軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

014 前進、そしてサンゴスグリ

「はぁ……はぁ……腹減った……」

大猿――「ほむら猩々」のテリトリー範囲内だったからか、あれから数時間歩き続けているが、危険な生物には出会っていない。

動物や鳥などは見かけたが、闇の精霊術で、姿を隠してやりすごした。

シャドウランナーも何度か使ってみたが、普通の動物は驚いて逃げていくので、ヤバいやつかどうかの判別もできた。

昨日からなにも食べていないので、かなり消耗している。だが、危険がない内は歩きたい。

森は少しずつ生えている植物の傾向が変わってきていた。

背が低く、食べられそうな実の生っている木がちょこちょこあるのだ。

特によく見る種類の木には、さくらんぼみたいな赤色の実がたわわに実っており、あれが食べられるなら、わざわざクリスタルを消費せずにカロリーを、場合によっては水分すら摂ることができる。

あの大猿の巣にも、たくさん果物が置いてあったから、おそらく食べられる……。いや、魔物が食べられるからって、人間も平気とはわからないか……。

「甘い匂いだ……」

フラフラと引き寄せられた俺は、実を一房もいでみた。

耐え難き危険な香りだ。

俺には「毒耐性」がある。一か八か食べてみるのも手だが……。

俺はステータスボードを開き、アイテム鑑定を選択した。

1クリスタルは惜しいが、これが食べられるなら、しばらく食料に困らない。

『サンゴスグリ:通常 リングピル大陸東部に自生する植物。果実は食用とされるが、大量に摂取すると腹を下す。広く栽培され、そのまま食べるか、ジャムに加工して利用する。該当個体は食べ頃』

その文を読んだ俺は、すかさず実を口に含んだ。

甘酸っぱい味が、口中に広がる。考えてみると、甘い物を食べたのは五日ぶりだ。

「うまい……! 野生の果実がこんなにおいしいなんて……!」

甘さと、微妙な苦み。果汁もたっぷりで全身が潤っていくのを感じる。

このサンゴスグリは、歩いていると時々見かけるのでしばらく食料に困らない。大量に食べると腹を下すみたいだが、病気耐性も毒耐性もあるから平気だろう。平気だと信じたい。

クリスタルは毎日最低1個は増えた。

デイリー視聴者1億人がどれくらいのハードルなのかはわからない。地球人口は確か70億人くらいだと習った気がする。実際に配信を見るのは、その何割か――おそらく半分くらいだろう。だとして35億。

デイリー1億は、視聴者の35分の1が見ている計算……なのだろうか。

しかし、現状はそんな生半可なものではなく、数日前から6億人前後で落ち着いているのだ。

なぜそんなに注目されているのか。

それはもちろん、ランダム転移でいきなり生死がかかった冒険が始まったからだろう。

他の転移者は地道にやっているか、冒険などせず普通に職を得て生活をスタートさせた人が多いのかもしれない。

だが……転移者は1000人もいるのだ。

複数画面で見ている人もたくさんいるだろうが、それにしたって俺のことを6億人も見ているのは異常だと言えた。

俺以外にも、ランダム転移を選んだ者は、それなりにいるはずだし、視聴者数アップを意識してギリギリの冒険に繰り出している転移者だっているに違いない。

そう考えると、6億人という数字に不気味さを感じる。

やはり、突然現れた新規転移者だからなのだろうか?

「……考えてもしかたないか」

今は自分自身が死なずにこの森を脱出すること。それ以外はすべて些末事だ。

視聴者数が妙に多いのは気になるが、クリスタルのこと以外、実質関係がないのだ。

見られていることすら気にせずにここまで来たのだし。

俺はとりあえず4房ほどもサンゴスグリを食べ、シャツの残っているほうの袖を切って、裾を縛り、その中に入るだけ果実を入れた。

右手には大猿の精霊石、左手には果物。

「バッグの重要性を噛みしめる結果になったな……」

1ポイント使えばバックパックと交換可能だが、そんなものにポイントを使うわけにはいかない。

どうせ、何かと戦ったりなどできないのだから、今はこれでいいのだ。両手は疲れるけど。

ダークネスフォグとシャドウランナーを活用しながら歩き、ついに日没となった。

一日で30キロも歩くことができた。これはなかなか悪くない数字だ。

あと一〇日程度続ければ、森を抜けることができる。

「……しかし、ここからどうするかが問題だ」

当たり前のことだが、人間は寝なければならないのだ。

ずっと歩き続けることはできない。

食事に関しては、サンゴスグリを食っていればなんとかなる。栄養の偏りなどとは言っていられる状況ではないし、とりあえず歩くのに足るパワーが出さえすればいい。

しかし、睡眠だけは如何ともしがたい。

今までは結界石を割っていたから安心して寝られたが――

「夜になると、あの闇の大精霊がまた出る可能性もあるし……」

あれが出たら、もう結界石を割る以外の選択肢はない。

だが、出ない可能性もある。

今日は雲も出ていないから、月明かりでそれなりの照度が保てそうな気もする。

あのへばり付くような闇が、あれの出現する予兆だろう。そして、あの状況を作り出してしまったのは俺自身の精霊術によるものという確信がある。

なんにせよ、結界石を割るのは危険がすぐそこまで迫ったその時まで温存したい。

ポイントはもう残り6しかないのだ。命の数が6だけあると言い換えてもいい。

結局、寝るのに良さそうな木を歩きながら探すことにした。

正直、歩くだけなら夜のほうが安全そうだから、少しずつ寝る時間を調整して、昼に寝て、夜歩くように調整したいところ。

今が19時だから、20時くらいから深夜2時くらいまで寝て――

ざっくりとした計画を立てた俺は、良さそうな木によじ登り、枝にまたがり幹に身体を預けた。眠っている最中に落ちるのは死ぬ可能性があるので、奮発してクリスタル2個を使いロープと交換した。ロープは細い麻縄で、まあまあ丈夫そうだ。

それで身体を簡単に縛り付ける。これで落ちる心配はない。

いちおうダークネスフォグで自分の周囲を隠蔽してから瞳を閉じる。術の有効時間はだいたい10分あるかないかだが、やらないよりは良いだろう。