軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8話 追放鍛治屋に御用かな? その2

「しっかし。よくもまあ追放された連中がこうわんさかと集まってくるもんだぜ」

食堂で、カウンターの椅子に座ったデニスがため息をつきながらそう言った。

「ビビア。お前なんか原因知らねえか。うちはやっぱり、そういうフェロモンみたいのが漂ってるのか? それともお前のスキルか?」

「要らなすぎるでしょそのスキル。いやなんというか。これはもうこの食堂というより、この街の問題なのでは」

「なあアトリエ。お前がなんか、怪しい超音波でも出して呼び寄せてるのか?」

「…………」

「悪かった、アトリエ。そんな『アホなの?』みたいな目で見ないでくれ。冗談だから」

三人で並んで座ったデニスとビビアとアトリエがそんな風に話していると、目の前で手首を縛られている盗人の少女が叫ぶ。

「なーんだてめえら! このあたしをどうするつもりだー!」

「手癖も悪ければ口も悪いガキだな……」

「どうせこの可憐なあたしの身体を弄ぶつもりだろ! 薄い巻物みたいに!」

「初めて聞く言い回しだなあ」

デニスはカウンターにもたれながらそう言うと、盗人の少女のことを眺めた。

やや茶色がかった黒髪を、ショートカットに纏めた少女。両サイドの髪だけを少し伸ばしているが、ややザクザクとした髪の感じを見るに、どうにも髪を自分で切っているらしいことがわかる。

