軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15. 読めない心

「あああもう~~っ!!」

「ティアラローズ様、気持ちはわかりますが……はしたないですよ」

「……だって、サラヴィア陛下があんなだなんて思わなかったから!」

ティアラローズが声をあげながらベッドの上をころころ転がっていると、苦笑するフィリーネに注意をされてしまう。

長期戦も覚悟の上だと言ってティアラローズにアプローチをしてきたサラヴィアは、貴賓として王城に滞在している。

サラヴィアには困ったものだと、ティアラローズはため息が絶えない日々。

お茶をしていると絶対に遊びにくるし、かといってサンドローズの皇帝なので蔑ろにすることもできない。

「確かに、チャラチャラした男性はわたくしも好きではありません。ティアラローズ様にはアクアスティード陛下がいるというのに、いったいどういうつもりなんでしょう」

「そうよね」

フィリーネの言葉に頷きながら、ティアラローズは体を起こしてベッドの上に座る。

――というか、皇帝のくせにこんな長期間他国であるマリンフォレストにいてもいいの……!?

ティアラローズたちがラピスラズリに行っている間に側室と別れたなら、自国だって多少はごたごたしているのではないだろうか……と考える。

そもそも、そんなあっさり離婚できるのだろうか。

むむむと考え込んでいると、フィリーネが紅茶とマカロンを持ってきてくれた。

「甘いものでも食べて落ち着いてください、ティアラローズ様」

「ありがとう、フィリーネ」

さっそくマカロンを口に含んで、その甘さに頬が緩む。ゆったりしながら食べていると、いら立っていた気持ちも落ち着くというものだ。

そしてふと、疑問を抱く。

そもそもどうして、サラヴィアはマリンフォレストに来たのだろうか。ティアラローズの花が欲しいと言っていたけれど、皇帝自らが出向いて手に入れるほどの価値があるとは思えない。

