軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

036 贈り物、そして新たなる決意

リフレイアが姿を消してからも、しばらく呆然としていた。

姿を見られた。

俺が闇の精霊術を使うことを知っている相手に。

グレープフルーによると、闇の精霊術はこのあたりには使い手がいないらしい。斥候として、いろんなパーティと組んでいるであろう彼女が言うのだから、事実だろう。

こんなファンタジーな世界だ。

最悪、魔女狩りのようなことにならないとも限らなかった。

(くそっ……どうする……)

考えても、これといってどうしようもない。

あのリフレイアが秘密を守ってくれることを信じる以外には。

あとは、今まで以上に姿を見られないように生きることくらいか。

……最悪、街を出るという手もあるが、それは最後の手段としておきたかった。

「ダークネスフォグ」

改めて闇の霧を発生させ、中に引き籠もる。

地べたに座り、今回の戦利品を眺めた。

「混沌の精霊石……か」

これを手に入れるのは二回目だ。

他の単色の精霊石と違い、色とりどりの輝きがラメのようにちりばめられた石で、オパールに似ている。

俺の「クリエイト・アンデッド」は、混沌の精霊石か闇の精霊石が必要らしく、とするとつまり、この石を使えばあのマンティスをアンデッド召喚できるということ。

「ストックしておくか……」

万が一、ヤバい魔物に囲まれたときなど、打開する手があるというのは心に余裕を生むものだ。まだ見ぬ三層や四層で通用するかどうかは知らないが、少なくとも二層ではマンティスより強い魔物はいない。

売ればかなり高値になるのだろうが、今回はオークの精霊石が大量に手に入っている。しばらくはこれで暮らしていけるはずだ。なにか装備品を買う余裕すらあるかもしれない。

しばらく、時間を潰した俺は、リフレイアがどこかに隠れてないか怯えるように、迷宮の外に這い出した。

今日は、あまり長く迷宮内にいなかったから、まだ深夜だ。

宿に戻り、俺はリフレイアを助ける前に手に入れたお宝――「 珠玉(オーブ) 」をシャドウバッグから取り出した。

これは迷宮の外で実体化する。グレープフルーはそう言っていたが――

そんなことを考えながらテーブルの上に置いた宝玉を眺めていると、ただのオレンジ色のガラス玉のようだったソレが、ぐにゃぐにゃと姿を変え始めるではないか。

10秒か20秒ほどして、それは別の形になって変形を終えた。

(マジか……。めちゃくちゃ俺向きのやつだ……)

珠玉が変化して出てきた物は、漆黒の籠手。

迷宮で手に入るお宝は、神獣が個々人に向けて贈るものらしい。つまり、迷宮の神だかなんだか知らないが、その神獣が「俺に合った品」として、これをくれたということ。

信じられないことだが、なるほどこれなら神獣が「横取りにキレる」というのもわかる気がする。

肌が見える場所はなるべく隠したかったが、グローブの類は高く、まして籠手など絶対に買えない値段だったので、素直に嬉しい。

まして、この漆黒の籠手は、何枚もの黒い金属プレートと、革手袋が合わさった逸品で、普通に買おうとしたら、下手をすると金貨が必要だろう。

(鑑定もしてみるか)

せっかくの品だ。

俺は1クリスタルを使い、アイテム鑑定を行った。

『闇夜の籠手 :神獣の贈り物 光を反射しない特殊な金属と革で作られた漆黒の籠手。金属同士がぶつかっても音が鳴らない為、隠密行動に適している。非常に軽い素材で、非力な者でも革グローブの如く扱うことが可能』

(かっこいい……!)

