軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10話『ルシラ様は冒険譚が好き』

ルシラ様との会話は、夜遅くまで続いた。

「ほぅ! それで、その空中神殿はどうなったんじゃ!?」

「知人に神殿の核となる部分を狙撃してもらって、墜落させました。今では崩壊した神殿の破片が、名物となって売られている始末です」

「わはははは! 伝説の土地が、今やお手軽な土産となったのか!!」

伝説の土地と呼ばれる空中神殿を冒険した時の話をする。

ルシラ様は本当に冒険譚を聞くのが好きな様子だった。高貴な身分である筈だが、俺の話を聞くルシラ様は、まるで絵本の読み聞かせを楽しんでいる子供のように目を輝かせている。

今度は、モンスターを討伐するために火山を登った話をした。

「ほ、ほぉぉ……火山の噴火口にいるモンスターか。確かにそれでは手の出しようがない。それで、どのように討伐したのじゃ?」

「知り合いの魔法使いを呼んで、火山を丸ごと凍らせてもらい、その間にささっと討伐しました」

「火山を凍らせ…………え? それ、できるものなのじゃ?」

「まあ、できる人にはできるみたいですよ」

混乱しているルシラ様に、俺は苦笑して言う。

俺もその光景を目の当たりにした時は驚いたものだ。「ネットのために新技用意したよ~~!」とか言われた記憶があるが、全然俺とは関係ない魔法だった。あいつ、俺を氷漬けにするつもりだったのだろうか。

さて、他には何を話そうか。

頭の中にある話のレパートリーを整理していると、ドアの方からノックの音がした。現れたのはメイルだ。

「ルシラ様、そろそろ就寝しなくては明日に響きますよ」

「む、もうこんな時間か。……時間を忘れて話すのは久しぶりじゃ」

満足してもらえたようでよかった。

どうやら楽しい談笑もそろそろお開きらしい。俺はテーブルに置かれたカップを手に取り、喉を潤した。

そんな俺の様子を、ルシラ様はじっと見つめる。

「しかし、お主……あまり緊張せんな」

「緊張?」

首を傾げる俺に、ルシラ様は告げる。

「いやぁ、なに。自分で言うのもなんじゃが、妾は、ほれ……美しいじゃろう?」

「…………はぁ」

「美しいじゃろう?」

「…………はぁ」

「美し――」

「そうですね」

「ふふふ、やはりな……妾は美しいのじゃ」

首肯すると、ルシラ様は満足気に笑みを浮かべた。

やっと話が先に進んだ。

「そういうわけじゃから、妾と初対面の男子は大抵、緊張してうまく話せないんじゃが……お主は、なんというか、慣れている感じがするのぅ」

「まあ……実際、慣れているのかもしれません」

ルシラ様はまだ幼く、身体の凹凸も殆どないが、将来は傾国の美女となること間違いなしの顔立ちだ。しかし俺は、同じくらい容姿が整っている異性を何人か知っていた。インテール王国の姫様はその一人である。

「む、妾ほどの美女が世界にはいるというのか」

「滅多にいませんが、いるにはいますよ」

なんて会話をしているうちに、俺も疑問を抱いた。

「ルシラ様は、かなり冒険譚が好きな様子ですが、自分で冒険しようと思ったことはないんですか?」

「む、それは、その……妾はこの国の王女じゃし……」

確かに王女という立場では、俺たち平民と比べて自由を謳歌できないだろう。

心の中で同情すると、ルシラ様は続けて呟くように言った。

「それに………………戦いが、怖い」

「……戦いが怖い?」

「モンスターと遭遇したら、戦わなくてはならないじゃろう? ……妾は、戦いとか、争いが怖いのじゃ…………」

それまでの溌剌とした様子のルシラ様からは、想像のつかない言葉だった。

僅かに驚いた俺は、正直な感想を述べる。

「……意外と臆病な一面もあるんですね」

「なっ!? おおお、臆病とはなんじゃ! 妾だって悩んでるんじゃぞ!!」

ルシラ様は顔を真っ赤にして言った。

別に戦いを恐れることは全く悪くないが、これまでの話し方から、ルシラ様はもっと気が強くて尊大な人物だと思っていた。少々意外である。

そんなふうに驚く俺の傍で、メイルが微笑を浮かべた。

「ルシラ様は、武器を握ることすらできませんからね」

「こ、こら! メイル! 余計なことを言うでない!」

「失礼しました」

何食わぬ顔でメイルは再び姿勢を正した。

近衛騎士だけあって、メイルはルシラ様と気軽に話せる間柄らしい。それでも客人の俺とは立場が違うため、メイルは主君であるルシラ様の前では決して座らなかった。

「別に、いいんじゃないですか」

むぅぅ、と不満そうに頬を膨らませるルシラ様に、俺は言う。

「王族が身体を張って戦うことなんて普通はありませんし……戦う力がなくたって、ルシラ様の価値が下がることはありませんよ」

励ますつもりで俺はそう言ったが……その言葉を聞いたルシラ様は、途端に神妙な面持ちをした。

「戦う力がない、か……」

小さな呟きを、俺は聞き逃さなかった。

しまった、失言だったか。ルシラ様は弱点を克服することに意欲的で、内心では戦う力を求めているのかもしれない。

すぐに撤回する。

「すみません。失言でした。やはり王族である以上、力はあった方が――」

「いや…………いやっ! 間違ってはおらぬ! ネットの言う通り、妾には戦う力がない! 妾は弱い! じゃから、臆病なのは当然なのじゃっ!!!」

ルシラ様はやや興奮気味に言う。

その口調が少し大袈裟に聞こえ、引っかかりを覚えた。

まるで――自分に言い聞かせているかのようだ。

「ルシラ様、そろそろ……」

「おっと、そうじゃったな」

メイルの言葉に、ルシラ様は笑みを浮かべて俺を見る。

「ネット、今日は楽しかったぞ! 妾はもう満足じゃから、お主もゆっくり休むといい!」

「そうさせてもらいます」

こうして、エーヌビディア王国初日の夜は過ぎていった。