軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12話 小さい追放者は その1

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むかしむかし。

まだ王国が存在する前のこと。

あるところに、ユングフレイという名前の少年がいました。

ユングフレイはそれはそれは非力な男の子で、誰からも頼りにされないような貧しい子供でした。

ユングフレイには、同い年のイニスという名の親友がいました。

イニスは何でも出来る力持ちで、イニスの周りにはいつも、たくさんの人が集まっていました。

ユングフレイも、頼れるイニスに惹かれた人間の一人だったのです。

そんなユングフレイは、少しでも強いイニスに近づくために、毎日一人で剣を振るっていました。

対してイニスは、練習なんてしなくても剣を強く振ることができました。

しかしある日、ユングフレイは奇妙なことに気付きます。

練習の末に、非力だったはずのユングフレイは、イニスと同じように岩を砕くような剣を振るうことができるようになったのです。

ユングフレイがそのことをイニスに伝えると、イニスはとても驚いて、それを自分にも教えて欲しいとお願いしました。

ユングフレイはこの力を『スキル』と名付けて、イニスに教えました。

弱かったユングフレイは、こうして強いイニスと肩を並べるようになったのです。

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「働きたくない!」

昼下がりの食堂で、エステルがそう言った。

エステルは変装の黒縁眼鏡と帽子を被ったいつもの恰好で、テーブル席の椅子を並べて寝っ転がっている。

「突然どうした、エステル」

カウンターの奥で、何やら料理をしているデニスがそう聞いた。

エステルはパッと上体を起こすと、デニスに訴える。

「だって! 週に6日も働いてるんじゃぞ!? 働きすぎじゃない? 余、そろそろおかしいことに気付きはじめちゃったぞ!」

「つっても、お前だって楽しそうに働いてるじゃねえか」

「それとこれとは別じゃー! 余は気付いたのじゃ! 他のお店とかは週に2日は休んでおるわ! なんでウチだけ週休1日なのじゃー!」

「飲食店は二日も休んでられねえんだよ」

掃き掃除をしていたアトリエは、エステルの肩をポンと叩く。

「大丈夫」

アトリエがそう言った。

「何が?」

「慣れる」

「嫌じゃー!」

また並べた椅子の上に寝っ転がって駄々をこね始めたエステルに、デニスが言う。

「そもそも、何でもするから居させてくれっつったのはお前の方じゃねえか」

「まあそれはそうじゃ。しかし余はだな! この店の業務改善を求めているのだ! どうであるか!? 週休二日にしてみない!?」

「しねえ。ウチは今までもこれからも、定休日は週に1日だ」

「ぐわー! この仕事中毒め! お主のような365日働いても平気な者がいるから、王国の働き方改革は進まないのじゃー!」

「その辺の改革は、お前が王様になってから頑張れ」

「決めたぞ! 余が王様になったら、完全週休二日制を義務化してくれる! 破ったら厳罰にしてくれるぞー!」

「支持率の伸びそうな王様だな」

デニスはそう言うと、出前用の取っ手が付いた銀箱に弁当箱を仕舞い込んだ。

「まあ、元気も有り余ってるようだし。出前でも行ってくれ」

「出前? 出前ってなんじゃ?」

「料理を客の家まで届けてやるんだよ」

「ほーん。そういうのもやっておるのか」

「あんまりおおっぴらにはやってないんだが、ちょっと頼まれてるところがあってな」

デニスはエステルに、銀色の岡持ちを渡した。

「いつもはアトリエが行ってるんだが、そろそろお前も行ってみろ。土地勘も付くだろうしな。それとも、お姫様はこんな田舎の街を覚える必要はねえか?」

「何を言うか! この王国は、なべて余が統べることになる領土であるぞ! 王都も田舎もあるものか!」

◆◆◆◆◆◆

エステルは出前の岡持ちと渡された地図を眺めながら、一軒の家に辿り着いた。

「うーんと、ここでよいかな? 地図が雑すぎて、いまいちよくわからんなあ」

エステルはそう呟きながら、とりあえず家の戸をノックする。

まあよい。違ってたら違ってたで、謝ればいいじゃろ。

エステルはそう思うと同時に、本来であれば王座に座っているはずの自分が、どうして出前の岡持ち片手に田舎を歩いているんだろうと思い、不意に運命の不思議を感じた。

ノックしてからすぐに、扉の向こう側で足音が聞こえて、扉が開いた。

