軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05話『VSクラーケン』

四日目の昼過ぎ。

突如、前方の水面が勢いよく巻き上がった。

「な、なんだ!?」

船に乗っていたエーヌビディア王国の騎士たちが、困惑する。

巻き上がった海水はそのまま大量の雨と化して船に降り注いだ。激しい水に打たれ、視界が霞む中、誰かが大声で叫ぶ。

「クラーケンが出たぞーーーーーーッ!!」

それが戦いの合図となった。

船内で待機していた騎士たちが装備を整え、甲板に駆けつける。

盾を構える騎士たちの前に現れたのは、巨大なイカだった。

「あれが、クラーケンか……」

海に棲息するモンスターの中では有名な部類だが、そういえばまだ一度も遭遇したことがなかったと思い出す。

クラーケンは非常に危険なモンスターだが、同時に臆病でもある。相手が自分より格上だと悟るとすぐに退散するのだ。だからクラーケンと遭遇しても、対策さえ立てれば無傷でやり過ごすことができる。

「貴様、何故ここにいる」

甲板でクラーケンを眺めていると、メイルに声を掛けられた。

「邪魔にならないところで大人しくしていろと言った筈だ。すぐに中へ戻れ」

「そうさせてもらうが……お前たちだけで対処できるのか?」

「ふっ、心配はいらん。エーヌビディア王国の騎士を舐めるなよ」

そう言ってメイルはクラーケンのもとへ向かった。

クラーケンを撃退する際、大事なのは、とにかく早いうちに攻撃を当てることである。こちらが全く怯えた様子を見せずに、反撃する意志をずっと見せていると、クラーケンはやがて去る。

そのためにも、さっさと騎士たちにはクラーケンに攻撃して欲しいのだが……。

「いや……どう考えても人手が足りてないだろ」

見たところ騎士たちの腕は確かだが、あの人数ではクラーケンの攻撃を捌くだけで手一杯だ。

何かトラブルでもあったのだろうか。既に陣形が崩れかけている。

「……仕方ない。呼んでおくか」

船内へ戻る前に、俺はポーチから貝の形をした笛を取り出した。

クラーケンとの戦いは、想定よりも遥かに熾烈を極めていた。

「くっ!?」

エーヌビディア王国の騎士メイルは、激しく揺れる甲板に体勢を崩し、床に手をつきながらクラーケンを見据える。

「このままでは、やられる……ッ!!」

クラーケンが調子に乗っている。

この船に乗っている者たちを、格下と思い始めているのだ。

どうしてこんなことになっているのか。

その理由について、メイルは付近にいた騎士へ問う。

「他の騎士たちはどうした!? 甲板に待機していた騎士はもっといた筈だろう!?」

「待機していた十人のうち、四人がクラーケンの奇襲で海に落とされました。二人は辛うじて無事ですが、現在、治療中です」

「あとの四人は!?」

「……………………船酔いでダウンしています」

足が滑りそうになった。

「な、なんて使えない連中だ……っ!」

メイルは額に手をやった。

同じ騎士とは思いたくない醜態である。

数日前、インテール王国の冒険者に「腰抜け」と言ったことを思い出した。

彼には謝罪しなくてはならない。同僚たちの方がよっぽど腰抜けだ。

「私が先陣を切る、お前たちは後に続け!」

「お、お待ちください、メイル様! 近衛騎士である貴女が傷つけば、姫様が――ルシラ様が悲しまれます!」

「馬鹿なことを言うな! こういう時に身体を張って戦うのが騎士の責務だろう!」

それに、このままクラーケンを撃退できなければ、自分が傷つくどころではない。船と共に、海の藻屑と化してしまう。

メイルは覚悟を決めて、クラーケンへ接近した。

クラーケンが太い足を振り下ろす。メイルはそれを、剣を盾代わりにして防いだ。

「ぐ、ぁ……ッ!!」

本来なら大盾を持った騎士たちが集まって防ぐ一撃だ。それを単身で防いでみせたメイルの腕前は確かなものだが、負担は大きい。腕も足も痺れて動かず、掌から剣が落ちた。

――マズい。

完全に無防備な状態だ。今、追撃されると防げない。

これ以上、戦線を離脱する者が現れると、いよいよ敗北の線が濃厚になってしまう。

メイルは歯を食いしばり、身体の痺れを無視して動こうとした。

その直後――突如、高い笛の音が響いた。

「なんだ、今の音は……?」

何かの合図だろうか? しかし、誰かが甲板に駆けつけてくる様子はない。

不思議に思っていると――いきなりクラーケンが悲鳴を上げた。

クラーケンの様子が急変し、甲板にいる騎士たちが訝しむ。

痺れが取れ、動けるようになったメイルはクラーケンに迫った。

剣を振り抜く前に、メイルは動きを止める。

クラーケンの足元……水面に、何かの影が見えた。

「あれは……人魚?」

上半身は人間、下半身は魚。それが人魚という種族の特徴である。

海底で生きる人魚たちは、自由自在に水の中を泳ぎ、その手に持った槍でクラーケンをひたすら突いていた。

「人魚が、クラーケンを攻撃している……我々に加勢しているのか?」

目の前には、そうとしか捉えられない光景が広がっていた。

だが、それは本来ならありえない光景だ。

「そんな馬鹿な……人魚は人間を嫌っている筈だ。……これは、一体……?」

クラーケンがもう一度、悲鳴を上げる。

やがてその巨体は船から遠ざかり……人魚たちに海底まで引きずり込まれた。