軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7. ぬいぐるみ事件

午前中は自室でアクアスティードと二人のんびりすごし、昼食後に改めて家族など親しい身内だけでお祝いをすることになった。

これからは食べ過ぎもよくないけれど、今日は特別だと様々なスイーツがティアラローズの目の前に並べられた。

フルーツたっぷりのタルトに、マドレーヌやマカロン。シュークリームに、ワッフル。ティアラローズがシェフに教えていたレシピと、そこからさらにアレンジしたであろう力作たち。

「わあぁっ、どれも美味しそう……!」

「ティアラローズ様のために、料理人たちが張り切って作ったんですよ。今日は好きなだけ召し上がってくださいませ」

「後でお礼を言わないといけないわね」

ティアラローズが席に着くと、フィリーネがフルーツティーを用意してくれた。爽やかな香りが、よりスイーツ欲をそそる。

食堂にいるのは、主役であるティアラローズとアクアスティード。フィリーネ、エリオット、シュナウス、イルティアーナ、ダレルの七人だ。

「本当にめでたいな。おめでとう、ティアラ」

「おめでとう、ティアラ」

「ありがとうございます、お父様、お母様」

嬉しさで涙ぐんでいるシュナウスに、穏やかに微笑むイルティアーナ。そしてシュナウスが机の上のベルを鳴らすと、何人もの使用人がぬいぐるみを抱えてやってきた。

「……え?」

「子どもにはおもちゃが必要だろう? 可愛い孫へのプレゼントを選ぶのはとても楽しいな!」

「お父様……」

屋敷の修繕では飽き足らず、いつの間にか大量のぬいぐるみまで買いに行っていたようだ。その数は、ゆうに両手の指の数を越えている。

気が早すぎると、その場の誰もが思ったがにこにこ嬉しそうなシュナウスには誰もつっこむことは出来なかった。

――こんなにたくさんのぬいぐるみ、全部は持って帰れないわね。

呆れたティアラローズではあるが、シュナウスの気持ちは嬉しいもので。何個かはマリンフォレストへ持ち帰り、残りは実家に置いておくのがいいだろう。

次に、緊張した面持ちのダレルがティアラローズのところへやってきた。

「おめでとうございます、ティアラお姉様」

「ありがとう、ダレル。子どもが生まれたら、一緒に遊んでちょうだいね」

ティアラローズがそう言うと、ダレルは目をぱちくりと瞬かせたあとにこくりと頷いた。

次に、フィリーネとエリオットが改めて祝いの言葉を口にした。

「おめでとうございます、ティアラローズ様」

「おめでとうございます。これは私とフィリーネからです」

そう言って、満面の笑みの二人がティアラローズに渡してきたのは、正方形の箱だった。レースとリボンでラッピングがされている。

「ありがとう、二人とも。何かしら?」

ティアラローズがアクアスティードと一緒にラッピングをほどくと、中から出てきたのは赤ちゃん用の前掛けだった。

色は白で、草花の刺繍がされている。森の妖精たちから祝福されているティアラローズの子どもにとても似合うだろうと選んでくれたらしい。

――みんな、気が早すぎるんだから。

そう考えて、くすりと笑みが零れる。

「とっても可愛い。一番に使わせてもらうわ。ね、アクア様」

「そうだね。みんなに祝福されて生まれてくるこの子は、きっと幸せだ」

改めてティアラローズとアクアスティードからお礼を伝え、ゆったりとした身内だけのお茶会が始まった。

ティアラローズとアクアスティードのお祝いの場ではあるのだが、ティアラローズはダレルともっと仲良くなりたいので隣に座って話をすることにした。

「ダレル、これはわたくしが料理人にレシピを教えて作ってもらったお菓子なんですよ。気に入ってもらえたら嬉しいけれど……」

そう言って、ティアラローズはシュークリームをダレルに差し出す。

ふわふわのシュー生地と、たっぷり入ったクリーム。間違いなく絶品で、ティアラローズはぺろりと五個くらいなら簡単に平らげてしまう。

「ありがとうございます、ティアラお姉様。このお菓子は初めて見ました」

「ど、どうかしら……?」

ぱくりと食べたダレルを見て、気に入ってもらえるだろうかとドキドキする。甘いものは好きだと言っていたけれど、気に入ってもらえるかはわからない。

ティアラローズみたいにスイーツ全部大好き! というのが珍しく、だれしも好みというものが存在する。

ドキドキ待っていると、あまり表情を変えないダレルの顔に笑みが浮かんだ。

「好きです、これ……ええと、シュークリーム」

「本当? ああよかった! ダレルに気に入ってもらえてとても嬉しいわ」

ほっと胸を撫でおろしたティアラローズは、あれもこれもと、おすすめのスイーツをダレルのお皿に取り分けていく。

それを見たアクアスティードが、「ティアラ」とその手を取る。その表情は、どこか笑いをこらえているようだった。

「まさか、全種類ダレルのお皿に載せるつもり?」

「え? あ……わたくしったら!」

アクアスティードの呼びかけでハッとしたティアラローズは、スイーツを盛りすぎたお皿を見てくらりとする。

――わたくしとしたことが!

