軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10. ルカとリオの力

ルカとリオは一卵性の双子で、生まれたときから互いに通じる何かがあった。それは上手く言語化できるものではないが、一番しっくりくる言葉は、『繋がっている』だろうか。

二人の間にはその見えない絆のようなものがあり、特殊な魔法を使うことができる。

ルカの魔力をリオに与え、爆発的に身体能力をのばすというものだ。その動きはまるで雷のようで、目で追うことも難しい。

お互いが特別であり、それ自体はルカとリオも嬉しさを感じていた。しかし、それを上手く使えるのか? と問われれば、それは別問題で。

何度か使ってみはしたけれど――魔力制御が難しく、爆発する。

元々魔力の多いリオへ、さらにルカの魔力を与えるのだ。コントロールは、自身で魔法を使うより難しい。

しかしその分、上手く扱うことができたら――きっと何ものにも負けはしないだろう。

「リオー!」

慎重に、けれど素早く、ルカはリオを呼びながら雷雨の山を駆け上がっていく。

多少の鍛錬はしているので基礎体力はあるのだが、山道というだけあって息はとっくに切れている。魔法の研究にかまけていないで、鍛錬をしておけばよかったと後悔が胸をよぎる。

「はぁ、は……っ」

立ち止まって休憩したい気持ちをぐっとこらえて、足を動かす。でなければ、そのまま走れなくなってしまいそうだった。

木々の合間からのぞく空は、まだ雷雲が広がっている。その規模は次第に大きくなっているようで、このまま放っておくとマリンフォレスト全土を覆ってしまいそうだ。

――もっと自分に力があれば。

ルカは、そんなことを常々思う。

魔法を使おうとすると、制御できずに爆発してしまうが……膨大な魔力があること自体は嬉しく思っている。それを意のままに扱うことができないのが、歯がゆい。

「そろそろ、リオのところに――」

着くはず。

そう思い視線を巡らせると、リオに襲いかかろうとしている一匹の巨大な鳥の姿があった。大きさから、群れのボスのようなポジションにいるのだろう。

「私たちを脅威に思い、排除しにきた……?」

ルカはふっと笑みを浮かべ、数秒で乱れた呼吸を整えて弓を構えて矢を放つ。が、それは巨大な鳥に当たることはなかった。

「――チッ。避けたか」

残念だ。

巨大な鳥が空高く上昇するのと同時に、リオがルカに気付いた。

「ルカ! 待ってた!」

「待ってるのはいいけど、一言告げてから実行に移してくれてもいいんじゃない?」

本当に、リオはいつもいつも猪突猛進だとルカは苦笑する。

「でも、ルカは来てくれただろ? 俺が考え付くことなんて、ルカはとっくに想定してるはずだし」

「まったく……褒めても何も出ないよ?」

「え、出ないのか?」

ルカの言葉に、リオは酷く残念そうな表情を浮かべて――すぐに二人で笑う。

「もし出るとしたら……晴れ渡った、マリンフォレストの空……かな」

「それはいいな」

この異常な空を、どうにかしよう。

二人はブレスレットを付けた腕でタッチして、己らの勝利の願いをかけた。

***

普段のドレスは脱ぎ捨てて、動きやすい騎士服に身を包む。長いブーツはしっかりした作りになっているため、地面のぬかるみを踏んでもちょっとやそっとでは転ばない。

ティアラローズは大きく深呼吸をして、前を見る。

「大丈夫、ティアラ」

「……はいっ!」

前を歩くアクアスティードの手を取って、ティアラローズははっきり返事をする。

ここは、王城の裏山だ。

雷雨により道はぬかるみ、視界は最悪。本来、ティアラローズではとてもではないが来れるようなところではない。

晴れている日であればいいが、小雨であってもアクアスティードは止めたはずだ。

しかし、ティアラローズは山の中を歩いている。

「はぁ、はぁ、……指輪が指し示している方向は、山頂みたいです」

「山頂か……」

アクアスティードは、果てしないなと苦笑する。

「でも、いったいどういうことでしょう? 星空の王の指輪が反応することなんて、今まで一度もなかったというのに」

ティアラローズの左手の薬指に輝く星空の王の指輪は、アクアスティードの力と繋がっている。

指輪を通してアクアスティードの力がティアラローズに流れてきているのだが、普段は何も感じることはないし、普通の指輪と同じ状態だ。

――指輪の示す先に、いったい何があるというの?

