軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7. もふもふ仲間

マリンフォレストは美しく澄んだ空と、豊かな大地と、生命育む海があり、夜には満天の星を見ることができる。

それもひとえに、空、森、海の妖精王と、星空の王がずっとこの地を見守っているからに他ならない。

王城にあるティアラローズの自室では、今後のスケジュールが話し合われていた。

「ひとまず、魔力が落ち着くまでは公務はお休みした方がいいですね」

そう言いながら、オリヴィアはレヴィに補佐をしてもらいつつスケジュール調整をしていく。

申し訳ないが、ティアラローズにはしばらく自室で過ごしてもらうしかない。さすがに、王妃が突然猫になってしまっては説明が大変だからだ。

「ごめんなさい、わたくしが未熟なせいで……」

「そんなことありませんわ! わたくしなんて、魔法も使えませんもの」

ティアラローズが眉を下げるも、オリヴィアは首を振って「大丈夫ですわ」と微笑んでくれた。

「これは悪役令嬢にとっての快挙ですわ! アイシラ様もご結婚なさるし、ふふっ、わたくしの悪役令嬢としての役目も……本当に終わりですわ」

「オリヴィア様……」

どこか寂しそうなオリヴィアの言葉に、ティアラローズもなんともいえない気持ちになる。

ティアラローズもオリヴィアも、悪役令嬢だ。

ヒロインであるアカリとアイシラが誰と結ばれるのか、どういった行動をとるか――それにより、自分の運命が大きく変わる。

ただ、ティアラローズの場合は続編の攻略対象キャラクターであるアクアスティードがイレギュラーな行動を取ったこともあって、幸せに暮らしているけれど……。

そしてふと、ティアラローズは続編のエンディング後の悪役令嬢はどうなるのだろうと思う。

悪役令嬢が幸せになるというストーリーは、ほぼないと言っていいだろう。

嫌な汗を浮かべつつ、ティアラローズはオリヴィアを見る。

けれどその顔には不安の色はまったくなくて、どちらかというと幸せそうな表情だ。

「エンディング後の悪役令嬢は、どういった結末なんですか? 今のオリヴィア様を見ていると、悪いようにならないのはわかりますが……」

「わたくしとしては、国外追放がよかったのだけれど……」

「オリヴィア様!?」

まさか国外追放がいいと言われるとは思わずに、ティアラローズは焦る。

オリヴィアは断罪されるようなことをしていないし、そもそも国外追放されたいと言う人がいるとは思わない。

「アクアスティード陛下のルートではないので、わたくしはほとんど影響ありませんわ」

「ああ、オリヴィア様は元々アクアの婚約者という立ち位置でしたものね」

「ええ。なので、アイシラ様がアクアスティード陛下以外の人を選んだ場合は、そのまま結婚するというのがゲームの流れでしたわね」

その流れ通りになっていないのは、幼少期のオリヴィアがアクアスティードを見ると尊くて鼻血が止まらなくなってしまったためだが――ここでは割愛する。

アイシラがカイルと結ばれゲームが終わっても、オリヴィアに影響がないことを知ってティアラローズはほっと胸を撫でおろした。

さて、紅茶を淹れ直してゆっくりしましょう――というところで、ティアラローズの姿が人間から猫に変化した。

白くてふわふわの、ペルシャに似た愛らしい猫だ。首元にはルチアローズからもらったリボンをつけている。

「はあぁ、可愛いですティアラローズ様!」

『にゃぅ……(あはは……)』

すかさずオリヴィアに抱っこをされて、猫になったティアラローズは苦笑する。

アクアスティードたちも色々調べてくれてはいるのだが、ティアラローズが人間と猫になったり繰り返すのはいまだ続いたままだ。

まあ、そのために今しがたスケジュール調整をしたばかりなのだが。

「どうせなら、悪役令嬢繋がりでわたくしも変身できたら……」

『にゃう?(オリヴィア様も猫になりたいのかしら?)』

「もし鳥になれたら、クレイル様の神殿まで飛んでいけるかもしれませんもの! さすがに上空にある神殿は行く手段がなくて……」

行って見たいとオリヴィアの顔に書いてある。

もちろんキースの城や、海の底にあるパールの宮にも行きたいとオリヴィアは鼻息を荒くしている。

――オリヴィア様は、とてもポジティブね。

自分もそんな風に考えて過ごした方がいいだろうかと、ティアラローズは思う。

猫になれば人間のときより遠慮なくアクアスティードに甘えられる気がするし、いつもより速く駆けることだってできるだろう。王城内で陽当たりのいい場所を見つけて、日向ぼっこをするのも楽しいかもしれない。

