軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20話『毒魔龍の脅威』

報酬を三等分して冒険者ギルドを出た後。

「む……? ルシラ様からの通信か」

ふと、メイルが甲冑の内側から通信石を取り出し、耳に近づけた。

暫くすると、通信を終えたメイルは石を仕舞いながら俺の方を見る。

「ネット、ルシラ様が城に来て欲しいそうだ。何か頼み事があるらしい」

「俺に頼み事? ……まあ、取り敢えず行ってみるか」

今から宿を予約するつもりだったが、王女殿下に呼ばれているならそちらを優先するべきだろう。それにこの街には宿屋が多い。寄り道しても満室になることはないだろう。

「私はこの後、パーティの仲間たちのもとへ行かねばならない。二人とはここで一度お別れだな」

城へ向かおうとした俺とメイルに対し、レーゼは立ち止まって言った。

今日はここで解散した方がよさそうだ。

「レーゼ、今日は助かった。また何かあったらよろしく頼む」

「レーゼ様! 本日は貴重な経験をさせていただき、ありがとうございました!!」

軽く礼を述べる俺の隣で、メイルは深々と頭を下げた。

そんな彼女の様子に、レーゼは柔和な笑みを浮かべ、踵を返す。

「ああ……本当に、今日は貴重な体験をした」

「最初はかなり緊張していたから、どうなるかと思ったけどな」

「そ、それを言うな。自分でもあんなに緊張するとは思わなかった」

メイルが微かに頬を赤らめて言う。

そして二人で、ルシラ様のいる王城へと歩き出した。

陽は既に沈んでおり、肌寒い風が頬を撫でる。冒険者ギルドの付近には酒場が多いため、あちこちから騒々しい声が聞こえた。しかし城に近づくにつれて雰囲気が落ち着き始める。昼間に見た王城は、権威の象徴と言っても過言ではないほど大胆で壮麗に見えたが、夜に眺める王城というのも、気高くて神秘的な印象を受け、風流な気がした。

「ネット、こちらだ」

メイルの案内に従い、俺は城を歩く。

「前回と同じ部屋じゃないのか?」

「ああ。今回は謁見の間に案内するようにと言われている」

それは不思議なこともあるものだ。

謁見の間は、訪問者に対して王族の権威を示す場所である。しかし俺は前回の訪問時、既にルシラ様の 素(・) を目の当たりにしている。今更、権威を示す意味なんてない筈だが……。

「失礼いたします」

荘厳な扉が開き、メイルと共に謁見の間に入った。

大きな部屋だった。床は磨き抜かれて光を反射しており、辺りに無駄な装飾品は一切置かれていない。そのシンプルな光景からは独特な力強さを感じた。大きな窓、大きな階段、大きな椅子。全てが部屋の奥に座す王族の存在を強調していた。

部屋の両脇には、武装した騎士が無言で佇んでいる。

張り詰めた空気が立ちこめていた。

「よく、来てくれたのじゃ」

豪奢な椅子に座ったルシラ様が、俺を見て言った。

しかしその表情を見て、俺は頭を下げるよりも前に違和感を覚える。

「……ルシラ様?」

以前、夜通し会話した時のルシラ様とは様子が違う。

まるで切羽詰まっているかのような……胸中の苦しみを辛うじて抑えているかのような表情を浮かべていた。

「今日は冒険者ギルドに足を運んだそうじゃが、無事に登録はできたのか?」

「はい。メイルに案内してもらったおかげです」

「それはよかったのじゃ」

短い世間話が終える。

嫌な予感がした。本題の前に、こうして平和的な会話をするということは――本題は平和的でないということだ。

「本題に入ろう。実はお主に、頼みたいことがあるのじゃ」

ルシラ様は告げる。

「 毒魔龍(どくまりゅう) というモンスターを、知っておるか?」

「……聞きかじった程度なら」

「では、念のため説明しておくのじゃ」

ルシラ様は語り始めた。

「毒魔龍は、エーヌビディア王国の北部で誕生した、その名の通り猛毒を宿す龍じゃ。そして……エーヌビディア王国の国民が、唯一信仰 していない(・・・・・) 龍でもある」

エーヌビディア王国の別名は、龍と契りを結んだ国。

国民の大半は龍のことを神聖視している。しかし、そんな国民が敢えて信仰していない龍とは……。

「毒魔龍は非常に凶暴で、古くから我が国を蹂躙してきた。奴の毒に犯された土地は、長期間に渡って作物が育たず、更にありとあらゆる疫病の元となる。その被害は大きく、もはや数え切れない死者が出ている状況じゃ」

神妙な面持ちでルシラ様は続ける。

「毒魔龍の被害は、やがて我が国だけでなく諸外国にも及んだ。魔王ほどではないかもしれんが、毒魔龍も世界的に脅威と認定されているモンスターじゃ」

名前だけなら俺も聞いたことがある。きっと殆どの者がそうだろう。

魔王ほどではないにせよ……それだけ知名度の高いモンスターは珍しい。

「その、毒魔龍の討伐を――お主にやってもらいたい」

「……は?」

あまりにも想定外な言葉が告げられ、俺は思わず疑問の声を発した。

「お主なら、倒せるのじゃろう? そう聞いておる(・・・・・・・) 」

ルシラ様の口から含みのある発言が繰り出される。

だが俺にとってはまるで心当たりがない……あまりにも無茶な要求だった。

「ル、ルシラ様!」

困惑する俺の隣で、メイルが発言した。

「口を挟むことをお許しください。しかし、相手はあの毒魔龍……いくらなんでも、個人の手に負えるものではありません! 一年前、近隣諸国と連合軍を編成したにも拘らず、返り討ちにされたことをお忘れですか!?」

「無論、覚えている。それでもネットなら倒せるそうじゃ」

ルシラ様の態度は頑なだ。

一年前というと……丁度、俺は別の大陸にいた時期である。この辺りで幾つか大きな戦いが起きたとは聞いていたが、今まで細かくは調べていなかった。どうやらそのうちのひとつが、この毒魔龍を巡った戦いらしい。

「ルシラ様には、俺が毒魔龍を倒せるように見えますか?」

「……お主なら倒せるという情報を、耳にしておる」

「その情報は誰から聞きましたか?」

「言えん。……そういう約束じゃ」

ルシラ様は目を伏せて言った。

どうにも要領を得ない回答だ。はぐらかされている。

「……すまぬ」

ルシラ様はか細い声で謝罪した。

「酷なことを、言っている自覚はある。じゃが……妾にも、後に退けぬ理由があるのじゃ……」

まるで涙を堪える子供のように、ルシラ様はスカートの裾をきゅっと掴みながら、震えた声で言う。

「頼む。どうか、毒魔龍を倒してくれ。お主がその首を縦に振らんと言うなら――引き受けてもらうまで、拘束させてもらうのじゃ」

拳を握り締め、良心の呵責を振り切ったルシラ様は、涙に潤んだ瞳で俺を睨んだ。