軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

029 観察、そして探索者パーティー

迷宮に籠もる日々の中で、疑問に感じていることがあった。

俺が迷宮に籠もっていると、他の探索者たちを迷宮内でボチボチ見かける。まあ、それ自体は当然だろう。迷宮には魔物も多いが、探索者も多いのだ。

だが、問題は時間だ。

俺が迷宮にいるのは日が沈んでから、夜中の間だけである。日が昇る前には迷宮を出て宿に戻っている。

とすると、この人たちはいつ寝ているのだろうか?

他の冒険者と魔物を取り合うのを避けて、あえて夜中に探索をしている? ……まあ、その可能性もなくはない。

だが、迷宮は広く、魔物を取り合うほど探索者がいるというイメージもないので、疑問だった。

今も、それなりに良い装備を身に纏った一団が、闇に潜む俺の近くを横切っていく。

(彼らも、こんな時間から探索か……?)

現在夜の8時。夜型なのだろうか。

俺は距離を取り、尾行してみることにした。

他の探索者たちが、どのようにこの迷宮で過ごしているのか情報が不足していた。

第二層である飢獣地下監獄のマップは、それなりに頭に入っている。かなり距離を取っても見失うことはないだろう。

万が一、気付かれたら逃げればいい。

今まで、何組もの探索者パーティを見かけたが、今、尾行しているパーティは6人組で、なかなか手堅い印象を受ける。

(戦士が3、斥候が1、精霊術士が1、あと一人は……荷物持ちか?)

まず斥候だが、この迷宮ではだいたいどのパーティも斥候を連れていて、種族的なアドバンデージがあるからか、必ず猫の獣人である。

(あれ、グレープフルーか)

青っぽいサバトラの毛並みで、すぐに折れてしまいそうな細剣を腰に差し、防具は革の胴鎧だけという姿。

あれから、無事に探索者稼業……正確には、斥候業を続けられていたようで安心する。

今回は、比較的強そうなパーティに雇われているようだ。

逆に言えば、ベテランに見えるパーティーでも斥候は雇う。それだけ重要ということだ。

なぜ斥候が重要か。

一度も戦闘をしたことがない俺でもわかる。

有利な状況で、有利な相手と戦うのが迷宮探索の基本だからだ。

強そうな魔物や、到底さばききれないような数の群れがいたなら、さっさと逃げるに限る。その判断を担うのが斥候なのだ。

斥候役は人間でもできるだろうが、猫の獣人ならば、俺が闇に紛れて様子を見るのに近いことができるに違いない。

戦士は片手に松明を持ち、長剣と盾とチェインメイルで武装。なかなかの武者ぶりだ。

探索者の実力は、装備を見ればわかる。一層にいる駆け出しは、革の鎧すら装備できず、木の板を針金で括ったような鎧と、自作の棍棒のようなものでスケルトンと格闘している者がほとんどなのだ。

「あっちに、オーガがいます。一匹。斧で武装したタイプですにゃ」

グレープフルーが手頃な魔物を発見して戻ってくる。

「オーガか。一匹ならいけるな? 肩慣らしにゃちょうどいいだろ」

「術はどうする?」

「ヤバかったら各自一発くらいはいいだろ」

「わかった」

簡単な相談をしてから進み、戦闘が始まった。

オーガは一体か二体で二層をうろついている大男で、武器を持っていたり、無手だったりする。

正直、武器持ちかそうでないかで攻略難度はかなり変わると思うのだが、そういった部分も含めて判断する為に、斥候が早めに発見するのだろう。

今回のオーガは、武器持ちのほうだ。凶悪な斧を片手にぶら下げている。

あれの直撃を食らったら人間など簡単に両断されてしまうだろう。

相手が気付く前に、3人の戦士が一斉に躍りかかる。

精霊術士と思われる女性と、荷物持ちの少年はその場で待機だ。

いちおう少年も短剣を構えているが、あのオーガ相手にどうにかなる雰囲気はない。

グレープフルーは周囲を警戒する係のようだ。

3人の戦士はなかなか連携の取れた戦いぶりだった。

オーガが振り回す斧を巧みに避けながら、ヒットアンドアウェイで、地道にダメージを蓄積させていく。

だが、戦士の一人がオーガの斧を腕に受けて、戦線離脱。

浅い切り傷のようだが、あれでは長剣は上手く扱えまい。

「くそっ、術を使うぞ!」

「頼む!」

「食らいやがれ! グラベルミスト!」

残った戦士が、精霊力を集中させ、オーガの周囲に砂だか砂利だかを発生させ浮遊させる。

突然発生した細かい粒子が目に入ったのか、顔を押さえて痛がるオーガ。

めちゃくちゃ地味だが、目ってのは明確な弱点。有効な術だ。

(土の精霊術か。他人が術を使うの初めてみたな)

