軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

170 20日間の地獄、だけど充実の日々を終えて ※ナナミ視点

この20日間は地獄だった。

もしかすると、セリカちゃんは「最悪死んだとしても生き返るからOK」ぐらいに考えていたのかもしれない。

……いや、絶対そうだ。

とはいえ、私だって死ぬわけにはいかないので、血反吐を吐く思いで頑張った。

もちろん、現役の兵士さん方からすれば、甘っちょろい内容だったんだろうとは思う。

だが、普段たいした運動なんてしないで生きていた私にとっては、逃れられない地獄巡りのような日々だったのだ。

今だって、全身の骨と筋肉は絶え間なく悲鳴を上げ続けている。

……それにしても、たった20日程度の特訓で、人間の体型がこれだけ変化するというのは素直に驚きだった。もともと30%ほどもあった体脂肪が、今は24%まで減っている。セリカちゃんによると、この強度の特訓は後遺症が残る可能性が高いから、普通はできないし逆効果らしい。

(でも、それもようやく今日で終わる)

最初に選ばれた時、私には異世界に行きたいという気持ちがほとんどなかったが、今は違う。最愛の幼馴染みであるヒーちゃんが私の代わりに行ってしまっているのだ。

早くしないと、いろんな意味で間に合わなくなりそうだから、そういう意味でもさっさと転移してしまいたいのだ。

「姉さん、本当におつかれさま。教官たちも見違えるほど強くなったって褒めてたわよ」

「お世辞でしょ。20日くらいじゃ、それこそオムツが取れたくらいなんだろうし」

「オムツが取れただけでも上出来。これなら、向こうですぐ死ぬこともないんじゃない?」

実際に行ってみなければわからないけど、この20日である程度の自信はついたのは確かだ。

やたら走らされ、やたら重いものを持たされ、やたら格闘をさせられ、やたら銃を撃たされ、そしてまた走らされ、山越えとかもさせられたけど、私は生き残ったのだ。

なんでも「走れること」がすべての基本だかなんだかで、この20日間で、何百キロ分もの距離を走らされた。たぶん、これまでの人生で走った距離を軽々超えた。

最初はただひたすらグラウンドを走るだけだったが、少しずつオプションが追加されていった。一昨日なんか、バックパックを背負い、銃を抱えて山や丘を越えさせられたのだ。足場は悪いし、装備は重いしで本当に辛かった。

とても胃に食べ物を受け付けない状態でも、高濃度プロテインだの、高カロリー食だの、一日8回も食事の時間があり。それはそれで辛く、最初のころは何度も吐いてしまった。

走っている間も、イヤホンで異世界の情報を学習。

睡眠時間は確保されていたけれど、体感的には一瞬だった。

今だって……いやもうここ19日くらいずっと全身が痛い。

どうしても無理だと泣きついたら、謎の薬を打たれた。それで身体の痛みはかなり減ったけど、絶対ヤバい薬だ。転移時に身体の状態は万全になるというけれど、だからって躊躇なくそんなものを打たないでほしい。

セリカちゃんは鬼だ。

だが、それもこれも、あの世界で生き残るためだと思えば許せた。

私は鬼と手を組んで、あの魔物ひしめく世界へ向かう準備をしているのだと思えば。

「転移まであと2時間か。じゃあ、最後にモチベーションを上げるために、お兄ちゃんの最新映像を見てもらおうかな」

「モチベーション? なんか、私のこと言ってたとか?」

「ふふ……。そうなら良かったのにね……」

意味深に笑うセリカちゃん。

私は訓練をしていた20日間、ほとんど異世界の番組は見られなかった。

向こうの情報はいろいろ勉強させられたけれど、ヒーちゃん周辺の話なんかは、誰もしてくれなかったし、転移者たちのこともよくわからない。

さしあたり必要がなかったといえば、確かにその通りなのだが、この20日間でヒーちゃんの状況も変わったということなのだろう。

セリカちゃんとカレンちゃんが編集したという動画を見ながら、私はこの世界での最後の食事を摂る。

二人とも、これでお別れだ。

とはいえ、前の転移の前にお別れは済ましていて、私としてはほんの一ヶ月弱前のことであり、それほど感慨はない。

それよりも、今はヒーちゃんのことだった。

彼の周りに、また女の子たちが集まり、しかも同棲まで始めていた。

あのリフレイアという子も戻ってきたし、ジャンヌさんは……私も会ったことがあるし、良い子だけど、まさか恋のライバルになるとは夢にも思わなかった。

ヒーちゃんの口から、私の名前が出てくることはなかった。

まあ、彼は私がまた転移者に選ばれたことを知らないのだから、当然といえば当然なのかもしれないが、それでも、他の女の子にうつつを抜かす姿は見たくなかった。

セリカちゃんは性格が悪い。

私が、これを見れば嫉妬心を燃やして向こうでも頑張るとわかっているのだ。

実際、彼女の思惑通り、私はどうあっても彼と合流しなければならなくなった。

「……そろそろ時間ね。ナナミ姉さん、こんな映像見せておいて、こんなこと言うのもおかしいけど……無理はしないで。お兄ちゃんとの合流なんて、二の次でいいんだから。一番大事なのは、自分の命。そのことは忘れないで」