――お菓子の材料としては最上級だけど……。

サラヴィアがお菓子のためだけに花を求めるとも思えないし、側室全員と別れたのであれば、それほどまでして女性に贈るための花を……というのも考えられない。

今の目的はティアラローズなのかもしれないが、一国の皇帝が自分を手に入れるまで本当にそこまでするのだろうか。

「…………」

「ティアラローズ様、どうかしましたか?」

考え込んでしまったティアラローズを見て、フィリーネが不思議そうに首を傾げる。

つい先ほどまで幸せそうにマカロンをほおばっていたというのに、いったいどんな心境の変化があったのか……。

ティアラローズは苦笑しながら、気になったことをフィリーネに話す。

「サラヴィア陛下はわたくしを口説くと言っているけれど、本当の目的は別にあるんじゃないかと思って」

「それは、ティアラローズ様を都合のいい理由にしているということですか?」

「ええ。だって、わたくしを妻にするなんて……現実的ではないもの」

我儘な皇帝で、本気でティアラローズを手に入れたいと思っている可能性だってもちろんある。けれど、もしかしたらサラヴィアの真意が違うところにあるかもしれない。

ティアラローズの言葉を聞いて、フィリーネも「確かに……」と言葉を続ける。

「サンドローズも大帝国ですが、マリンフォレストだって大国です。アクアスティード陛下が温和だからいいようなものですが、一歩間違えれば国際問題ですよね?」

「もし争いになったら、サラヴィア陛下はどうするつもりなのかしら」

自分を手に入れるために、大国相手に喧嘩を売るか? そう考えると、ますますサラヴィアのティアラローズを手に入れるという言葉が嘘のように思えてくる。

――少し、調べてみるのがいいかもしれないわね。

「フィリーネ、サンドローズの現状を少し調べてみた方がいいかもしれないわ。誰か詳しい人はいないかしら?」

「それでしたら……エリオットが調べているのではないでしょうか? アクアスティード陛下が、サンドローズに何も手を打っていないとは思えませんもの」

「エリオットが? そういえば、ここ数日は姿を見なかったわ……」

どうやら、サンドローズを調査するために走り回っていたようだ。

「アクア様の執務室に行ってみましょう。きっと、エリオットもいるはずだわ」

「はい。すぐにご準備いたしますね」

「お願いね」

フィリーネにストールを用意してもらい、ティアラローズたちは部屋を後にした。

***

アクアスティードの執務室へ行くと、アクアスティードとエリオットのほかにアイシラがいた。

最近はアイシラの姿を見ていなかったので、顔を合わせるのは久しぶりだ。

「お久しぶりでございます、ティアラローズ様」

「アイシラ様、お久しぶりです。お元気そうで、お顔が見れて嬉しいです」

「わたくしもです」

ティアラローズの言葉に、アイシラは嬉しそうに微笑む。

アイシラ・パールラント。

乙女ゲーム『ラピスラズリの指輪』の続編のヒロインであり、公爵家の令嬢だ。海の妖精に愛されていて、マリンフォレストの海を管理している。

淡い水色の髪に、オレンジ色の瞳。可愛らしいピンク色のドレスを身にまとった、十六歳の女の子。

アクアスティードのことが好きで、手に入れるために惚れ薬を飲ませたこともある。けれど、それを乗り越えアクアスティードはティアラローズのことを選んだ。

そんな過去もあり、アイシラはあまり王城を訪れなくなっていた。

なので、アイシラがここにいることがとても珍しい。いったいどうしたのだろうとティアラローズが考えていると、アクアスティードが口を開く。

「実はサンドローズのことで、気になることがあってね」

「サンドローズのことですか? わたくしも、そのことを話しに来たんです」

どうやらアイシラがここにいるのは、サンドローズに関係するらしい。

「ティアラも? それならちょうどよかった。今、呼びに行こうと思っていたところだから。とりあえず、座って」

「はい」

ティアラローズがアクアスティードの隣に座り、向かいのソファにアイシラが腰を落ち着かせる。

エリオットが書類を用意し、フィリーネは全員分の紅茶を用意した。

「エリオットに、サラヴィア陛下とサンドローズのことを調べてもらっていたんだ。どうやら、サンドローズは深刻な問題が発生しているみたいだ」

「……問題、ですか?」

「それに関しては、わたくしから説明いたしますわ」

真剣な表情で、アイシラが手をあげる。

エリオットの書類を並べて、アイシラは話を進めていく。

「海の妖精たちがざわついているような気がして、少し前から調べていたんです」

「妖精たちが?」

「はい。ティアラローズ様もご存じの通り、わたくしは海に潜り妖精たちと話をすることが多いのです。そのときに、気になることを聞いたんです」

アイシラが持ってきた情報源は、海の妖精のようだ。確かに、彼らならば人間の知りえない情報を持っていたとしても不思議ではない。

妖精たちはマリンフォレスト内で暮らしていて、他国の領土へ行くことはないが……海は水で繋がっている。そこから何かを知りえたのだろうか。

一呼吸置いて、アイシラの口から衝撃的な一言が告げられる。

「……サンドローズのオアシスが、少しずつ枯れ始めているそうです」

「え、オアシスが?」

国土の多くが砂漠であるサンドローズでは、オアシスの存在がとても大きい。オアシスの周辺に村や街を作っていることがほとんどで、恵みだと言っていいだろう。

それが本当ならば、ティアラローズの想像以上に深刻な問題だ。

――そんな状況で、皇帝が国を留守にする?

何か打開策がないかぎり、身動きを取ることも難しいのでは? ティアラローズはそう考えて、すぐにはっとする。

「もしかして、サラヴィア陛下がわたくしを求めるのは……海の妖精王の加護を得ているから……?」

ティアラローズの力を使い、オアシスに水を戻そうとしているのかもしれない。そう考えれば、皇帝自らが強引にやって来たことも頷ける。

「そう考えるのが自然だと、私は思う……が、本気でティアラを手に入れようとしているようにも見える」

「アクア様……」

最初の目的はオアシスの復活だったかもしれないが、ティアラローズと出会い魅了されたとしてもおかしくはないと、アクアスティードは告げる。

サラヴィアはチャラチャラしているように見えるけれど、その本心がどこにあるのかがわかりにくい。

アクアスティードの手がティアラローズの髪を優しく撫でて、「大丈夫だよ」と微笑む。

「ティアラをサンドローズに渡しはしないさ。エリオットにも、いろいろ調べてもらったからね」

「さすがに他国を調べるのは骨が折れましたけどね」

エリオットが苦笑しながら、サンドローズの様子を説明する。

「アイシラ様からあった通り、サンドローズのオアシスは枯れ始めています。ただ、水位が下がっているようで、気付いている人はほとんどいないようですね。おそらく、把握しているのはサラヴィア陛下とごく一部の人だけでしょう」

「だから、公に動くことが出来ないのね」

調査のために大勢の人員を投入すれば、国民にばれてしまう。けれど、サラヴィア個人が動く分には何をしているかなんてわからない。

普段から女好きのチャラ男であれば、他国の女を追いかけていると国民も思うだろう。

とはいえ、サラヴィアの行動に関しては推測なので事実はわからない。

エリオットが苦笑しながら、自分の推測を告げる。

「確かにサラヴィア陛下は一見だらしのないように思えますが、サンドローズ帝国が力を持っていることもまた事実。即位したのは三年前ですが、前皇帝のときから衰えているということもありません」