ダレルがシュークリームを気に入ってくれたのが嬉しくて、ついつい調子に乗ってしまった。

「ごめんなさいね、ダレル……」

ティアラローズが項垂れるように謝ると、ダレルはふるふると首を振る。そのままにこりと微笑んで、ティアラローズの持っていたお皿を手に取った。

「嬉しいです、ティアラお姉様」

「ダレル……!」

えへへと笑ったダレルに、ティアラローズはきゅんとする。弟とはこんなにも可愛いものだったのかと、感動してしまう。

「なんていい子なの、ダレル!」

「わっ」

嬉しさで、ティアラローズはぎゅっとダレルを抱きしめる。とても優しい弟だ。自分の子どもも、こんな風に育ってほしいと思う。

「アクア様、わたくしの弟はとてもいい子です!」

「そうだね。ティアラが嬉しそうで、私も嬉しいよ」

アクアスティードもくすくす笑って、子どもが生まれたらいい遊び相手にもなってくれそうだと微笑む。

実家にまた帰省したり、両親を含めダレルを招待するのもいいねとアクアスティードが言ってくれる。

そんなやりとりをデレデレしながら見ていたシュナウスが、「ああそうだ」と全員を見た。

「今回の妊娠の件だが、公表するのはティアラの体調が落ち着いてからにする。ラピスラズリでの公表は、マリンフォレストで公表した後がいいだろう」

「ああ、そうですね。私もそれがいいと思います」

王侯貴族の妊娠というものは、体調が落ち着くか、子どもが産まれてから公表することが多い。今は問題ないのだが、昔――後継者争いや戦争があった時代、暗殺などから子どもを守るため生れるまで隠し通していた。

その名残もあって、すぐに公表することはないのだ。

すぐに賛同したアクアスティードを見て、ティアラローズはイルティアーナと顔を見合わせる。少し困った顔で笑っているので、きっと同じことを考えているのだろう。

――あんなに浮かれている二人が、隠せるのかしら?

むしろ、シュナウスは大量のぬいぐるみをうきうきで購入してきている。あっという間に、噂が広がってしまうのではないかと思う。

――たぶん、公表前にばれるわね……。

とはいえ、それもまた思い出の一つになるだろう。子どもが生まれたら、こんなことがあったのよと笑い話にすることも出来る。

ティアラローズは冷たいレモン水を一口飲んで、顔を手で仰ぐ。

「たくさん話をしたからでしょうか? 少し暑いですね」

「もしかして、また微熱――は、ないみたいだね」

アクアスティードがティアラローズのおでこに触れて、簡単に熱を計った。しかし別段熱いわけでもないので、気分が高揚したからだろうと微笑む。

「でも、体調がすぐれなかったらすぐに言うんだよ」

「はい」

頷いて微笑むと、突然――不思議なことが起こった。

「えっ!?」

視界の端で何かが動いた感じがしてそちらを見ると、シュナウスが贈ってくれたぬいぐるみたちが一斉に動き出したのだ。

くま、うさぎ、ねこ、イヌ、ドラゴン……そのぬいぐるみたちは踊るようにくるくる回ったり、机の周りを歩いたり走ったりしている。

その仕草はとても可愛らしくて、思わず目で追ってしまう。

女性陣はぬいぐるみの虜になってしまったが、男性陣はそうでもない。アクアスティードは何かあったらすぐティアラローズを守れるようにしつつ、人形の様子を見る。

「いったいどうなっているんだ!?」

「魔道具……という可能性は?」

驚いたシュナウスに、アクアスティードはどういったぬいぐるみなのか問いかける。もしかしたら、そういうぬいぐるみかもしれないと思ったが……どうやらそうではないらしい。

