軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19話 子供たち (後編)

王城広場を取り囲む石柱の陰。

そこに隠れながら、ビビアは『 柔らかい手のひら(パーム) 』で広げた魔法の膜に配置を書き込んで、作戦を伝えていた。

それを聞いたヘンリエッタが、「ええええ~!?」と駄々をこねている。

「なんで!? なんでそこのポジションが私なのーっ!?」

「だって、ヘンリエッタさんが一番『物理』高いんですから! 『物理』で耐えきってください!」

「肉壁かい!? 私は肉壁かい!?」

「そんなことないですよ! ポルボさんも一緒に立つんですから!」

「人はそれを肉壁と言うのですがー!」

ヘンリエッタはそう言うと、エステルの方を見た。

「こ、国王陛下ぁ! めっちゃ強いんですよね! 私の代わりに立てたりしませんかぁー!?」

「いや。余、防御力ゼロだから。攻撃力と攻撃範囲に極振りだから。すまぬな」

「じょ、ジョヴァン団長ぉー! レベル80以上ありますよねー!?」

「私は一応、騎士団の総指揮官だからなあ。なんかあったら困るからなあ」

「ケイティさん! 『真紅の速剣』さん!」

「あたし、攻撃全部避ける派の紙装甲だから」

「ビビア君ー!」

「僕は、他に役割あるので!」

「ああもう、行け! ヘンリエッタ騎士兵長! 命令だ!」

最後にジョヴァン団長が一喝すると、ヘンリエッタが半泣きでべそをかく。

「うぅぅ……みんなひどいー……」

「いいか、上手くいったら昇進させてやるから。一年も経たずに三階級昇進といったら、あのヒースに次ぐ快挙だぞ! がんばれ、ヘンリエッタ騎士兵長! 気合だ!」

「うえーん! 殉職で特進しちゃいますー!」

「まあまあ、ヘンリエッタ氏。あたしも頑張って防御するかんな。思い残すことあらへんか?」

「バチェル氏!? そんな諦めた目で見ないで!?」

どこか遠い目をしながら親指を立てたバチェルに、ヘンリエッタが思わず叫んだ。

そんな彼女の肩を、デニスが掴む。

「ヘンリエッタ」

デニスは彼女の目をまっすぐ見据えて、頭を下げた。

「頼む。たしかに……これしか無さそうだ」

「た、大将……」

頭を下げるデニスに対して、ヘンリエッタは彼の手を掴み返す。

「や、やりましょう! はい! 大将のお願いであれば! よっしゃあやってやりましょう!」

「やった! ヘンリエッタがやる気になったぞ!」

「ちょろい!」

街の皆様方がそう叫んだ。

◆◆◆◆◆◆

「ぁー……ぁっ……くぁ……」

額に脂汗を浮かべて、アトリエは青白い顔色をしている。

彼女はその小さな頭の中に、幻霧祭の破砕機に詰め込まれていたスキルを片っ端から詰め込まれて、強制的にレベルを引き上げられ続けたのだ。

椅子に縛り付けられて、彼女はその細い脚をカクカクと震わせていた。

頭が重い感じがする。首を座らせることができない。

異様な圧迫感と不快感で口を閉じることすらままならず、唇の端から涎が垂れ始めている。

「ふむ」

ヒースは彼女の目の前にしゃがみ込んで様子を窺いながら、そんな風に呟いた。

「レベル100くらいにはなったはずなんだが。サーチスキルもぶっ飛んじまったから、ステータスも見れないし……よくわからんな」

そう言って、ヒースは難しそうな顔をする。

「かといって、これ以上スキルを無理やり詰め込みすぎると死んでしまうかもしれんし……フィオレンツァに居てもらえばよかったなあ。こいつにだけは死んでもらうと困るんだよなあ。困ったなあ」