覗いたのは中年の、体格のがっしりとした髭面の男性だった。

「おや? アトリエちゃんじゃないのか」

男性が不思議そうに聞くと、エステルは岡持ち片手にふんと胸を張る。

「有難く思うがよい! 本日は特別に、アトリエ殿の代わりに余が出前とやらを運んできてやったのだ!」

「ははは、元気の良い子が来たものだな」

髭の男性はそう言うと、懐から取り出した巾着袋から代金を支払おうとした。

すると、奥から何やら女の子の声が聞こえて、男性が後ろを振り向いてそれに答える。

「ああ、ティア。今日はアトリエちゃん、来てないんだと」

「なんじゃ? 誰かおるのか?」

エステルがそう聞くと、髭の男性は銀貨を何枚かエステルに渡した。

「娘が居てね。アトリエちゃんが来るのを、いつも楽しみにしてるのさ」

「待ってなくとも、会いに行けばいいじゃろ。アトリエ殿なら、食堂にいつも居るぞ?」

「ちょっと、事情があって外に出れなくてね。なかなか友達も作れないから、アトリエちゃんが遊んでくれるのを楽しみにしてるのさ」

「なーんじゃ、水臭いのう! それなら、余も友達になってやろうではないかあ! どれ、娘さんとやらの部屋に案内せい!」

「それはいいが、君は大丈夫なのかい? 仕事の途中だろ?」

「ふはは! これも仕事の一環というやつである!」

エステルが胸を張ってそう答えると、髭の男性はエステルを奥の部屋に招いた。

奥の部屋には、それほど広くない室内にベッドが置いてあり、そこに一人の少女が寝ている。

横になっていた少女はエステルを見つけると、上体を起こして驚いたような顔を浮かべた。

「えっと、お父さん。その娘は……?」

「出前を運んできてくれたんだよ。うちの娘のティアだ。よろしくね」

「我が名はエステルである! お主はティア殿と申すか! 初めましてであるなあ!」

「あ、ええと……どうも、初めまして……」

エステルがずかずかと歩み寄って握手を求めると、ティアと呼ばれた少女はやや困ったような様子でその手を握り返した。

ティアは透き通るような緑色の髪をした少女で、肌は白く、やや痩せた印象のある娘だった。

◆◆◆◆◆◆

「なるほど。ティア殿は、胸の調子が悪いのであるな」

ベッドの横に丸椅子を置いて、そこに座り込んだエステルがそう尋ねた。

デニスが作ったお弁当をちびちびと食べるティアは、それに静かな声色で答える。

「うん。歩いたりすると、すぐに胸が苦しくなって、倒れちゃうんだ」

「そーれは難儀であるなあ。余なんて、小さい頃は王城を駆け回ってエピゾンドを困らせていた記憶しかないのに」

「王城?」

「いや、こっちの話である」

エステルはそう答えると、ティアに聞く。

「それで、食堂の出前を取っているのじゃな?」

「うん。一回だけ、調子が良かった日に食堂に連れて行ってもらってね。美味しすぎて、びっくりしちゃったんだ。そうしたら、店長さんが出前にしてくれるって」

「なるほど、そういうわけであったか」

「それからは、アトリエちゃんが出前を運んで来てくれてさ」

「うーむ、知らなかった。アトリエ殿も、必要なこと以外はとんと話さないものなあ」

「たしかに。でも、無口っていうわけでもないんだよね」

「そうそう。いったん喋り出すと、超早口の短文で畳みかけてくるんじゃ」

「わかる。めっちゃ速いよね。めっちゃ韻を踏んでくるよね」

「ほんとそれな」

エステルとティアはそこまで言ったところで、二人して可笑しそうに笑った。

「ひー、おっかしい。こんなに普通に話したのは、久しぶりだなあ」

「なんだ、訪ねてくれる友はいないのであるか」

「そうだね。アトリエちゃんくらいだけど、彼女とはあんまり『おしゃべり』っていう感じにはならないから」

「たしかに。『おしゃべり』っていうよりも『対話』って感じじゃな」

「『対話』ね! それ言えてる! なんかちょっと違うよね、普通の人と!」

「なんか、余らの次元まで降りて来るって感じじゃなあ」

「あはは、おっかしい!」

◆◆◆◆◆◆

すっかり夕方になって、営業時間が近づいてきた頃。

食堂へと帰ろうとするエステルに、ティアの父親が声をかけた。

「ありがとう。あんなに楽しそうに話してるティアは、久しぶりに見たよ」

「いやはや、余にとっても良い時間であったぞ! なんか、普通の女の子と話すのって初めてじゃったかもしれんのう!」

「よかったら、また来てくれるかい?」

「もちろん! 余の出前という名の凱旋を心待ちにしているがいい!」

エステルは空の弁当が入った銀の岡持ちを片手に、そう答えた。

帰り道でエステルは、また来よう、と思った。

明日も来よう。

きっと行こう。