軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28話『鑑定やいかに』

鑑定士と呼ばれる職業がある。

彼らの仕事は、あらゆる物品の詳細や価値などを分析することだ。その仕事の性質上、知識量が膨大であることが多く、学者肌の者も多い。

そんな彼らを取り纏めるのが、鑑定士ギルドと呼ばれる組織だ。

鑑定士ギルドと冒険者ギルドは密接な関係がある。冒険者が冒険から持ち帰ってくる物品の中には、見知らぬ植物や鉱物などが混ざっていることも多い。そういう時は鑑定士の出番となり、その仕事の斡旋をするのが鑑定士ギルドの使命だ。

冒険者が活発な街では、鑑定士も活発である。

エーヌビディア王国王都の鑑定士ギルドは、清潔感がある大きな建物だった。

「ここが鑑定士ギルドだ」

監視という名の案内役であるメイルが言う。

「ところで、何を鑑定してもらうんだ?」

「それが何か分からないから鑑定してもらうんだ」

「む、確かに」

適当に誤魔化したつもりだが、メイルは納得してくれた。

建物の中に入って受付へ向かう。来客に気づいた若い青年が対応してくれた。

「いらっしゃいませ。鑑定のご依頼ですか?」

「ああ。鉱物……宝石類の鑑定を頼む」

「鉱物の鑑定ですと……申し訳御座いません。ただ今、混んでいまして、待ち時間が半日となりますがよろしいでしょうか?」

鑑定は時間がかかる。

そのため、一時間か二時間くらいなら待つつもりだったが……半日は長い。

「確か鑑定士ギルドは、他国のギルドとも連携しているんだよな?」

「はい。冒険者と違って鑑定士は人数が少ないですからね。マメに情報共有しないと立ち行かないこともありますから、その分、連携は充実していますよ」

なら、これを使うか。

俺はポーチの中から一枚のカードを取り出した。

「優先案内者に登録されている筈だ。これで早めに案内してくれ」

「……畏まりました。少々お待ちください」

受付の青年は僅かに驚いた様子を見せたが、すぐに仕事に専念した。

青年はカードを受け取り、奥の部屋で作業する。

「ネット……今のは何だ? 優先案内者と言っていたが……?」

「お得意様の特典みたいなものだ。千点以上の鑑定依頼をすることで貰える」

「せ、千点!? そんなに鑑定するものがあるのか!?」

「未開拓領域とかを冒険すると、目に入るもの全てが未知の物体だからな。第一線で活躍する冒険者たちと行動すると、千点くらいすぐに超えるぞ」

「す、凄まじいな、冒険者というのは……」

メイルが引き攣った笑みを浮かべた。

「お待たせしました。優先案内者のネット様ですね」

確認作業を終えた受付が、カウンターに戻ってくる。

「その……念のため確認させていただきますが、こちらのカードは全部で七枚発行され、同じ名義を複数人で共有していますね?」

「ああ、その筈だ」

「……先日、ルクセント共和国にて、ネット様の名義で鑑定されている物品が幾つかありました。また、先月はヴァルレイド帝国と、神聖プレイス王国。三ヶ月前は、 閣仙郷(かくせんきょう) と、イングリット皇国。……その、世界中でネット様の名義が使われているようなんですが……心当たりはありますか?」

「……ああ」

どうやら俺の名義が、見知らぬ他人に不正利用されていることを懸念しているらしい。

しかし心当たりはあるので、不正利用されているわけではない。

――あいつら、まだ俺の名義を使っているのか。

気が向けば自分の名義で登録し直しておけと伝えた筈だが、どうやら誰も気が向かなかったらしい。相変わらず、いい加減な奴らだ。

優先案内者を証明するカードに、入金や出金の機能はない。そのためセキュリティの面では別に問題なかった。

「それでは、すぐにご案内いたしますが……優先案内者としてギルドのサービスをご利用いただく場合は、同伴者を連れて行くことができません。ご容赦ください」

受付の青年は、メイルの方を見て言った。

俺は首を縦に振る。

「メイル、ここで待っていてくれ」

「分かった」

メイルはすぐに頷いた。もう俺が逃げるとは露程も思っていないらしい。

受付の案内に従って鑑定士のもとへ案内される。

鑑定士はそれぞれ独自の設備を持っていることが多く、そのためギルドの内には大量の作業室があった。入り組んだ廊下を進み、正方形の部屋に辿り着く。

「鑑定士のレザックだ。まずはブツを見せてくれ」

椅子に座る、髭を生やした男が片手を差し出す。

俺はその上に、白い石を載せた。

「この、白い宝石なんだが……」

「質感も、形も、独特なものだな。……まあ、この世に十人といねぇ、優先案内者様が持ってきてくれたブツだ。ちょいと念入りに調べてみるか」

「頼む」

メイルには「一線級の冒険者と共に活動していると、優先案内者くらい簡単になれる」といった説明をしたが、その一線級の冒険者がそもそも多くいないため、十人未満というのは納得の数字だ。ちなみに俺のカードは七枚に分けて使っているが、名義は俺一人のものであるため一人扱いである。

「ん? ……おいおい、お客さん」

ルーペを使って石を鑑定していたレザックが、声を発する。

「こいつは石じゃねぇな」

「……石じゃない?」

なら、その白い物体は何だというのか。

「これは、鱗だ」

首を傾げる俺に、レザックは説明した。

「見たことない種類だが、間違いねぇ。こいつは 龍の鱗(・・・) だ。……偶にあるんだよ、龍の鱗と宝石を勘違いすること。まあどっちも似ているからな」

その説明を聞いた瞬間――頭の中にあった違和感に輪郭がついた。

ずっと、この石には見覚えがあると思っていた。その正体が龍の鱗だと知った今……俺はそれを過去、何処で見たのかをはっきりと思い出す。

「どうする? 俺は鉱物専門の鑑定士だから、コイツの詳細を知りたいなら他の鑑定士を紹介するが……」

「……いや、いい。知りたいことは、知ることができた」

レザックの手から、鱗を受け取る。

「ありがとう、助かった」

そう言って俺は踵を返した。

ほんの少しだけ――早足でギルドを出る。