そう考えると、猫になるのも悪くはない――そんな風に考えられた。

***

王城の庭園にある高い木に登ったフェレスとリリアージュは、窓からこっそりティアラローズの部屋を覗いていた。

クレイルに今の状況を聞き、まずは遠目から現状を確認しようと考えたのだ。

『あの白い猫がティアラですね』

可愛くて抱きしめたい! リリアージュはそう思ったのだが、すぐに『いけない!』と首を振った。

「いけないの?」

『い、いけません! だってフェレス、あの状態は……わたしと同じ……だったとした、ら……』

どんどんリリアージュの声が小さくなっていく。

もし、あのティアラローズの状態が自分と同じであるならば――強大な星空の力を受け止め切れず、自分と同じ〝怪物〟になってしまったのかもしれない。

落ち着いているように見えるけれど、リリアージュにその判断はできないので不安が募っていく。

リリアージュとフェレスのことを救ってくれたティアラローズ。

怪物になんてなってほしくはない。

もしティアラローズを助ける道があるならば、自分はどんなことでもしてみせようとリリアージュは思う。

『フェレスなら、ティアラが姿を変えてしまった理由がわかりますか?』

瞳を揺らすリリアージュに、フェレスは優しく微笑んだ。

「あの指輪は、大丈夫だよ」

『本当に……?』

「ティアラローズは魔力を受け止め切れなくて姿が変わってしまっただけで、その本質は何も変わってはいないから」

単に溢れた魔力を処理しきれずに、その姿が変わってしまっただけなのだとフェレスが説明をしてくれた。

だから指輪をしているティアラローズは、リリアージュのときのように自我を失い、巨大な怪物になってしまうことはない。

『つまり、あの指輪をはめている限り大丈夫……ということですね』

「うん。星空の王の指輪はそのために作られているからね」

だからティアラローズは大丈夫なのだ。

とはいえ――このままだと、不自由なことに変わりはない。人間と猫、姿の変わるタイミングがわかるわけではないのだから。

リリアージュは深く息をはいて、安堵する。

体の力を抜ききると、フェレスにぎゅっと抱き着いた。ひとまず、リリアージュの想定していた最悪がなかったからよしとしよう。

けれど、この問題は先送りにしていいものではない。

――この機会に、わたしもティアラと一緒に魔力の勉強をした方がいいかもしれません。

「こんなところにいたんですか、フェレス殿下、リリアージュ様」

「アクア、久しぶりだね」

『アクア! 大きくなりましたね!』

「……そちらもお変わりないようで、何よりです」

アクアスティードはため息をつきたいのをこらえ得つつ、フェレスとリリアージュに挨拶をする。

クレイルから二人の所在地を聞いて探していたのだが、まさかティアラローズを盗み見しているとは思わなかった。

「お二人には、早急にお聞きしたいことがあります」

『ティアラの変化のことですね』

「そうです」

リリアージュは『わかっています』と言い、フェレスの腕から飛び降りて木の下にいるアクアスティードに受け止めてもらう。

それにフェレスが「あ……っ」と眉を下げつつ、自分も飛び降りてすぐにリリアージュを抱き上げた。

『そのことについては、今しがたフェレスに教えてもらいました。ティアラには星空の王の指輪があるので、わたしのようにはなりません』

だから安心してくださいと、リリアージュは微笑む。

「とはいえ、魔力の扱いはもう少しできるようになった方がいい。もしくは、有り余る魔力を別の何かに移すか……だね。そうすれば、むやみに猫になることもなくなるはずだよ」

「なるほど……ありがとうございます。安心しました」

フェレスが提示した条件二つ、そのうちの一つ――魔力を別に移すということは難しいだろう。

今まで子どもが持つ大量の魔力の行き場に苦労してきて、結局いい方法は見つからなかったのだ。現実的に考えて、ティアラローズが魔力の扱いを覚えた方がいい。幸い、魔法が得意な人物は多い。もちろん、アクアスティードも含めて。

――ティアラは魔力をお菓子作りに使っているから、扱い自体が下手なわけじゃない。

単純に、大量の魔力を扱うことに慣れていないだけだ。

アクアスティードは自分のスケジュールを思い浮かべつつ、妖精王にも協力を頼んだ方がよさそうだと考える。

キースもティアラローズは魔力の扱いを覚えるべきだと言っていたので、きっと協力してくれるだろう。

***

『にゃにゃにゃっ!?(フェレス殿下に、リリア様!?)』

アクアスティードと共にやってきたフェレスとリリアージュを見て、ティアラローズは驚いて声をあげてしまった。

慌てて猫の姿のままお辞儀をすると、『大丈夫ですよ』とリリアージュが微笑む。

『久しぶりですね、ティアラ、オリヴィア』

「しばらくマリンフォレストを回っていたら、すっかり顔を見せるのが遅くなってしまったね」

『にゃぁ(いえ、そんな……)』

「お久しぶりでございます。フェレス殿下、リリアージュ様」

オリヴィアもすぐに挨拶をし、レヴィにお茶の用意をさせる。

リリアージュはティアラローズが座るソファへぴょんっと飛び乗ると、その頬を摺り寄せた。

『わぁ、ふわふわです~!』

『にゃにゃ~っ(それを言うなら、リリア様の方が……!)』

お互いがもふもふなので、すり寄ったときのもふもふと温かさも二倍に感じてとても気持ちがいい。

――仲良しの動物が一緒に寝ている気持ちがわかる気がするわ!

ティアラローズからもすり寄って、二人で微笑みあう。

それを後ろで見ている旦那たちは、なんとも微笑ましい気持ちになっていた。自分の妻が可愛いと思っているのは、簡単に見て取れる。

これは画家を呼んで記録に残しておいた方がいいのでは――と、二人が互いの温かさから仲良く寝入ってしまったときに思ったのだった。