軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13話『依頼は慎重に』

D級に昇格した後。

俺はテーブル席で待っている二人の女騎士のもとへ向かった。

「待たせたな。それじゃあ依頼を受けよう」

「いいい、いや待て。ちょっと待て。お前、今、とんでもないことをしていなかったか……?」

メイルが困惑しながら訊く。

レーゼは一度この光景を見ているため驚いていない。紅茶を飲む彼女の横顔は何故か誇らしげだった。

「メイルが剣の腕を磨く代わりに、俺は色んな人と関わっているだけだ。そんなに凄いことではないと思うぞ」

「そ、そうだろうか? ……いや、絶対そんなことはないと思うが」

一瞬、納得したように見えたメイルだが、すぐに疑いを再燃させた。

「相変わらず、自己評価が低いな」

話を聞いていたレーゼが、溜息交じりに告げる。

「『白龍騎士団』として世界中を冒険してきた私から見ても、そのような芸当ができるのはお前だけだぞ、ネット」

「そう言われてもな……結局、俺は誰かの力を借りているだけだし」

「少なくとも私は、誰にでも力を貸すわけではないがな」

レーゼが短く告げる。

そこまで自己評価が低いつもりはない。俺は自分が成し遂げた結果については、しっかり記憶している。ただ、その全てが自力ではなく、誰かの力によるものだという話だ。

驕ってはならないだろう。

俺が他人の功績を、自分のものであるかのように振る舞えば――きっとそれが、 縁の切れ目(・・・・・) となる。

「なあ、ネット。ひとつ気になったんだが……そんなに稼げるなら、私たちが依頼を手伝わなくてもいいんじゃないか?」

メイルが質問した。

「人捜し系の依頼は常にあるわけじゃないんだ。モンスターと違って、対策もしやすいし……こればかりに頼るわけにはいかない」

モンスターの対策はどうしても限界がある。しかし遭難や失踪に関しては、周りの人が注意したり、迷いやすい道に立て看板を設置したりするなど、対策もしやすい。領主さえマトモなら、依頼が出れば出るほど少しずつ対策が整う筈である。そうなると当然、依頼の数は減っていく。

とにかく、俺のような人間は稼げる時に稼ぐべきだ。レーゼとメイル、頼りになる二人の協力者がいる今こそ、その稼ぎ時である。

「さて……どの依頼を受けるか相談しよう」

三人でギルドに設置された掲示板を見る。

掲示板には大量の依頼が張り出されていた。今回、俺たちが受注する予定なのは、数ある依頼の中でも比較的、報酬が高い討伐系のものだ。

「俺とレーゼの二人だと、普通のワイバーンの討伐を受けようかと思っていたんだが……」

そう言いながら、俺は掲示板に張り出された依頼用紙を指差す。

「……メイルが加わったことで三人になったし、このレッド・ワイバーン三体の討伐を受けよう」

「レッド・ワイバーン!?」

メイルが驚きの声を発した。

レッド・ワイバーンは、ワイバーンの上位種である。そのため依頼を受注する条件も「三人以上かつ平均ランクがB以上」となっている。

「レーゼがS級冒険者だから、受けられる筈だ。ただ、それだけだとすぐ終わるから……こっちのオーガ十体の討伐も受けよう」

「ちょちょちょ、ちょっと待て! ネット! こっちへ来い!!」

メイルが俺の首根っこを掴んで、ギルドの隅の方へ移動した。

「おおおお、お前! 私を殺す気か!?」

メイルが必死の剣幕で告げる。

「レーゼ様ならともかく、私はただの近衛騎士だ! その辺の騎士に負けるつもりはないが……レッド・ワイバーンは無理だ! あれはA級冒険者でも、一部の者にしか討伐できないようなモンスターだろう!」

「まあ、そうだが……」

「それにオーガも、一体ならともかく十体だと!? 無理だ! 死んでしまう!」

メイルは目尻に涙を浮かべながら言った。

レーゼと同席した時点で、精神的にいっぱいいっぱいになっていたのだろう。今のメイルに、いつもの涼しげな様子はどこにもなかった。

「も、もし私が足を引っ張って、それで万が一にも依頼を失敗してみろ。レーゼ様の完璧な経歴に、泥を塗ってしまうではないか……!」

「……そんなことを考えていたのか」

流石に硬くなりすぎである。

「別にレーゼも、完璧というわけじゃないけどな……」

「どこがだ!? 直接この目で見て、私はますますレーゼ様は完璧だと思ったぞ! S級冒険者でありながら、あの美しい立ち振る舞い! 全身から醸し出される気高いオーラ! 存在感! ……ああ、本当に心の底から憧れる……っ!!」

恍惚とした表情でメイルは語る。

どうやらメイルにとって、レーゼは本当に天上人そのものらしい。

しかし、レーゼのことをよく知る俺からすると……。

「…………見えないところは、完璧とは程遠いんだけどな」

メイルに聞こえない声量でこっそり呟く。

最低でもひとつ、俺はレーゼの致命的な欠点を知っていた。だがそれをメイルに伝えることは躊躇われる。メイルの中にある、レーゼという名の美しい幻想を壊すのは少々申し訳ない。

「……仮に俺たちが足手纏いだったとしても、レーゼの実力なら問題ないと思うぞ」

「そ、それはそれで申し訳ないぞ。なんだか、頼ってばかりになってしまいそうだ……」

「本人がいいと言うなら、いいんじゃないか?」

そう言って俺はレーゼの方を見る。

俺たちの話を無言で聞いていたレーゼは、しっかりと頷いた。

「私は一向に構わん」

「よし、じゃあ決定だ」

こうして、俺たちの冒険は始まった。