軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

051 グレープフルー、そして絢爛

「……ヒカル、あのリンクスと知り合いなんですか?」

「ああ。前に、あいつ二層で足にケガして立ち往生してたんだよ。そんときに入り口まで送ったってだけ」

「…………私以外の 娘(こ) も助けてたんだ」

「そりゃ、二層のど真ん中でニャーニャー鳴いてたら見て見ぬ振りできないだろ」

「ヒカルはお優しいですもんね~」

「別に。普通のことだよ」

リフレイアの謎の嫉妬らしきものを受け流しつつ、俺は気になっていたことを訊いてみた。

「ところで、どうしてリンクスだけ『雇い』で探索者やってるんだ? 他の奴らみたいにフリーでやれない理由が?」

「それについては、私が答えにゃければにゃらにゃいところでしょう!」

階段を降りてきたグレープフルーが話に割り込んでくる。

大きな耳をピンと立てて、なかなか地獄耳だ。なるほど、斥候向きだな。

「お初のパーティーではリンクスの歴史から説明する決まりにゃんです。それで、少しでもリンクスの社会的な地位を上げたいというのが、互助会の理念なのにゃん」

グレープフルーがにゃんにゃん説明してくれるところによると、元々リンクスは世界中にいる種族なのだが、夜目が利き、耳聡く、俊敏で音を出さずに歩けることから、スリや泥棒が多かったのだそうだ。

それで、実際にはリンクスがしたのではないものまで犯人に仕立て上げられる事件なんかもあり、だんだん被差別的立場へと追い込まれていったらしい。

「リンクスは種族的に致命的な弱点があるのにゃ。他種族よりも、ずっと非力にゃんです」

「だから、そんな細い剣しか持たないのか」

「こんなのでも、ほとんど振ることもできにゃいんですけどね……」

確かに腕力がないというのは致命的だろう。

暴力に抗えないというのは、種族的に「弱者」とされてしまう決定的な要因なのだ。

鉄砲でもあるならともかく、腕力がものをいう世界ではなおさら。

「だから、迷宮に潜って位階を上げるしかないってわけか」

「いえいえ、そうじゃにゃいです。私たちは、戦えないから位階を上げる事もできにゃい。ゴブリンはおろか、スケルトンにすら勝てにゃいです」

「じゃあ、どうするんだ?」

「斥候ですから。ちょっと見てきて、後は警戒するのが仕事ですにゃ」

「それじゃ強くなれないだろ」

「今はそれでいいのですにゃ。お金を貯めて、大精霊様と契約して、やっとリンクスも探索者ににゃれるんですから」

なるほど。リンクスにとっての「鉄砲」は精霊術なのだ。

彼女の装備を見ても、金銭的な余裕がないのだろうというのは見て取れる。

保証金は銀貨5枚だが、それは互助会が受け取る金額で、当然、死んだリンクスが受け取れるわけではない。彼女の取り分は、一日の雇用料である小銀貨1枚のみだ。

3層に潜るなら小銀貨5枚、4層なら銀貨2枚と上がっていくらしいが、その分危険も段違いに増す。そもそも、付いていくパーティーが全滅したら、同行したリンクスだって生き残ることはできない。

「それで、大精霊の契約ってけっこう金かかるのか?」

「金貨1枚にゃん……」

「そんなにするのか」

金貨一枚なんて、大金も大金。銀貨40枚とか50枚とか、そんな額だ。

一日働いて小銀貨1枚のリンクスに貯められるとは思えなかった。

「ちょ、ちょっと待って下さいよ。グレープフルーちゃん……だったかしら。大精霊様との契約、金貨一枚なんて、そんなにするはずありません。光の大精霊様との契約でも銀貨10枚なんですよ? この街の大精霊様との契約なら銀貨5枚もしないはず――」

「……リンクスは特別価格にゃんです」

「え……」

大精霊との契約は、実質そこの「神殿」を管理している連中が値段を付けているらしい。つまり、言い値だということ。人間は安く、亜人は高く。そういうことが平然と行われているということらしい。

