軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14. ゲームとは違う結末

ティアラローズは、アクアスティードから今後についての説明を受けた。

帰国するのは10日後。その際、ティアラローズも花嫁修業のために連れて帰ること。

ほっと安心したのもつかのまで、すぐにフィリーネが最終チェックを行い、クラメンティール侯爵と綿密に段取りを組み始めた。

そこまで細かくしなくてもいいのに、と。ティアラローズはそんなことを思ってしまうが、嬉しくてうきうきしているのも事実だ。

――アクア様がヒロインと婚約をしなくて、本当に良かった!

今日はこの一言に尽きるのだ。

アカリとハルトナイツに断罪をされたティアラローズは、もちろん傷ついてはいる。けれど、それは所詮ゲームのシナリオにすぎない。

アクアスティードに大切にされるようになったティアラローズは、そう考えるようになった。

しかし、そう安堵できたのもつかの間。

予想にしていなかった展開は、真夜中にやってきた。

「……ん?」

ティアラローズが眠りについていれば、自室にまばゆい光が走る。

一瞬のことだったが、同じ室内に居たティアラローズが目を覚ますには十分なものだった。

「この魔法って、国内なら転移が使えるのね。便利。……あぁ、こんばんは」

「……アカリ様?」

一瞬にして、ティアラローズの自室に現れたのは城に居るはずのアカリだった。

このゲームのヒロインである彼女は、軟禁に近い形で保護されていたのではなかったのか。

「私、それはもう色々と考えたの」

――どういうつもり?

ティアラローズがアカリの名を呼ぶが、彼女は気にせず話を進める。それに眉を寄せながらも、ベッドから体を起こしアカリに向き合う。

「ティアラ様。――あなた、日本人でしょう?」

「……っ!」

「だって、ゲームと違ったのはティアラ様だけだったもの。ハルトナイツ様も、モーグリスお兄様も、クリフ様も、先生も、みんなみんな。イベント通りだった。それなのに、最後はまったく上手くいかなかった!!」

彼女がいき着いた結論は、ゲームと違う展開にしたティアラローズが自分と同じ存在だということだ。

確かにそれは間違ってはいない。しかし、転生したティアラローズをきっぱり日本人とするのは正しい認識なのだろうか。

髪の色も、目の色も。日本人ではないのに。

「えぇと……。アカリ様、わたくし、どういうことだかわからないのですが」

「とぼけなくてもいいです。せっかくハルトナイツ様と結婚して幸せになる予定だったのに、私が1番好きなアクア様が出てくるなんて。もう、びっくりして……! 続編のメイン攻略対象だったから、2番目に好きなハルトナイツ様をって思ったのに。アクア様と結婚出来るのなら、アクア様がいいに決まってるのに!!」

つまり、アカリはハルトナイツよりもアクアスティードの方が好きだということだ。

ここへきたのは、アクアスティードと別れろと、そう言うためだろうか。ティアラローズがそう考えたところで、アカリは静かにティアラローズを見た。

「……?」

「…………」

いったい何だと。そう訝しみながらも、ティアラローズはとりあえず困ったように首を傾げておく。

しかし次の瞬間、アカリの言葉で体が大きく揺れた。動揺、したのだ。

「ティアラ様は、続編のことをほとんど知らないでしょう? マリンフォレストに居る可愛いヒロインも、アクア様のイベントも」

それは、続編の内容を知らないティアラローズにとって、喉から手が出るほどに欲しかった情報だ。特に、アクアスティードを攻略するであろうヒロイン。

ティアラローズの反応を見て、アカリは「やっぱり!」と笑う。

「かまをかけてみたんだけど、引っかかってくれて嬉しい。でも、ティアラ様の外見はゲームのティアラローズと同じ。どういうこと?」

「……転生、ですね。わたくしは、日本人としてこのゲームをプレイした記憶がある。それだけよ」

観念したようにティアラローズが話せば、「ふぅん」とアカリは感心したように頷いた。

「ということは、前世が日本人ってことだよね? ん、ん、んー?」

「?」

「続編をプレイしないで死んじゃったってこと……?」

「…………そうね」

何かを考え、アカリは前世のティアラローズが死んだときのことを予測する。今更隠すようなことでもないので、素直に頷けばアカリは酷く驚いた。

口元に手を当てて、「そんなのありえない」とぶつぶつ呟いた。

そんなに驚かれても、もう死んでしまったことなので仕方がない。どうしようもないのだから。

――そりゃぁ、私だって続編をプレイしてアクア様のスチルを集めたかったわよ!!

