軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13. 炎と水の祭典:前編

魔法で盛大な花火が打ち上げられて、炎と水の祭典の始まりを告げる。

サンドローズで年に一度、宮殿の広場で夏に行われるお祭りだ。本来であればオアシスの恵みに感謝し祈るためのものだけれど、今回は違う。

目覚めたサラマンダーが再び眠るための魔力を与えるという、重要な役目があるからだ。

もし失敗してサラマンダーが魔力を得られなければ、サンドローズは制御下を離れたサラマンダーの魔力によって、灼熱に包まれ死の都へと姿を変えるだろう。

サラマンダーが目覚める今回の祭典には、ティアラローズを始め各国の王族たちが招待されている。それだけ気合いが入ったものになっているのだ。

設置された祭典の舞台を見ながら、ティアラローズは無表情になっている。その理由は、体が未だ元に戻っていないからだ。

アクアスティードの隣に座っているため、「可愛いお子様ですね」と各方面から挨拶をされてしまった。

「ティアラ、もうタイムオーバーだよ」

後の対応はサラヴィアに任せた方がいいと、アクアスティードに言われてしまう。

しかし、ティアラローズもそれだけは了承出来ない理由があるのだ。自分の代わりにサラヴィアが死ぬなんて、受け入れられるはずがない。

どうしようどうしようと、寝る間際までずっと考えて出した結論が一つある。

このままでは自分もサラヴィアもアクアスティードも幸せになれないので、折衷案を……ということだ。

もちろん受け入れてもらえるかはわからないけれど、そうなったらしつこいくらい追いかけるしかない。そして、魔力を一部返してもらい、また回復してからサラマンダーに渡しにこようと思っている。

――サラマンダー様もサラヴィア陛下のことを大切に思っているのだから、真摯に話し合えばきっとわかってくださるはず。

でも、もしアクアスティードにちょっかいを出してきたらそのときは戦う覚悟もあるけれど。

「ティアラ?」

考え込んで返事をしないティアラローズに、アクアスティードがもう一度呼びかけてきた。

「えっ! ええと、そうですね、いえ、そうではなくてですね……」

「……もしかしてもしかしなくても、私に何か隠してるね?」

しどろもどろになってしまったためだろう、アクアスティードが確信を持って問い詰める。しかしどう切り出せばいいか困ってしまい、ティアラローズは目を泳がせてしまう。

しかし幸か不幸か、このタイミングで炎と水の祭典の舞が始まった。

まずは砂漠の巫女たちの舞が披露されて、それが終わると皇帝であるサラヴィアの舞だ。皇帝が舞うというのはとても貴重なもので、誰もが息を呑んでその姿を目に焼き付けている。

ティアラローズとアクアスティードも、その美しさに目を奪われる。

仮面舞踏会でアクアスティードと勝負をしたときよりもずっと、幻想的だ。きっとサラマンダーもこの舞を見ているのだろう。

じっと無言でサラヴィアを見つめながら……やはりアクアスティードに黙っているわけにはいかないと、ティアラローズはゆっくり口を開く。

「……どうしても、口に出す勇気が持てなかったんです。けれど、アクア様にお伝えしないわけにはいきませんよね」

膝の上に載せていたティアラローズの手が、わずかに震える。

それを見逃すアクアスティードではない。ティアラローズの手に自分の手を添えて、そっと包み込む。自分が付いているから大丈夫だよと、伝えるように。

「……サラマンダー様が再び眠るためには、魔力が必要だということはアクア様もご存知のはずです」

「ああ」

「代々、サンドローズの王族がその役目を担い、責務を全うしてきました。それが、この国が恋愛大国である所以なのです」

ティアラローズはサラヴィアの舞から目を離さずに、言葉を続ける。

「サラヴィア陛下がお一人でサラマンダー様の魔力を満たすには、サラヴィア陛下の魔力が足りないのです。その命尽きるだけ魔力を注がなければ、再び眠りにつかせることが出来ないのです」

