軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33話『VS毒魔龍』

毒魔龍の見た目は、あらゆる龍の中でも一際悍ましいものだった。

巨大な体躯は毒々しい紫色の鱗に覆われており、瘴気の中で金色に輝くその双眸は、ギョロギョロと忙しなく動いている。

不揃いな牙の間から滴る唾液は、地面に触れると同時にジュッと音を立てて瘴気を放った。逞しく、捻れ曲がった爪は、体重をかけられるだけで地面を抉る。

「第一班、突撃ッ!!」

レーゼの部下である、『白龍騎士団』の一人が叫んだ。

毒魔龍の周囲には常に紫色の瘴気が立ちこめている。これに長時間触れると、龍化病だけでなく様々な病を発症する恐れがあった。

そのため、俺たちは複数の班に分れて行動する。

第一班が毒魔龍に接近して攻撃を仕掛けた。そして、長時間瘴気に触れる前に一度毒魔龍から距離を取り――入れ違いに次の班が攻撃を開始する。

「第一班、後退! 第二班、突撃ッ!!」

第二班が前衛を担う。毒魔龍から離れた第一班は、回復および体調の確認に専念した。

これを繰り返すことで、全員が毒魔龍との長時間の接触を避けた上で、攻撃を持続できる。

「これが、毒魔龍か……話に聞いていた以上の、悍ましさだな」

俺の傍で待機しているメイルが呟く。

「メイルは、毒魔龍を見たのは初めてなんだったか」

「ああ。私はルシラ様の護衛が主な任務だからな。一度目の戦いにも参加していなかった」

基本的に今回の戦いでは、『白龍騎士団』が毒魔龍と戦う。日頃から共に行動しているという彼女たちの連携は凄まじく強力だ。部外者である俺やメイルが、余計な手出しをすればかえって迷惑となってしまう。

しかし、メイルの実力も決して劣っているわけではない。

あのレーゼが、一目見ただけで『白龍騎士団』への勧誘を検討したほどだ。故に彼女には――遊撃役として、自由に動いてもよいと伝えている。

「右翼の壁が薄い。――加勢してくるッ!!」

「ああ、頼む」

メイルは強く地面を踏み、大地を疾走した。

この場にいる戦力は『白龍騎士団』に加え、メイルの計十三人。班分けで二等分にしているため、攻撃に手を回せる人数は最大でも七人となる。

四度目の班の入れ替えが行われた。

元々は連合軍を編成して挑んだ相手だ。やはり急造のチームでは人数が足りず、個々の負担が大きい。

「ネット!」

頭上から迫る毒魔龍の爪を、メイルが受け流して叫ぶ。

「本当にレーゼ様は、後で来るんだろうな!? ここにいるメンバーだけでは、どう考えても戦力不足だ! これでは勝ち目がないぞ!」

「心配しなくても、レーゼの足なら王都からここまでほんの一瞬だ。俺たちが全滅する前には来てくれる」

存在力6の身体能力を舐めてはならない。

その気になれば、馬車で三時間かかった道を、十分以内に駆け抜けることができる。

「な、なら何故、今は来ていないんだ!?」

その問いに、俺は毒魔龍を睨みながら答えた。

「……切り札を、用意しているからだ」

メイルの言う通り、どう考えても戦力が足りない。

だがそれ以前に動けるタイミングは今しかなかった。ルシラの体調は日に日に悪くなる一方。『白龍騎士団』だって常に予定が空いているわけではない。より多くの戦力を用意するには、より長い時間を費やす必要があり……その時にルシラの体調がどうなっているかは分からない。