わかる、というよりも……感じることはある。

指輪の導く先にある何かは、とても重要なものだと、そう思ってしまうのだ。自分たちがいかなければいけないような、そんな事態に――星空の王の指輪が導いているのではないかと。

考え事をしてしまったからか、ティアラローズはうっかり木の根に足を取られて転びそうになる。

「きゃっ」

「ティアラ! やっぱり、私がおぶるから――」

「いいえ、大丈夫です。そこまでアクアに負担をかけるわけにはいきませんから」

ティアラローズはぶんぶん首を振り、何度も「大丈夫です」と口にする。

「とはいえ、わたくしの足が遅いのは本当に申し訳ないですが……」

さすがに、雷雨の登山は想定外だった。

山頂まではだいぶ距離があって、このままのペースでは数時間ほどかかるだろうか。段々、本当に自分が登り切れるだろうかと、ティアラローズは不安になる。

「謝ることは何もないよ。こんな状況じゃ、訓練をしててもちゃんと進むのは難しい」

「ですが……」

不甲斐ない――そう言葉を続けようとしたら、足を取られた木の根がうねり動いた。

「――っ!?」

「ティアラ!」

アクアスティードがすぐさまティアラローズを背に庇い、帯剣している剣の柄に手をかけ、同時に周囲を警戒する。

上空の鳥だけでなく、もし地面からも敵がくるのだとしたら――厄介なこと、この上ない。

しかし、危惧していた攻撃はこなかった。

「……?」

アクアスティードは目を細め、視線を左右に配るが……動いているのは、足元の根だけ。それはゆっくり大きくなり、木の幹を割り――入り口のようなものになった。

「え……これは、どういうこと?」

ティアラローズは戸惑いながら、アクアスティードと木の幹にできた入り口を交互に見る。すると、中で花が咲き、その中心に明かりが灯った。

これには、ティアラローズも見覚えがある。キースの城や、森の妖精の通路で見たことがある光る花だ。

ティアラローズとアクアスティードは、目を見開いて顔を見合わせる。

「キース、なのかしら」

「たぶん」

姿こそ見せないが、その気配を感じ取ることはできる。どうやら、自分たちを助けてくれるようだ。

「姿を見せてくれたらいいのに」

そう思ってしまう。

「でも、きっとそうできない理由があるのよね。自由奔放なキースが出てこないなんて、よっぽどだわ……」

「そうだね」

何かしら理由があっても、「まあ大丈夫だろ」なんて言って出てきそうなキースのことを思い浮かべる。

自分に祝福をくれた森の妖精王は、ティアラローズが知る限りこの世界で一二を争うほど自由奔放だ。ちなみにトップを争っているもう一人の人物は、言わずもがなアカリだ。

アクアスティードは幹の中に一歩足を踏み入れ、安全を確認する。

「大丈夫そうだ。外を進むより、この中を行った方がいい」

木の幹の中の道がどこへ続いているかはわからないが、キースの気配を帯びていることと、外の雨にさらされないことを考えたら、ずいぶん安全な道だ。

ティアラローズは頷いて、差し出されたアクアスティードの手を取り、木の幹へ続く道へ進んだ。

不思議な道は、とても平和だった。

雨は降っていないし、雷雨の心配もいらないし、強風どころかそよ風すら吹いていない。明りに照らされているから周囲の状況確認もしやすいが、そもそも一本道だった。

ゆるやかな上り坂になっているので、おそらく山頂へ進んでいる。

「指輪も、この道の先を指していますね」

「山頂に何かあると考えた方がよさそうだ」

「はい」

それから二十分ほど歩くと、出口に辿り着いた。

同時に、『キュアアァ』という大きな鳴き声がティアラローズの鼓膜を揺さぶった。思わず耳を塞いで、しゃがみ込む。

――いったい何がいるの!?