「大丈夫よ。二度も死にたくはないし。この20日の訓練で、ただ生きられることの尊さを学んだしね」

「本当に? なーんか、信用ならないんだよな……」

「酷いな。私にだって、それくらいの分別はあります」

そう、答えながらも私は別のことを考えていた。

あの世界では、命を懸けるのが当たり前の生きるスタンスだろうということ。

命を大事にするのなんて、生命として当たり前のこと。大事なのは、その上でその命をどう使うかということだろう。

『大切に使う』

それが、私のこの命に対するスタンスだ。

ヒーちゃんから貰った命だから。彼のために使うのだ。

そういう意味でも、多少無理にでも合流する必要があるのである。

「ナナミンは頑固だからニェ~。とにかく、死なないように頑張って。ナナミンにも視聴者が付くように、私とセリカンでバックアップするから」

「ありがと、カレンちゃんも元気でね。あんまり夜更かしばっかしないように」

「だいじょーぶ。夜に起きている分、昼に寝ている!」

カレンちゃんは、セリカちゃんよりも私のことをわかっている。

ポイントの振り方についても、現実的なアイデアをこっそり教えてくれた。

どういうふうにするかは、実際に白い部屋で見てみなければわからないが、いずれにせよ、私にとってはヒーちゃんと合流するのが最優先なのだから。

「じゃあ、これ。新品で弾も入ってる。使い方は完璧だと思うけど、弾がどれだけ残ってるのかだけは十分注意して。あと、絶対に人に盗られないように」

セリカちゃんが、新品の特注タクティカルショットガンを手渡してくる。

持つとズシリと重く、片手で持つには少し苦労する重量だが、これのほとんどは弾の重みだ。なにせ、強引に35発も装填してあるのだから。

私はすでに、この銃の扱い方、撃ち方、射程、威力、反動、手入れの仕方に至るまで完璧に仕込まれている。弾が保つ限りはそうそう魔物にやられることはないだろう。

銃に関しては、セリカちゃんがメーカーと相談して考えてくれたらしい。最初は、殺傷力の高いアサルトライフルか何かにする予定だったが、総合的に考えるとショットガンのほうが良さそうという結論になったのだとか。

結局、ほとんどの場合近くにいる相手にしか使うことがないだろうということで、長射程は必要ないということになったらしい。

まあ、確かに考えてみれば逃げられるような長距離にいる魔物を、わざわざこっちから攻撃するというシチュエーションはほとんどなさそうだ。

私はこの35発の弾を無駄にしないために、2000発以上の弾をこの20日で撃った。

最初は、狙い通り撃つ練習ということで無反動銃というのを撃たされ、その後はショットガンを撃つ練習。

私のために用意してくれた銃は、ショットガンの中でもスラッグ弾という大きく重い一発の弾丸を飛ばすものだとかで、ヒグマを倒せるくらい威力があるものなのだそうだ。

「ありがとう。できれば使わないで済めば一番いいんだけどね。そうも言ってられないだろうから」

「そうね。強盗だっているし、魔物だっている。撃つとなったら躊躇しないで」

「肝に銘じるわ」

実際に人間を撃てるのかはわからない。

私の銃は、かなり強い魔物でも一撃で倒せるように設計されており、ヒーちゃんが潜っている迷宮の魔物……たとえばトロールくらいなら一発で倒せるだろう。もしかすると、ガーデンパンサーでも一撃で殺せてしまうかもしれない。

それだけに人間を撃つのは難しい。手足を撃ったとしても、簡単にその部位が消滅する程度には威力があるのだ。つまり、撃つなら殺す覚悟を同時に持たなければならない。

(ま……なるようになるか)

実際にはもっと他の手段が取れるだろう。単純に走って逃げてもいいし、結界石を使ってもいい。精霊術のスクロールを使うという手もある。

ポイントさえ残しておけば、いろいろと取れる手段はあるはずだ。

「さて……いよいよね。お兄ちゃんに合流できたらお願いね。メッセージのこととか、私がやってたこととか」

「わかってる。お姉ちゃんに任せなさい!」

「姉さんに安請け合いされると、それはそれで心配なんだよなぁ……。何度も言ってることだけど、今回の転移で『転移場所』が選べるのって、まだよくわからないんだからね? 大事なのは生き残ることなんだから」

セリカちゃんでも、どういう風に神が「キャラクターメイキング」を変更してくるかは、わからないのだ。だから、こういう言い方になる。

結局は、見てから決めるしかない。もしかすると、第一回とは全然違うものになっている可能性だってあるのだから。

とはいえ、私だってゲーマーの端くれ。

そうそう大きな間違いはしないつもりだ。

「それにしても……これが最後の別れだってんだから、不思議。セリカちゃんも、カレンちゃんも無理しないで元気で。ヒーちゃんは私が絶対に守ってみせるから」

私たちは最後の抱擁の後、一歩だけ離れてその時が来るのを待った。

持ち物は無骨なショットガン一つ。

願わくば、第二陣は難易度を下げていただきたいものだ。

「あと1分ね。姉さん。メッセージが復活するまで、こっちから情報を送ることはできないから、くれぐれも気をつけて。信じてるからね!」

「お兄ィたちによろしく言っといてニェ~。死なない程度にガンバ!」

「うん。ふたりとも、ありがとう! ヒーちゃんのことは私に任せなさい!」

最後の激励を貰って、私は白い光に包まれた。