やや汚れた冒険者の軽装を身に纏った少女……ジュエルは、くりんとした大きな瞳を瞑ると、発育の良い胸を張って啖呵を切る。

「はんっ! 騎士団に突き出すなら突き出せばいいさ! いや、やっぱり騎士団は無し! 騎士団は無しで! なんでもするから! 牢獄暮らしは嫌だー!」

「意地張るのか媚びるのかどっちかにしような!?」

デニスがそう言うと、脇に立っていたエステルがジュエルに尋ねる。

「お主。ジュエル・ベルノーと言ったか?」

「そうだけど、お宅は?」

「余は……まあ、そのなんじゃ。流浪の高貴な謎の食堂のウェイトレスといったところよ」

「自己紹介で謎を深めないでくれない?」

ジュエルは目を細めながら、そう言った。

エステルとジュエルが話し込んでいる目の前で、デニスもポルボに話し掛ける。

「なあポルボ。どうやらあの娘、うちの従業員に必要な人材かもしれねえんだ」

「ンドゥドゥフ、どうして欲しいのかネ?」

ポルボが大きな顔を近づけると、デニスはその耳たぶの大きな耳に向かって小声で囁く。

「ちょっと、窃盗の件については見逃してやってくれねえかな。悪いようにしねえからさ」

「ンドゥルフフ……デニスにそう言われちゃあ断れんネ」

「すまんな」

「ンドゥフ、良いのヨ。私とデニスの仲じゃないかネ」

「気持ち悪い言い方だが、否定はできねえな。そういや、俺がこの街に来て最初に話したのってポルボだったよな」

「そんなこともあったネ」

◆◆◆◆◆◆

「ははーん? あんたら、つまりは新国王に対する反乱分子ってわけかい」

ジュエルは愉快そうな顔を浮かべて、エステルらに対してそう言った。

すでに拘束を解かれたジュエルは、話を聞きながらデニスが振舞った焼肉定食をがっついている。

解放した当初は隙をついて逃げようとする気配があったのだが、山盛りのご飯と肉厚の焼き肉を出されてからは、そんな素振りもついぞ消えてしまったようだ。

「 複製(コピー) スキル持ちって聞いたけど、本当なのかしら?」

そう聞いたのは、エステルと一緒のテーブルに座るポワゾンだ。

「たしか、ベルノーの鍛治一族も複製スキルの特殊血統だって聞いたけど」

「よく知ってるじゃない。確かにあたしの得意スキルは『 複製(コピー) 』だよ。うちの一族はみんなそうさ」

「念のため、見せてもらってもいいかしら?」

「お安い御用。『 複製(コピー) 』!」

ジュエルがそう言うと、彼女が触れていた焼肉定食が、空中にもう一つ生成された。

彼女はそれが下へと落っこちる前に受け止めると、エステルの前に差しだす。

「はい、焼肉定食もう一丁。食べる?」

「おお! 複製なんてレアスキル、初めて見たぜ」

デニスはカウンターから、感心した様子でそう言った。

ビビアもその傍で、綺麗な二重瞼の目を驚いたように丸くしている。

「これが特殊血統のレアスキルですか……やっぱりすごいですね」

ジュエルが複製した方の焼肉定食は、オリジナルの焼肉定食よりも冷めていて、量も少ない。さらにはちょっとギトギトとしていて、やや美味しくなさそうな気配がある。

「ま、こんなもんだね。オリジナルを完璧に複製できるってわけじゃないのさ」

ジュエルはそう言いながらも、得意気な様子だ。

「複製品は、オリジナルよりもあらゆる面で劣化しちゃうの。クラスも一つ落ちちゃうし、この美味しい焼肉定食を複製したら、ちょっと美味しくなさそうな焼肉定食になる。プラスして元の定食が『食べかけ』だったから、こっちはもっと食べかけになっちゃった」

ジュエルは目の前のポワゾンとエステルにそう説明した。

少し離れた場所からその様子を見ていたデニスは、ビビアに話し掛ける。

「なんだかんだ、特殊血統の限定スキルをまともに見たのは初めてかもしれねえなあ。多分、あのロストチャイルも霧状化もその一種なんだろうけど」

「まあ、一応アトリエちゃんもワークスタット家の特殊血統なんですけどね」

ビビアがそう補足すると、デニスが意外そうな顔を向ける。

「ワークスタット家も?」

「知らなかったんですか?」

ビビアが驚いたように言った。

「ワークスタット家なんてレア中のレア、もうウルトラレアレベルの特殊血統ですよ。精神干渉系の特殊血統で、王国で唯一、最強の催眠魔法が扱えた家系なんですから。だからこそ魔法使い達の頭領だったんですけど」

「アトリエ、お前はお前ですげえんだな。ちょっと魔法本気で覚えてみろよ」

「仕事の合間でいいなら」

アトリエはそう言って、親指を立ててサムズアップする。

どうも、アトリエの中でピースサインの次の流行が来たらしい。

ポワゾンは複製された焼肉定食をまじまじと眺めると、ジュエルに聞く。

「これって神話級のマジックアイテムに使ったら、伝説級の複製ができるってこと? 凄すぎない?」

「あー、できないことはないんだけど。あんまりにもクラスが高すぎたり量が多すぎる複製を作るのは難しいんよ。複製しようとしたら、そもそも弾かれちゃうか変なもんが出来ちゃうのがオチだね。うちのお父ちゃんなら……」

