軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13. スイーツ教室

これは名案だと、ティアラローズは思う。

スイーツを取り扱うお店が増えるに越したことはないし、まだそこまで出店数が多いわけでもないので参入するのも難しくはないだろう。

サンフィスト家であれば、貴族向けよりも、庶民向けに事業を拡げていくのも悪くはないだろうとティアラローズは考える。

最初の設備投資にお金はかかるかもしれないけれど、そこはクラメンティール家が出資をしてもいいし、エリオットが手を貸してもいいだろう。

ティアラローズが脳内で計画を立てていると、アランが困惑した表情で自分を見ていることに気付く。

「ああ、突然でごめんなさい。アラン様、実はわたくし……スイーツがとても好きなんです」

「は、はい……フィリーネ姉様に伺ったことがありますので、存じております」

「フィリーネが? そうなの……。なら、話は早いわね」

まさかスイーツ好きを知られているとは……と、少し恥ずかしくなりながらもティアラローズは話を進めていく。

「お菓子屋さんを作りましょう。そのためのレシピは、わたくしがとっておきのものをお教えしますから」

「え、お菓子屋さん……ですか?」

「今のラピスラズリにも、もちろん店舗はいくつかあるわ。けれど、もっとあっていいとわたくしは思っているの」

それに、どちらかといえば貴族向けの店舗が多いのだ。

材料の質は落とすことになるかもしれないけれど、仕入れなどを安くしてコストを抑え、庶民でも気軽に購入出来る値段で販売してみてはどうかとティアラローズは提案する。

とはいえ、アランが嫌だと首を振ればこの話はここまでだ。

「どうかしら」

ティアラローズが問いかけると、どうするべきかとアランが思案する。

いろいろと考えることがあるのだろう。人手はもちろんだが、店舗のための土地や施工費、材料などの仕入れルートも必要だし、手続きもしなければいけない。

というよりも。

「それは学生である私が判断していい事案ではないと思うのですが……」

まずは父親であり当主であるサンフィスト男爵の許可が必要ではと、アランが告げてくる。

確かにそれもあるけれど、新事業として立ち上げるのであればサンフィスト男爵の手は入らない方がいいと思っている。失礼かもしれないが。

「確かに、男爵に許可をいただくことは必要でしょう。けれど、もしも事業を立ち上げるのであれば、アラン様に頑張ってほしいとわたくしは思うの。もちろん、バックアップはさせていただくわ」

「ティアラローズ様……」

想像以上に自分たちのことを気にかけていてくれたことに対して、アランは驚きを隠せない。しかしそれが嬉しいことは事実で、即座に頷き己の意思を示した。

「私自身としては、ぜひそのお話を受けたいと思っております」

「わたくしはもちろんだけれど、クラメンティール家も力になるわ。わたくしは、いつもフィリーネに支えてもらっていたから」

「ありがとうございます」

幼いころから侍女として仕えてくれたフィリーネは、ずっとティアラローズのことを支えてくれていた。

ハルトナイツにアカリという女性の影がちらついたときや、婚約を破棄されたとき……そして、アクアスティードとの恋仲が上手くいくようにと、いつも一番側で応援してくれたのだ。