「ああ見えて、仕事は出来るのね……」

子猫ちゃん、なんてティアラローズのことを呼んで笑っているが、アクアスティードとの対話や勝負時はギャップが見て取れた。

――ますます、サラヴィア陛下がどんな人なのかわからない。

しばらく様子を見る必要がありそうだと、ティアラローズは小さくため息をつく。

それとも……。

「わたくしが、少しさぐりを入れてみた方がいいですか? サラヴィア陛下は、ほとんど毎日訪ねてきますから」

自分が聞けばすんなり教えてくれるかもしれないと思いティアラローズが提案するも、すぐにアクアスティードが「却下」と首を振った。

「ティアラ、自分がどういう状況かわかってる? サラヴィア陛下の目に触れないように、私の部屋に閉じ込めておきたいくらいなのに」

「……っ!」

「それなのに自分から近づいていくなんて、駄目に決まってるだろう」

ずずいっと、アクアスティードの顔がティアラローズの眼前に迫ってくる。唇が触れそうな距離で、思わず息を呑む。

「許可出来ないよ、わかった?」

「は、はい……っ!」

目を細めながらそう告げられたアクアスティードの言葉に、ティアラローズはただただ必死で頷くことしか出来ない。

ドキドキしてしまうし、自分のことをそんな風に言ってもらえたことが実は嬉しくて……今回こそはちゃんと大人しくしようとティアラローズは決意する。

成り行きもあるが……いつも一人で行動することが多かったため、アクアスティードに心配をかけてばかりだった。

「ですが……このままだと、解決が遅くなりませんか? サンドローズは大国ですから、助けて恩を売っておくのは得策だと思いますが……」

「まあ、確かにそれはあるけれど……ひとまず後で考えるよ。ティアラは大人しくしていること」

「はい……んっ!」

アクアスティードにもちゃんと考えがあるようだ……そうティアラローズが納得したところで、唇が触れた。

「あああああアクア様!? こんなところで、いきなり……っ!!」

執務室で、みんなもいるのに! ティアラローズがそう声を荒らげると、アクアスティードはくすりと笑う。

そして室内を見回して、「そう?」と告げる。

「だって――って、誰もいない!?」

「エリオットは別件、フィリーネは下がって、アイシラ嬢も妖精へ話を聞きに行くからと会釈をして出ていったよ」

最近は日中サラヴィアが訪ねてきて二人でゆっくりする時間があまりなかったので、エリオットたちが気を利かせたのだろうとアクアスティードは言う。

確かにそれはティアラローズも思っていたけれど、重要な話の途中だったのでは!? と思うのだけれど、あれ以上話し合ったとして結論が出るものでもない。

ティアラローズはむむむと眉を寄せながらも、アクアスティードの肩へ甘えるように寄りかかる。

「なら、遠慮なく甘えます! わたくしだって、サラヴィア陛下の相手をするのは大変なんです」

好意的に見られているし、サンドローズの皇帝だしで、一つ一つの対応にとても気を遣う。何度、いい加減にしてください! と、怒鳴りたくなったことか。

そんなティアラローズの様子を見て、アクアスティードは「追い出してしまおうか?」と口にする。

「えっ」

「確かにサンドローズの皇帝だけど、ティアラが不快になるほど好き勝手を許すつもりはないよ。マリンフォレストは、サンドローズに劣ったりはしないからね」

アクアスティードの言葉が、冗談なのかはたまた本気なのかわからない。

――だって、実現できそうだし。

というか、これ以上ティアラローズにちょっかいをかけたりエスカレートしたのならば……本気でやりそうだなと思う。

――そう言ってくれるのは、とても嬉しいけれど。

「わたくしを大切にしてくださるのはわかりますけれど、国を巻き込んだら駄目です」

「……ティアラらしい答えだね。わかってるよ、私がティアラを守るから問題ない。でも、何かあったり嫌だと感じたらちゃんと言うこと」

「はい」

アクアスティードが守ると告げたのだから、それは必ず実行される。安心感があって、微塵も不安には思わない。

きっとアクアスティードは、こうやってこの国と自分を守ってくれるのだろう。

――そんなアクア様を、ずっと隣で支えられるように頑張りたい。

そう思いながら、ティアラローズはそっとアクアスティードの手を握るのだった。