軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12. お茶会と深夜の密会

絶対に楽しいお茶会になるはず! そう断言したアカリは、さっそく招待状――を出さずに、招待客の下へと突撃しにいってしまった。

即断即決、それに加えて即行動。まるで光の速さだ……と、ティアラローズは苦笑するしかない。

部屋に取り残されたティアラローズ、アクアスティード、エリオット。全員がぽかんとして、ため息をつく。

「アカリ様がされると言うのであれば、本当に即決行されるのでしょうね。私は茶会の手配をしてきますから、アクアスティード様はティアラローズ様といてください」

「ああ、頼む」

呆れながらも、アクアスティードがティアラローズにお茶会をしても大丈夫かと確認をする。少しでも不調があれば、まだ休んでいた方がいいと。

「わたくしなら、大丈夫です。……それに、一刻も早く記憶が戻ってほしいですから」

「そうか」

アクアスティードが手を伸ばして、ティアラローズの髪を優しく撫でる。その気持ちよさに目を細めて、この時間がずうっと続けばいいのに……と、そう思ってしまった。

◇ ◇ ◇

その日の午後には、「お茶会です!」とアカリがにこやかに微笑んでいた。

集められた面々はというと、アイシラ、キース、クレイル 、そして――オリヴィア。どや顔で満足そうにしているアカリに、誰もがやりすぎだと心の中で突っ込みをいれた。

アクアスティードはティアラローズの後ろに立ち、何かあればフォローしようと今は見守ることにした。このメンバーであれば、別段最初の挨拶を省略しても問題はない。

むしろ、ティアラローズの現状を伝えてあるため敢えて話をしないのだということにも気付いてくれるだろう。

「なんだティアラ、記憶がないって?」

「……キースのことは、覚えています」

「アクアスティードだけ忘れられてんのか」

くつくつ笑いながら、キースが真っ先に席へつく。

用意されたお茶会の場所は、豪華なゲストルーム。

珊瑚のシャンデリアが優しく室内を灯し、ティーカップに注がれる紅茶の色を引き立てる。次々と運ばれてくるスイーツに目を輝かせながら、ティアラローズは足を運んでくれた人たちを迎え入れる。

