軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

寂しい日 ー ティアラローズ

夜、寝室に入って無意識にため息をついてしまった。いけないと思い、口元に手をやる。

「アクア様がいないと、なんだか寂しいわね……」

ぽつりとこぼれた言葉の通り、部屋にアクア様がいない。視察のため、十日ほど留守にしている。帰宅は、明日の昼過ぎの予定。

いつも一緒にいたため、どうしても一人だと部屋を広く感じてしまう。

「アクア様は仕事なのに、わたくしったら」

寂しいなんて言っていたら、アクア様の負担になってしまう。妃として、きちんとしなければ。

とはいえ、会えないのはやっぱり寂しいけれど。

ベッドに倒れ込むと、お日様の匂い。

シーツ類は毎日変えているため、アクア様の残り香が……なんていう少女漫画のドキドキすることは起きないのだ。

せめて、アクア様の香りがしたらいいのに……と思ってしまう。

「あ……」

わたくしは、もしかしたらとベッドから起き上がって衣装部屋に入る。

お目当ては、先日使ったストール。アクア様と庭園のベンチで話をしているときに使ったものだ。寒いからと、二人で一緒に肩にかけていた。

白い大判のストールを手に取ると、ふわりとアクア様の香りがした。つい、無意識にぎゅぅと抱きしめてしまう。

「アクア様の匂いがする」

それだけで、寂しい気持ちが少しだけ和らいだ気がした。いえ、香りで誤魔化しているだけかもしれないけれど……今はそれだけで十分で。

ストールを持ったままベッドへ戻り、横になる。アクア様の香りがするだけで、気持ちがやすらぐ。

「アクア様に見られたら恥ずかしいけれど、帰ってくるのは明日のお昼すぎだもの。抱きしめて寝るくらい、いいわよね?」

顔をうずめるように抱きしめて目を閉じれば、一緒に横になっているような気がする。この十日間、ずっと一人だったのでことさらに。

「おやすみなさい、アクア様」

アクア様の香りのおかげか、すんなり夢の中へ入ることができた。

***

チチチ……と鳥のさえずりが耳に届き始め、目が覚めた。もう朝がきたようで、カーテンの隙間から陽が差し込んでいる。

「ん……」

まどろみながら起きようとしたけれど、ふいに鼻に届いたアクア様の香りに思わず頬が緩む。

「アクア様の匂い……」

たったそれだけで嬉しくて、一緒に寝ていたストールをぎゅっと抱きしめる。

もう一度「アクア様」と名前を呼びながらストールに頬を寄せて、今日はもう少しだけベッドでゆっくりしてもいいかしらと考えてしまう。

「早く帰ってきてくださいませ、アクア様。……会いたいです」

きっと、帰ってきたら嬉しそうに目を細めて抱きしめてもらえる……はず。そしてそのまま甘いキスももらえるだろう。

そんなことを脳裏に思い浮かべてしまい、頬が熱を持つ。

「アクア様、たくさんキスしてくれるかしら……?」

自分から甘えるのはやっぱりまだ恥ずかしくて、だけどたくさん甘やかしてほしいと望んでしまって。もっと素直になれたらいいのだけれど、こればかりは上手くいかない。

「……アクア様」

「うん。たくさんキスしてあげる」

「――……」

ふいに聞こえた甘さを含む低い声に、わたくしは目を見開くしかできなかった。そして間違いなく、声がした方に振り向くことがでいきない。

――アクア様の声、よね?

この十日間、待ち望んでいた大好きな人の声。

嬉しいはずなのに、今……わたくしはいったい何をしていた? 何を口走っていた? それを考えただけで、嫌な汗が一気に噴き出した。

――わ、わたくし、全部口にだしてたわよね!?

思わず布団をかぶってしまったがこればかりは仕方がない。

だってアクア様の帰宅はお昼すぎの予定で、この寝室には自分以外いないと思っていたのだから。

布団をかぶって震えていたら、ベッドがぎしりと音を立てた。

――っ!

「ティアラ」

思いのほか耳の近くで声が聞こえて、思わず体がビクリと跳ねてしまう。それだけでもう恥ずかしいのに、次に聞こえたのはちゅ、というリップ音。

「顔、見せて?」

「…………」

「ティアラに会いたくて、早く帰ってきたのに」

そんなことを言われてしまっては、顔を出すしかない。わたくしは真っ赤になっているのを自覚しながらも、布団から顔を出した。