軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

160 カムバックリフレイア、そしてジャンヌの策略

「お前は、前にクロとパーティーを組んでいたという女か?」

ジャンヌが口を出すと、リフレイアはあからさまに不機嫌そうな顔をした。

「だとしたら何? 別に私、あなたと話してませんけど? っていうか彼と私は現在もパーティーメンバーですし? ていうかあなたはどこの誰なんです!?」

「私はジャンヌだ。とにかく、もうこいつは私のものだぞ。ほら、この通り」

「なっ!?」

ジャンヌがふざけて俺の腕に抱き付いてきて、リフレイアの瞳に殺意の炎が灯る。

リフレイアは明らかに冗談が通じないタイプだからやめてほしいし、そもそもこんな往来で目立って仕方が無い。

おそらく視聴者数もうなぎ登りだろう。

そんな展開は全く望んでいない。

ジャンヌのいきなりの行動でリフレイアも、全身を戦慄かせるばかりだ。

「ジャンヌ、いい加減にしろよ。リフレイア、彼女はただのチームメイトだから」

「そうそう。ただのチームメイト」

言いながら、なおも抱き付くことをやめないジャンヌ。

さてはこいつ面白がっているな。

「だから、そうやって煽るなって。抱き付くのもやめろ」

「へぇ、クロ。カノジョの前ではずいぶん強気じゃないか。いつもはもっと優しいのに」

「優しいって、俺は別に……」

「優しいよ、クロは。いつも、それとなく気遣ってくれているの、ちゃんと気付いているさ、私だって」

「イチャイチャするのをやめろぉおお!」

ジャンヌをどうにかしようと思ったのに、しまったな。火に油だ。

もともとリフレイアは思い込みが激しいタイプだから、これはちょっとやそっとでは収まらないかもしれない。

とはいえ、こちらにやましいところはない。

話せばわかる。

……多分。

俺はジャンヌを引き剥がして、リフレイアと向き合った。

顔を真っ赤にして、フーフーと息も荒い。ちょっと涙目だ。

「ねぇ……本当のことなの……? ねぇ、ヒカル……なんなの、この女は? 嘘よね? 私以外と新しいパーティーを組んだなんて嘘なんでしょう? ラブラブツインバードを解散したりしてないわよね……? ラブラブツインバードは不滅よね……?」

「あー……いや、事情があってだな。話せば長くなるんだが。……ラブラブツインバードは解散したけど」

「がーん」

あからさまにショックを受けるリフレイアだが、ラブラブツインバードに関しては俺も被害者だ。そうでなくても、あの時点でリフレイアは実家に帰っていたんだし、解散するに決まっているだろう。

「クニへ帰るんだな。お前にも家族がいるだろう」

俺の後ろからニョキっと顔を出し、真顔でどっかで聞いたことがあるようなセリフを吐くジャンヌ。

「ぐぬぬぬぬぬぬ! あなたに決闘を申し込みます! わ、私の方がヒカルの隣に相応しいんだから!」

人差し指を突き立てて宣誓するリフレイア。

それを受けて、俺の後ろから嬉しそうに出てくるジャンヌ。

「決闘? 勝てると思うのか? この私に」

俺と戦ったときも、ジャンヌは同じようなセリフを言ってたような気がするが、気に入っているのだろうか。

「ず、ずいぶん自信があるみたいですけど、私は 銀等級(シルヴェストル) ですよ!? 青銅級のくせに」

「ふん。等級なんかで実力がわかるものか。お前、クロと組んでいたんじゃなかったのか? この青銅級の男と」

「うぐっ。戦ってみればすぐわかりますよ!」

「気に入った! 勝った方の言うことを聞くという条件ならいいぞ」

「望むところです!」

リフレイアのあまりの剣幕に押されているうちに、なぜか変な方向に話がまとまりかけていて、俺は我に返った。

ジャンヌは基本的に好戦的だし、リフレイアも実力行使に出がちなタイプだ。

とはいえ、まさかいきなり決闘とは看過できるものじゃない。

「落ち着け、落ち着け。なんでそんな話になるんだ? 2人が争う理由なんて、どこにもないだろ? リフレイアも落ち着けって、ほら」

「ヒカルは黙っていてください! どうあってもこの女とは白黒付けなければなりません!」

「そうだそうだ、クロは黙っていろ。……いや、いちおう説明するから、ちょっと来い」

ジャンヌがすごい力で俺の服を掴み、リフレイアに会話が聞こえない距離までズルズルと引っ張られていく。

「あいつ――リフレイアといったか、デカい剣を持っているが、アタッカーか」

「いやいやいや、やめとけって。ちょっと普通じゃなさそうだからヤバいぞ。なんで、決闘なんて話になる? リフレイアは強いし、話せばわかる――」

「いいや。アレは話してわかるタイプじゃないな、それに……私に考えがある」

ニヤリと笑うジャンヌだが、妹のカレンが突飛なことを言い出す時と同じ顔だ。

絶対にろくな考えじゃない。

というか、ジャンヌは基本的に短絡的に物事を考えるほうだ。迷宮の攻略に関してだけは、そうでもないが……いや、迷宮だって最下層まで踏破するとか並の人間は言わないと思う。