それはもう、切実に。さぞ美しいスチルやときめくイベントがたくさんあったに違いない。

しっかりとプレイしたアカリに若干の殺意をいだきつつ、「ほっといて」と言葉を投げる。――が、アカリはそんなことを聞いてはいない。

突然ティアラローズの下へ行き、がしっと手を掴んだのだ。そして若干の涙を目に浮かべて、早口で語りだしたのだ。

「可哀想! ティアラ様、続編をプレイしていないなんて可哀想です!! あんなに素晴らしい乙女ゲーム、他にはないのに! もちろん、ハルトナイツ様も素敵だけど……。それでも、アクア様はもっともーっと素敵なの。続編のヒロインは、公式の名前やキャラ付けがしっかりしているの。アイシラっていうマリンフォレストの公爵令嬢なんだけど、アクア様が無理矢理国に決められた婚約者にうんざりしていたとき、海で出逢うの。そのスチルもすっごーく素敵で、何度プレイしたことか。私みたいに、平民から伯爵の養女になるわけでもないから生活も安定しているし……。どうせなら、続編ヒロインのポジションでこの世界にきたかった! はぁ……」

「…………」

思わずティアラローズがドン引くほどに、アカリは喋った。いったいどこで息継ぎをしていたのだと思うほどに、アクアスティードが好きだと語る。

しかしその中には、ティアラローズが知りたかった続編ヒロインの情報を知ることが出来た。それだけでも僥倖だ。

「ええと。それで、アカリ様はなぜここへ?」

「んっ? あ、そうだった。実は私、ハルトナイツ様との婚約が正式に決まったの」

――うん。知っています。

「でね? ティアラ様も知っているとは思うけど、私は聖なる祈りを使えるの」

「…………」

「だから、それをアクア様に伝えれば問題なく大好きなアクア様と結婚出来るの。この力が、この世界でどれほど重要なものかはティアラ様も知っているでしょう?」

うんうんと頷きながら、アカリは自分の計画を話していく。

そしてティアラローズは、自分が知っている情報の穴に気付く。

――アクア様は、アカリ様が聖なる祈りを使えるということを知っているのだろうか。

昼間に話を聞いた時は、その点については何も聞かなかった。ハルトナイツとアカリの婚約が決まったこと、ハルトナイツが国王にならないこと。それを聞いただけだ。

なぜ、アカリを婚約者にしたかという理由までは聞かされていない。もちろん、不安そうにしていたティアラローズに気を使った可能性もある。

けれど、アクアスティードが知らないという可能性もある。ティアラローズは、その2つの可能性を考えて不安に震えた。

「だから、ティアラ様はアクア様と別れてください」

「嫌」

率直に別れろと告げたアカリに、しかしティアラローズも瞬時に言葉を返した。むしろ、すぐに言葉が出たことにティアラローズ自身が驚いた。

「……っ! なんで? 良いじゃない!! だって、ティアラ様は続編をプレイしていないでしょ? だったら、私より全然アクア様に思い入れがないじゃない。私はアクア様が大好きで、それはもう何度もプレイしたのに!」

突然声を荒げ、「そんなのおかしいでしょ!」とアカリが吠える。

けれど、そんなことを言われて黙ったままでいられるティアラローズでもない。何を言っているのだと、厳しい目でアカリを見る。

「アクア様はゲームではない。この世界に生きている、1人の人間よ!」

「だから何? そんなの、もちろん私だってわかってる」

「その考えは、アクア様の意思を無視したものじゃない」

「……何を言っているの? アクア様は王族で、私は聖なる祈りを持つ者よ。結婚するのなんて、この世界では常識じゃない」

アカリの言葉に、ティアラローズはぎりっと唇を噛み締める。

聖なる祈りを所有するものと王族の婚姻は、この世界にとって当たり前すぎる常識だ。アカリの言葉は無茶苦茶であるが、この世界の理にはかなっているのだ。

「ほら、何も言えないでしょう? それは、ティアラ様もちゃんとわかっているから。大国の王太子であるアクア様なら、私を手に入れるという判断をくだすことは間違いない」

「……けれど、アカリ様はもうハルトナイツ殿下と婚約をしているじゃないですか。それを、大国が横からかっさらうような真似は出来ないわ」

「……私は、婚約に関してまだ頷いていないの。勝手に国王が決めただけ。だから、アクア様にこの力のことを話して保護をしてもらえればいいの。だから、そう――……」

保護という形でマリンフォレストへ行き、その後アクアスティードと結婚をするというアカリ。そう簡単にこの国から逃げられるものではないが、大国の王太子であるアクアスティードならばそれも可能だろう。

