軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4. ティアラローズの弟

帰省した翌日、ティアラローズはついに養子にした子どもと対面することとなった。シュナウスが連れてくるというのを、アクアスティードと一緒にどきどきしながら待つ。

「……ティアラ、表情が固くなってるよ」

「あ! わたくしったら……緊張してしまって。これから姉になるというのに、駄目ですね」

アクアスティードに頬をつんとつつかれて、ティアラローズは苦笑する。

これから義弟となる子どもと仲良くなれるだろうかと、多少なりとも不安なのだ。もしあまりいい印象を持ってもらえなかったらどうしよう、と。

とはいえ、ティアラローズとしては仲良くしていっぱい甘やかしてあげようとも思っているけれど。

「ティアラの弟なんて、毎日が楽しそうでいいけどね」

「そうですか?」

「だって、私は毎日ティアラといれて幸せだから」

「……っ、また、そういうことをさらっと……」

ティアラローズは熱くなった頬を両手で包み込みながら、アクアスティードの口は砂糖で出来ているんじゃないかと思う。

ふいに部屋にノックの音が響き、ティアラローズはハッと姿勢を正す。「どうぞ」と入室を促すと、シュナウスと、その後ろに子どもがいるのが目に入る。

――わ、綺麗な子……。

予想以上に透明感が高く儚い少年が姿を見せて、思わず息を呑む。

「すまない、待たせたね」

「いいえ。お父様、わたくしの義弟を紹介してくださいませ」

「ああ。さあ、お前の姉のティアラローズだ。ご挨拶をしてごらん」

シュナウスが子どもの背中を優しく押すと、ティアラローズとアクアスティードの前に出てきた。少し俯きがちだったけれど、ちらりとこちらをみてからお辞儀をした。

「初めまして、ダレルです。どうぞよろしくお願いします」

ティアラローズの義弟となった、ダレル・ラピス・クラメンティール。

年のころは六歳で、薄い水色の髪と、青の瞳を持った美しい少年。白を基調とした服装で、黒い膝丈のズボン。首元にはリボンが結ばれている。

何度か瞬きをしたけれど、人形のような彼の表情が動かなかった。挨拶をしてすぐに俯いてしまったので、もしかしたら人見知りなのかもしれない。

ティアラローズはダレルを怖がらせないように、ゆっくりと前まで行き、同じ目線になるようにしゃがむ。

「初めまして、ダレル。わたくしはティアラローズよ。ティアラと呼んでちょうだいね?」

「…………はい。ティアラお姉様」

ダレルがこくりと頷いたのを見て、ティアラローズはほっと息をつく。どうやら、嫌われたということはないようだ。

次に、アクアスティードも同じようにしゃがみダレルへ挨拶をする。

「私はアクアスティード・マリンフォレスト。ティアラの夫で、マリンフォレストの国王をしている」

「お会い出来まして、光栄です。どうぞよろしくお願いします」

アクアスティードの挨拶に、ダレルは丁寧にお辞儀を返す。

まだぎこちない動きだが、きっと緊張しているのだろうとティアラローズとアクアスティードは思った。

ソファに座り、紅茶を用意してもらう。

ティアラローズはダレルと何を話そうかとうきうきしながらも、いきなり質問ばかりして怖がらせてしまうのはよくないと頭を悩ませる。

「無事に挨拶が済んで一安心だ。ダレル、きちんと挨拶が出来て偉かったぞ」

「はい」

シュナウスが頭を撫でて褒めると、無表情だったダレルがわずかに微笑んだ。それを見て、ティアラローズはダレルがシュナウスに心を開いているらしいことに安堵する。

どんな経緯で養子となったかは聞いていなかったけれど、ちゃんと親子としての関係は築けているのだろう。

「ダレル。わたくしはそんなに長期間は滞在出来ませんが、お出かけしたりしてたくさん遊びましょうね」

「……はい。ありがとうございます」

ダレルはティアラローズの言葉に頷くも、その顔は入室当初の無表情へと戻ってしまっていた。

――いきなり誘ったのは駄目だったかしら?