「メンバー足りなかったし、ちょうどいい。あいつを負かして戦力増強しよう」

「いや、リフレイアとは事情があって別れたんだけど……。なんでこんなすぐに戻ってきたのかは知らないけど、地元で聖堂騎士になるんだぞ、あいつは」

「本気で言っているのか? 地元に骨を埋めるつもりなら、元カレが他の女といるからって、こんな風に突撃してくるはずないだろ。おーい、お前、聖堂騎士になって地元で暮らすのか?」

少し離れた場所で仁王立ちのリフレイアは、そう訊かれてすぐ答えた。

全く想定外の答えを。

「私は! ヒカルと! 結婚します!」

「……だそうだぞ」

「ええ……?」

「結婚するってハッキリ宣言してるじゃないか。一体全体どうなっている? お前、私と出会った時、この世の終わりみたいになってたが、結婚するのが嫌でああなってたとか?」

「いやいやいやいや、俺にとっても青天の霹靂なんですけど……。なんでそうなったの?」

リフレイアの気持ちは十分わかっていた。

俺だって彼女のことは好きだ。

でも、どうにもならないお互いの事情があって、俺たちの道は別たれた…………んじゃなかったっけ?

なんで、結婚なんて話に?

これじゃまるで、結婚の報告をしに実家に戻ってすぐまた帰ってきたみたいな感じだ。

そんな齟齬が発生する余地がある別れだっただろうか。

なんで?

「結婚を約束したわけではないのか?」

「してない。どういう流れでああなったのか確認しないと……」

「じゃあ、私との約束のほうが優先度は上だな?」

ジャンヌとの約束とは、メルティア大迷宮を踏破するという約束のことだ。

それは、絶対に果たさなければならない。

「当然だ」

「ならなにも問題はないな。重要なのは、あの女が戦力になりそうということだけだ。クロだってもっとパーティーメンバーは必要だと言っていただろう? 知り合いなら気楽だし……それに、ああいう気の強い美人は私も好みだ」

「えええ……」

あれだけの敵意をぶつけられておいて、全然余裕なジャンヌは実に大物だ。

割り切りが凄いというか……。

確かに、リフレイアがパーティーに入れば戦力的にはかなり上がるだろうけど……。

「どうせクロの事情なんて、恋人を全世界の人に見られるのが嫌とか、そんな下らない理由だろう? いい加減、割り切ったほうがいいぞ」

なんでわかるの? という気もしないでもないが、俺にとっては下らない理由なんかではない。

「そこは割り切れないし、割り切っちゃだめだろう」

「それは日本人の宗教観か? わからんな」

ジャンヌは自分自身だってかなり多くの人間に見られているはずなのに、無頓着だ。

あるいは、女性だから、早い段階で割り切らなければ生きていけなかったというのもあるのかもしれない。

着替えだって、風呂だって、トイレだって放送されているのだから。

「とにかく勧誘はしてみる。強いんだろう? ワクワクするな」

「本気かよ……俺はジャンヌのハートの強さが怖いよ」

「ふふ、本当の私はもっと繊細だったんだがな。生命力アップをとったせいで、強メンタルになってしまったんだよ」

確かに生命力アップにはそんな効果もあると書いてあったが、だとしても本当だか冗談だかわからないような話だ。

「ていうか、負けたらどうするんだよ。パーティー解散しろって言うと思うぞ」

「あの女の武器は、あの剣だけか?」

「ああ。あとは光の精霊術くらいのはず」

「ならまず負けないだろう。人間相手にあんなデカい剣が通用するものか」

やたらと自信満々だ。

リフレイアは位階も高いし、もの凄い速度であの剣を振るうのだが、本当に大丈夫なんだろうか……。

っていうか、本当は止めたいのだが、俺が止めても余計に火に油を注ぐような結果になるような気もする。

「せめて回復手段くらいは用意しといてくれ」

「ああ。ほら」

ジャンヌが腰のポーチから、大癒のスクロールを取り出す。

緊急用に随分前に交換したものなのだそうだ。

俺は、シャドウストレージからジャンヌの装備を出して渡した。

話を終えてリフレイアのところに戻ると、リフレイアは腕を組み、指をイライラと動かしながら待っていた。

いつのまにか、隣にリフレイアによく似た年嵩の美人が一緒にいる。

気の強そうな、アーモンド形の目が特徴的な女性だ。

母親だろうか? となると、彼女が言っていた結婚という話が現実味を帯びてくる。

「待たせたな。決闘は迷宮前の広場でやるぞ。あそこなら明るい。まあ、私が勝つが」

「負けません!」

ジャンヌがリフレイアを嬉しそうに煽り、連れ立って迷宮のほうへ歩いていく。

女性は、そんな2人をいまいち感情のこもらない瞳で見送ってから、俺に話しかけてきた。