「ようこそおいでくださいました。どうぞごゆっくりしていってください」

「招待をありがとう、ティアラローズ」

くすりと笑いながら、クレイルが「お土産だよ」と焼き菓子をティアラローズに渡す。それに顔を輝かせながらも、ティアラローズはクレイルの姿に驚いた。

――もう、女装するのはやめてしまわれたんだ。

パールが起きていないのだから、男嫌いの彼女のために女装をする必要は、確かにもうない。でも、それがなんだか寂しいと感じてしまった。

華やかさが減るからだろうか? なんて、ティアラローズも笑みを返しながら焼き菓子のお礼を述べる。

「ありがとうございます、クレイル様。お好きだった紅茶をご用意させていただきました」

「それは嬉しいね」

にこやかに笑い、クレイルはキースの隣に座る。

次に、アイシラが気まずそうにしながらティアラローズの下へやってくる。パールの宮でクレイルに失礼な振る舞いをしてしまったため、会いにくいのだろう。

「ティアラローズ様……その、なんと申していいのか」

「大丈夫ですわ、アイシラ様。お忙しいなか、急なお茶会に来てくださってありがとうございます」

「いえ、そんな。わたくしでよければ、いつでもお力になります」

アイシラは海の妖精に愛されているため、海の管理を一任されている。その上、魚や珊瑚の品種改良も手掛けたりしているので多忙なのだ。

有無を言わさずアカリが連れてきたのだろうと考えると、頭が痛くなる。

「それから、ケーキを持ってまいりました。ぜひ召し上がってくださいませ」

「まあ、ありがとうございます」

料理人に腕を振るわせましたと、アイシラが微笑む。

いったい何のケーキだろうとそわそわしながら、ティアラローズはフィリーネに手渡す。お茶会ですぐに食べられるように、準備をお願いすることも忘れない。

アイシラが着席して、最後にアカリに引っ張られるかたちでオリヴィアが姿を現した。ハンカチで鼻を押さえていたが、ティアラローズの姿を見つけてすぐに姿勢を正す。

「お初にお目にかかります、ティアラローズ様。オリヴィア・アリアーデルと申します。お会い出来たこと、とても光栄です」

「ティアラローズ・ラピス・マリンフォレストです。わたくしも、オリヴィア様にお会い出来たことを嬉しく思います」

アクアスティードに教えてもらった、今の名前を名乗る。なんだかくすぐったいような感じがして、恥ずかしい。

――あれ?

そしてふと、気付く。

ちらりとアカリを見ると、にっこり微笑んでいる。

後ろにいるアクアスティードを見ると、疲れ切った様子でため息をついている。すべてアカリの独断ということがわかり、苦笑する。

――確か、オリヴィア様は軟禁。執事のレヴィは、牢に入れられているはず。

そう、アクアスティードが説明してくれたのを思い返す。 レヴィを連れてきていないだけいいのかもしれないけれど、アクアスティードが何も言わないからとりあえずは許可を出したのだろう。

「その……大変ご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ございません」

「いいえ、オリヴィア様も大変だったと伺っています。お体はお辛くないですか?」

「はい。わたくしにまでお気遣いいただいて、ありがとうございます」

お優しいですねと言いながら、オリヴィアがふわりと微笑んだ。

「さあ、とりあえずお茶会を始めましょう!」

「ええ」

元気よく取り仕切り始めるアカリに頷き、ティアラローズとアクアスティードも席につく。

席は、アクアスティード、ティアラローズ、アカリ、アイシラ、オリヴィア、キース、クレイルの順で丸テーブルを囲っている。

「ティアラ様は、ちょっと記憶が抜け落ちていて……お茶会をすることで思い出せたらいいな と思って、みなさまに集まっていただいたんです」

「貴重なお時間をいただいてしまって、すみません。ありがとうございます」

アカリが軽く現状の説明をして、のんびりとしたお茶会がスタートした。

アイシラの持参したケーキが切り分けられて、ティアラローズは目を輝かせる。ここ最近、スイーツを食べた記憶がない。いっぱい食べたいな……なんて思っていると、突然険悪な雰囲気になる。

――ん?

「……このケーキ、美味しくないわ」

「あ、申し訳ありません……オリヴィア様」

ケーキを一口食べたオリヴィアが、冷たい声で告げた。

先ほどまでの可愛らしい姿はどこにもなくて、いったい何が起きたのかティアラローズは理解が追いつかない。

隣に座っていたアイシラがびくりと体を揺らして、すぐ謝罪の言葉を口にする。

――とっても美味しいけれど。

アイシラが持ってくるケーキはいつも美味で、ティアラローズも舌鼓を打ちっぱなしだ。そんなにオリヴィアの口に合わなかっただろうかと首を傾げると、隣に座っているアカリが目を輝かせていた。

――あっ、そういうこと?

思わず、察してしまった。案の定、隣からは小さく、しかし力のこもった呟きがされてティアラローズの耳に届く。

「リアル悪役令嬢! ティアラ様はまったく悪役令嬢っぽくなかったから、ここで見られるなんて嬉しい!」

全然でごめんなさいね――と心の中で苦笑しつつ、そうなるとオリヴィアを諫めてもあまり意味はないのだろうか? これがイベントなのか、もともとオリヴィアがこういった性格かはわからないけれど。

――でも、アイシラ様はオリヴィア様によく思われていないと言っていたわ。

アイシラのパールラント公爵家と、オリヴィアのアリアーデル公爵家は、正直そんなに仲がよくない。海の管理を任されているヒロインのアイシラを、オリヴィアが疎んでいても……まあ、不思議ではない。

