軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12. ルチアローズの炎

アクアスティードとキースがノームの元へ行く準備をしていたのだが、シルフの姿が見えなくなってしまった。

「キース、シルフ様を知らないか?」

「いや?」

これからノームのところへ行こうという段階で、シルフがいなくなってしまった。

もしや一人でエメラルドを助けに? と思ったが、ノームの守りを破ることは不可能に近いはずだ。

「ノームとは旧知の仲のようだったから、説得に行った?」

「それなら別にいいが、最悪の場合もあり得るぞ」

それは、シルフがルチアローズに対し魔力共鳴をしてしまうのではないか? という想定だ。断っていたけれど、絶対にないとは言い切れない。

「急いだほうがよさそうだな」

「一気に飛ぶぞ」

「ああ」

キースはアクアスティードを連れて、ノームの鉱石の城へと転移した。

***

ティアラローズの実家にて、今日は朝からティアラローズとルチアローズ、アカリ、ダレルの四人で遊んでいた。

「きゃ~! ルチアちゃん上手に歩けてまちゅねえ~!」

「あ~!」

今はアカリがルチアローズの手を引いて、つかまりながら歩く練習をしているところだ。

「きゃう、あっ」

よちよち歩くルチアローズの姿を見て、ダレルが「すごい」と笑顔で手を叩く。

ティアラローズの義弟、ダレル・ラピス・クラメンティール。

天然パーマがかった水色の髪と、青色の瞳。穏やかな優しい顔立ちで、とても強い治癒魔法の使い手だ。

ルチアローズを妊娠している最中、ティアラローズは何度もダレルの治癒魔法に助けてもらった。

ルチアローズが途中で何度かよろめくも、横で見守るティアラローズがさっと手を添えてフォローする。

「んにゃ~!」

「あら、どうしたのルチア」

ティアラローズに支えられたのが嬉しかったのか、ルチアローズが抱きついてきた。その際の笑顔がとても可愛くて、ティアラローズはメロメロになってしまう。

「ルチアちゃんはママが大好きでちゅねぇ~」

可愛い可愛いと言って、アカリがルチアローズを撫でる。

「あー!」

ルチアローズはアカリにも笑顔を見せて、手をのばす。

「あ、もしかして抱っこのおねだり? なんでもしてあげちゃ――あれ?」

「アカリ様?」

「う?」

ふいに言葉を止めたアカリに、ティアラローズは首を傾げる。すると、真似をしたのかルチアローズも首をこてりと倒してみせた。

その様子が可愛くて、思わずティアラローズとアカリとダレルは三人で目を奪われる。

「って、大変ですよティアラ様! 守りの指輪にヒビが入ってますよ!!」

「ええっ!? それは大変じゃない!」

急いでルチアローズの手を取ると、アカリが言った通り守りの指輪にヒビが入っている。このままだと、壊れてしまうかもしれない。

「……ノーム様が共鳴したことが原因かしら」

ティアラローズは真剣な表情でルチアローズを見て、これ以上何も起こらないでくれと祈る。

「もう一度、指輪を作るのはどうですか?」

「……指輪がルチアちゃんの魔力に耐えられなくなってるみたいだから、新しいのにしてもすぐ同じ状態になっちゃう。これは、もっと根本的な解決をしなきゃ駄目そう」

ダレルの提案にアカリは首を振って、ほかにいい方法はないだろうかと考える。このままでは、共鳴しなくとも魔力が暴走してしまいそうだ。

「かといって、こんな便利なアイテムはそうそうないし……」

「わたくしがルチアの魔力を受け取れたらいいのに」

「どこかに、魔力を求めているアイテムでもあればいいんですけどね……」

三人が悩みながら言葉をもらし――アカリがかッと目を見開いてダレルの手をぎゅっと握った。

「それよ!!」

「え?」

勢いよく食いついてきたアカリに、ダレルが一瞬後ずさる。が、そんなことで手を放すアカリではない。

「丁度いいものがあるじゃないっ!」

「え? ……アカリ様、もしかして」

「そう、そのもしかして! ですよ、ティアラ様」

ティアラローズの顔から、一瞬で笑顔が消えた。

それを見たダレルがびくっと震えたが、すぐにアカリを見てその理由を問う。

「ティアラお姉様の反応を見る限り、あまりいい案ではないような気がするんですが……」

遠回しに、止めた方がいいのでは? と、ダレルが言う。

「でも、それ以外に方法なんてないと思うけど……」

「その方法って、なんですか?」

意を決して聞いたダレルに対して、アカリはにんまり笑ってみせた。

「もちろん、その炎霊の鉱石にルチアちゃんの魔力を吸わせちゃうのよ!」

***

「ん……?」

「どうしたんだ、アクア」

「いや、なんだか悪寒がしたんだが……気のせいか」

