軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

068 エビのテルミドール、そして家族の話

「ジュースだけど、かんぱーい」

「お酒じゃないのが残念ですけど、かんぱーい!」

「私はお酒飲めにゃいから、ジュースでも嬉しいにゃん。かんぱーい」

探索を終えての打ち上げ。

神殿の近くには行けないので、安全な範囲で食堂に入る。

最近は、意図的にいろいろな食堂を試すようにしていた。

俺は元々が日本人だからか、好き嫌いが少ないというか、食べられる物が多いし、リフレイアも食べることが好き。グレープフルーも普段ろくな物を食べていないのか、奢りで食べられることに毎回喜んでくれるので、こっちまで嬉しくなる。

そして、おそらくは、冒険の後のこういう場面が好きという視聴者も多いと思うのだ。

俺が飯を食っている場面を喜ぶ視聴者はいないだろうが、リフレイアやグレープフルーは別だろう。

坊主憎けりゃ袈裟まで憎いで、2人も嫌われてしまっているかもしれないけれど……。だとしても、冒険のシーンばかりでは視聴率は伸び悩むと思う。緊張と緩和が必要だろう。

「初めての店は緊張しますね」

「ああ、ギルドでオススメされてた店なんだっけ?」

「ギルドって結構やること手広いですよね……」

まあ、ギルドも探索者を少しでも多く手元に置いておきたいのだろう。委託業務なんだし、探索者なしでは回らないのだから。

「しかし、いい匂いだ。チーズとエビだっけ?」

「そうですね。私はエビって食べたことなくて……。海で採れるやつなんですか?」

「私は川で採れるちっちゃいのなら、よく食べますにゃ。癖になる味ですよ? ここのは大きいから海のじゃにゃいかにゃ」

他のテーブルに運ばれているものを見るに、ロブスターというかイセエビというか、かなりデカいエビだ。

転移する前には……まあまあ食べたことある。下の妹が甲殻類が好きで、謎のネットバイトで稼いだ金で時々すごい量をお取り寄せしていたから。

しばらくして、料理が運ばれてきた。

どうやら半分に割った巨大エビにソースを塗り、チーズを乗せてオーブンで焼いたもののようだ。

料理名は、エビのテルミドールと入り口に書いてあったが、ピンと来なかったのだ。

エビは(この世界の食べ物の常だが)地球のものより倍ほども大きい。

もし、これがイセエビだったならもの凄い金額だっただろう。

「豪快な料理だな。熱々で美味そうだ」

「これ、高いんじゃにゃいですか? いいんですか? こんにゃに」

「いいさ。メシはみんなで食べたほうが美味いよ」

高いといっても銀貨1枚くらいだ。

まだ換金していないが、昨日一人で潜った分の精霊石もある。

視聴率レース期間中は金を残すことに意味はなく、できるだけ散財して視聴率を上げたい。食事で金を使うのは、意外と重要になるだろう。

料理番組と動物番組は鉄板だと、なんかで見た記憶もあるし。

二又の大きいフォークを使い、エビを食す。

とろりと蕩けるチーズと、濃いめのタレが合わさって濃厚なうまさだ。タレにはエビのミソを使っているな、これは。

「かなり美味いよ。パンにも合うし」

ご飯が欲しくなる味だ。味の濃いものを食べるとそう考えてしまうのは、日本人ならではのものかもしれない。

「う~ん、とろけるにゃ。川エビとは全然違うにゃん」

「そ、そんなに美味しいですか。う……よし……食べますよ……」

巨大エビの前で真剣な顔をして覚悟を決めるリフレイア。

まあ、確かにエビってのは、初めて食べるには勇気のいる姿をしているかもしれない。

日本でもエビが苦手な人はけっこういたけれど、リフレイアの場合はどうなのだろう。食わず嫌いならいいけど。

「えいっ!」

パクリとエビの身を口の中に入れるリフレイア。

まあ、初めて食べるものは勇気がいるよね。

「お――」

「お?」

「お……、おいしい!」

パァッと顔を輝かせるリフレイア。

口に合ったようで良かった。

「私は今感動しています。こんなに美味しいものを知らずにいたなんて。もぐもぐ」

「甲殻類は好きな人は好きだからなぁ。うちも妹がめちゃくちゃ好きなんだよ」

「へぇ! ヒカルって妹がいるんですね!」

「ああ、俺と違って滅茶苦茶に出来の良い妹だよ」

こんな話をしているのも、セリカとカレンも聞いていたりするのだろうか。

あいつらは、俺がナナミ殺しの犯人じゃないと信じてくれていると思う。

だけど、だからこそ他人との軋轢には苦しむのではないか。「まさか家族の中に殺人鬼がいるとは! 私たちも被害者なんです!」と言えれば楽だろうが、二人はそういう選択はしないだろう。

世間と戦って傷ついて欲しくないな……。

「へぇ~。でも、ヒカルだって戦闘も強いし、指示出しもできるし、術だって的確だしで、すごく優秀だと思いますよ?」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、うちの妹たちの優秀さは、そういう次元じゃないから。なんて説明していいかわからないけど」

妹は、2人共保育園の時点で英語がペラペラだったし、なんというか、新しいことにチャレンジしていく意欲と、片っ端から吸収していく脳の出来の良さがズバ抜けていて、小学校に入る前からすでに神童として有名だった。

テレビにも何度か出たし、両親にとってはこの上ない自慢の子どもだったのだ。

「そうなんですか。親御さんも鼻が高いでしょうねぇ」

なにげないリフレイアの言葉にドキリとする。

「そうだな」

短く答えて、ちらりと両親のことを思った。

両親は、なんというか強い人たちだから、おそらく、俺がナナミ殺しの犯人と世間から誹られようと、あまり意に介さないだろう。

そもそも、父さんと母さんが俺を心配して見ているのか。俺には、そのビジョンが上手く浮かんでこなかった。

転移したばかりの時は、いきなり森に放り込まれるという凄まじい状況で、さすがに家族は心配しているだろうと素直に思っていたと思う。

でも、今となっては――

「――ヒカル? 大丈夫ですか? なんか……すごく辛そうな顔してますけど」

「ん、ああ、悪い。ちょっと、家族のこと考えてて」

「……事情があるんですね。まあ、探索者は大抵そうですけど」

詮索されるかと思ったが、そこには触れないのがルールなのかもしれない。

まあ、俺の事情は特殊すぎる。話しても理解して貰えない可能性が高い。

視聴率レースが終わったら、どのみちリフレイアとグレープフルーには話そうと思っているが、今はまだその時ではなかった。

「私も妹いるんですよ。すごく出来の良い子で……ふふ、そこもヒカルと一緒ですね」

「わたしもわたしも! うちは五人姉妹にゃんですよ!」

やはり猫の獣人だから、一度に生まれる数が多いのかな? と益体もないことを考えてしまう。名前もオレンジフルーとか、レモンフルーとか……んなわけないか。

エビのテルミドールは美味で、腹が減っていたこともあり出てきた分はペロリと平らげて、さらにおかわりまでしてしまった。

位階が上がってくると、怪物化が進み食欲が増すという話だったが、こういうことか。戦えるようになった分、食費がヤバいかもしれない。