軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

192 出待ち、そして奈落サバイバー

家の前で出待ちしていた3人組だ。

昨日の段階では、もしかしたら俺たちの勘違いで、目的が俺たちではない可能性もあるにはあった。喋って確認したわけではないし、偶然俺たちの家の前にいただけ……いちおうはそういう可能性もあったのだ。

だけど、これで確定だ。

テレビという単語が出た以上、転移者であることも確実。

「あの~。すみません、いいですか?」

「ジャンヌちゃんと、ヒカルくんですよね?」

「私たちィ、実はチョット困っていてェ」

想定外の事態に固まってしまった俺とジャンヌの反応を見て拒絶の意思がないと踏んだのか、距離を詰めてくる3人。

厄介事の臭いしかしない上に、やけに馴れ馴れしい。ジャンヌが俺の上着の袖を強く掴む。白い顔がさらに青白くなっていて、人見知りモード発動中のようだ。

俺だって関わり合いになりたくない。

「逃げるぞ」

俺は即座に判断を下した。

「え?」

「それがいい。どうする?」

「一瞬だけダークネスフォグを出すから、一気に走って抜けよう。」

3人組に聞こえないようにひそひそと相談。

あまり迷宮の外で派手に術を使うべきではないのだが、術を一瞬だけ展開し、突然の闇に対応できない3人組の横を走り抜けた。

今の俺たちは100メートルを11秒くらいで走れるくらいの脚力がある。しっかり測ったことはないが。

ギルドは迷宮のすぐ近くだ。追いかけてくる前に、手早く精霊石を換金して、隠れるようにいきつけの食堂へ。

そこでやっと俺たちは息をつくことができた。

「まさか迷宮から出てくるのを待つとはな。地球とは違うんだぞ? あんな奴らしょっ引いてやればいいんだ。ギルドに垂れ込んでやろうか」

席に着いてからジャンヌがダンとテーブルを叩き憤慨した。

新規転移者を警戒しているジャンヌにとって、無遠慮な訪問者はストレス以外の何者でもないのだろう。

当然、俺にとってもそうだ。

俺たちが逃げたことで、嫌がっていると理解してくれればいいのだが……。

ちなみにリフレイアはちょっとバツの悪そうな顔をしている。

待ち伏せの前科があるからな……。

「あ、あのぉ。ヒカルたちが新しい転移者に会いたくないというのはわかるんですが、悪い人たちじゃなさそうでしたよ? 話だけでも聞いてみたらどうです?」

「嫌だ。待ち伏せしてた時点で悪いやつらだ」

「俺も嫌だ」

「待ち伏せするだけの理由があったのかもしれないですし! たとえば、ヒカルのことが好きだとかで…………いや、その場合は無視していいですけど!」

ジャンヌのファンという可能性はかなりあるだろうが、ジャンヌ自身、そんなものを相手にしたいタイプでもないだろう。どっちにしろ無遠慮すぎて勘弁してほしい。

「とにかく私は絶対に相手にしない。どうしてもというならクロが話を聞け」

「お、俺だって嫌だよ。リフレイア頼んだ」

「えええ……」

「レーヤ。お前にはわからないだろうが、私たちがあいつら……第2陣転移者の相手をするのはデメリットしかないんだよ。いや、すでに多大な精神的苦痛を被っている分、すでに被害が発生している。あいつらは敵だ」

ジャンヌがはっきり「敵」とまで言ったのは驚いたが、おおむね同意だ。

初対面なのに無遠慮なところも、何考えてるのかわからなくて気持ちが悪い。

「3人も集まってやることが、第1陣の出待ちだぞ? 困ってることがあると言ってただろう? どうせ、金を貸せだの探索を手伝えだの店を紹介しろだの、いっしょにパーティーを組めだの、下手をしたら一緒に住まわせて欲しいだの、そんなことを言い出すに決まっている。ここは私たち転移者にとっては、完全に異境だからな。……むろん、そんな甘ったれた根性の連中に手を貸したところでろくなことにならないのは明白だろう」

「ジャンヌの言う通りだ。メリットがないんだよ。せっかくこれから4層にチャレンジしようってとこなのに」

「……なんか、なんとしてでも理由を付けて接触を避けようとしてるようにも見えますけど……、ま、ヒカルもジャンヌさんも嫌だっていうなら私はどっちでもいいです」

「なら予定通り無視だ無視。これ以上しつこくしてきたらレーヤの鉄塊を喰らわしてやろう」

「私をなんだと思ってるんですか、ジャンヌさんは……」

とにかく徹底的に避けるという結論を出したころ、料理が運ばれてきた。

肉と野菜を炒めたものや、焼きうどんやら、パンやらスープやらと、最近ではもう手当たり次第注文するのだが、4人で問題なく食べきれてしまう。

ジャンヌとフルーは多く食べないが、俺とリフレイアは食べる量も増えてきている。まだ倍になったくらいだが、そのうち大食いタレントみたいに底なしに食べるようになるのかと思うと、迷宮探索は一長一短だ。

でもまあ、この世界は食べ物がちゃんと美味しいから、それだけは本当に良かった。もし、食べ物が不味く、量も手に入らないなんてことになっていたら地獄だっただろう。

おいしいものがおなか一杯食べられるだけで、辛い状況であっても心は満たされるものなのだ。

「ところでクロ、前に頼んでた鎧、そろそろなんじゃないのか?」

あらかた食べ終えたころ、ジャンヌがなんとなしに言った。

鎧……?

