軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

01話『プロローグ:さらば勇者パーティ』

人脈が武器になると気づいたのは、何もかもを諦めた十五歳の時だった。

以来、俺は人脈という武器をひたすら磨き続け、自分なりに理想の人生を歩もうとした。俺の予想通り、その武器はあらゆる面で活躍し、今まで何も特筆すべき点がなかった俺に確たる 強み(・・) を与えることになる。

多くの仲間と共に、様々な場所を冒険して、早三年。

自惚れているわけではないが、俺の人脈によって成し遂げられた歴史的偉業は多い筈だ。

ただ、欠点があるとすれば――。

「ネット=ワークインター。貴様を冒険者パーティ『 星屑(ほしくず) の 灯火団(ともしびだん) 』から追放する!」

俺の武器は、他人に理解されにくい。

遡ること、数分前。

俺はインテール王国の王城にある、謁見の間を訪れていた。

「お呼びでしょうか、陛下」

「うむ。面を上げよ」

ゆっくりと頭を上げる。

眼前の玉座には、大柄の男が座していた。年老いて顔に皺を刻んだ男……インテール王国の、国王陛下である。

「貴様が、冒険者パーティ『星屑の灯火団』のリーダーである、ネット=ワークインターだな?」

「はい」

肯定すると、陛下は口を開いた。

「単刀直入に言おう。『星屑の灯火団』を、我が国の勇者パーティに任命したい」

「勇者パーティ、ですか……?」

その言葉の意味は分かる。

勇者パーティ。それは突如現れた魔王を討伐するために、世界各国が派遣している少数精鋭のチームのことである。人々はこの勇者パーティが持ち帰る成果に一喜一憂し、それが経済に影響を与えることもあった。

「昨今、魔王討伐に向けて、あらゆる国が勇者パーティを派遣している。その時流を鑑みて、我が国も一念発起し、勇者パーティを結成することにした」

陛下の説明に、俺は相槌を打つ。

「我々は長い時間をかけて、勇者パーティに相応しい者を選定した。その結果、目を付けたのが貴様ら『星屑の灯火団』だ」

「……光栄です」

俺の知らないところで、随分と勝手に話が進んでいるものだ。

勿論、そんなことは言えないので唇を引き結ぶ。

「聞くところによると、随分と優秀なパーティのようだな」

「ええ。なにせ俺が世界各地を渡り歩いて集めた、自慢のメンバーが揃っていますから」

パーティのことを褒められるのは素直に嬉しい。

だから俺は正直に答えた。

「その自慢のメンバーは我々にとっても魅力的だ。だからどうか、『星屑の灯火団』を我が国の勇者パーティにさせてもらいたい」

なんてことはない。これは栄光を掴み取るための一歩だった。

断る理由なんてあるわけがない。

「謹んで、拝命いたし――」

「――但し、貴様を除いてな」

その言葉は、すぐには理解できなかった。

「は?」

時間をかけても理解できなかったので、俺は疑問の声を発する。

すると陛下は溜息を吐いて説明した。

「『星屑の灯火団』のメンバーは皆、優秀だ。但し貴様だけは……リーダーである貴様だけが実力不足だ。他のメンバーがS級の冒険者だというのに、貴様は辛うじてA級を維持しているような冒険者だろう。はっきり言って邪魔なのだよ」

「いや邪魔って……リーダーは俺ですよ」

「ふん! 役職に縋り付くとは、なんとも情けない男だな!」

途端に陛下は口調を荒くする。

こちらが本性なのだろう。

「大体そのリーダーという肩書きも疑わしい! 冒険者ギルドを通して、貴様らのことは調べてあるぞ! メンバーたちの役割をそれぞれ説明してみろ!」

「ええと、メンバーは俺を含めて五人います。攻撃も防御も担当する騎士に、切り込み隊長を任せられる戦士、回復役の僧侶に、遠距離戦を得意とする魔法使い……」

「で、貴様は何だ!?」

「マネージャーです」

「いらんわ!!」

そんな馬鹿な。

騎士、戦士、僧侶、魔法使い、マネージャーは定番の構成なのに。……俺の中では。

「貴様、パーティのメンバーたちには『人脈が武器』だとほざいているようだな! 実にくだらぬ言い訳だ! 貴様はただ、誰かに守られないと何もできないだけだろう!」

「まあ……それは、そうかもしれませんが」

「言い訳していたことを認めたな。所詮、貴様はただの腰巾着だ。そんな輩に勇者パーティのリーダーは任せられん!」

陛下は憤慨した様子で告げる。

「ネット」

その時、陛下の傍に佇んでいた男が俺の名を呼んだ。

この国の宰相だ。

「分かってくれ。魔王討伐の使命を帯びた勇者パーティは、世界中から注目されるんだ。それ故に、パーティに不釣り合いな人間が混じっていると、多くの非難を受けることになる。それは巡り巡って、インテール王国の品格に泥を塗ることになるだろう」