空にいた鳥だろうかと思ったが、鳴き声と迫力を考えたらとてもではないが同一の鳥だとは思えなかった。

アクアスティードはティアラローズを守るように一歩前へ出て、そっと外の様子を覗く。

「ルカと、リオ……? 巨大な鳥と戦っているのか!」

「えっ!?」

見たままに伝えられたアクアスティードの言葉に、ティアラローズは体が震える。

「ほかに、騎士たちはいないの? 二人だけで――あんな大きな鳥に!?」

ティアラローズがひゅっと息を呑んで、目を見開いた。巨大な鳥は、ゆうに三メートルはあるだろう。

それと戦っているのは、ルカとリオの二人だけだ。

――このままじゃ、二人が危ない!

どうにかして助けないとと、ティアラローズは考えを巡らせる。しかし、援護するだけの力があるのかと聞かれたら――否。

まさか、身体能力が向上するお菓子を作って投げて食べさせるわけにもいかない。

リオが前に立ち、いくらか離れたところに後衛としてルカが立つ。その手には弓を持っているが、矢はつがえていない。

代わりに、左手にはめられている腕輪が淡く光を帯びている。これは、ルカが魔力を使っているという状態を表す。

「ふー……。さすがに、緊張する」

「ルカが緊張するなんて、珍しい」

「人をなんだと思ってるの、リオ」

ルカは肩をすくめて、けれどすぐに瞳を細め、敵とみなした巨大な鳥を見据える。視線は逸らさないまま、「いくよ」と静かに告げ、魔法を使う。

巨大な鳥が翼を大きく広げ、その羽でこちらへ攻撃をしてきた。――が、遅い。

ルカの魔法により、その魔力を体内に受けたリオのスピードは、まるで電光石火だ。一瞬でその体は宙を舞って、なんと巨大な鳥の頭上まで飛び上がった。

さすがに、それにはルカも驚く。

「まさか、あそこまで跳ぶなんて」

このまま簡単に決着がつけばいいけれど、そうもいかない。なぜならば、一番の敵は巨大な鳥ではなく、自分たちの魔力制御の難しさだからだ。

――正直、立ってるのもつらい。

何度も脳内でシミュレーションはしてみたものの、いざ実行してみると大変だ。今まで練習だと、少量の魔力で試したときの何倍もの負荷が体にかかる。

歯を食いしばるようにして、ルカは情けない声がもれないように耐える。

「まだ、まだ足りない。鳥は倒せるかもしれない、けど……っ、もっと力を出さないとこの雷雲を晴らすことはできない――!」

ルカは腕輪をぎゅっと握り、大きく息を吸う。

「体は、今だけ持ってくれたらそれでいい。森よ、空よ、海よ、私に宿る――月の魔力よ。私の声に応え、その魔力を最大限まで膨らませろ!」

「――っ、ルカ!」

空中のリオの体から、魔力が溢れて光り輝く。

無事に、ルカの魔力がリオの体へ流れたのだろう。しかし、一瞬でも気を抜くと――魔力は暴走し、大爆発という未来が待っている。

リオは短く息をはいて、気を引き締める。

そして一気に巨大な鳥を剣で叩き斬ろうとし――羽ばたいた翼によってわずかな風圧を受けて、空中で体勢を崩してしまった。

「あ……っ」

おそらく、それが一瞬の油断で、気の緩み。

ルカと同じように光り輝いていたリオの右腕にある腕輪が、ふっとその輝きを失った。この腕輪は簡単に言えば、二人の魔力の制御をしている。それが効果を失ってしまったということは、魔力を制御しきれずに暴走することを意味する。

――まずい。

ルカとリオは同時にそう結論を出すも、暴走しだした魔力に飲み込まれないようにするだけで手一杯だ。

そんなとき、辺りに響いたのは――ティアラローズの声だった。

「二人とも、今助けるわ!」