ティアラローズがしゅんと肩を落とすと、それをフォローするようにアクアスティードが口を開く。

「私はダレルの義兄になるね……。同じ男同士、何かあればいつでも頼ってくれて構わないよ。とはいえ、近くにとても頼りになる義父さんがいるけれど」

そう言って笑うも、ダレルはティアラローズのときと同じように頷くだけだった。とはいえ、無理やり距離を詰めるようなことはしない。

少しずつ仲良くなっていこうと、ティアラローズは考える。養子になったばかりで、まだこの家に慣れるだけで精一杯なのかもしれない。

「そうだ、ダレルは何か好きなものはあるかしら? わたくしは、お菓子が好きなのよ。作るのも得意だから、ダレルにもケーキを作ってあげようと思うのだけれど……甘いものは好き?」

そんなときはスイーツの話題だと、ティアラローズは気を取り直して笑顔で話しかける。

ダレルはぱちくりと目を見開き、こてんと首を傾げた。どうやら、ティアラローズへの返事を考えてくれているらしい。

しばらくの沈黙のあと、ダレルはこくんと頷いた。どうやら、お菓子や甘いものは好きな部類に入るようだ。

そのことに、ティアラローズはほっとする。

――よかった、一緒にスイーツを楽しむことが出来るわね!

なんて思ったのは束の間で。ダレルがシュナウスのことをちらりと見て、ソファから立ち上がった。

そしてそのまま深くお辞儀をして、部屋から出ていってしまった。

「………………え?」

もしかして、スイーツの話は駄目だったのだろうかと、ティアラローズが震える。

「ああ、大丈夫だよティアラ。ダレルはまだ不慣れなだけで、きっとどう接していいのかわからないだけだろう」

「そうかもしれませんが……」

「……もしかして、ダレルの出自か何かに理由があるんですか?」

それでも寂しいとティアラローズが思ったところで、アクアスティードがシュナウスを見た。

さすがに、貴族の子息を養子にしたにしては様子がおかしいと考えたようだ。シュナウスは大きく息をつき、ティアラローズとアクアスティードを見る。

「アクアスティード陛下にはお見通しですな」

シュナウスの言葉に、ティアラローズも「どういうことですか?」と眉をひそめる。

てっきりどこかの貴族の三男、四男あたりを養子に迎え入れたのだと思っていた。けれど、シュナウスの様子を見るとそういうわけではなさそうだ。

でも、そうでなかったら誰?

そう考え、ティアラローズはもしかしてと目を見開く。

――まさか、存在を隠されていた王族!?