自分のあずかり知らぬところで、何か起こりそうな……そんな予感のような。そして、ティアラローズの下にアカリを呼んだのは失策だったのではと考えてしまった。

無事に鉱石の城に到着したアクアスティードとキースは、ノームを捜しはじめた。しかしどうやら、鉱石の城にはいないようだ。

「となると、ん? シルフの魔力があるな」

キースが気配を辿ると、街のはずれにいなくなったシルフがいるという。何をしているのかはわからないけれど、もしかしたらノームと一緒にいる可能性もある。

二人はシルフの下へ走った。

天高くへ向けて煌々と燃えていた炎は、今や随分みすぼらしい姿になってしまった。

炎霊の鉱石の炎は小さくなり、焚火程度しかない。

『…………』

ノームとシルフはその火を見るのと同時に、亀裂のような音を耳でとらえた。炎霊の鉱石で作っているこの国が、崩れ落ちようとしているのだろう。

「おい、どうなってるんだこれは!」

『キース様!』

アクアスティードとキースがやってきたのを見て、シルフはぱっと顔を輝かせるも……すぐに眉を下げた。

さすがに、キースが来たと喜んでいる場合ではない。

「それが炎霊の火……?」

「ずいぶん小さいな」

アクアスティードの疑問と、キースの探るような言葉遣い。

ノームは観念したのか、『……もうすぐ消えてしまうんです』と告げた。けれど、それだけではなくて。

『この国も一緒に、滅ぶんです』

「何……?」

「はぁ? お前、巻き込んで自爆でもしようってのか?」

眉を顰めるアクアスティードと、問い詰めるキース。けれどノームはあきらめてしまったのか、その表情を変えるようなことはしない。

それが、さらにキースを苛立たせる。

「お前……」

『待って、キース様!』

しかし、キースとノームの間にシルフが割って入った。その目には涙が浮かんでおり、フィラルシア王国の王城で見た彼女とは別人のようだ。

『お願い、この国を……ノームとドワーフを助けて』

「シルフ?」

アクアスティードとキースは、エルリィ王国の建国と炎霊の鉱石に関する話をシルフから聞いた。

途中でノームからの補足が何度か入ったが、つまるところ、炎霊の鉱石が消えるとこの国ごと崩れ落ちて生き埋めになるということだ。

想定していたよりも、事態は深刻だ。

アクアスティードは、炎霊の鉱石に視線を送る。

本来であればかなり大きく光燃えていたのだろうが、今ではその火が消えそうなほどか細い光になってしまっている。

「これに触れると、本当に魔力が吸い取られるのか……?」

『……う、うん』

ノームの返事を聞き、アクアスティードが試しに触れてみる。すると、確かに魔力を吸い取られた。

しかし炎霊が光ったのは一瞬で、すぐにその光は抜け落ちた。

どうやら、吸収し、蓄えて置ける力は『火』に限定されているようだ。

「火の魔力が必要だっていうノームの言葉は、本当みたいだな」

キースは舌打ちをしつつ、「どうする」とアクアスティードに問う。

「俺たちには関係のないことだから、とっとと地上に戻ればいい」

「ああ。そう判断するのが、一番いいだろう」

ノームやドワーフたちには申し訳ないけれど、アクアスティードは大国マリンフォレストの王だ。

ここで生き埋めになって死ぬ可能性があるのなら、すぐにでも脱出しなければいけない。しかし同時に、ここでドワーフたちを見捨ててはいけないとも考える。

しかし、あとどのくらいで火が消えてしまうかがわからない。もしかしたら、避難が終わらないうちに国が崩壊してしまうかもしれない。

「……うだうだ考えていても仕方がない。すぐに避難指示を出す。シルフ様は、フィラルシア王国側との――そうか、エメラルド姫がいないと無理か」

シルフはエメラルド以外の王族と一切の交流がないため、彼女がノームに囚われている今は橋渡しをすることが出来ない。

「ノーム、エメラルド姫の解放を。彼女には、ドワーフたちが避難出来る場所を用意してもらう」

『……シルフはお願いを聞いてくれないし、わかったよ』

ノームがパチンと指を鳴らすと、地面からエメラルドの入った鉱石の牢屋が出てきた。

「――っ!? シルフ!! それに、アクアスティード陛下にキース様も!」

『エメラルド! よかった、無事だったのね』

すぐさまシルフがエメラルドの下に駆け寄ると、牢屋の扉が開いてエメラルドはすんなりと解放された。

しかし次の瞬間、エメラルドとシルフの立っていた地面がひび割れた。

「きゃあっ!」

エメラルドがそのひび割れに落ちそうになって、シルフがとっさに突風を吹かせる。すると、エメラルドの体が宙に浮いた。

落ちなかったことに安堵するのもつかの間で、一瞬でシルフの顔が青ざめる。

「シルフ! わたくしは助かりました――どうしました?