アトリエの鼻先でそんなことをブツクサと呟いていると、彼女は瞼を開いているのも辛そうな瞳で、彼のことを見た。

その何かを訴える視線に、ヒースが答える。

「そんな目で見たって、ヒーローは助けに来ちゃくれないぞ」

「……きっと、来る」

「ふん、そう思うのは勝手だ。思想の自由ってやつだな」

まあ、もう少し待ってみるか。

ヒースはそう呟いてから立ち上がると、開けた大窓まで歩いて行って、煙と炎に包まれる王都を眺める。

「おうおう。やってるなあ、みんな。いいぞ、どんどん破壊するといい。どんどんぶちまけてやるといい。どうせ最後はみんなハッピーエンドで終わるのさ。その前にちょっとくらい、思い知らせてやればいい」

そう言ってから、ヒースは王城前の大広場へと視線を移した。

それを見て、彼は思わず顔をしかめる。

「…………なんだあれは?」

◆◆◆◆◆◆

王城前に整列し、防衛線を張る子供たち。

それに対面するようにして、若干の距離を置いた場所に……ヘンリエッタとポルボの二人が、いつぞやに活躍した拡声のマジックアイテムを使って、呼びかけを行っている。

「えー! そこの皆さん! そこはー、そのー、国王陛下の領地ですよー! 不法占拠はやめなさいー!」

ポルボに拡声機を担いでもらいながら、マイクを握ってそんな声をかけているのはヘンリエッタだ。

彼女は後ろを振り返ると、「これでいいですか!?」という顔をした。

二人からさらに距離を取った場所に並んでいる町民たちが、「ちょっと違う!」というジェスチャーをする。

「えー! そのー! 違うのかー! こういうときは……あれだ! そんなことをしていたら、きっと親御さんが悲しみますよー! 泣いてしまいますよー!」

ヘンリエッタがそう呼びかけると、魔方陣を展開している子供たちが、大ブーイングを返してくる。

「親なんてもういないぞー!」

「適当なこと言うんじゃねー! デカパイー!」

「うう……お父さんに、お母さんに会いたいよ……」

「うわっ! 泣くなって! ちゃんとスキル構えろって! 見ろよ! お前のせいでドロシーが泣いちゃったじゃないか! 巨乳のお姉さん!」

そんな子供たちのブーイングを受けて、泣きそうな顔を浮かべたヘンリエッタがまた振り返った。

「なんか、地雷踏んじゃいましたー! 複雑な事情があるみたいですー!」

「ヘンリエッタ! 怯むな! もっとガンガンいけ!」

「負けちゃ駄目やでー!」

後方で控えるジョヴァン団長とバチェルがそう叫んだ。

気圧され気味のヘンリエッタに代わり、今度はポルボがマイクを取る。

「ンドゥフフフ……みなさん、そんなことをして何になるのですかネ……今、展開している攻撃魔法を解いて投降すれば、エステル真王はきっと許してくれ……」

「うるせー! デブー!」

「ンドゥフッ」

一転落ち着いた口調で声をかけるポルボに対し、防衛線を張る子供たちの食い気味のブーイングが突き刺さった。

「その前にダイエットしろー!」

「太りすぎて首無くなってるぞー!」

「うぅ……あのおじさん、怖い……奴隷商で売られそうになった時に、いやらしい目で見てきた人にそっくりだよ……」

「お、おい! 泣くなって! ほら、魔方陣構えろって! お前のせいでドロシーがまた泣いちゃったじゃないか! このキモデブ野郎ー!」

「ンドゥフッ」

ダメージを受けた様子のポルボとヘンリエッタに、背後で控えている町民たちが応援で叫ぶ。

「ポルボー! がんばれ!」

「お前が思ってるほどキモくないぞー!」

「そうだ! みんなもう慣れてるから! 大丈夫だぞ!」

「おい! その言い方は駄目だろ!」

「ンドゥフッ」

追加ダメージを受けた様子のポルボに対し、防衛線を張っていた子供たちが、怒りの声を上げ始める。