「いいや、普通の店で買ったぬいぐるみだ。危害はなさそうに見えるが……」

シュナウスはおそるおそるくまのぬいぐるみに手を伸ばして、抱き上げる。すると、くまは嬉しそうに手を動かして見せた。

「まあ、可愛い……」

それを見たティアラローズが思わず呟き、自分も動くぬいぐるみを抱っこしてみたい衝動に駆られる。

ぬいぐるみが動いて一緒に遊べたらいい……そんなことを、女の子であれば誰しも考えたことがあるのではないだろうか。

「ティアラ、駄目だよ?」

「わ、わかっています……!」

うずうずしていたのがばれてしまったのか、アクアスティードから先に注意されてしまった。

「ですが、原因がわからないのは困ってしまいますね」

「可愛いから嬉しいですが、怖くもありますね……」

理由がわからないので、簡単に受け入れるわけにはいきませんねとフィリーネが言う。本当は触ってみたいけどど苦笑しつつ、フィリーネはエリオットを見る。

「エリオットはどう思いますか?」

「そうですね……魔道具でないのでしたら、誰かが魔法で動かしているのではないでしょうか?」

「魔法で?」

エリオットの言葉に、全員がもう一度踊るぬいぐるみたちを見る。魔法で動かすことも確かに出来るかもしれないが、それはきっと簡単な魔法ではなくとても高度なものだろう。

そうやすやす出来る人物なんて、いるだろうか。

――ああでも、お化けの仕業じゃなくてよかった。

そしてふと、こんなことが出来る人物に一人だけ思い当たった。

この部屋にいて、すごい魔法の使い手――そう、ダレルだ。

もしかして、自分たちを喜ばせるためにやってくれたのかもしれない。そう思ってちらりとダレルに視線を向けると。不思議そうにぬいぐるみを見ているだけだった。

「どうやら、ダレルがやった……というわけではないようだね」

「! アクア様もダレルだと思っていたのですね」

「魔法でこんな芸当が出来る人物なんて、そうそういないから。もしかしたら……とね。腕はもちろんだが、発想力やセンスだって必要になってくるはずだ。私には出来そうもないしね」

ダレルであれば圧倒的な治癒魔法の才能、それとぬいぐるみで遊びたいという子どもの発想があるかもしれないとアクアスティードは思ったようだ。

しかしティアラローズ同様、ダレルの様子を見てそれはないと判断した。

――となると、いったい誰が?

アクアスティードは自分には出来ないと言った。続編のメイン攻略対象ということもあり、アクアスティード以上の魔法の使い手なんてそうそういるものではない。

この部屋にいる人間で可能性があるのは、未知数のダレルくらいだ。

――あと考えられるとしたら……。

ヒロインであるアカリ、それからアイシラ。もしくは、同じようにゲームの攻略対象者である人物だろうか。

――でも、ここにはいないし……。

「うぅーん……わかりませんね」

「何かあるといけないから、ティアラはひとまず部屋を移ろうか。ぬいぐるみの対処は、私たちがしておくから」

もし何かあったらお腹の子どもも危険になってしまう。そう考えたティアラローズは素直に頷いて、移動のために立ちあがる。

「その方がいい。原因が分かればいいが、分からない内は安心できないからな……」

「お父様、お気をつけくださいね」

「ああ。ティアラはゆっくり休んでいなさい」

ひとまずアクアスティードが部屋までエスコートしてくれるので、いったんこの場をシュナウスに託す。

しかし、ティアラローズが歩き出すとぬいぐるみたちがとことこと後ろをついてきた。

「ええぇっ!?」

「ぬいぐるみが……」

アクアスティードが咄嗟にティアラローズを背後に庇うが、ぬいぐるみたちはついてくるだけで何かほかの動きをする様子はない。

どういうことだと思っていると、ダレルがぬいぐるみたちの近くへ行った。そして言い聞かせるように、言葉を発した。

「ティアラお姉様はお部屋へ帰るから、もうおしまいですよ」

ダレルがそう言うと、ぬいぐるみたちはピタリと動きを止める。動かなくなって、その場で倒れてしまった。

ダレル以外の全員が大きく目を見開いて、その光景を見る。

「ダレル……ぬいぐるみを動かしていたのは、あなただったの?」

驚いていたからてっきり違うとばかり思っていたのに、そうティアラローズが言葉を続けようと思ったが、「違いますよ」と首を振った。

「赤ちゃんが魔法で動かしていたみたいです。きっと、お父様のぬいぐるみがとっても嬉しかったんだと思います」

「え、赤ちゃんが……?」

ティアラローズは自分のお腹を見て、手で触れる。まさか、赤ちゃんがやっているだなんて考えてもみなかった。

「本当に、この子が……?」

ティアラローズがそう呟くと、まるで『そうだよ!』と返事をするみたいにねこのぬいぐるみだけが立ちあがって長い尻尾を振ってみせた。

「これは、驚いた……」

「まぁ……」

シュナウスとイルティアーナが驚き、フィリーネは「さすがティアラローズ様のお子様!」と感動している。

アクアスティードはお腹に触れるティアラローズの手に自分の手を重ねて、優しく微笑む。

「どうやら私たちの子どもは、想定以上の魔力の持ち主みたいだね」