おそらく、闇ならダークミストに相当する術だろうが、ずいぶん実戦的だ。これと比べるとダークミストはかなり地味だったと言える。

とにかく、術によって決定的な隙が出来た。

あとは二人の戦士が別々の方向から、長剣での刺突を繰り出し、戦闘は終わった。

(なるほど、精霊術って強いんだな……)

闇の精霊術がなかったら、なんにもできない自分が言うのもなんだけど、まさかおそらく最初に覚えるであろう精霊術で、決定機を生み出すことができるとは思っていなかった。

あの戦士が使ったのは、おそらく土ノ顕だろう。

まあ、俺もほとんど闇ノ顕であるダークネスフォグばっかり使っているのだから、初期の術であり奥義であるのかもしれないが……。

「おー、やった。土の精霊石だぞ」

「このサイズなら銀貨一枚にはなるな」

戦士達が戦利品である精霊石を拾う。

魔物は死ぬと同時に、肉体を失い精霊石だけになる。

いちいち、肉体から石を穿り出さなくてもいいから、楽そうだ。

「そっちはどうだ?」

「うん、これくらいなら。ヒーリングウォーター!」

腕を負傷した戦士に、精霊術士の女性が回復術を唱える。

こっちは水の精霊術か。

水には回復のための術があるらしい。あの女性だけ戦闘に参加してなかったのは、回復要員だからなのだろう。

すぐさま……ではないが、ぱっくり割れていた切り傷が塞がっていく。

前にグレープフルーに渡した5クリスタルのポーションと同じような効力かもしれない。

「そら。落とすなよ」

「はっ、はい!」

戦利品の精霊石を、荷物持ちの少年に渡す戦士A。

なるほど、事実上戦闘を行うのは6人中の3人だけで、残りはバックアップ要員なのだ。

なかなか勉強になる。

その後も、探索者パーティは魔物を避けて進み、時々楽そうな相手とだけ戦闘を行いながら、奥へ奥へと進んでいった。

「よし、じゃあ今日は野営して、いよいよ明日の朝から3層の探索に入る。いいな」

「おう! 見張りは順番でいいな?」

「あっ! あのっ! 僕、なんにもできないんで、見張り……やりますよ! 夜通し……!」

3層へ降りる階段のすぐ側で、彼らは野営をするようだった。

なるほど、夜に探索を行うのではなく、夜の間にここまで到達しておいて、万全の状態で3層の探索をスタートする……そういう計画だったらしい。

「バーカやろ、半人前に見張りなんか任せられるかよ。明日も付いてこれるように、大人しく寝てやがれ」

荷物持ちの少年はやはり半人前だったようだ。

ルーキーに経験を積ませるために、ベテランパーティが荷物持ちをさせたりとか、そういうことなのかもしれない。

まあ、だとしても彼らが死ねば、あの少年も死ぬわけだから、少年にとってはハイリスクハイリターンな仕事……そう言えるのかもしれない。

……いや、迷宮探索自体がハイリスクハイリターンな仕事なのか。

彼らが野営を開始してからも、俺は彼らの様子を闇の中から見ていた。

パチパチと薪が弾ける音。

時々、遠くから魔物が姿を現したが、こっそりシャドウランナーを使い別の方向へ誘導しておいた。

どうやら階段付近は魔物があまり近付かない特性でもあるのか、近付いてきた魔物は5時間でも3匹ほどである。階段前で野営するのも、その特性を期待してのことなのだろう。

良いパーティーだと思う。

グレープフルーも、臨時雇われなのか、それとも固定パーティーとして編入したのか、前の自業自得で死んだ3人組のような者もいることを考えれば、今回のパーティは大当たりに見える。

できることなら、全員生きて帰ってきて欲しいものだ。

日が昇る時間の少し前。

探索者パーティは起き出して、第三層へと降りていった。

(っておい、ゴミは放置かよ!)

探索者パーティーは、食料クズやら、薪の燃えがらやら、装備品の整備につかったものやら、いろいろその場に捨てていった。

(はぁ。だからゴミが多いのか。掃除しよ)

俺は彼らの残したゴミを回収し、急いで迷宮を出た。

朝になる前でないと、闇に乗じて外に出にくくなるのだ。