ティアラローズがどうしようか迷っていると、見かねたアクアスティードが口を開く。

「オリヴィア嬢、それくらいにしたらどうですか? アイシラ嬢が困ってしまっています」

「まぁ……。アクアスティード殿下は、ああ、そうですね。アイシラ様とは仲がいいですものね……」

オリヴィアはちらりとアイシラを見て、「失礼いたしました」と簡単な謝罪を口にする。

「もう、ティアラ様も私にこれくらい……いや、もっと嫌がらせをしないといけなかったんですよ!」

「アカリ様……わたくしは、そんなこといたしませんから」

ひそひそ声で話しかけてくるアカリにあきれながら、当時のことを思い返す。

ティアラローズの婚約者だったハルトナイツと常に一緒にいて、陰からティアラローズを陥れるように誘導したヒロインアカリ。

……確かにそれは、ゲームのシナリオ通りではあったけれど。

しかしティアラローズは何もしていなかったのだから、アカリが悪役ポジションのようなものだった。そう思うと、何を言っているのかと笑ってしまう。

それを見て、クレイルとキースが口をはさむ。

「……ティアラローズとアカリは、仲がいいんだね」

「ティアラと釣り合いの取れる令嬢なんて、なかなかいねえしな」

どうしても王太子の妃という身分がきてしまうため、ティアラローズへ気軽に話しかけてくれる令嬢はそういない。

マリンフォレストで一番仲良くしている令嬢はアイシラだが、仲のいい友達……というポジションとは少し違う。もちろん、ティアラローズはもっと仲良くなれたらいいとは思っているけれど。