「よろい、よろい……って、ああ! 頼んでたっけ、そういえば!」

注文してからできあがりまでにかなり時間がかかると言われて、忘れてしまっていた。

ドワーフ親方オススメの防具工房で専用のミスリルスケイルメイルを注文してあったのだ。金額は金貨8枚で、すでに支払い済み。

最低でも2週間かかると言われていたが、そろそろできているはずだ。帰る前に寄ってみよう。

◇◆◆◆◇

防具を受け取った次の日。

朝になって俺はそっと木窓を開き、外を確認した。

「来てないか……。これから来るのかもしれないけど」

例の3人組は家の前には来ていなかった。

その後、家を出る時間になっても3人組は現れなかった。

どうやら、諦めてくれたらしい。

「ギルドで待っているかもだし、まだ油断はできないぞクロ……」

家を出てからもジャンヌはちょっとビクビクして警戒していた。

気を許した相手には態度がデカいが、知らない人にはてんでダメである。あるいは、ジャンヌも俺みたいに誹謗中傷のメッセージを受け取っていたのかもしれない。本当の人気者は相応のアンチをも引き付けてしまうというし。

「クロ。私は考えたんだが昨日みたいに気軽に話しかけられるのは、私達のレベルが足りないからかもしれない。もっと圧を出していくべきかな」

「圧って、装備とかか? リフレイアの武器とか十分に圧があると思うけど」

「確かに。実際、あいつらはレーヤには話しかけられないだろう。私だって、お前とのことがなかったらあんなのに話しかけるのは無理だ」

「あんなのって……」

まあでもわかる。

リフレイアは輝くような美人だし、話しかけるのは勇気がいるだろうと思う。

武器もデカいし。

「ということでレーヤ。ギルドでの受付は頼んだ。私とクロは待ってる」

「えー。別にいいですけど」

「もし例のやつらに話しかけられたら、一発ブチかましてやれ」

「こないだも言いましたけど、なんか強い武器持ってるって言ってましたよね?」

ジャンヌはリフレイアとはだいぶ打ち解けて、冗談も言い合えるくらいになっていた。年齢も同じくらいだし、良いことだと思う。

ちなみに本当にブチかましたら、かなり問題になると思うけど、さすがに向こうもギルドの中でいきなりリフレイアに発砲するなんてことはないだろう。

俺とジャンヌがギルドの外で息をひそめていると、5分くらいでリフレイアが出てきた。

どうやら3人組とは出会わなかったようだ。

「……で、二人はなにしてるんですか?」

リフレイアが呆れ顔で言う。

「なにって、見つからないように小さくなってただけだが?」

「ダークミストで目立たない程度に薄く影を作るのがミソだ」

「はぁ、二人とも強いくせに妙なところで気が小さいですよね……」

俺もジャンヌも元々は陰キャだ。

異世界人たちは俺たちとプラスもマイナスもなく接してくれるが、転移者は違う。特に第2陣は。

ハッキリ言おう。

俺もジャンヌも、第2陣転移者が怖いのだ。

いつものようにグレープフルーを雇い迷宮へ。

1層を越えて、2層。3層。

転移してきたばかりの第2陣転移者には来ることができない階層。

この世界に来てから、迷宮の中のほうが心地よく感じることばかりだ。

4層への階段までの道。エンカウントする魔物たちを倒しながら移動していると、ステータス画面を見ていたジャンヌが、珍しく驚いた顔をして言った。

「おい、クロ。気づいていたか? これ」

「これってどれ? 他人のステータスボードは見れないからわからないぞ」

「例の奈落の転移者だよ。こいつ……男か女か知らないが、まだ生き延びているぞ」

世界地図なんて頻繁に見ることがないため、気づいていなかった。

確認すると確かに青い点は健在だ。位置も奈落の外周部に移動している。

「すごいな……。転移から何日経つんだっけ?」

「もう10日近い。移動距離を考えても、結界石でネバっているというわけでもないみたいだ。第2陣転移者は危険だが、こいつは別格にヤバい奴だろうな」

奈落というのはこの世界でも別格にヤバい場所らしい。

数十キロにわたって広がる荒野。何百メートルもある壁。血に飢えた肉食の猛獣。

世界地図からでは詳細なことはわからないが、危険地帯としてリフレイアも知っていたくらいなのだ。転移したての地球人が生き残れる場所ではないはず。

だが、この転移者は生き残っている。

よほど有用なギフトを神から得たか、そうでなければ戦闘やサバイバルの達人なのだろう。

「でも奈落の壁はまだ超えられていない。これを越えたとなったら、いよいよ本物だな」

「地図だと線と重なってるから、わからなくないか?」

「わずかに内側に点がある。越えられてはいないはずだ」

いずれ、数百メートルもあるという奈落の断崖絶壁を登って生還するのだろうか。

まあ、メルティアとはかなり離れているし(世界地図で見ると近く感じるけど)、この奈落の転移者がここに来る可能性は低いだろうが、警戒はしておいたほうがいいのかもしれないな。