突然の展開は、再びティアラローズに不安を与える。

不敵な笑みを浮かべたアカリは、すっと手を前に出してティアラローズに向ける。

――何? この感じは、魔力を使おうとしている……?

はっとして、しかしヒロインであるアカリは膨大な魔力を所有している。逆に、悪役令嬢ポジションであるティアラローズは魔力が多いわけではない。

チリリと、アカリの手から雷が走る。びくりと体を揺らし、ティアラローズは後ずさる。防ぐ手だては何もない。

例え防御魔法を使ったとしても、魔力の差が大きいため防ぐことは出来ない。

「ティアラ様が怪我をされて、婚約解消。という、シナリオはどうかって考えたんですよね」

「……っ」

にこりと微笑むアカリは、それはイイ笑顔と言えた。

ティアラローズは解決策がないまま下がり続ければ、部屋の壁に背中がぶつかる。隣にある扉から次の部屋に行けばいいのだが、いつ攻撃魔法がくるかわからず背を向けられないでいる。

「大丈夫、ちょっと怪我をするだけですから。私とアクア様のために、数ヶ月寝込むくらいですから安心してください」

「そんなの、許されるわけないでしょう!」

「私はヒロインなんですから、本当に本当の最後はちゃーんとハッピーエンドになるんですよ」

バチリと雷が大きく光り、「私とアクア様の幸せのために、お願いしますね」と。アカリの口がそう言葉を紡ぐ。

「雷よ、轟け!」

「きゃっ、……っ!」

アカリの声に応えるように、大きな雷が光の筋となりティアラローズへと一直線で向かう。防ぐ手だてがなく、手で体を庇うようにするが効果がないことなんてわかりきっている。

衝撃に備えてぎゅっと目を閉じたティアラローズだが――その衝撃はこなかった。

「え……?」

いったいどういうことだと、そっと目を開く。

そこで視界に入ったのは、優しくティアラローズを守る結界の魔法。もちろん、ティアラローズはこのようにアカリの魔法を完全に防ぐ結界魔法なんて使えはしない。

では、誰が――?

「間に合って良かった」

「アクア様!」

ぎゅっと、アクアスティードが後ろからティアラローズを抱きしめる。

どうやら扉から部屋に入ってきたようで、後ろには父親の姿もあった。

どうしてアクアスティードがここにいるのかとか、アカリを選ばれてしまうのかとか、攻撃魔法で死んでしまうのではとか、そんな気持ちはもうどこかに飛んでいた。

アクアスティードが助けにきてくれたという、それだけで十分に満たされたのだ。

「これはいったい……。まさか本当にアカリ様がいらっしゃるとは」

「アカリ嬢、もちろん説明をしてくれるね?」

「…………」

突然現れた愛しのアクアスティードとクラメンティール侯爵に、アカリは驚いた。

確かに騒いでしまったから、同じ屋敷に住むクラメンティール侯爵が駆けつけるのはわかる。だが、アクアスティードが住んでいるのは城なのだ。この場にくることはありえない。

「どうして……」

そのため、アカリの口から漏れたのは疑問の言葉。

厳しい瞳で見てくる2人に、しかしアカリはすぐに本来の計画を思い出した。

「違うんです、アクア様! 私、聖なる祈りの力に目覚めたんです。ですが、ハルトナイツ様と無理矢理婚約をされそうになって……。アクア様、助けてください。私は、この国に居たくないんです。アクア様の国に連れて行ってください」