――わたくしも、フィリーネの力になれるのなら。

「頑張りましょう、アラン様――」

「何を頑張るんですか? ティアラローズ様」

「フィリーネ……!」

ティアラローズがアランの手を取って気合を入れようとしたら、途中で声がかぶせられた。両親との話を終えてやってきた、フィリーネだ。

少しあきれた様子だけれど、その表情はどこかすっきりしている。

「実はね、サンフィスト家の新事業としてアラン様とお菓子屋さんを開くの」

「ティアラローズ様!? わたくしたちは、マリンフォレストへ帰るのですよ?」

「もちろんわかっているわ。滞在中にレシピを伝えて、またラピスラズリに来たときお店に行くのよ」

とても楽しそうで、今からわくわくしてしまう。

それに、ティアラローズがかんでいるお店であればアカリも目をかけてくれるはずだ。そうすれば、ルーカスのような変な男がちょっかいをかけてくることもないだろう。

フィリーネはこめかみに手を当てて、ため息をつく。

「またそんな無茶を……」

「無茶ではありません、フィリーネ姉様!」

「アラン?」

止めようとしたフィリーネの声を遮ったのは、アランだ。

その瞳には強い意志が込められていて、絶対に成しえて見せるのだという信念がうかがえる。

「私は、ルーカス様を止めることが出来ませんでした。すごく後悔していますし、二度と同じ過ちはおかしたくありません。だから、妹たちを守る力が必要なのです。早急に!」

「そんなことを……考えていたのね。アランはいつのまにか、こんな立派になってしまったんですね」

フィリーネは弟の成長に涙を浮かべながら、ティアラローズへ頭を下げた。

「ティアラローズ様、弟をどうぞよろしくお願いいたします」

「もう、フィリーネったら。頭を上げてちょうだい。わたくしだって、何から何まで出来るわけではないわ。手を貸して、レシピを教えてあげるだけ。実際に頑張るのは、アラン様よ」

もうすぐマリンフォレストへ帰るので、レシピだってゆっくり教えることは出来ない。むしろ、今から教えるくらいではないと厳しいかもしれない。

ティアラローズは滞在日などを計算して、「よしっ」と気合を入れた。

***

場所は変わり、サンフィスト家の厨房。

アランをはじめとした、フィリーネの弟妹たちが勢ぞろいだ。

「じゃあ、レシピを教えるわね。本当は計画を先に……なんだけど、教えられる時間が限られているから」

「いえ、とても嬉しいです。ありがとうございます、ティアラローズ様!」

事業計画書や店舗の選定などすべきことは多いが、それ以上にティアラローズには時間がない。なので、先にレシピを伝授することにしたのだ。

教えるのは、スイーツ大会で作ったホールケーキだ。販売するときは、このままでも十等分してもどちらでも問題はない。

味はもちろんなのだが、ケーキの上に載った飴細工とチョコレートのデコレーションリボンが重要になってくる。きらきら輝く飴細工に、生クリームとチョコレートリボンのデコレーション。

まずはティアラローズが一つ作り上げて、手本を見せる。

「うわああぁぁ、ティアラローズ様すごい!! こんな素敵なお菓子、初めてみました」

「ありがとう、ルナ様。まずはみんなで食べて味を確認してみて」

お皿に取り分けて全員で食べると、とたんに全員が表情を輝かせて絶賛する。「美味しい」「甘い」「幸せ」「絶対に売れる……!」と、かなり希望を持てているようだ。

それを見て、ティアラローズは嬉しく思う。

ひとまず自分もケーキを食べてまったりしていると、後ろから声をかけられた。

「ティアラローズ様」

「エリオット?」

ティアラローズがどんどん話を進めていっていたので、エリオットは空気のような存在になっていたのだ。ちょっと申し訳ないことをしてしまったと反省しながらも、どうしたのか問いかける。

「出資の話ですが、私にもさせてください」

「え? でも、エリオットは先ほどルーカス様にも支払いをしたでしょう?」

ここからさらに新規事業の出資となると、かなり厳しいのではないかとティアラローズは考える。エリオットの懐があとどれくらいあるのかは知らないけれど、かなりの額になってしまうことは間違いないだろう。

