軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第22話

寝不足で頭が回らなかった。

話しかけてくるカイトの言葉の意味も、もうあまり理解していなかった。

「……エリシア、具合悪そうだね。大丈夫?」

心配そうに首を傾げた顔に嘲笑が漏れる。

「大丈夫だと思う?閉じ込められて衰弱死したら貴方のせいね。」

刺激したら良くないと分かっているのに、眠気と苛立ちから皮肉しか出てこない。

ショックを受けたような顔をしたカイトは、相も変わらず私をここから出す気はないらしい。

すると、換気のためと開けていた窓の外からガヤガヤと声が上がった。

ピクリと反応したカイトに釣られ、私も窓をチラリと見上げる。外から小さく聞こえた聞き覚えのある声に、思ったより早かったと安堵した。

「何かうるさいわね。」

知らないフリをしながら不機嫌に呟いた。

「……何事だ?」

不審そうに立ち上がった彼は、ドアに歩み寄り鍵を開けると外の様子を伺っている。ガラの悪そうな男たちと数言交わしている彼をじっと見つめ静かにしていた。

ドアの外が静かになり、建物の外にカイト以外が向かっただろう。

私は静かに立ち上がると、音が鳴らないように手首の鎖をぎゅっと握った。

「エリシア──」

振り返った一瞬の不意をついて、カイトの横腹を蹴飛ばしドアを出ると、乱暴に扉を閉めた。鍵はかかっていないためすぐに開けられるが、私が逃げるための時間くらい稼げるはず。

キョロキョロと辺りを見回して走り出す。

出口が何処か知らないけれど、窓から見えた景色、今いる廊下の造りから大体想像できる。

カイトは私が逃げないかを一番に恐れていた。

ということは、私に用意された部屋は出口から一番遠い部屋。おそらく、出口は対角に位置するだろう。

迷うことなく廊下を駆ける。

ジャラジャラと手首の鎖が邪魔で走りにくい。けれど、そんなことを気にする余裕もない。

振り返らず走り抜け階段を跳びながら下りる。

昔はお転婆でよかったわ。身重の身体でもこうして動ける。

息が上がって苦しいが、足を止めることなど出来なかった。

「エリシアっ!!」

後ろから慌てたような叫び声が聞こえて顔だけで振り返る。

鬼気迫るような表情で追いかけてくるカイト。

案外早く追いつかれてしまったようだ。けれど、彼には負けない。

ひょいっと手すりに足をかけて飛び降りる。

ギョッとした顔のカイトは、こんなことしたことないのだろう。フッと鼻で笑って入り組んだ廊下を駆けた。

とりあえず彼に捕まることだけは避けなければならなかった。

「……はぁっ、はぁ……。」

やっと出口らしき扉が見え、ノブを回して勢いよく開ける。

森の中。

拓けた場所にある小屋の周りを、取り囲むように騎士が並んでいた。既にガラの悪い人々は半数が捕縛済みで、騎士たちの強さが窺えた。

「エリシア……っ!」

聞き慣れた柔らかい声が私の名前を呼ぶ。

その声に振り返ると、金の髪を風に靡かせ、青い瞳を心配そうに揺らすユリウスがいた。

「ユリウスっ!」

あまり声を出していなかったせいで掠れていたが、どうにか彼には届いたようで綺麗な顔を歪ませた。

素足のまま冷たい地面を駈ける。

勢いよく飛び込むと、そのまま強く抱きしめられてようやく肩の力を抜いた。

嗅ぎなれた彼の爽やかな匂いに、戻ってこれたのだとぎゅっと苦しくなった。ユリウスの首にまわした腕に力を入れてしまえば、私の腰に回る暖かい温もりが、もう離さないというように包み込む。

「……良かった。君に何かあったらと、気が気じゃなかった。」

弱弱しい声で呟かれ、罪悪感から謝罪の言葉しか出てこない。

「心配かけてごめんなさい。」

私の肩がしっとりと濡れる。

こんなに心配させてしまった。

そっと頬に手を伸ばす。少し顔色の悪いユリウスを見上げて冷たい肌を撫でる。そんな私を慈しむように見たユリウスは、私の目元を優しくなぞった。

「遅くなってごめん。魔法、維持するの大変だっただろう?」

そう言いながら、彼の護衛であるエリオットという騎士から鍵を受け取ると、私の手首についた枷を外した。

ふっと軽くなった腕を擦り、首を振る。

「随分と急いだのね。思っていたより早くてびっくりしたわ。」

疲れているであろう馬にも感謝をしていると、後ろから私を呼ぶ声がして眉を顰めた。

「エリシアっ!!」

振り返ってみると、既に騎士に囲まれたカイトがいて、その目線は私だけをじっと見ていた。

「……エリシア。」

私を守るように前に立ったユリウスに小さく首を振る。

これは、私が終わらせなければいけない問題だ。

そっとカイトに視線を向ける。

「私はもう貴方の知るエリシアではないの。」

「何を……言ってるんだ?君は……君は、エリシアだ。」

彼は狂ったように目を見開いて言い募る。

「貴方と私はもう関係ない。他人なの。私は今、自由で幸せに暮らしている。カイトを思い出すことは、もうこれ以降、二度とないわ。」

私の言葉に静まり返る。

「エリシア……疲れただろう?行こうか。」

ユリウスに促され頷き返す。

項垂れるように俯いたカイトは、次の瞬間顔を上げるとこちらに向かって何かを投げつけた。

ユリウスの背後に迫る、それが何かを理解する前に私は手を伸ばしていた。