ジュエルはそう言いかけると、少し悲し気な表情を浮かべた。

「まあ、本気出せばできたんだろうけど」

「本当に、ベルノーの鍛治一族なのね」

ポワゾンはそう言って、ジュエルのことを見た。

「これなら、王家から重用されていたのも頷けるわ」

「王家なんてクソくらえさ。うちのお父ちゃんを処刑しやがって。あたしら一族はあれから、何とか逃げ延びて身を隠しながら、スキルを使ってコソ泥で生きてるんだ」

「どうして王家に狙われているわけ?」

「ふん。あたしらが、王剣の秘密を知っちゃったからだろうさ」

「お主、王剣の秘密を知っておるのか!?」

テーブル越しに飛び掛かるようにして叫んだエステルに、ジュエルはビクリと驚く。

「まあ……そもそも本当かどうかは知らないけど……」

「お、教えてくれぬか! お主の情報が必要なのじゃ!」

「うーん、教えてもいいけど……」

ジュエルは肘を抱えて頬に手を寄せると、ニヤリと微笑む。

「ただってわけにはいかないかなー?」

「安心するとよい。余が王座に返り咲いた時には、必ずやお主の一族を復権してくれよう」

「そーんな夢物語を語られてもねー?」

ジュエルはそう言うと、手をひらひらとさせて手招くような仕草をした。

「やっぱり、先立つ物が欲しいかなー? お金だよ、お金。大事な情報なんだから、相応の金品で答えてくれないとねー?」

「お前の窃盗を、ポルボに見逃してもらったんじゃ足りないか?」

デニスがそう聞いた。

「ふん。別に助けてくれって頼んだ覚えはないしー」

「いやお前牢獄送りはめっちゃ拒否ってただろ」

「べ、別に助けてくれなくても何とかなったしー……」

ジュエルが冷や汗をかきながらそう言うと、エステルが追って尋ねる。

「仕方ない。いくら欲しい?」

「ま、王家の秘密をバラすんだからね。ざっと見積もって金貨100枚と言ったところかな?」

「馬鹿言えこの。うちの食堂が何件建つと思ってるんだ」

「べっつに教えなくてもいいんだけどー? 大事な情報だからねー」

「このガキ、さっき真偽も定かじゃねえって言ったくせに」

「需要と供給ってやつさ」

ジュエルはニヤリと笑いながらそう言った。

カウンターに座り込んだビビアは、考えを巡らせているようだった。

「うーん。うちには金目の物なんて特に無いしなあ。エントモリさんの初版限定サイン本が山ほどと、前にケイティさんから貰った幻獣戦で壊れた甲冑くらいか」

「お前はお前で謎の人脈が出来つつあるよな」

デニスがそう言うと、いつの間にか二階から降りて来たアトリエが、ジュエルの前にやって来た。

アトリエはパタパタと歩くと、一冊の本をジュエルに差し出す。

「これ。セスタピッチさんが、値段が付けられないくらいの価値があるって」

「なにこの本……? 『ネクロノフィコ』?」

「待て待てアトリエちゃん! それは駄目だって! それ国宝級の奴だから! 世界遺産級だから!」

ビビアが焦って止めようとすると、アトリエがジュエルにその本を渡してから言う。

「読まないから。必要な時に使うべき」

「いやいやそうは言ったって! 灰からやっと復元した一冊でしょ? ご両親の形見でもあるんだから!」

「ユヅト写本もオリヴィアにあげた。喜んでた」

「いやそうじゃなくてー! オリヴィアさんの場合は良いと思うけど! こういう風に使う物じゃないって、この本は!」

「あ、アトリエよ。そ、そんな大切な物を交換に使わなくてもよいぞ……?」

ビビアとエステルが、そう言ってアトリエを止めにかかる。

本を手渡されたジュエルは、それを眺めながら少し考えるような素振りを見せると、

その本をスッとアトリエに返した。

「流石にそんなヤバそうな物は貰えないなあ……これは、あんたが大事に持ってた方がいいよ」

「そう?」

「うん。大事な物なんでしょ?」

「みんなはそう言う」

「なら、そうなんじゃない? 流石のあたしでも、親の形見は受け取れないかな。大事にしなよ」

ジュエルは爽やかに笑ってそう言うと、本を受け取ったアトリエの頭を撫でた。

その様子を見て、ビビアは胸を撫で下ろす。

「さてと。しばらく良い答えは出てこなそうだね」

ジュエルはそう言うと、食堂から出て行こうとした。

それを見て、デニスが呼び止める。

「おいおい、どこ行くつもりだ」

「なに? まさか答えるまで監禁するつもり?」

ジュエルは食堂の扉に手をかけながら、振り返ってそう返した。

「いやそういうわけじゃねえけど」

「そっちが良い条件を提示するまで、あたしはこの街に居ることにするから。心配しなくても、あんたらのことは王政府にチクったりしないって。あたしだって、父親を処刑されて追放されてる身だし。下手に見つかったらヤバいから」

「しかし……」

「それじゃあ、良い回答を期待してるね。また食べに来るから、その時までに決めておいて。もちろんタダにしてくれるっしょ?」

ジュエルはそう言って笑うと……そのまま、食堂から出て行った。

デニスたちはその様子を見届けると、互いに顔を見合わせる。

「どうする? 金貨100枚は相当吹っ掛けてるだろうが、相応の物は用意しないと答えなさそうだぞ」

「うーむ。困ったのう……」

エステルがそう言うと、本を持ったアトリエが呟く。

「軽い」

「ん?」

アトリエは本をパラパラとめくってみた。

すると、そのページの多くが白紙だった。

「なるほど」

アトリエがそう呟いた。

それを見て、ビビアが叫ぶ。

「え!? 待って!? これ複製されてません!?」

「ええっ!? そんな暇あったか!? いつのまに!?」

「なんかそういうスキルがあるんでしょう! 盗人なんだから! マジシャンみたいに! ああ油断してた! なんかちょっといい感じだったのに! ちょっと見直してたのに!」

「盗られた!? マジで!?」