軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21話 ハッピーエンド (中編)

王都の中心部。

逃げ惑う群衆と、怒り暴れ狂う異形の子供たち。

この突発的な異常事態に、王都に存在する多くのレベル高位者が、自分の身や家族を守るために逃げてしまった後で……王都民の避難のために留まった者たちも存在した。

彼らは大通りの中心部で防衛線を築きながら、凶悪なスキルを大量に、それも出し惜しみせずに使用してくる子供たちに圧倒されている。

「セスタピッチさん! 治癒魔法は使えますか!」

爆炎が立ち上る中で、ヘズモッチがそう叫んだ。

彼女は倒壊しつつあった建物の中から、一人の火傷を負った女性を救助した所だった。

エントモリや、後方へと駆けつけていたポワゾンにジュエル、それに幻霧祭の警備のために配置されていた騎士たちと共に防御のための魔法を展開していたセスタピッチが、一旦持ち場を離れて駆け寄って来る。

「初歩的なものなら使える! 君は防衛線に加わってくれ!」

「わかりました、頼みます!」

セスタピッチとヘズモッチは、喧騒の中で声がかき消されぬように、お互いに声を張り上げて叫び合った。

本当ならば、負傷者の手当てと後送には、治癒術士のポワゾンがあたってくれるのが望ましい。

しかし当のポワゾンは、防衛線が一瞬にして崩壊しないための、最も重要な役割を担っていた。

「ぐぁあああっ! まずいわぁ! 向こうから 石巨人(ゴーレム) が来てる!」

そう叫んだのは、高濃度の毒霧を、前方範囲に向かって一瞬も緩めないように展開しているポワゾンだった。

たった一人でも接近を許せば、その瞬間にまとめて蹴散らされかねない子供たち。

ポワゾンの病毒魔法による範囲攻撃が、彼らを近付けぬための一定の距離を稼いでいた。

即死級の毒霧を展開することにより、侵入不可能な空間を形成して遠距離戦に持ち込む。

しかし彼女は、前方から緩慢な歩みで近づいて来る巨大な石巨人の姿を見て、ひどく焦った。

毒も何も効くはずがない、錬金によって形成された無機質な暴力と力の塊。

左右に並ぶ建物よりも背が高い、石と泥の巨人。

奴が到達してしまえば、やっとの思いで維持している防衛線を一瞬で滅茶苦茶にされてしまう。

そうなればお仕舞だ。

「誰か、遠距離からあれを撃ち落とせるスキルを持ってる奴はいないのぉ!?」

「無理よ! デカすぎる!」

作家のエントモリがそう答えた。

彼女は手元のメモ帳にガリガリとペンを走らせながら、 呪術文字(ルーン) を用いて、遠方から飛来する攻撃を必死に打ち消している。

「アレに接近されたら終わりなんだけどぉ! 誰かなんとかなさいよぉ!」

「みんな手一杯なのよ!」

「待って! 見て!」

戦線に加わったヘズモッチが、空を見上げてそう叫んだ。

そこには、王城方面から飛翔してきた一人のメイドが見える。

「ミナサーン! オリヴィアはお役に立てマスカー!?」

「めっちゃ立つわぁ!」

「オリヴィアさん! あのデカブツをどうにかしてください!」

「カシコマリマシタ!」

彼女は病毒魔法の範囲内に躊躇なく降り立つと、そこに片膝を突いてしゃがみ込み、さながら固定砲台のように両肩の二連装砲から連続砲撃を行った。

十数の光弾が高速で撃ち出され、 石巨人(ゴーレム) の脚部に連続で命中する。

その衝撃と、脚部の質量を削られたことによりバランスを崩した石巨人が、ゆらりと倒れてその場に膝と手を突いた。

大質量が倒れた衝撃により、地震のような衝撃が辺りに響き渡る。

「やったぁ!」

「オリヴィアさん、すごい!」

「すげえ!」

「あのメイドすげえ! 騎士団にも来てくれ!」

防衛線を築いていた皆が沸き立った、その瞬間。

なんの予兆も無しに。

突如として周囲に光の矢が降り注ぎ、攻撃的な弦音楽が流れた。

「づっ! うぁああっ!?」

「うおぉぉおおっ!?」

数十本の光矢が地面に突き刺さり、旋律を伴う破壊的な音波が全てを吹き飛ばす。

