

「…………」

「フェレス殿下……?」

「アクアスティード、か?」

「よかった、正気に戻られたのですね」

アクアスティードの名前を呼んだフェレスの瞳は、漆黒から元の金色へと光を取り戻した。

そしてすぐに、自分の横でぐったりしているリリアージュを見て目を見開く。抱っこ出来る大きさだったリリアージュは、その大きさが一メートルを越えて今もなおゆっくりと大きくなっていた。

かなりやばい状況になっているのではと思いながら、アクアスティードはフェレスとリリアージュを見守る。

フェレスは膝をつくようにしゃがみ、愛おしそうにリリアージュを抱きしめた。

「ああ、リリア。……私の力を、その身で受け止めたのか。リリアの体も、限界だったというのに」

「限界?」

「そう。私とリリアは、ずっとここにいた。リリアは私が制御できない力を受け入れてくれたけれど、それがずっと保つわけがない。リリアはとっくに、限界を迎えていたんだ」

フェレスが苦しむよりはと、リリアージュはその溢れ出る力を、星空の指輪を通してずっと受け入れ続けた。

それはいつしか、リリアージュの人という概念をなくしてしまった。

「私の力を受け入れすぎたリリアは、怪物と呼ばれる存在になってしまった 。人の姿ではなくなったが、心は優しい……リリアのままだった」

「フェレス殿下、それは――」

〝この封印されし王の間には、怪物が封印されている〟

その言葉が、アクアスティードの脳裏によみがえった。

そして同時に、それがリリアージュだということに気付く。まさか初代王妃がその怪物だったなんて。

しかしそれならば、初代国王と王妃の資料が何もないことや肖像画が飾られていないことも合点がいく。

――存在を抹消された王、か。

自分たちの主人が人間ではないことに気付き、家臣たちはフェレスとリリアージュを殺そうとしたのだろう。

つまり、信頼していた部下に裏切られた。

――だから、私に盟約を誓わせたのか。

フェレスが信じているのは、リリアージュだけなのだろう。

「そうだよ。リリアが、この地に封印されている怪物だ」

寂しそうな声でフェレスがそう告げると、リリアージュが『ガアアァァァ』と雄叫びをあげた。空気が揺れて、息苦しいようなプレッシャーが周囲を包んだ。

そしてその体は、大きくなるなんていう可愛らしい変化ではなく――まさに、化け物としてその姿を変えていく。

「リリア!」

「フェレス殿下、危ない……っ!」

アクアスティードは必死で呼びかけるフェレスの腕をとり、エリオットたちがいる入り口まで戻る。フェレスの力を吸い取った反動か、今度はリリアージュが正気を失ってしまった。

「リリア、リリア……っ! たとえ姿を変えてしまっても、リリアが私を忘れたことなんて一度もなかったのに」

このように自我を失った彼女を見ることになるなんてと、フェレスは絶望したような顔で――もう一度、愛しい妻の名を叫んだ。