「ふざけてやがるのかぁ! 大人どもぉ!」

「子供だからって舐めるなよ!」

「ヒース様から授かった、凶悪スキルの数々!」

「喰らわせろ!」

叫び始めた子供たちが、展開していた魔方陣を起動させ始めた。

空中に浮かぶ魔方陣のいくつかが発光して明滅し、その中心部に魔力が凝縮されていく。

それを見て、ヘンリエッタとポルボが慌てて後退を始めた。

「無理! もう無理です! 死ぬー!」

「ンドゥフーッ! もう無理ネーっ!」

展開されていた十数の魔方陣から、次々と攻撃魔法が発動された。

無数の光弾が射出され、おびただしい数の氷の槍が降り注ぎ、錬金によって連鎖的に地面が砕ける破壊的な衝撃が、一目散に逃げる二人めがけて迫る。

「ギャー! 死ぬー! よく考えたらこれ、物理耐性とかそういう問題じゃないー!」

「脂肪で防ぐにも限度があるヨー!」

一目散に逃げ去ろうとする二人に向けて、無数の即死級スキルが襲い掛かり……

駆け出したツインテールとポニーテール、それにバチェルが魔法を起動させた。

「『 打消(アニュレイション) 』!」

「『 守護聖者の防波堤(セイント・パトロン) 』!」

「『 神のお膝元(レジュー・デジュー) 』ッ!」

三人で防御魔法を重ね掛けして、襲い来る攻撃魔法の第一陣を凌ぎきる。

ツインテールの打消がいくつかの攻撃魔法に干渉して対消滅し、ポニーテールの物理防御魔法が半透明の巨大な大楯のように出現し、最終防衛線のバチェルが、非物理の魔法攻撃が通過できない結界を周囲に展開した。

その間に、疾風の如き速度で駆けたケイティとジョヴァン団長がヘンリエッタとポルボを回収し、グリーンとその舎弟がとにかく「やった!」と叫んだ。

しかし、矢継ぎ早に襲い来る第二陣――さらに激しい攻撃魔法の嵐が、どのような防御魔法も上から圧し潰さんとする圧倒的出力で、大広場の上空を覆い尽くさんとする密度で降りかかる。

「国王陛下ーっ!」

「お任せしますー!」

「余に任せておけい!」

ヘンリエッタとポルボを回収して退却しようとする五人とすれ違うように、今度はエステルが飛び出した。

「『 虚実重なる王の逸話(エクスカリバー) 』!」

自身が内蔵する極大空間を解放してこの世界に押し付けることで、空間そのものを破損させるエステルのスキル。

解放の度合いはかなりの加減がされているものの、前方範囲に爆発的な破壊の光が生じて、周囲の空間が圧し潰されるように歪み、襲い掛かる攻撃魔法の軌道が逸れて明後日の方向へと飛び散っていく。

「うおおっ!」

「エステルちゃんすげええっ!」

その神の降臨の如き光景を見た町民たちが、興奮して叫んだ。

軌道上の空間ごと方向を逸らされた無数の攻撃魔法は、左右に飛び散って大広場を囲む石柱を次々と破壊し、数百本の石柱によって支えられていた楕円形の屋根が音を立てて倒壊していく。

「うわああぁっ!」

「お、落ち着けって! 攻撃を喰らったわけじゃない!」

「次の奴でいけ! そのまま押し切れ!」

「待って! 見て! 上!」

混乱する子供たちが叫び喚いている中で、泣いていた一人の少女が上空を見上げた

星々が輝く夜空。

その中に、稲妻の如き加速で、

最高到達点から急転直下で降り立つ、メイドの姿が見える。

◆◆◆◆◆◆

「づっぅぉぉおおぉおおおっ!」

風を切り裂き、遥か上空から目下の王城へと落ちて……いや、加速出力によって爆発的な速度で垂直落下しているビビアは、オリヴィアのメイド服に必死で掴まりながら叫んでいた。

地面に向けて垂直に加速しながら落下するオリヴィアの両手には、デニスとビビアの衣服が掴まれている。といっても、掴んだ衣服の布地はあまりの加速度によって破れて、二人は必死に彼女の身体へとしがみついている状態だ。