「そうなんです、私とティアラ様は親友ですからね!」

ふふんと誇らしげに、アカリが胸を張って宣言する。

「私はティアラ様の味方です。言っておきますけど、誰が敵に回っても容赦はしませんから! 特にアクア様!」

「……私か?」

敵に回るわけがないだろうと、アクアスティードは疲れた目でアカリを見る。ティアラローズの髪に触れ、「離すわけがない」と告げる。

「それならいいんです。ティアラ様の記憶が戻らないからポイ、なんてことしたら……私、マリンフォレストを滅ぼしますから!」

「アカリ様!」

唐突の破壊宣言に、ティアラローズは慌てて「何を言っているんですか!」と嗜める。

アカリはヒロインであり、強大な聖なる祈りの力を持っている。正直に、本当に滅ぼしてもおかしくはないので笑える冗談ではない。

が――それに笑う男が一人。

「ははっ、お前は面白いな」

「キース! もう、笑い事じゃありません……。アカリ様も、そういう冗談はやめてくださいませ」

「私は本気よ?」

「アカリ様……!」

嗜めてもけろりとしているアカリに再度ため息をつき、もうアカリには何を言っても無駄なのだろうとケーキを食べることにした。

――ああ、やっぱり美味しい。

◇ ◇ ◇

主要メンバーを招待してのお茶会だったが、ティアラローズのアクアスティードに関する記憶が戻ることはなかった。

それを残念に思いながらも、ティアラローズが楽しそうにしていたからいいか……と、アクアスティードは考えることにした。

ベッドですやすやと眠るティアラローズは幸せそうで、ずっとその寝顔を見ていたいと思う。

「無理して一緒の寝室を……と思ったが、少しは自惚れていいんだろうか」

アクアスティードは別室で寝ることを伝えたが、それをティアラローズが拒否した。もちろん、ティアラローズの中では多大な葛藤があったのだろう。

それでも、普段通りでお願いします……と、そうティアラローズが告げたのだ。

「ティアラ……」

ゆっくり髪を撫でて、愛おしさが込みあげる。

さて、自分もそろそろ寝よう。そう思った瞬間、ふいに違和感を覚え――後ろを振り向く。

「……っ!?」

出入り口は、閉まっていた。

扉も、窓も、どこからも侵入することは出来ない。

それなのに、彼女はそこにいた。

月が浮かぶ夜空をバックにし、窓の前に立って笑っていた。

「アカリ嬢……どうやってここに侵入した」

目的はなんだと、アクアスティードは目を細める。

それにきょとんとするように、アカリは声に出して笑う。別に、何かあくどいことをしに来たわけじゃないですよと告げながら、ゆっくりこちらに歩いてくる。

「私、ティアラ様の親友ですから! 心配して様子を見にくるのは、当然です」

「こんな夜中にか?」

「ええ。アクア様と、ティアラ様の記憶に関するお話をするなら今がいいと思いまして」

「…………」

アカリの言葉を聞き、訝しむように見る。

一度、聖なる祈りの力を使いティアラローズをみていた。その際は、自分には無理だと――アカリは確かにそう告げたし、残念に思ったことも覚えている。

「……ティアラ様が海、アクア様が空。それぞれが妖精王の指輪を所有しているなんて、すごいですね」

黒い瞳が、アクアスティードのはめられた指輪に向けられた。

聖なる祈りを使うアカリのことを、どうにもつかめない存在とアクアスティードは認識している。今回のことだって、そうだ。

――他国の人間が、どうしてこの指輪を知っている。

妖精の王にも物おじしない態度、度胸。

そして何より、王太子であるアクアスティードの寝室に何も気にすることなく侵入する性格。敵に回せば限りなく面倒だな……と、心の中でため息をつく。

「それで? 聖なる祈りの力を使って、わざわざ私の寝室へ転移してきたんだ。ティアラの記憶が戻る方法でもわかったとでも?」

「わかったというか……そうですね。戻す方法なら、知ってますよ」

「……!」

そう告げた瞬間―― 部屋の空気が、一変した。

ぴりっとしたそれを肌で感じて、本当にティアラローズのこととなると余裕がなくなってしまうのだとアカリは苦笑する。

ジャケットを羽織り、寝室から出ようとしていたアクアスティードの動きが止まってしまうほど。

ティアラローズがいるとはいえ、寝室にほかの女をいさせたままでいる彼ではない。 アカリは場所を気にはしないけれど、アクアスティードはそれだけティアラローズを大切にしているのだ。

「聖なる祈りをもってしても、戻せないものを……か?」

疑うようなアクアスティードの言葉に、こくりと頷く。

別に、聖なる祈りは万能じゃない。もちろん、限りなくは万能ではあるけれど――ゲームを進めるのに必要な要素がメインになっているので、続編ゲーム に関して手出し出来ることはあまりない。

「私には、戻せません。出来るのは、アクア様だけですね」

「……私?」

「そうです。それは、アクア様にしか出来ないことです。私の聖なる祈りの力をもってしても、敵わない。……ティアラ様の親友として、悔しいですけど」

とてもと付け加えて、アカリは寂しそうに笑う。

「アクア様も、王の指輪を創ればいいんです」

「指輪を? 私が?」

「そうです」

王の作る指輪には、特殊な効果を一つだけつけることが出来る。

海の指輪は毒物無効。空は音声拡張、森は豊穣。

――アクア様は、どんな指輪を創るのだろう。

そんなことが出来るわけないだろうと 告げるアクアスティードに、笑って答える。

「私の大好きなメインヒーローは、強いんです」

だから出来ますよと、太鼓判を押した。

ラピスラズリの指輪……続編の、アクアスティードルート追加ディスク。

単に隠しステージの情報をティアラローズに教えただけなのに、追加エピソードに突入してしまうティアラローズは純粋にすごいなとアカリは思った。

もちろん、発売前に亡くなっているティアラローズはこのディスクの存在を知らない。

――この追加エピソード、一万円もしたんだから。

実現するならば、きっと最高の物語になるはずだとアカリは確信している。もちろん、まだ片足を突っ込んだ状態だから……ちゃんとしたエピソードになるかはわからない。

「でも、その可能性を見出したのがティアラ様で嬉しいです」

アイシラじゃなくてよかった。

そう小さな声で呟いて、アカリは来たとき同様に転移をして――アクアスティードとティアラローズの寝室を後にした。