『嘘でしょっ!? ごめんなさい、キース様……。私が今、魔法を使ったから……共鳴、しちゃった……みたい』

「――っ!?」

最悪の想定に、キースは「クソが」と暴言を吐き捨てる。

そしてさらに最悪なのは――エルリィ王国が埋まり、炎霊の鉱石すらもなくなってしまうことだ。

「アクア! この状況下でドワーフたちに構っている暇はない! 王として決断しろ、今すぐ地上――ルチアの下へ行くことを」

「ああ。だが、肝心のルチアの魔力をどうにかする方法が――」

「それは俺がどうにかしてやる」

アクアスティードの懸念事項に、キースが間髪入れずに返事をする。

――ドワーフたちを残して行くのは心苦しいが、こればかりは仕方がない。

「わかった。キースを信じて、すぐ地上に――」

戻る。

そう言いかけたアクアスティードだったが、すぐ真上の天井の壁が崩れてきたので言葉が詰まる。

予想以上に深刻な――そう思い、しかし能天気な声に顔をひきつらせた。

「わ~~! 本当に地下に国がある、すごおーい!」

「アカリ様、早くアクアと合流を――」

「ティアラ?」

目の前に現れた妻の姿を見て、アクアスティードは走り出す。そして同時に、ティアラローズの抱く娘の状態に気付く。

「アクア! ルチアの魔力が……っ!!」

「ふえ、ふえぇんっ」

「魔力が暴走しかかっているのか。この状態で、よく持った」

ティアラローズは、急ぎあったことを報告する。

ルチアローズの指輪にヒビが入り、かなり緊急を要したこと。そのため、アカリの炎霊の鉱石に魔力を吸わせた方がいいという提案に乗った。

そして先ほどシルフが使った魔法により、守りの指輪と攻撃の指輪の両方が砕け散ってしまった。

「一生指輪で抑えられるとは思っていませんでしたけど、こんなに早く壊れるなんて予想外です! アクア様、早く炎霊の鉱石とやらにルチアちゃんの魔力を吸わせて下さい!!」

「わかった!」

アクアスティードはティアラローズからルチアローズを受け取り、炎霊の鉱石の下まで行く。そこには、ノームもいる。

『ルチアローズ……』

「……これは、あなたたちを助けるためじゃない。ルチアの魔力が暴走しかかっているから、仕方なくだ」

『それでも構いません。……ありがとう、ドワーフたちの生きる場所がなくならなくてよかった……』

ノームは炎霊の鉱石を手に取り、ルチアローズの前へ差し出す。

ルチアローズは魔力が一気に増えたことにより、苦しそうに浅い呼吸を繰り返している。

『これに触れてください。きっと、その強大な魔力も落ち着く……はずです。いえ、落ち着きます……』

「ルチア、この石に触れてごらん。そうすれば、魔力を吸い取ってくれる」

「あー?」

アクアスティードが優しくルチアローズの手に触れて、一緒に炎霊の鉱石に触れる。すると、爆発寸前だったルチアローズの魔力がぐんぐん炎霊の鉱石に吸い込まれていく。

ああ、よかった。

と、誰もが安堵した。

「ふふっ、私の作戦が大成功!」

「機転が利いてるが、いったいどうやってここまで来たんだ?」

どやああっとしているアカリに、キースが疑問を投げる。そう簡単にこれるような場所ではなかったはずだ。

「地面に穴を掘ってみたら、なんとビンゴ! でしたっ」

「――は?」

ブイサインをするアカリに、キースは頭を抱えたくなった。

「ルチア、頑張って」

「う~~っ」

ティアラローズはアクアスティードの背中に手を添えて、ルチアローズの魔力が炎霊の鉱石に吸収されていくのを見守る。

つい先ほどまでは、ティアラローズもピリピリしていたルチアローズの魔力を感じていたけれど、それがだいぶゆるくなった。

――よかった、大丈夫そう。

ほろりと涙が零れそうになったティアラローズだったが、しかし次の瞬間に起ったことを目にし――目を見開いた。

炎霊の鉱石が、ルチアローズの巨大な魔力に耐え切れず……砕け散ったのだ。

『――はい?』

ノームは目が点になった。