間違いなく自分は役に立つし、大国であるマリンフォレストの利益になるという自信がアカリにはあった。

なので、アクアスティードがアカリを聖なる祈りの使用者だと知れば選んでもらえる。それはアカリの中で確信だった。

「何を勝手な。アカリ様は、ハルトナイツ殿下を好いているだろう? 今更そのようなことを言っても、誰も信じはしない」

「クラメンティール侯爵は黙っていてください。私は、アクア様とお話をしているのです!」

遅れて部屋に入ってきたクラメンティール侯爵に、アカリは強気に言葉を返す。

早く自分を選べと、アカリは真っすぐにアクアスティードを見つめた。

そんな中、とてつもない恐怖がぶり返しているのはティアラローズだ。

アクアスティードがアカリを選ぶのではないか。もしくは、保護と称してアカリだけを国に連れて帰るのではないかと。

そんな嫌な考えだけが頭の中を巡った。

「アクア様はご存知なかったと思いますが、私は先日、聖なる祈りに目覚めたのです。ですから、私をマリンフォレストに連れて行ってください。私が居れば、国はさらに発展し栄えるでしょう」

「駄目、そんなの……!」

「ティアラ?」

早く私の手を取れと、そう言わんばかりのアカリの言葉に反応したのはティアラローズだ。

とっさに拒否の言葉を返し、ぎゅっとアクアスティードの服を握りしめた。それに優しく言葉を返すのはもちろんアクアスティードで、あやすように頭を撫でる。

「知っているよ」

「え――?」

静かなアクアスティードの声に、ティアラローズとアカリが同時に声を漏らす。

一瞬にしてしんと静まり返った部屋の中で、アクアスティードの言葉はよく通る。

「アカリ嬢が、聖なる祈りの所持者だということはもちろん知っている」

「なら、どうして私を婚約者にしてくれなかったんですか……?」

「――あまり、舐めてもらっては困る。私は別に、 聖なる祈り(そんなもの) がなくても国を発展させることくらい出来る」

「……っ!」

その場に居る誰もが、息を飲む。

大国の王太子であるアクアスティードの言葉は、とても重く、静かで、それでいて威厳があるのだ。

「だから、別に アカリ嬢(貴女) はいらない」

はっきりと拒否をするアクアスティードは、その場に衝撃を与えた。

聖なる祈りをいらないと断言したのだ。どの国も喉から手が出るほどに欲しい存在を、アクアスティードはいらないとあしらった。

「私には、ティアラがいるからね。ティアラ以外の女なんて、必要はない」

「あ、アクア様……」

「助けに来るのが遅くなってしまってごめんね?」

優しく微笑んで、宝物に触れるようにアクアスティードは額に唇を落とす。

そしてティアラローズを横抱きにして、守るように抱きしめる。「間に合って良かった」とアクアスティードから言葉が漏れたが、その言葉は小さすぎてティアラローズの耳には届かない。

「嘘……。そんなの、嘘。私が選ばれないなんて、そんなこと……」

「――捕らえろ」

床にしゃがみ込み呆然と言葉を繰り返すアカリを見て、アクアスティードは冷えた声で命令をくだす。

すぐさま数人の騎士が部屋へと入り、アカリを捕らえた。魔力を作動できない魔導具を設置し、城へと連行をする。

嫌だと叫ぶのかとも思ったが、アカリは抵抗などもせずに大人しく連れられて行った。大好きなアクアスティードに拒絶されたことが、酷く堪えたのだ。

「ありがとうございます、アクア様」

「無事で良かった。怪我はない?」

「はい。アクア様が来てくださったので、怪我はありません」

ふわりと微笑んで、ティアラローズはアクアスティードの胸に頭を預ける。緊張した状態がとけ、一気に疲れが出てしまったのだ。

いけないと思って頭を起こそうとするが、それをアクアスティードに制される。

「?」

「そのままで。こんなことがあったのだから、もっと甘えてくれてもいいくらいだ」

――それに、お姫様抱っこ……。恥ずかしいけど、嬉しい。

どきどきとして、あまり甘えるのも……と、そう思っていたティアラローズ。我がままを言ってアクアスティードに嫌われるのをずっと恐れていたのだ。

国外追放される予定だった悪役令嬢のティアラローズ。自分の行動のすべてが、実はとても怖かった。

でも、それももう安心。

アクアスティードはこの場ではっきりと、アカリではなくティアラローズを選んだのだ。この上ないこの気持ちはなんて表現すればいいのだろうか。

――幸せ、かしら。

そんなことを思って、ティアラローズはやっと心の底から笑うことが出来た。