「リンクスの事情はよく分かった。うちのパーティにいる間はなるべく稼げるようにするから、安心しておけ」

「そうですね。まさか金貨一枚なんて……、絶対おかしいですよ……」

「よろしくお願いしますにゃん……って、この3人で潜るんですか?」

外に出たところで、グレープフルーが立ち止まって疑問を口にした。

まあ、3人パーティーはいくらなんでも少ない。

「そうだよ。ま、大丈夫だろ」

「ええ、今日はまだ二層に行くくらいですし」

楽観的なリフレイア。

俺は楽観視はしていなかったが、それでも2層なら問題ないと踏んでいた。

実際、不安なのは連携くらいだ。2層の探索すらできないなら、そもそも迷宮に潜ること自体ができない。

最悪、ダークネスフォグですべて覆い尽くしてしまえば、どの敵からも逃げられるし、結界石もまだ一つ持っている。オーガとマンティスは脅威だが、奇襲されない限りは問題ないだろう。

それに、多少無鉄砲なくらいでないと視聴率は伸びないだろうという思いもあった。

「斥候入れて三名ってのは珍しいので、ちょっと確認したかっただけにゃん。お兄さん術凄かったですし、リフレイアさんも有名ですもんにゃあ」

「やっぱり有名なのか? リフレイア」

「絢爛のリフレイアといえば、他のパーティーでの雑談でもよく出てくる名前にゃん。私たちリンクスには、人間の美醜はよくわからにゃいんですが。みんな付き合いたいとか、結婚したいって言ってるにゃ」

「すごいな、リフレイア」

地元のアイドルというやつか。

俺とパーティー組んでると知られたら、ストレートに嫌がらせされるんじゃないか?

美醜の感覚、こっちの世界はあくまで異世界なのだから、地球とは違う可能性もあったが、やはり美人は美人だってことだろう。

「そんな風に言われてるんですか……。怖いですね。ヒカルに守ってもらわなきゃ」

組んでいた腕の力を強めるリフレイア。

つーか、結局ギルドにいる間、ずっとこの状態だったんだけど、大丈夫か?

もうストレートに嫌がらせされるの確定してない?

こうしてる間にも、けっこうチラチラ見られてるし。

「守るもなにも、リフレイアのほうが強いだろ……」

「そりゃ術なしで戦えば、私のほうが強いでしょうけどぉ~。守ってくれないんですか?」

至近距離で上目遣い。

やっぱりあの時、リフレイアが酔ってなかったと自己申告したのは本当のことだったのかもしれない。

昨日近くなった距離感が、今日もそのままだからだ。

「守るよ。少なくとも俺に付き合ってくれる間は、絶対に」

「えへへ~。ヒカルは絶対そう言うと思った」

「にゃにゃにゃ! ラブの匂いがするにゃ! 二人は付き合ってるんですかにゃん?」

「そういうんじゃないよ」

グレープフルーがそう感じるのも無理ないレベルで、リフレイアはベタベタしてくる。

両腕に絡みついてくる妹たちで慣れてなかったら危なかった。

これはラブというより甘えているのだろう。

「あっ、それと私、なんか絢爛の二つ名で呼ばれてるみたいですけど、まだその名前で呼ばれるほど強くないですから、グレープフルーちゃん、それとなく訂正しといてくださいね」

二つ名とかあるんだ。

俺もリフレイアと組んでることバレたら寄生虫のヒカルとか名付けられちゃいそうだな。

「絢爛ってどういう意味なんだ?」

ゴージャスみたいな意味だった気がする。

一周回って悪口っぽいが、それは日本人感覚というものか。

「絢爛は私の剣の師匠の二つ名なんですよ。戦い方が同じだから、それでそう呼ばれてるんでしょう。でも、師匠はサラマンデル級まで上がった戦士ですから、私では比較にもなりませんよ」

「なるほど、綺麗な戦い方だったもんな。わかる気がするよ」

デカい剣を全身を使って振り回して戦う姿は、まるで踊っているかのように美しかった。

あの戦い方はまさしく「絢爛」だ。

リフレイア自身の美しさも相まって、暗くジメジメした迷宮の中できらびやかに輝いて見えたほどなのだから。

「綺麗って……、あ、そうかヒカルは私が戦ってるの見てたんですもんね」

「見蕩れてて助けるの遅くなっちゃったけどな」

「ふぅ~ん。見蕩れてたんだ……。じゃあ、少しは師匠に近づけてるってことなのかな」

「ああ、確かに『絢爛』だったよ」

「へへ……うれし」

「にゃにゃー! ラブの匂いがするにゃ!」

とにかくメンツは揃った。

視聴者数も、想像を超えて増えている。

やはり、元々の潜在的な視聴者が多かったということなのだろう。闇に潜らなければ、あっという間に、億超えを達成している。

このパーティーで必ず一位を取る。

絶対にだ。