「それは……」

「はい。わたくしがサラマンダー様から魔力を返してもらい、サラヴィア陛下が魔力を与えたとしたら……おそらくその命は尽きてしまうでしょう」

そこまで深刻な状況になっていたのかと、アクアスティードは息を呑む。

しかし同時に、ティアラローズが頑なに自力で元に戻ろうとしている理由もわかった。人の命と自分を天秤にかけることなんて、優しい彼女には酷すぎる。

アクアスティードはティアラローズの肩を抱き寄せて、「よく言ってくれたね」と静かに告げた。

「辛いことを、ティアラ一人に背負わせてしまったね」

「いいえ。わたくしも、もっと早くアクア様にお伝えすればよかったんです」

「そんなことはない。ティアラが言った通り、誰かの死を口にすることはとても勇気がいることだ」

だからその気持ちは当然だと、アクアスティードが優しく微笑む。

「……キース、パール様」

「ここにいるぜ」

「仕方ないのぅ……」

「事情は聞いた通りだ。まあ、二人なら既に周知かもしれないが……サラマンダー様と話をしたい、捜してきてくれるか? どこからか、サラヴィア陛下の舞を見ているはずだ」

アクアスティードがそう言うと、キースとパールは頷きその場から姿を消した。

――アクア様がやると、なんでもそつなくこなしてくれる……。

ティアラローズは自力でサラマンダーを見つけようと考えていたので、やっぱり誰かに相談しなければならないのだなと痛感する。

きっと、キースとパールの二人ならばすぐにサラマンダーを見つけてきてくれるだろう。

「ありがとうございます、アクア様」

「私に出来ることは、なんでもするさ。ティアラ、これ以上無茶は駄目だよ、わかったね?」

「…………はい!」

「その間は少し気になるけど、まあいいとしよう」

サラマンダーが見つかるまでのしばしの間、ティアラローズとアクアスティードは再びサラヴィアの舞に目を向けた。

***

シャンという鈴の音を聞きながら、サラマンダーはサラヴィアの舞に視線を向けていた。場所は宮殿の屋根の上で、広場で行われている祭典が一望出来る特等席。

サラマンダーは、上達したものだな……と満足げに微笑む。

彼女が目覚め始めたのは、まだサラヴィアが幼いころだった。完全な覚醒ではなく、微睡みの中で目覚めと眠りを繰り返している状態。簡単に言えば、数年単位の二度寝、三度寝を行なっていたのだ。

それゆえに、ときおりサラヴィアの様子を見ていた。

『なんというか、子供の頃から見ていたから、どうにもサラヴィアが可愛いのよね』

自分に魔力を与えた歴代の王族なんかよりずっと、サラヴィアへの愛着が強い。

『初めは上手く舞えなくて、でもあの子は負けず嫌いだから……朝早く起きて特訓していたのよね。それから母親思いで、何よりもわれとこの国のことを深く考えてくれているもの』

それがとても嬉しい。

ただ、思っていた以上に女たらしの性格になってしまったけれど……こればかりは仕方がない。おそらく純粋だったサラヴィアは、そうやって自分を偽らなければ複数の女性に愛を注ぐことが出来なかったのだろう。

シャーンとよりいっそう大きな鈴の音が、そろそろフィナーレだということを告げる。

「なんじゃ、こんなところにいたのか」

『まさか海の妖精王が直々にわれのところにくるなんて、光栄ね』

「よく言うのぅ」

せっかくサラヴィアの舞を見ていたのに、興を削がれてしまった。

アクアスティードの指示を受け、サラマンダーを見つけたのはパールだ。扇を口元に当てて、ひどく面倒そうに目を細める。

「ティアラローズがそなたとの話し合いを所望しておる」

『残念だけど、われには話すことなんてないわ。申し訳ないけれど、お断りよ』

どうせ、自分を元に戻すための方法を教えろだとか、そんなことを言われるのは目に見えている。サラマンダーは首を横に振り、興味がないと言い切った。

それにやれやれとため息をつき、パールはどうしたものかと考える。

今回の目標は二つ。

子供になってしまったティアラローズを大人に戻すこと。

サラヴィアを死なせないこと。

いたって単純明快だ。

ティアラローズとアクアスティードにはまだ話していないのだが、実はこの二つを解決するための秘策がパールにはある。

「まったくもって、サラマンダーは聞く耳をもたぬの。わらわが力づくで連れていってもよいが、それはティアラローズも望まぬだろう」

『そうよ。そんな品のないことをしないでほしいわ』

「……じゃが、サラヴィアが死なずに、さらに王としての責務を果たす方法があると言ったらおぬしはどうする?」

相手なんてしていられないと、サラマンダーが移動しようと思った矢先……パールからそんな提案めいた言葉が投げかけられた。

しかしサラマンダーは声を出して笑い、『ふざけないでちょうだい!』とパールを見る。

『そんな都合のいい方法があるわけないじゃない。もしそんな方法があるのなら、とっくの昔にやっているわ。からかうのはやめてちょうだい』

はなから無理だと決めるけるサラマンダーに、もう少し頭を使えばいいのにとパールは思う。

「わらわはつまらぬ冗談なぞ、好まぬ。信じるも信じないもおぬし次第でいいが、あまり我を通すと最後に惨めになるのはサラヴィアではないかぇ?」

『……っ!』

痛いところを突かれてしまい、サラマンダーは唇を噛みしめる。確かにパールの言う通り、サラヴィアが皇帝として誇りを失わないのであればそれが一番いい。

それをちゃんと理解しているからこそ、言い返せない。

「ふん。まぁよい。とっととティアラローズの下へ行くかの。サラヴィアの舞も、ちょうど終曲みたいじゃ」

わあぁっと歓声があがり、舞台の上ではサラヴィアが礼をしている。

『いいわ。話だけなら、聞いてあげる。でも、われがティアラローズに魔力を返すために行くわけではないのは覚えておいてちょうだい。サラヴィアが死ぬのだけは、嫌だもの』

「わかっておる。さっさと行くぞ」

パールが扇を翻すと、サラマンダーとともにその身がかき消えた。