築いていた防衛線が一瞬にして崩壊し、ポワゾンの展開していた毒霧が霧散していった。

突然の範囲攻撃により、大通りに多くの負傷者が転がった。

頭上に降り注いだ光矢をやっとのことで転がって避けたポワゾンが、辺りを見渡す。

「甘い甘い。パフェみたいに甘い」

「ぜんぜん弱っちいね、ミニョン」

左右にそびえる建物の屋上。

そこで彼らの頭上を挟み込むようにして立ち、無残に転がる者たちを見下ろす二人の子供が見える。

「メルマに言われて来てみたら」

「こうなってるとはね、ミニョン」

画材を首に提げた片足の少年と、ヴァイオリン弾きの少女。

「そんなものではねえ」

「こんなもんではねえ」

その二人の子供は、赤い夜闇の中でケタケタと笑った。

擦過傷と共に衣服を切り刻まれながら、地面に転がっていたヘズモッチは、築いていたはずの防衛線の向こう側を眺めた。

再び立ち上がり始める、巨大な 石巨人(ゴーレム) 。

こちらへと歩み寄る、怨嗟の権化たる子供たち。

噴き上がる、地獄から運んできたのではないかという業火。

すべてを圧し潰し、貫かんと迫る異常な植物たち。

「……デニス、副料理長……」

ヘズモッチは、届かないとわかっていても、その名前を呟いた。

いつも助けてくれた、頼れる兄弟子の名前を呼ばずにはいられなかった。

しかし、その声は届かない。

いくら泣こうが喚こうが、斬首人がその首を斬り落とすのをやめないように。

これは……このまま死ぬのかなあ、とヘズモッチは思った。

そんなとき。

ふと空を見上げたヘズモッチは、不思議な光景を目にする。

無数の星々が輝く夜空に、薄いオーロラのような膜が広がっていこうとしていた。

明らかに雲ではない。

何か、魔術的な力が込められた薄膜。

そのキラキラと七色に光る薄い膜は、空を覆い尽くし、さらに遠くまで届こうとしている。

いったい、どこまで?

なんのために?

その広がりの起点を目で追ってみると、それは王城の最上部から端を発していることがわかった。

王城の尖塔から、まるで水面に落ちた石が幾重にも重なる波紋を作り出すように。

その不思議で綺麗な薄膜は、どこまでも広がっていく。

◆◆◆◆◆◆

その『何か』の広がりの起点。

王城の尖塔部。

今しがた首を切り飛ばされたばかりのヒースは、それを過去改竄の赤い閃光の炸裂によって『無かったこと』にしながら、嬉しそうな叫び声を上げる。

「ガッ! ガハハハハッ! 始まったか! ついに始まったぞ!」

笑うヒースを、デニスは再び切りつけた。

肉切り包丁が頭頂部から斜めに突き刺さり、彼の目元までを抉り切る。

鮮血を噴出させながら、ヒースは高らかに笑った。

「ギャッ! ギャハハハ! ついに始まった! ついに物語の幕が、下り始めたぞ!」

「いい加減にくたばりやがれぇっ! この野郎がぁ!」

「残念な、がらぁ!」

脳を破壊されて呂律の回っていない舌で喋りながら、ヒースは自分の頭に突き刺さる分厚い刃を握った。

赤い閃光が迸り、過去が修正され、それは事前に『受け止めたこと』にされる。

「もう貴様に構っている暇はない! お仕舞としようじゃねえかぁっ!」

「てめえの命の方がなぁ!」

再び致命傷を加えるために、互いに武器と拳を振りかざす。

その死闘の様子を、苦しそうに頭を垂れたアトリエが、閉じそうな瞼の奥から見つめていた。

頭脳が無限に拡張されていくような感覚。

この世界の全てと接続されていくような感覚。

自分を中心として、この世界に網のような何かが形成されていくような。

この世に生きる全ての意識と、彼女は隣り合わせに存在しつつある。

彼女の周りには無数の扉があった。

普段、その扉は閉じられていたり、距離が遠かったり、鍵がかかっていたり、朽ち果てていたりする。

しかしいまや、その全ての扉が開いて、彼女に心を開こうとしていた。

彼女はその中心にいた。

彼女はすべての扉を開く鍵そのものであり、同時にすべての扉の管理者でもあった。