さっそく装備してみると、まさに誂えたようにぴったりだった。

なるほど、2層からでもこれだけ良いものが出るのだ。

おそらく、かつては宝の横取りが横行していたのだろう。

神獣の怒りを買う云々が迷信なのか、それとも本当のことなのかはわからないが、宝を見つけた者を妬む者が出るであろうことは、想像に難くない。

俺は闇夜の籠手を身に付けたまま、ベッドに横になった。

リフレイアが俺の秘密を暴かないかだけが心配だったけれど、よくよく考えれば写真もないこの世界じゃ、そう簡単に足がつくこともないはずだ。

最悪、街を出ればいいと思えば、少しだけ気分も楽になった。

それに、マンティスに殺されるはずだった彼女を助けることができたのも事実。

笑い声も視線も感じずに魔物と戦い、倒すことができたのも、俺の気分を軽くしていた。

そして、俺はひさしぶりにゆっくりと眠ることができたのだった。

◇◆◆◆◇

昼過ぎに目覚めた俺は、身体を伸ばして木製の窓を開いた。

俺が借りている部屋は、路地裏にある安宿で、窓を開くとすぐ向かいには壁があり、景観が良いとは言えない。

それでも、異国であり異世界であり、地球ではないどこかに来たのだなと毎回思う程度には、それまでの生活とは隔絶した景色を見ることができた。

「シャドウバッグ」

術名と共に、影に漆黒の口が開く。

俺はそこに手を突っ込むと、中にしまってある物を取り出しベッドに並べ始めた。

闇の精霊術が、この世界においてどういう扱いなのかは、いずれはどこかで訊く必要があると思う。

もしかしたら禁忌的な扱いになっていて、術者は見つけ次第、断頭台に送る――なんて可能性もなくはない。

なんといっても中世ファンタジーな世界なのだ。そんな魔女狩りめいたことが起こらない保証はなかった。

光が正しいものであれば、闇は正しくないもの……そんな風に考える人が多くても不思議ではないのだ。

「……とはいえ、いきなり街を出るってのはいくらなんでも慎重すぎるか」

シャドウバッグの中から出てくる、蒼月銀砂草、結界石、混沌の精霊石(マンティス)、短剣、ロープ……。

ナナミのアルバムは取り出さずにそのままにした。

持ち物を広げながら、今後の方針について考える。

マンティスを倒せたことが、自信になっていた。

他の探索者パーティを見ても、精霊術を使えるかどうかで、かなり探索の難易度が違うようだった。

闇の精霊術は攻撃的な術がないから、戦い方に工夫は必要だろうが、使い方次第で魔物と比較的安全に戦えるはず。

「武器は短剣だけ。あとは、ロープも使えなくもないか……。混沌の精霊石は切り札だな……。最悪、結界石も一つある」

持ち物自体、元々ほとんどないが、武器の類はそれこそ数えるほどしか持っていない。

光る花は売れば高値になるのは間違いないが、おそらく「めちゃくちゃレア」なアイテム。これを売るなら、それこそ街を出る覚悟を決めた時なんかにすべきと思う。そもそも、あの闇市で適正な価格で買って貰えるとも思えない。資本力なさそうだし。

探索者の死体から拝借した装備類は、基本的にすべて売却していた。

自分自身で戦うつもりがなかったし、装備品を流用して足が付く可能性も考えたためだ。

短剣などは予備に一本くらい持っていてもよかったが、一番高値で売れるのもまた武器の類だった為、結局、最初に買った短剣以外の武器は持っていない。

ロープは森を歩いていた時に木の上で眠ろうとしてクリスタル交換したものだ。捨てるのは忍びなく、未だにシャドウバッグの肥やしとなっていた。

「短剣で戦える魔物……スケルトンよりは、二層のほうがいいな」

俺は魔物と戦う決意を固めていた。

マンティスとの戦闘で、笑い声も視線も感じなかったことで、闇の中でならば大丈夫なのでは? という希望が見えていたのだ。

リフレイアとの件で視聴者数が戻ってしまうのではと危惧もしたが、思ったよりも変化がない。

少なくとも、十億人が俺を見ている……という状況ではなくなっていた。

おそらく、もっと楽しい冒険や生活をしている他の転移者に興味が移っていったのだろう。闇に隠れた俺のことを気にするほど、暇な人間ばかりではないということなのかもしれない。

(このまま視聴者が減れば、ただの一人の人間として生活できるな)

今はもう届くことのない、地球に残してきたもの……両親のこと、二人の妹のこと――当然気になってはいたが、かといって俺にできることがわからなかった。

ステータスボードを開けば、今でもメッセージは増え続けている。

そのすべてが罵倒かどうかは、わからない。

視聴者は減っているのだ、今でも見ている者は単純に俺を応援してくれている可能性だってある。

だが俺にはこれを開く勇気が出なかった。

俺と違って頭の良い二人の妹――セリカとカレンならば、なにか良いアイデアを思いついたのかもしれない。

でも俺には「とにかく生き続けること」それ以外には思いつかなかったのだ。

知らない国、知らない世界。

住所も身分証明書も存在しない、安宿を拠点とする根無し草の人生だ。

せめて、強くなること。

それだけが、今できることなのだろう。