「馬車、借りるぞ」

足りない戦力は工夫で埋める。

俺は停めてあった馬車の御者台に乗り、風馬を走らせた。

「よせ、ネット! 無茶だ!」

「引き付けるくらいなら、俺にもできる!」

龍は知性を持つモンスターだが、だからといって全ての龍が、知的であろうと努力するわけではない。それは人間と同じだ。

毒魔龍は知性を捨てて暴力を武器にしている。

その攻撃はどれも凶悪だが、代わりに――失った知性こそが付け入る隙となる。

「よし……こっちに来い、毒魔龍……」

陽動は成功した。だが同時に、頭が警鐘を鳴らす。

毒魔龍が口から瘴気を吐き出した。紫色の霧が辺りに広がる。

眼球に鋭い痛みが走り、目を伏せた。すぐにこの場から離れなければならないが、視界が霞み、うまく馬を操作できない。

その時、御者台に何かが降ってきた。

いきなり隣から感じた衝撃に驚き、目を開くと……そこには『白龍騎士団』のメンバーである少女がいる。

「ネットの旦那ー、相変わらず無茶しますねー」

「好きで無茶したことなんて、一度もないんだけどな」

「またまたー。……運転、代わりますよーっ!」

少女は慣れた動きで風馬を操作した。

確か彼女は、『白龍騎士団』の中でも馬の扱いに長けた人物だ。道中も御者台で風馬を操縦していた。

先程の瘴気で俺を仕留め損なったのが意外だったのか、毒魔龍の金色の瞳が俺たちを映した。

巨大な腕が、横に薙ぎ払われる。

太い鉤爪が馬車に直撃する寸前――。

「ネットさん、無事ですか!」

ガキン! と大きな音が響いた。

長髪の女性が、迫り来る鉤爪を下から上に弾いた音だった。

「ありがとう、助かった」

「貴方が死んだら、うちの団長が後追いしちゃいそうですから! 絶対、死なせるわけにはいきませんッ!!」

流石にそんなことはないと思うが、今は何も言わないでおこう。

陽動は想像以上に成功した。毒魔龍が俺たちに意識を割いている隙に、『白龍騎士団』の残ったメンバーたちが一斉攻撃を仕掛ける。

「二人とも、俺はもう大丈夫だから攻撃に参加してくれ」

「で、ですが……」

「行ってくれ」

真剣に頼むと、二人の少女は反論をぐっと堪えて毒魔龍の方へ向かった。

風馬を走らせて毒魔龍の背後に回り込む。『白龍騎士団』の猛攻を見届けつつ、隙があれば再び陽動に出るつもりでいると――毒魔龍の口腔に、光のようなものが見えた。

――ヤバい。

息吹(ブレス) だ。

龍が持つ特殊な攻撃手段。それが息吹である。龍は体内に膨大なエネルギーを蓄積しており、それを口から吐き出すことで高威力・広範囲の攻撃を繰り出すのだ。

毒魔龍が眼前の騎士たちに、紫色の光線を放った。

轟音と共に、光線はクレーターの壁を貫く。王都を守る城壁も、これが直撃すれば一瞬で塵と化すだろう。地面は抉れ、大気は吹き飛び、遠くに見える森林が燃え上がった。

そんな一撃を受けた騎士たちは――無傷とはいえないが、無事だった。

存在力が高い者から前に並び、盾を用いて強引に息吹の軌道を逸らしたのだろう。『白龍騎士団』の最高戦力は存在力6のレーゼだが、他のメンバーも存在力5が複数いるため、工夫次第では龍の息吹を対処できる。

荒れた大地で、傷だらけになりながら剣を構える彼女たちの姿は、まさに英雄そのものだった。

その光景を目の当たりにして……俺はつい、苦々しい記憶を思い出す。

「……羨ましいな」

そんな風に戦えることが。そんな風に剣を握れることが。

無意識に拳を握り締め――掌から血が垂れていることに気づいた俺は、舌打ちした。

……なんで今、思い出すんだ。

心当たりはすぐに見つかった。

昨晩、レーゼが余計な一言を告げたからだ。

『伊達に、勇者を目指していたわけではないな』

その言葉が――俺の脳内で反芻する。