「……じゃあ、他の冒険者パーティに頼めばどうですか?」

「君が集めたメンバーは、他では見られないほど優秀なんだ。私も調査して驚いたよ。全能神の加護を一身に受けた騎士、飲まず食わずで永遠に戦い続けることができる戦士、死者すら蘇らせることができる僧侶、賢者の勲章を三つも持つ魔法使い……一体どこで集めたんだというほどの人材ばかりだ」

そりゃあもう、本気で探したからなぁ……。

どうやらこの国の上層部たちは、意地でも『星屑の灯火団』を勇者パーティにしたいらしい。

しかし、彼らは分かっていない。

冒険者パーティ『星屑の灯火団』のメンバーは、全員、いい意味でも 悪い意味(・・・・) でもただの人間ではないのだ。

「この際ですから、はっきり言いましょう。確かに俺は『星屑の灯火団』のリーダーですが、実際にやっていることはリーダーというより猛獣使いの方が近いんです」

「……何を言っているんだ、貴様は?」

「あのパーティは、俺が制御する前提で集めたメンバーばかりです。俺の仕事は主に渉外……彼らの戦いによる 被害(・・) が外に出ないよう、事前に話し合うこと。その仕事をする者がいなくなってしまうと……」

陛下たちに向かって、俺は告げた。

「多分……後悔すると思います」

謁見の間を、沈黙が支配した。

やがて、陛下と宰相はその表情を崩し、

「ぷっ」

「くはっ!」

小さな笑い声が響く。

「そうか、そうか! 後悔か! なら精々楽しみにしておこう! 貴様が本当に優秀なら、私は後悔するかもしれんな!」

陛下は俺を嘲笑する。

「言い忘れていたが、貴様の代わりに、我が国の近衛騎士であるユリウスをパーティに加える予定だ。奴は貴様と同い年だが、貴様と違って逸材中の逸材。貴様が抜けた穴は十分過ぎるほど補えるだろう。だから何も心配する必要はない」

そう言って陛下は、見下すような目で俺を見る。

「言いたいことはもうないな? では、改めて告げる」

勝ち誇ったような笑みを浮かべて、陛下は告げた。

「ネット=ワークインター。貴様を冒険者パーティ『星屑の灯火団』から追放する! ……さあ、速やかに消えろ。分かっているとは思うが、勇者パーティと接触することは許さんからな」

話が全く通用しない。

俺は小さく溜息を吐いて、謁見の間を後にした。

「これで邪魔者は消えた。……我が国は、最強の勇者パーティを手に入れたぞ!」

「ええ、彼らが活躍すれば、あっという間に他国を出し抜けるでしょう」

喜ぶ国王に、宰相は頷いた。

「宰相。先程のやり取り……貴様は相変わらず口が巧いな」

「陛下ほどではありませんが、あの程度の若造ならいくらでもやり込めてみせましょう」

ははは! と二人は笑い合う。

「『星屑の灯火団』のメンバーも哀れなものだな。あのような無能な餓鬼に、いいように使われて……解き放ってやった私に感謝するがいい」

「単に人がいいのか、それとも弱みでも握られているのか。……いずれにせよ、あれほどのパーティをネット一人が独占するのはあまりにも勿体ないことです。彼らにはきちんと国のために働いてもらいましょう」

宰相の発言に、王は満足気に頷く。

「ネットと勇者パーティの間にある繋がりは今のうちに潰しておけ。確か奴らは通信できる道具を持っていた筈だ。すぐに取り上げろ」

「承知いたしました」

宰相は深々と頭を下げ、早速、仕事に取りかかった。

謁見の間から宰相が出ていく。閉められた扉を見て、王はゆっくりと玉座にもたれ掛かった。

「くはは……魔王を討伐するのは我が国だ。私の名は、世界中の歴史に刻まれるぞ……ッ!!」

王は愉悦に浸った笑みを浮かべる。

その頭は、偉大な英雄として世界中から賞賛される自分を妄想していた。

本人は知る由もないが――数十年後、確かに王の名は歴史に刻まれる。

但しそれは英雄ではなく……最低最悪の暗君としてだった。