防衛線を張っていた子供たちが、落下してくる三人――――正確には、垂直加速落下する一人のメイドと、それにしがみつく二人の存在に気付いた。

展開されていた魔方陣から、上空の目標めがけて迎撃の攻撃が射出される。

その第一陣は、上空に向かって打ち放たれる無数の光の矢。

噴き上がるマグマのようにオリヴィアたちを撃ち落とさんとするその攻撃の嵐を、オリヴィアは空中を三次元的に利用し、直角の高速機動で避けていく。

しかし、次に襲い来る第二陣、第三陣。

もはや避けるための隙間が物理的に存在しないほどの、高密度な迎撃魔法の嵐。

「避けられマセン! いったん加速を解きマス!」

それを確認すると、オリヴィアは両肩からジャキンッ、と二対の砲身を取り出し、加速していた背部の 出力口(ジェットエンジン) への魔力供給をストップした。

「中距離攻撃用高出力魔力凝集線砲! 避けられないナラバ、ぶっ飛ばすマデ!」

オリヴィアの砲口が連続で煌めいて光弾が射出され、破壊可能な攻撃目標を次々に砲撃し、逆迎撃していく。

その応戦によってやっと空いた攻撃の間隙へと、オリヴィアは背部の加速器へと出力を素早く切り替えて飛び込んだ。そこで身を翻したオリヴィアが叫ぶ。

「ビビア様! 今デス!」

「ぱ、『 柔らかい手のひら(パーム) 』! 行ってください、デニスさん!」

「任せろっ!」

ビビアが展開した魔法の膜を、デニスが両手で掴む。

即席の 落下傘(パラシュート) によって滑空するデニスが王城方面へと、オリヴィアとビビアが広場の方向へと、空中で反対方面へ別れる。

上空の攻撃目標が二手に分かれ、子供たちの射出した攻撃魔法がそのどちらもを追って二手に分かれながら、その中間で逸れて飛び散った。

「ど、どっちを攻撃すればいい!?」

「王城に向かってる方に決まってるだろ!」

混乱しながらも、滑空して王城方面へ向かうデニスを攻撃目標に見定めた子供たちは、そちらへの攻撃を再開しようとして……

「待って! 正面からも来てるよ!」

「上からも!」

「いいから応戦しろって!」

「だからどれに!」

ビビアの展開した魔法の膜を 落下傘(パラシュート) にして、王城の最上部へ向かうデニス。

その反対方向へと別れながら、上空から光弾による威嚇射撃を行うオリヴィア。

そして、隙をついて真正面から斬り込んでくるケイティとジョヴァン団長。

三方向への対処を同時に迫られた子供たちは、とにかく、その全てに対して滅多やたらに撃ちまくる。

そして、その結果として。

デニスへと向かう攻撃は、先ほどの密度よりはずいぶん少ないものとなった。

彼は落下傘を早々に手放すと、錬金しておいた肉切り包丁を構えて、『 反転予知(ラプラス) 』による未来予知と、物理・非物理の対象を問わない『強制退店の一撃』を用いて、地上からの迎撃を落下しながら凌ぐ。

そして、ほとんど自由落下によって、彼の身体が王城の最上部へと向かい――

◆◆◆◆◆◆

王城の最上部の尖塔。

その屋根が砲撃を受けたかのように破壊されて、瓦礫が飛び散った。

上空から飛来して石畳に転がったのは、一人の料理人。

その姿を見て、辛そうに頭をもたげていたアトリエは、

泣き出しそうな顔で……ボロボロになりながら登場した、自分のヒーローの姿を見た。

その過程の全てを見ていたヒースは、どこか可笑しそうに笑う。

「グハハハ……! 来ると思っていたぜ……弟よ!」

彼は両手を広げて、どこか嬉しそうに、どこか楽しそうに叫ぶ。

「このまま終わるわけがないとは、思っていたさ! そうだろう、デニス!」

地面に激しく転がって全身を擦りむいたデニスは、それでもなお立ち上がった。

「出張追放料理人……! 仕方ねえからよぉ、出前にあがってやったぞっ! ヒース!」

彼は肉切り包丁を構えて、ヒースと真正面から対峙した。

「俺にどうしても殺されてえようだなぁっ! その注文、たしかに受け取ったぞっ!」