ティアラローズが悩んでいると、エリオットは「大丈夫ですよ」と笑う。

「ティアラローズ様のケーキですから、間違いなくこの事業は成功します。これは、未来への投資です」

「エリオット……」

絶対に成功することを疑っていないようで、にこにこ笑っている。

普段は穏やかなのに、こういうときにエリオットの芯がぶれることはない。ティアラローズは苦笑しながら、「そうね」と呟く。

「それじゃあ、エリオットにもお願いしようかしら」

「はい、お任せください!」

ティアラローズが承諾すると、エリオットはぱあっと表情を明るくする。

するとそこへ、厨房のドアがノックされてサンフィスト男爵に案内されたアクアスティードがやってきた。男爵はとても緊張しているらしく、ガチガチになっている。

「遅くなってしまったね、ティアラローズ。エリオットも、連絡をありがとう」

「ありがとうございます、アクア様」

「とても助かりました。ありがとうございます、アクアスティード様」

アクアスティードはサンフィスト男爵に礼を告げ、自分も何かしようとしたのだけれど……まだお菓子屋さんのことを聞いていなかったため困惑している男爵に気付く。

「ティアラローズ様、私から父様に説明させてください」

「わかったわ」

申し出たアランに頷いて、説明しようとしていたティアラローズは後ろへ下がる。

フィリーネとエリオットも横へ来て、一緒に見守る体制に入った。

アクアスティードも詳細は知らないため、サンフィスト男爵と話を聞くようだ。

「私の卒業後について、ティアラローズ様に助言と援助のお申し出をいただきました。そのなかには、エリオットさんも含まれています」

「アランは、私の事業を手伝うものだと思っていたが……」

いったい何を? と、サンフィスト男爵が問いかける。

「新しい事業を、サンフィスト家で始めたいと思っています! 計画書などの用意はまだこれからですが、かならず成功させてみせますので許可をください」

そう言って、アランは頭を下げた。

サンフィスト男爵もなんと返事をしたらいいのか困ってしまったようで、視線を泳がせる。

自分でも上手くいかないことを、まだ若いアランが一人で行うのは無謀なのでは? そう、彼は思っているのだ。

けれど同時に、自分にその才能がないということも、痛いほど自覚している。

アランを見て、ティアラローズを見て、フィリーネとエリオットを見る。

そこで、サンフィスト男爵の肩の力がふっと抜けた。

息子には、こんなに味方がいるのだ……と。

サンフィスト男爵はアランの肩に手を置いて、力強く頷いた。

「私はお前を信じよう」

「ありがとうございます、父様!」

「だが、一つだけ約束をしてくれ。もし、どうしようもなくなったときは……真っ先に私に相談してくれ。あまり力にはならないかもしれないし、頼りないが、父親としても精一杯力になれるよう頑張ろうと思う」

「はい、必ず……!」

今度は力強くアランが頷いたのを見て、サンフィスト男爵はほっと心の底から嬉しそうに笑う。

きっと、長年彼を追い詰めていたいろいろな鎖が少し解けたのだろう。

そのなかでも一番重かったルーカスという重りは、もう二度と絡まることはない。

安心したところで、サンフィスト男爵は「そういえば」とアランを見る。

「いったいなんの店をやるつもりなんだ?」

「はい、菓子店です! 今は貴族向けの店舗が多いので、材料の原価を抑えて庶民向けのものを作ります!」

「か、菓子!? さすがに、アランに菓子は厳しいのではないのか?」

アランのその言葉を聞いて、思わず笑ってしまったのはアクアスティードだ。

思わず慌てるサンフィスト男爵に、アクアスティードは首を振って問題ないことを伝える。

「ティアラのレシピで作るお店なら、問題はないだろう。私も保証するよ」

「アクアスティード陛下がそうおっしゃるのであれば、私としては本当に反対はいたしません」

「ああ。私も期待し……ああ、そうだ。どうせならマリンフォレストにも店舗を出して、姉妹店にすればいい」

なんて、本気か冗談かわからない提案をアクアスティードがする。

けれど、ティアラローズがそれを本気で受け取ったらきっと実現のために動くだろう。

現に、ぱぁっと顔を輝かせて嬉しそうにしているのだから。

そしてアクアスティードは、もう一つ提案をする。

「私がスイーツ大会で作ったデニッシュケーキの作り方も教えるから、それも店に置いたらいい」

「それはいいですね、アクア様!」

ティアラローズはすぐに手を叩いて、「採用です!」と嬉しそうに笑った。

こうして、今日は夜遅くまでスイーツ教室が続いたのだった。