生まれてすぐ捨てられて、庶民として育てられた――なんて、実に乙女ゲームらしいストーリーではないか。むしろ、高確率で出てくる設定だ。

絶対に間違いないぞと、ティアラローズは確信する。きっとこれからシュナウスが説明してくれるだろうが、驚かずに聞くことが出来そうだ。

ティアラローズはゆっくり呼吸を落ちつかせる。

「お父様、ダレルのことを教えてくださいませ」

「……ああ、もちろんだ」

シュナウスは頷き、ゆっくりと話し始めた。

「ダレルは、どうやら魔法使いの弟子のようだ」

「…………え?」

捨てられた王族だと思っていたティアラローズは、ぽかんとしてシュナウスを見る。が、シュナウスの話は続いた。

***

遡ること、数か月前。

シュナウスはイルティアーナを連れ、郊外の花畑へと出かけていた。未だラブラブな二人は、休日にこうして出かけることも珍しくはない。

「シュナウス様、こちらにとても綺麗な花が咲いていますよ」

「んむ、いいものだな。これはイルティアーナの色に、あっちはティアラの色に似ているな」

「まあ、シュナウス様ったら」

ご機嫌な様子のシュナウスを見て、イルティアーナが笑う。

二人は花畑の近くに座りお茶を楽しんでいると、遠くから『ウ~』と何かが吠えるような声が聞こえてきた。

「何……?」

「イルティアーナ、私の後ろに。すぐ、状況を調べてくれ」

シュナウスはイルティアーナを庇うように立ちあがり、従者へ現状を確認させる。護衛の騎士も一緒にいるから、よっぽどのことがない限り危険はないだろうが……。

「シュナウス様……」

不安そうなイルティアーナの声に、シュナウスは大丈夫だと言うように微笑んで見せる。

「きっと犬か何かだろう。しかし野犬は危険だから、念のため馬車の中で待機しよう」

「……はい」

「何、騎士がすぐに対処してくれる。そう不安がることはな――ッ、イルティアーナ!!」

がさりと後ろから大きな音がして、シュナウスは咄嗟にイルティアーナを抱きしめる。その瞬間、こちらに向かって一匹の狼が飛び出してきた。

『ガウウウウゥッ!』

「うぐ……っ、!」

「きゃああぁぁ! シュナウス様!!」

イルティアーナを庇ったことにより、狼の牙がシュナウスを襲った。ちょうど右腕を狼にかまれ、血が流れる。

「誰か、シュナウス様が……っ!」

「シュナウス様、イルティアーナ様!!」

すぐに駆けつけてきた護衛の騎士がその剣で狼を倒す。あっという間の出来事だったが、イルティアーナはいろいろなことが起こりすぎて思考が追い付かない。

それよりも、何よりも――

「シュナウス様!!」

血を流して苦しんでいる自分の夫をすぐに助けなければと、声をあげる。今は助けに来るのが遅かった護衛騎士を叱っているような場合ではない。

「……大丈夫だ、イルティアーナ。噛まれただけで、そんな大事ではない。それよりも、お前に怪我がなくてよかった」

「もっとご自分を大切にしてくださいませ、シュナウス様……」

「なぁに、お前は私の宝物だからな。守るのは当然だ」

優しく微笑むシュナウスを見て、ひとまず命に別状はなさそうだなとほっとする。とはいえ、このままほおっておいたら悪化してしまう。

「早くお医者様を連れてきてちょうだい!」

「す、すぐに――」

護衛騎士が走り出そうと後ろを向いた瞬間、ソレは視界に現れた。

「怪我、したの?」

そのときに現れたのが、ダレルだった。

***

シュナウスは紅茶で喉を潤わせて、続きを話す。

「いや、あのときは本当に驚いたよ。ダレルは、治癒魔法を使って私の腕の怪我を治してくれたんだよ」

「ダレルにそんな力が……?」

「驚いたな……」

治癒魔法というのはとても難しく、使える人間は珍しい。アカリが聖女の祈りとして治癒魔法を使うことが出来るけれど、それを除くと国に数百人しかいないだろう。加えて、完全に治せるレベルだと数人……といったところだろうか。

「私たちは、治癒魔法のお礼にダレルを屋敷に招いたんだ」

「そうだったのですね……」

「ただ、ダレルがいったいどういう人間なのかはわからなかった」

ダレルの素性はいくら調べてもわからず、本人もあまり自分のことを話さない。きっと、孤児として辛いながらも精一杯生きてきたのだろうとシュナウスとイルティアーナは思ったのだという。

それからしばらく一緒に暮らしてみて、口数は少ないが心根の優しい子だったので養子にしたのだという。

「しかし治癒魔法の腕前がすごいから、孤児ではなく魔法使いの弟子だったのではないかという話になってな。そっちの方が少しは気持ちが楽になるかもしれないと思い、ダレルが何も言わない間はそう思うようにしているんだよ」

「お父様もダレルのことを詳しくはご存知ではないのですね」

「ああ。だが、いい子だということはわかっているから、これからゆっくり親子としての距離を縮めて行こうと思っているよ」

そう言ったシュナウスは、すでにダレルの父親としての顔をしていた。